響く歌声は絶頂と絶叫
前回のあらすじ川柳
合宿が
終わるが夏は
まだ続く(いつまでも)
合宿を終えた次の日。
文化研究部の部員達はいつも通りの生活に戻っていた。
12時〜1時までにはもう全員揃って、各々が好きな事をして安息を取っている状態。
山吹先輩と俺は読書を。
茜と皐月と牡丹はいつも通り話している。
楓は山吹先輩の腕に引っ付いている。
楓さん………ちょっとあからさま過ぎやしませんかね………。
けど、楓の気持ちは痛い程わかるから嫌だ。
身は近くに居たけど、心は遠く遠く離れていた友人の心が近づいて来ているんだ。舞い上がるのも無理はない。
この共感が嫌になるのは、俺も同じく誰かを待っているからだろう。
この、虚空と化してしまった俺の心を、安心と信頼で埋めてくれる人物を。
それを求めているから、楓の結果が羨ましくて、妬ましいのだろう。どちらも同じか。
まぁ、そんな事を考えていても意味が無い。
だから、この安息の満ちた空間で、こんなくだらない考えを持っていてもすぐに消え失せてしまう。
これも全て、合宿での成功のおかげなのだろう。
まぁ、結局はその結論に至るんだけどな。
しばらく時間が経つと、茜達の声がピタリと止む。
山吹先輩も不思議に思ったのか、俺とほぼ同時に3人の方を向く。
すると、そこには真剣な眼差しでこちらを見つめる3人が居た。
3人とも、じっとこちらを見つめて動かない。
その中で、茜がふと口を開く。
「そこの3人、少し言いたいことがあるのだけれど」
「どうした。急に改まって」
「私達………ぜんぜん高校生らしいことして無いじゃん………」
茜がそう言うと、少しの間俺と山吹先輩が黙る。
そしてすぐに、頭の上に疑問符が浮かんだ。
それを察したのか、3人が項垂れる。
「だーかーらー。何かこう………高校生らしいことしたいなぁーって」
「待て、さっきから言ってる事が抽象的過ぎて何も伝わらないぞ」
「うーん………皆で出かけたりとかさ、遊んだりとか!」
だから、まだ抽象的なんだよ。
「したじゃんか。合宿」
「それは部活ででしょ!私が話してるのはプライベートの話だよ!プライベート!」
「うぜぇ………で、具体的に何がしたいんだ?」
「それで悩んでるんだよ〜。さっきから二人とも本しか読んでないし、楓に関してはそもそも何してるかわからないし………」
茜は、勢いよく力説するが、残念ながら俺と山吹先輩にはこれっぽっちも響かない。
楓は………知らん。
「と言うか、二人はそんな銚子で夏休みをどう過ごすつもりなの?」
「私は………家庭の用事とか、勉強とか………後は特に。その日その日で決める」
「俺は………家事全般やった後、時間があったら書店巡りとか。他には勉強とか読書とか?」
「うわ………見事にインドアな人達。そんなんで人生楽しいの?」
相変わらず茜は、コイツラ人間?という感じの目でこちらを見つめている。
いや、君失礼すぎない?俺達は人間だし、と言うか人がどう過ごしたって勝手だろ。
「このままじゃ、何もせずに貴重な夏休みが終わっちゃう!」
「と言う訳で、皆で何かしたいんですよ!正木さん!何かありませんかね?」
「何かって言われてもなぁ………」
しばし考える。
合宿で海水浴、祭りや花火をやったしなぁ………あれ?だいたい終わってんじゃない?
