魔犬キュオーン?
キュオーンに導かれるままプロテスト公領を進む。
ハム君どこ行ったんだろ?
クンクンクンクン鼻を鳴らしては進むキュオーンはやがて少しずつ大通りから外れていく。
あんまりそういえば街を隅々まで探索したことはなかったけど、やっぱりあるのね裏通り。
雰囲気がどんどんヤバくなっていく。
映画や漫画ならチンピラが絶対絡んでくる雰囲気。
というかもう絡まれてる。
「おい、兄ギャベ!?」
「何すんドフェ!?」
「ちょっ待ッフン!??」
ジャンヌが丁寧に対応しているおかげで実害はないけども。
罪状は・・・聖剣士だから問題なしと。
何その理由?
気にしちゃいけないのだろうか?
キュオーンも気にしてない。
愛する御主人様を探すべく、ひたすら鼻を鳴らしている。
『シャァァァァ・・・ピチャン』
時々マーキングはするけれど。
後ろを振り返るとゴミ溜めや壁に、汚え男達が頭を突っ込んでる不思議な通りをすすむ。
何故だろう?
心が罪悪感で一杯だ。
誰かがいたらきっと俺は言い訳をするだろう。
やったのは俺じゃないと。
ん?
キュオーンの様子が変わった。
何か見つけたのだろうか?
何かを訴えるような目でこっちを見る。
いいさ。
好きに進め。
着いてってやるから。
というか早く抜け出したいわ、こんなとこ。
『ワフン!!』
え? ちょ、早ッ!!
嘘、ゴメン、着いていけない。
スピード落して。
早歩きレベルにスピードを落したキュオーンに着いていって、もはや裏通りですらない街の外れに辿り着いた。
閑散とした場所に小屋としか呼べない建屋がいくつか。
知らず知らずの内に随分歩いて来たらしい。
なまじ体力着いた分、疲れが時間の目安にならない盲点。
ちょっと深入りしすぎたかもしれない。
既に日は落ち、辺りは真っ暗だ。
いつもなら飯の時間。
旅の途中で何かあってはと持っておいたビーフジャーキーを腹に入れもう少し頑張ろうと気合いを入れる。
キュオーンは喜んでいる。
ジャンヌは不満そうだ。
落ち着け、帰ったら美味いもんつくってやるから。
え? 量が足りない?
おっけ。
全部やるから好きに食え。
キュオーンはその後も鼻を鳴らし、大した間もなく一件の小屋を見上げた。
『ワス!!』
小声で吠えるキュオーン。
小屋は中から明かりが漏れている。
中に誰かいて警戒したってところだろうか?
ジャンヌを見るとジャンヌは静かに頷く。
俺達に言葉なんて要らない、なんて言う気はない。
ジャンヌの口はジャーキーで一杯だ。
悲しいかな言いたいことは分かったけどね。
「好きにしろ」と。
いや、俺もどうして良いか分からん。
小屋に壁に耳をあて中を探る。
ひとまず中にいるのがどんな人達か知りたかったからだ。
扉ノックしたらいきなり斬りかかられましたとか、想像したら怖すぎる。
というか、ハム君を探しに来たはずなのに俺は何をしているのだろう?
よく分からん心境の俺の耳に壁から声が聞こえてきた。
「こちらがお約束の・・・」
「ふむ、これで我が商会も・・・・・・・・・・・・人が足りぬと言うに・・・・・・・・・」
「噂は・・・・・・・」
「ああ、王都で奴隷・・・・・・・・・・・・・・奴隷にも手を・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・奴隷を・・・・・・・・・・」
「分かっておる!!裏の調達先が・・・・・・・・・・・・・・」
「そうなる前に・・・・・・・・」
イマイチよく聞こえないが、聞こえてきたキーワードだけでも良くない会話であることは分かる。
奴隷、裏の調達先・・・もしかしてハム君・・・誘拐された?
