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不変と恋の戦争物語  作者: 萩原慎二
夏の花咲く恋日和
40/41

悪魔と天使は混ざらない

怖い。


私と皐月ちゃんは、冷たい床に倒されている。


「ふぅ………ここに居ればあいつも見つけられないだろ」


私達をさらった犯人は、ニタニタと笑いながら私と皐月ちゃんを見下していた。


私達は不良のような集団に、ショッピングモールの近くにある人気の無い倉庫へと連れて行かれていた。

倉庫は酷く暗くて、季節に合わない冷気が溢れ出ていた。


「あなた達!こんな事して許されると思ってんの!」

「あぁ?よくこんな状況で強気になれるなぁお前」

「そんな事どうでも良いのよ!!さっさとこの紐解きなさいよ!!」


皐月ちゃんが不良達に勢いよく対抗していると、一人が『はぁ……』とため息をつく。


「おい、お前。ちょっとこいつ黙らせろ」

「うぃーっす」


一人の不良が命令をすると他の不良が皐月ちゃんへと近づく。


「ちょっと何よあんた!近づかないで!」

「うるせぇなお前、ちょっと黙ってろ!」


――パチン!!


「きゃあ!!」

「皐月ちゃん!?」


皐月ちゃんに近づいた不良が、勢いよく皐月ちゃんをビンタした。


「いっ………たいわね………あんた、よくもぶったわね!」

「やめてください皐月ちゃん!これ以上皐月が傷つくのは見たくありません!」


私は涙目になりながら皐月ちゃんに覆いかぶさった。


「そっちのちっこいのは中々物わかり良いじゃないかぁ」

「ちょっと牡丹!離れて!こいつらは調子に乗らせたらダメな奴らなのよ!」

「それでも!皐月ちゃんがぶたれるのは見てられません!」


皐月ちゃんは興奮状態になっており、今にも反抗しそうだった。

普通の状態でも勝てないような人達に、今の身動きが自由に取れない状態で抵抗できるわけが無い。


「まぁ、別にお前達が目的でさらったわけじゃないけどな」

「はぁ?どう言う事よ」

「俺らの目的はお前らの連れの奴をボコる為だよ」

「正木さんを!?」


一人の不良の話を聞いて、私達は驚愕した。


「あんたら!正木に何かしたらぶっ殺すわよ!」

「お前、マジで頭おかしいんじゃねえの?この状況でそんな事言うとか、バカだろ」

「マジでバカですねwwこっちのほうが大人しくて優秀ですよ」


私はそうやって指を指される。

皐月ちゃんが怒り、言葉を荒げる。

さっきまでの私なら、怒る皐月ちゃんを止めていたでしょう。


「正木さんに何かしたら………絶対に許しませんよ」

「………うっわ、こいつまじ怖いな。目がマジだ」


そう言って不良達は身震いする。


「まあいい。お前らはあいつをボコった後に可愛がってやるよ」


そう言われて、皐月ちゃんは目に殺意めいたものができたが、黙ることしかできなかった。

もうダメです………こうなったら、正木さんは来ないほうが………。

幸せ………なのかな。


「で、誰をボコボコにするって?」

「………な!?」

「え………?」


突然、扉の方から聞き覚えのある声がした。

声に釣られて扉の方を見ると、ぜぇぜぇと息をついている正木さんが居た。


「正木さん………何で?」

「何でこんなに速く居場所がわかったんだ!?」

「ぜぇ………ぜぇ………ショッピングモールに居た人とか、通行人とかに………はぁ………聞いて来たんだよ」


どれくらいの速さで走ったのか、正木さんはとてつもなく疲れていた。

正木さんが来た瞬間、正直喜んでいいのか迷った。

いくら普段から茜さんの特訓を受けている正木さんでも、こんな人数が相手では勝つことは難しいでだろう。

だから、迷ってしまった。


「お前ら………俺の後輩さらって、覚悟できてるんだろうな?」

「………お前らの集まりって馬鹿なの?よくこんな不利な状況で強気でいれるな」

「はっ、数的有利じゃないとイキれないお前達よりは勇敢だと思うがな」

「な………バカにしてんのか!?オイ!!」


………何かが違う。

正木さんの雰囲気がおかしい。

