夜の水面が写すは月明かり
前回のあらすじ川柳
罰ゲーム
皐月敗北
けど勝利(皿洗いの途中で)
皐月の罰ゲーム皿洗いが終わってから、俺達はテレビを見ていた。
ふと時計を見ると、もうかなり遅い時間になっていた。具体的に言えば11時過ぎ。
明日の事を考えると、もう睡眠を取ったほうがいいかもしれない。
「皆、俺そろそろ寝るけど皆はどうする?」
「あ、もうこんな時間なんですか。私もそろそろ寝ますよ」
「同じく」
「私もそうしようかな」
「私はもうちょっと起きてるよ。茜ちゃんは?」
「ん〜……もうちょっと起きてるよ」
どうやら、楓と茜以外は寝るそうだ。
よいしょと立ち上がって、もうぬるくなった紅茶の残りを飲み干す。
昼のときの疲れもあり、きっとすぐに寝れるだろう。
そう思って階段を登り、部屋へと戻る。
部屋では夏だから少し暖かいが、内装の白さが妙な寒気を与える。
眠い。と言ってもすぐにベッドにダイブするような眠気ではないので、暇なので机に向かう。
スマホを取り出し、メールを確認する。
一応、翌檜には連絡しておいた。
他言無用の、俺しか知らない翌檜のメールアドレス。
翌檜が部活、もとい学校に来ていた頃は頻繁に使っていた。
しかし、そこには俺が今日出発のときに送ったメールだけしか無く、向こうからの返信はない。
いつ来るかはわからない。けど、来てほしいとは思っている。さすがに部活で男子一人は心地が悪いから。
………まぁ、それは建前の一種で、本当の理由は他にある。
これこそが、真の他言無用。トップシークレットである。
あ、俺がホモだって訳ではないよ?本当だよ?
「ふぅ………」
疲れたからか息を漏らす。
勉強とかしてから何分がたった?………だいたい一時間。
もう時計は新しい日を迎えている時間になっていた。
………おかしい。眠くならない。
むしろ、勉強したせいで頭が冴え、より眠気が覚めたような気がする。
先程、茜達も部屋に戻っている足音が聞こえたから、もう寝てはいるだろう。
皆、安らかな眠りについている頃に、俺は目が冴えている状態だった。
どうしよう………このまましばらく寝ない雰囲気が流れてきたな。
そのとき、ふと窓の外を見た。
俺らが昼間にいた海に、月が反射している。
「…………………」
何故かわからないが、立ち上がる。何故ここで浜辺に行こうと思ったかはわからない。けど、この時は心がおかしくっなっていたのだろう。
外に出ると、生暖かい風が優しく吹いていた。
肌に触れるたびにこそばゆい感じがしてしまう。けど、こんな感覚が嫌いではない。
俺はゆったりと海へ歩いていった。
浜辺につくと、一つ、近くの岩場に伸びている足跡があるのに気がついた。
距離はそう遠くない。しかし、様々な形の岩が積み重なっているため、死角が多くなっている。
好奇心が出て、俺は岩場へと歩いていった。
そこには、月明かりに照らされながら海の遥か向こう。地平線を見つめている楓が居た。
「あ………正木………」
「おお、楓。来てたのか」
「うん………ちょっと眠れなくてね」
俺も同じ目的で来たことは伝えない。と言うより伝え忘れた。
そんなことより、疑問に思っていたことがある。
「なぁ、楓。ちょっと聞きたいことがあるんだけどいいか?」
「うん。答えられる範囲の中なら別にいいよ」
全てがわかっている。と言うような顔でこちらを見つめる楓に、俺は真面目な顔で言ってやる。
「お前、山吹先輩と何かあったのか?最近か……もしくは昔」
「………あったよ。ちなみに、いつだと思う?」
「俺の導いた答えなら、昔だな」
「正解。まぁ、それじゃあ何もわかんないだろうけど」
「何が………あったんだ?」
そう聞くと、少し躊躇ったような顔を向けてから、俺に向き直って楓は言う。
「説明するとね、私って山吹先輩に昔会ったことがあるんだよ」
「会ったこと?幼馴染なのか?」
「いいや。私が一回引っ越しするまでかな」
そう。楓は、話によると昔この街にいて、一回他県に引っ越ししてからこちらに戻ってきたらしい。