あり得る・・・うん、あり得る。
冷静に考えてみよう。
急にいなくなった理由はともかく、なぜハム君はキュオーンを置いて行った?
連れて行けなかったから・・・だとすれば理由なんて限られる。
育てられる財力がないという可能性もあるが、そもそもキュオーンを連れて行き倒れていた子だ。
そんな理由で手放すだろうか?
つまり自分で連れて行くことを選べなかったということだ。
誘拐。
うん、間違いない。
断じてウチがブラックだったからじゃなかった。
よかった・・・いや、よくない。
誘拐されてんだから。
ゴホン。
となれば誰が誘拐するかだ。
誘拐したなら犯人はなにか要求してきそうなもんだ。
だが郵便屋で手紙なら速達できるこの世界で、犯人はまだ何も言ってきていない。
ということは・・・別の目的があって誘拐した。
たとえば奴隷商に売るためとか。
・・・ふむ、完璧な理解だ。
踏み込みますか?とジャンヌが口をモグモグしながら目で聞いてくる。
そうだなぁ・・・そうしよっか。
キュオーンが嗅ぎ当てた場所だ。
なんかいるの確定っぽいし。
ボウガンを取り出す。
ジャンヌも腰の聖剣を鳴らす。
キュオーンも牙を剥く。
心強い。
ハム君は血のつながりはなくとも、同じ屋根の下で飯を食う家族だ。
多少の危険位構うものか。
必ず助ける。
俺も覚悟を決めたぞ。
よし、行こう!!
扉を蹴破り、小屋の中に入る。
「動くな!!」
ボウガンを突きつけ相手の動きを封じる。
「なんだ貴様らは!?」
「お前らが誘拐した子の家族だよ・・・返して貰うぞ!!」
「なんの事だ!?」
「おい、お前ら!!侵入者だ!!出会えい!!」
わらわらと出てくる筋肉質な男達。
どうしよ。
撃っちゃおうか?
俺、罪状つかないし。
『ワオオォォォォオオオン!!!』
迷っている俺を尻目に、突如雄叫ぶキュオーン。
空気が震える。
小屋がミシミシ言うほどに。
「ぐあっ!?」
「なんだ!?」
男達が動きを止める。
チャンスとばかりにジャンヌが投げ飛ばしていく。
出て来た5人の男達は、おそらく何が起きたかも分かってはいまい。
かみ砕かれたジャーキーと共に宙を舞う男達。
床に落ちると同時に顔面を踏み抜かれ、気を失っていく。
気がつけば床に這いつくばった男達の横で、落ちたジャーキーを拾い食いするキュオーン。
それを少しもったいなさそうな顔で見ながら、新たなジャーキーを口に入れるジャンヌ。
・・・狂気だ。
男達が出て来てからここまで、僅か数秒の出来事。
聖剣もボウガンも出番なし。
さっきバッチリ決めた俺の覚悟を返せ。
いや、いいや。
平穏が一番。
気を取り直して。
さて、残るは腰を抜かしたように座り込む2人の男だ。
声を聞くに壁越しに聞こえていたのはコイツ等の声だろう。
身体の自由がきかないのか、震えながら声を絞り出して男の一人がこう言った。
「ジャミングハウル・・・あの犬・・・モンスターか!?」
・・・へ?
いえいえ、デカい柴犬ですが何か?
視線の先には大型犬並みの体格を持ち、雄叫び一つで男達の自由を奪った柴犬が一匹。
倒れた男達に容赦なくマーキングしながら、ジャーキーをジャンヌにねだっている。
うん犬だ。
どこからどう見ても犬だ・・・。
バク転した辺りからうすうす普通じゃないのは気付いてた。
だが考えてもみて欲しい。
ここは異世界だ。
バク転する犬が普通じゃないと誰が言えよう?
異世界の人なら言えるだろう・・・じゃあ、ダメじゃん。
うーん、どうしよ。
分からん。
よし、保留で。