いつもの変に真面目で、時折ふざけるような人なのに、今言った言葉には酷いくらいの悪意があった気がした。


「バカにしたって事もわからないのか?」

「お前、マジで殺されてぇのか?」

「殺したら犯罪なのわかってる?まさかそこまでバカじゃないよね?………まぁ、まずは殺せるかどうかさえ怪しいがな」


先程からの正木さんの言葉には、たくさんの棘が含まれているような、嫌な感じがした。


「まぁいい。お前をギリギリ意識残るまでボコった後に、こいつらが犯されている所を見せてやるよ」

「だーかーらー。まずボコボコにすること自体が無理だよー………それに」



「後輩に指一本でも触れてみろ。後悔するぞ」



正木さんがそう言った時、倉庫内の温度がかなり下がった気がした。

その言葉は、今まで言った言葉の中で一番棘があって、悪意どころか殺意まであったような気がした。


「はは………そうか、なら触れてやるよ」


そう言って、一人の不良が私に手を伸ばしてきた。


「ひっ!」


――バキっ


「………え?」

「ぎゃあああああああ!!!いてぇぇぇぇ!!!」

「だから言ったじゃんー。触れたら後悔するって」


気がついたら、正木さんが目の前に居た。

私に触れようとしていた不良は、指を押さえて悶えている。


「牡丹、皐月。ごめんな、怖かっただろ?」


そう言って正木さんは、私と皐月ちゃんの頭に手を置いて撫で回した。


「あう………正木さん、大丈夫ですよ」

「結構速く来たから………おみゅ………何もされてないわよ」


私も皐月ちゃんも、一瞬撫でられた事による発作が出てしまったが、すぐに元に戻る。

それを見て安心したのか、正木さんはホッと息をついた。

だけどその顔には、少しだけ悲しげな雰囲気が混じっていた気がした。


「ちょっとだけ待っててくれ。もう少しで終わるから」

「だ、大丈夫ですか?」

「あぁ………問題ない」


そう言って、正木さんは不良たちの前に行く。


「お前………よくも俺のダチの指折ってくれたな」

「いやー、お前のお友達さんの指が脆いんだよ」

「お前………あんまり調子に乗ると痛い目見るぞ」


不良と正木さんが睨み合う。

この時、私はやっと理解した。

先程から感じる違和感の正体。それは正木さんの本性だ。

今まで私達に見せた事の無い、正木さんの本当の姿。


「お前ら、相手は所詮一人だ。だが、遠慮せずにボコボコにしてやれ」

「「「「うーっす」」」」

「はっ。いくら数を集めても、結局は意味無いって事を教えてやるよ」


正木さんが不良たちを挑発すると、それを合図に不良たちが殴りかかる。


「オラオラオラ!さっきの威勢はどうしたんだあぁ!」

「う………ぐ………ぐふ」

「ははっ!兄貴。こいつ全然弱いっすよ!」


正木さんは、抵抗もせずに不良に殴られ続けていた。


「正木!何で何にもしないのよ!」

「正木さん!もういいです!もう止めてください!」

「ぐ………ふう………」


しばらくすると、正木さんへの暴行は止まった。


「はぁ………結局抵抗せずに終わったな」

「何だこいつ。偉そうにしててクソ弱ぇじゃねえか」

「まぁいいさ。やることはもう終わったし、後はデザートでも味わおうぜ」


不良たちがこちらを向いて、ニタリと笑う。

私と皐月ちゃんは、それを見て今までに無い恐怖を覚える。

もうダメだ………このまま不良達に食べられちゃうのでしょうか………。



「はあぁぁぁ………もう終わりか?」



恐怖に苦しんでいる最中、不良たちの後ろでユラリと揺れる影が見えた。


「はぁ?………何であんなにボコられて無事なんだ?」

「まぁ………別に痛くなかったし。えっ?と言うかあれで本気?まさかそんな事無いよな~」

「くそっ………何だこいつ」


不良に散々殴られたのに、正木さんはピンピンしてた。

きっと、想像を絶する程の痛みだっただろう。だけど、そんな中でニコニコと微笑みながら突っ立っていた。


「お前ら、まだまだこんなもんじゃ無いだろ?ほら、来いよ」

「くっ………お前達!次は本気で行くぞ!」


――ガララ!