しかし……楓が山吹先輩と昔会ったことがあるのは知っているが、何故それで妙な雰囲気になるんだろう。
「何があったか、聞いてもいいか?」
「うん………聞いてくれると嬉しい」
「でも、その聞き方はちょっと卑怯だよ」
「すまん………」
タップリと時間を取り、落ち着いてから楓は喋りだす。
「私、昔この街に居た時、梓ちゃんとは友達だったんだ」
「だいたいいつ頃からだ?」
「うーん………たしか小学生ぐらいからはもう友達だったよ」
「結構早いな。すまん、続けてくれ」
「うん。まずね、私のお父さんが梓ちゃんのお父さんと友達で、それの繋がりで私達も友達になった」
頷いて、同調しながら楓の話を聞く。
「いっつも二人で遊んでて……一緒に出かけて。考えれば引っ越しするまでずっと一緒にいたかな?」
「それでね、私。子供特有の意味のない好きの感情が芽生えちゃったんだよ」
「意味の無い好き………か」
楓のその言葉には、大量の棘があって、精神を蝕んでいくような感じがする。
言葉の真意はわからない。だけど、何となくでは予想できる。
「相手はクラスの男の子。その事は梓ちゃんにも言ったな」
「それでね、私が梓ちゃんに伝えた次の日に」
そこでタップリと間を開ける。俺もゴクリとツバを飲み、話し出すのを待っていた。
「その男の子は梓ちゃんに告白したの」
「………………」
思わず黙ってしまう。
小学生と言う若くて純粋な考えをする歳なら、きっと悲しく思うだろう。
「空き教室で告白してるのを、見ちゃったんだ」
「でもね、私は悲しいなんて思わなくて、むしろ応援したいなって思っちゃったんだ。そこで男の子は好きじゃないんだって思った」
「………それで、どうなったんだ?」
「次の日から私と梓ちゃんはあまり会わなくなった」
悲しいと思っていたのは、山吹先輩の方だった。
友人の好きな人が自分を好きと聞いて、友人の失恋を感じ取って、山吹先輩はどう思っただろうか。
きっと、こう思ったのだろう。
『自分は邪魔』と。
これは俺の推論でしかないし、ただの予想だ。けど、絶対的な自身があった。
「それでね、私梓ちゃんに言ったんだ。何で避けるの?って」
「そしたら梓ちゃんは………『私と一緒にいたら楓の幸せを奪ってしまう』って言ってた。今でもはっきり覚えてる」
「私、その時は何も言えなくて、ただ黙ってることしかできなかった」
楓の気持ちも理解できる。
友達が自分の好きな人に告白されて、気にしてしまい距離を置く。よくある話だ。
それを実際にされて、応援したいと、言わば開き直ったような状態の楓には、『何で?』としか浮かばなかっただろう。
だからこそ黙ってしまった。かける言葉が見つからなくて、黙ってしまった。そう思う。
「そっから梓ちゃんは自分の意見を私に言わなくなった。全てが私優先みたいになって………選ぶ物が被ったら絶対に譲ってくれた」
「そんな関係はどんどん続いてって、私は引っ越して。しばらく会えなくなった」
「再会したときには気持ちが強くなってたけど、私優先なのは変わってなかった」
「………これが私と梓ちゃんの過去のお話だよ」
想像以上。全くの見当違いだった。
俺が予想していたのとは全く違う。気まずさしかない話だった。
「私はね………何回も言ったんだよ?本当は好きじゃ無かったみたいって。けど、梓ちゃんはカ『そうか』しか言わなくて、結局行動は改めなかった」
「………正直、もうこう言うのは止めにしたいんだ………これじゃあ友達じゃない」
「まぁ………確かに」
友達じゃない。
その部分には俺も共感できる。
今の楓と山吹先輩の関係じゃあ、まるで上司と部下みたいだ。
友達ではない、完全な他人。
それがどれだけ悲しいのか知っている。
なら、自分が悪く無いとわかっているのに、何故山吹先輩は止めようとしないのだろう。
そんなことが疑問に思った。
単純に自分が悪いと思いこんでいる?
それは無い。あの人なら、自分が悪くないとわかっているだろう。
では、わかった上での罪悪感か?