「でも、合宿でだいたいやんなかったか?」
「え!?あれでだいたいやったって………正木今までの夏休み………生きてた?」
「失礼な。と言うか、結局は何をするんだ?」
「だから………それで困ってるんだよ………」
うーんと悩む体制に入った茜達。
それを横目に俺達は本を読む体制に戻る。
そこで、いつまでも山吹先輩の腕に引っ付いて幸せそうな顔をした楓が口を開く。
「梓ちゃん。今どんな本読んでるの?」
「ん?ああ、これはな。中世貴族をモチーフとしたアイドル達が登場するものだ」
「え、何ですかそれ。凄いカオスそう」
山吹先輩の簡単な説明を聞いただけでも一瞬混乱した。
いや、確かにアイドルでも色々なジャンルとか、格好をした曲とかあるけどさ、中世貴族って何だよ。マリー・アントワネットの格好でもするの?それは近世くらいか。
とりあえず、カオスと言うのはわかった。
「アイドル………歌………皆で歌う………」
今の話を聞いて、茜はブツブツと喋りだす。
近くにいるから聞こえたのか、皐月と牡丹はそれを聞いて納得したような顔になる。
「そうだ、カラオケ行こう!」
「「断る」」
「えぇ………二人ともそんなに食い気味に断らなくたって……」
俺と山吹先輩のあまりにも速すぎる拒否に茜は困惑する。
カラオケは嫌だ。何で人前で歌わなきゃいけないの?しかも一人で行ったら『みんなで行く』のが当たり前みたいなもんだから不思議な目で見られるし。
そんな理不尽な店には行きたくない!それなら家で『皆でカラオケ!』やってた方がまだ精神的ダメージは少ない。いや、それも悲しいけど。
とりあえず、カラオケは『皆で』みたいな雰囲気になってしまっているのでNG。
しかし、茜達はそれを認めない。
拒否されるのなら、あらゆる手段を取って肯定させるのが皐月もとい悪魔なのである。
「あら?そんなこと言って。山吹先輩は自信が無いの?」
「…………ほぉ………言うじゃないか………本当に私の歌唱力が皆無だと思っているのか?」
「そんなの、聞いてみなきゃわからないわよ〜?」
「ふ………いいだろう。その勝負、受けてやろう。後悔するなよ?」
「はーい。………よし、一人確保」
あー………やられてしまった。
山吹先輩は安い挑発に乗ってしまうほどプライドの塊だから、あんなこと言われたら受けるに決まってる。
しかも、こうなった山吹先輩はもう止められない。後は拒否してる俺を無理矢理!引っ張ってでも連れて行くだろう。
恐ろしや、大悪魔皐月。
「石蕗、お前も来るよな?」
「いえ、俺は遠慮しておきます」
「来るよな?」
「いえ、遠慮──」
「く・る・よ・な?」
「…………はい」
恐るべし、山吹先輩の圧力。
あまりの恐ろしさに俺も行くと言うしかなかった。
けど、本当に心から遠慮したい。
カラオケなら、近頃大体の店個室だろう。
そしたら、必然的に女子5人の中に俺が行くことになる。
これが去年なら、翌檜が居て無理矢理にでも連れてって男子一人を避けてたのだが、今回はそうもいかない。
早く来てくれ………翌檜………。
俺達は、カラオケに行くと決まったら素早く帰る準備を終えて店へとダッシュした。
個室に案内されて、各々が飲み物や途中でつまむであろう食べ物を注文している。
店員さんにはすっごい不思議な目で見られてた。『何で男子が一人で女子の組に混ざってるの?』みたいな顔されてた。
歌っている途中に店員が乱入する自体を防ぐために、俺達は料理が来た後に歌う事にした。
料理も一通り揃い、そろそろ誰かが歌うのではないか。と言う雰囲気になっていた。
「よし、じゃあ誰から行く?」
「ここは言い出しっぺの茜だろ」
「ええ?私?まぁいいけどさ」
茜は席を立ち、パネルを操作して曲をセットした。
「皆も予約してスムーズよく歌えるようにしなよ?」
「あぁ。なら、次は私が行こうかな」
そう言って、山吹先輩は曲のセットを始める。
茜は前へ行き、曲が始まるのを待っていた。
「茜さんってどれくらい歌うまいんですか?」
「ん?………記憶が合ってるなら………いや、実際に聞いたほうがいいぞ」