『お前たち!そこで止まれ!』


突然、扉が開く。

そして、誰かが威勢良く言葉を放った。


「げっ!警察!?」

「止まれと言っているだろう!手を後ろで組んで!騒ぐんじゃない!」


そこには、威風堂々たる姿で仁王立ちしている警官が居た。

険しい顔で不良達を見つめ、吠える様な大声で命令する。


「よし、皆。ひとまず拘束して、署まで連行しろ」

「「「「ハイ!!!」」」」


そして、その警官の後ろからぞろぞろと部下と思われる人達が出てきた。

その人達は統率の取れた動きで、迅速に不良達を拘束していった。


「何だてめぇ!?来るんじゃねぇ!!」

「はいはい。あまり騒がないでね。大人しくしたほうが痛くないよー」

「くっそ!やめろ………痛ぇ!!離せよ!このやろう!」


不良がバタバタと抵抗する。

しかし、警官はそんな抵抗をものともせず、そそくさとパトカーへと乗り込んで去って行った。


「はぁ………間に合ってよかった」

「ど、どう言う事ですか!?正木さん!」


私がそう聞くと、正木さんはふぅと一息ついてから喋りだす。


「ここに来る前にあらかじめ呼んでたんだよ」

「ここに着いたのが十分くらいで………警察がここに来たのがそれから五分くらいだから………最初の方で呼んでたんですか?」

「まぁ、そうなるな」


この倉庫は警察署からさほど離れていないので、準備などを含め約十分以内に来るのは可能ではあるだろう。

でも、こんな丁度いいタイミングで来たと言うことは、本当に奇跡が重なった。と言う事だろう。

運が良かった。その一言に尽きる。


「石蕗。怪我してる………よな。大丈夫か?」


そんな時、指揮を取っていた警官の人がこちらへ寄ってきて、正木さんへと声をかけた。


「はい。大丈夫です。羽田さん」

「そうか。でも、無理はするな。事情聴取はすぐ終わるから、痛むなら病院にでも行け」

「えぇ。でも、本当に大丈夫ですよ」


正木さんと警官が、仲よさげに話し出す。

その光景に、少しの違和感を思ってしまった。


「えっと………そっちの二人は………」

「あ、俺の後輩の牡丹と皐月です」

「鬼灯牡丹です」

「あ、七竃皐月です」


私達が自己紹介をすると、警官がふむ、と口元に手をやる。


「あぁ、すみません。私は警部の羽田幸一です。宜しくお願いします」

「は、はい!こちらこそよろしくお願いします!」

「よ、よろしくお願いします」


私と皐月ちゃんがペコリとお辞儀をする。

警部。と聞いて萎縮してしまったのか、言葉がたどたどしくなってしまった。

昔学校の課外授業で聞いた話では、警部は警察官全体の中で約6%程。優秀な人が就く役職だと聞いた事がある。


「あれ………?羽田さん。警部って実際に現場に来るんでしたっけ?」

「私は頻繁に出るようにしているよ。まぁ、君の通報ならなおさらね」


正木さんと羽田さんは、淡々と雑談をしていた。


「あのぉ………正木さん。ちょっといいですか?」

「ん?何だ?」

「正木さんって、羽田さんとどう言う関係なんですか?」


そう聞くと、正木さんは『あぁ』と思い出したかのように頷く。


「羽田さんはな、俺の母さんの幼馴染なんだ」

「正木さんのお母さんの………?」

「そうだよ。石蕗のお母さん、石蕗美代子さんのね」


正木さんのお母さんの名前。

それを聞いた瞬間に、私の心の中で少しの躊躇いが生まれた。

私達が入部してから約数ヶ月。その間で、正木さんの両親が早くにお亡くなりになったと言う事は何度も聞いた。

だけど、その中で一度も聞いた事の無い『両親の名前』。

それをたった今、こんなにも呆気なく聞いてしまった。


「あれ………?石蕗、二人に言ってなかったの?」

「えぇ………まぁ、必要ないかと思ったんで」

「そっか………ちょっとまずかったかな?」

「いえ。別にいいですよ」


そう言って、正木さんは顔の前で手を振った。

そんな顔は、どこか寂しそうに見えた。


「さてと………そろそろ、事情聴取をしに署に行こうか」

「わかりました。なるべく早めでお願いします」


雑談も終わり、私達は事情聴取の為に警察署へと向かった。

向かう途中、私達と正木さんとの会話は、一切無かった。





警察署での事情聴取は意外に長引き、終わった時にはもう夜中になっていた。

俺達はとりあえず晩御飯を済ませて、駅前の公園へと来ていた。

晩御飯を食べる時も、公園に行く時も、少ししか言葉は発せられなかった。


「………あの、正木さん」


そんな静寂を切り裂くように、牡丹が俺を呼んだ。


「何だ………牡丹」

「聞きたいことがあるのですが、良いですか?」

「………あぁ、いいぞ」


俺は、酷く苦い苦虫を噛み砕いたような顔をしながら承諾する。

思いつく節はいくらでもある。

その場から逃げ出したい気持ちを抑えながら、俺は牡丹の見つめる。


「あの時の………私達を助けに来たときの正木さんって………本当の正木さんですか?」

「………あぁ………本当の、偽りの無い俺自身だ」

「そう、ですか………じ、じゃあもう一つ」


牡丹は、一つ深呼吸をする。

今までに無いほど、その場の空気は凍り付く感じがした。


「今までの。私達に会ったときから見せていた正木さんって………偽者なんですか………」

「っつ………それは………………」


それを聞かれ、俺は黙る。

何か答えようと、必死になって考えた言葉は、次から次へと頭の中から消え去った。

それでも考えて、考えて。やっとの思いで搾り出した言葉は口から発せられない。

真実を言ってしまうのに、酷く恐怖していたんだ。


「………………偽者なのかもしれない」


それでも俺は、恐怖心を抑えて真実を口にする。


「………そう………ですか………そうなんですね………」


牡丹の声が酷く霞む。


「何で………何で、隠してたんですか」


その時の牡丹は、心の内に怒りや悲しみを混ぜ合わせていたような気がした。


「それは………怖かったんだ」

「怖かった………?」


俺は必死に喉の奥から声を絞り出す。


「俺の本性がバレて………二人が遠ざかって行くのが怖かったんだ………。今の関係を失うのが、怖かったんだ」

「正木さん………そんな………そんなの………」



「そんなの………違うわよ………」



「「!!」」


急に、皐月が声を上げる。

驚いて皐月の方を向くと、皐月はポロポロと涙を零しながら嗚咽していた。


「そんな………呆気なく消えちゃうような関係じゃ………ないわよ………グスッ」

「皐月ちゃん………」


そのうち、俺も牡丹ももらい泣きしたように涙を零し始めていた。


「むしろ………本当の姿を隠してた方が………うっ………最低よ………」

「私達は………皆に近づこうと………グスッ………仲良くしようと努力してたのに!………うぅ………正木は拒絶してたなんて………」

「!!ち、違う!………拒絶なんか………してない」


はたして、本当だろうか。

俺は、二人を拒絶していなかったのだろうか………。

答えは否。拒絶していたのだろう。


二人以外の部活の皆は俺の本性を知っている。と言うかバレた。

なのに、俺は後輩二人には教えなかった。

自分の欲を優先して。変わらない事を優先して。無意識のうちに二人を弾劾していたんだ。


「ははっ………そうだな………最低だな。俺って」


むしろ、俺には笑いが生まれていた。

こんなにも、俺は最低で。こんなにも、俺は屑だ。

そんな自分に、笑ってしまった。


「だめだ………考えがまとまんねぇや………今日はダメかもしれない」

「………そうね、今日はお互いおかしいわ………日を改めましょ」

「あっ………その………あ………」


俺は、自分の最低さに嘲笑する。

皐月は、涙ながらも『自分』を保っていた。

牡丹は、自分が何もできないことにただ黙っている事しかできなかった。



それからは、誰も、一言も喋らなかった。

皆、それぞれが帰宅して、それぞれの時間を過ごした。

そんな中、俺は思う。


不変を望んでいたのに、自分で変えてしまった。

しかも、俺が最も嫌った、意味のない変化。

笑えない。笑う気力すら起きない。


「はぁ………………」


深く、深くため息をつく。


「本当に………本当に………」


―――何がしたかったんだろうな。

どうも!2月中に次話投稿する。と言っておいて思いっきり遅れてしまった萩原です!

皆様。非常に申し訳ありません。

深く。深く反省しております。

そして今回から、『不変と恋の戦争物語』の投稿頻度は、マイペース投稿とさせていただきます。

一日で3話くらい投稿される日もあれば、3日ぐらい投稿しない。という日もあるかもしれません。

非常に申し訳なく思ってはおりますが、ご理解していただければ嬉しいです。

誤字脱字、感想等も受け付けております。

ブックマークなどしてくれると嬉しいです!

次回予告川柳

    3人の

     想いは交わり

        輝き出す

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