「何だその濁し方は………」
茜の設定した曲が流れ始める。
茜はリズムに合わせて体を小刻みにゆらし、前奏が流れるのを待っていた。
そして、遂に茜の歌声が露わになる。
俺の記憶が正しければ────
皆、茜の歌声を聞いて絶句する。
文字通り誰も喋らない。茜の歌声だけがただ響いていた。
俺の記憶が正しければ、茜は物凄く歌が上手い。
そして、記憶の通り茜の歌声は、皆の予想の斜め上を行くような美声だった。
モニターでは、流れてくる長棒みたいな物からズレない。つまりはほぼ完璧な光景が映し出されていた。
茜が歌い終わるまで、誰一人として口を開くことは無かった。
皆、茜の歌声に魅了されたように聞いている。
この歌声は昔何度も聞いたが、相変わらず性格に合わない歌声をしている。
茜の歌が終わり、個室内は一瞬静寂で包まれる。
しかし、それはすぐに絶賛の声で消え去った。
「すごいです!茜さん。歌うまかったです!」
「えへへ、ありがと。牡丹」
「凄いな………正直、あまり上手くないのではと思っていたよ」
「これで、部長へのプレッシャーが上がりましたね!頑張って!」
そう言って茜は、山吹先輩の背中をポンと叩く。
次は山吹先輩の番。
山吹先輩だけは、どうなるかが予想できなかった。
この部に居て、唯一歌声も鼻歌も聞いたことの無い人物だ。全く持っての初見。
だからこそ、少々期待を覚えてしまう。
茜と同様に山吹先輩は、前奏のリズムに合わせて体を小刻みにゆらし、始まりを待っていた。
そして、遂に山吹先輩の歌声が披露されることとなる。
茜ほど、とは言えないが、そこらの奴より明らかに上手い歌声。
非の打ち所が無いほどの人は、歌唱力もしっかりあったのだ。
茜の歌のあとでは少々差が見えてしまうが、それをも気にさせない程の美声が個室を包んでいた。
『心地がいい』
その感情だけが皆を取り巻くものだった。
山吹先輩の歌が終わり、個室は拍手喝采だった。
「凄い!梓ちゃん凄い!流石私の梓ちゃん!」
「いつからお前のになった…………まぁ、ありがとう」
「あら〜」
「正木さん、妄想に浸らないでください」
「すまん……」
危ない危ない。
危うく楓と山吹先輩で薄い本が出来上がってしまうところだった。
しかし、楓は本当に容赦なくなったな。
あの山吹先輩をデレさせてしまうほどの力を持っていたとは……やっぱり二人はズッ友だね!
と言う訳で、来てしまった牡丹の番。
来てしまった。牡丹の番。
牡丹はノリノリで前に行ってノリノリでリズムに乗っている。
それを見て、微笑ましくはあるのだが、あり得ないほどの不安に包まれた。
「ごめん、俺トイレに──」
「逃さないよ。正木。しっかり牡丹の歌を聞いてあげな?」
「逃げるなんてずるいな、石蕗は。しっかりと覚悟を決めろ。愛しの後輩だろ?」
「トイレって言ったのに何で逃げるって解釈するんですかね」
俺は腕をバッチリホールドされてしまい、身動きが取れなくなってしまった。
やめろ、やめてくれ。離してくれ!
そして、牡丹の歌が始まった。
想像を絶する歌声。
その場に居た皆を絶望させるような歌声。
脳裏に響き、精神を蝕んでいくような歌声。
「あああああああああ!!やめてくれぇぇ!!」
「正木ぃ………私達だって同じ痛みをぉ………受けているんだぁ……逃さない!」
「石蕗よ、男を決めるんだ」
「嫌だァァァァァ!!」
結局その日は、牡丹の歌声による被害者多数によって、解散となってしまった。
そう………鬼灯牡丹は歌が絶望的に下手なのである。
それはありえないほどに。
その日、俺は夢の中でその音が延々と鳴り響いていた。
どうも!萩原慎二です!
夏休み、だいたいやればいいような事を合宿で殆どやってしまったような気がして少しのネタ切れの予兆が出ています!
やばい(切実)
ネタが浮かばなくて、適当に詰め込んだような文が時々あるかもしれませんが、温かい目で見てもらえれば嬉しいです!!
誤字脱字、感想等も受け付けております。
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