それならまだ可能性はある。しかし、可能性は低いだろう。
俺の勝手な主観でしかないが、あの人がそれだけで罪悪感を覚えるなんてありえない。
………なら、何だろう。
疑問だけが俺の頭で増えている。
「わたし……どうしたらいいのかな……もうこんなの嫌だよ……」
「………方法は無くはない」
「ほ、本当!?」
「待て、話を最後まで聞け。……あるけど、失敗したら今より悪い関係になるかもしれない」
「………どういう方法?」
関係が悪くなる。と聞いても尚聞いてくるなら、もう覚悟は決めているのだろうか。
「俺も交えて話合う。成功するかはわからないけど、上手く解消できるかもしれない」
「解消?」
「ああ、解決じゃない。解消だ」
「本当にその関係が嫌なら、そもそも元から消すしかない。中途半端な和解なんて宛にならない」
「………けど、これもあくまで山吹先輩の感じ方次第だ。聞いて自分が悪いと言い張るならどうしようもない」
「それでも………いいのか?」
改めてそう聞く。
全貌を聞いたからか、楓の顔は少し曇るが、すぐに曇りは晴れて、決心した顔になった。
「それで解決できる可能性があるなら………私はそれがいい。何も変わらないなら、いっそ変えたい!」
「それは違うぞ楓。変えるんじゃない。戻すんだ。……後、俺の前で変えるってあんまり言うな」
「ご、ごめん………でも、『戻す』か。………そうだよね。元々が仲のいい関係なんだから、変える必要なんて………無いもんね」
楓は月を見つめながらウンウンと頷く。
そんな姿はまるで、なにか一つしかない。かけがえのないものにすがっているように見える。
けど、酷く美しい。
心は深く、深く落胆して、希望を持ってを繰り返しているのだろうに。
皮肉のように、とても美しかった。
「………俺が言ったので、いいのか?」
「うん。もうそれしか無いだろうし、内容を決めれば納得ができそうだし」
「そうか………わかった。手伝うよ」
「うん……ありがとう」
「ちょっと待ちなよ。お二人さん」
俺と楓が協力し合おう。と誓うときにどこからか声がかかる。
声がした方向を見ると………。
「私無しで何を話し合ってるのかな?お二人さん」
「茜………お前、来てたのか?」
「ちょうど正木が出ていくのが見えたからね。準備して来てみたらこれだもん………酷いよ。二人とも」
その言葉を発したとき、あかねの顔はいつもと比べ物にならないほど、悲しそうな顔をしていた。
一度も見たことは無いんじゃないか。そう思うような顔で俺達を見つめている。
「正木が手伝って、私が手伝わないなんてだめだよ。自称楓の一番の友達。赤松茜が居ないと話にならない」
ふざけたように茜が言う。けど、ふざけたような口調なのに、ふざけてはいない。そんな話し方だ。
「楓も………私にも相談してほしかったな」
「茜ちゃん………」
「……………自称じゃ無いさ」
「え?」
俺の急な言葉には茜は戸惑う。
先程の真面目な雰囲気が台無しになるような戸惑いだが、まあいいだろう。
「一番の友達だから。迷惑をかけたくないんだろ」
「………そうだよ………茜。きっとややこしくなるから。話したく無かった………信用してるからこそ、巻き込みたくなかった………」
「………わかってるよ。それくらい」
「けど、巻き込まれたって、理不尽をぶつけられたって、それでも隣に居るのが友達だよ。それくらいで距離を置くなんて、所詮は他人程度だよ」
………茜らしくないことを言うもんだ。
普段の茜からは想像すらできない。そんな真面目で優しい茜が、そこに居た。
「協力するなら。協力してもらったほうがいい。成功率が上がる」
「もちろん。と言うか説明しなくても協力するつもりだよ」
「…………ごめんね」
「違うよ楓、そんなときは『ありがとう!茜』って言うんだよ!」
そうやって茜はドンと胸を叩く。
それを見て、楓は笑いながら言った。
「ありがとう。茜ちゃん」
「はいやり直しー。違いますー」
「え、え?何が違ったの?」
「私は、『ありがとう!茜』って言われたいの!………違い、わかるでしょ」
「あ!………そう言うことね」
茜は赤面し、楓は笑う。
そして楓は言った。
「ありがとう!茜!」
「どういたしまして………楓」
そうして二人は笑い合う。
若干空気になっている俺は、たった今空気を読めない事を考えている駄目なやつだ。
…………これが百合かな?
俺達は別荘に戻り、後日念密な計画を立てることにした。
ベストタイミングは夏祭り。
雰囲気と感情を武器にして、山吹先輩を倒してやる。
残り少ない制限時間。その中で楓と山吹先輩の仲を取り戻してみせる。
そう誓った俺達だった。
後書きstory
『茜と楓のお話し合い』
皆が自分の部屋へと戻った後。
私と楓は二人でリビングに残っていた。
二人でテレビを見て、笑って、時折雑談を混ぜて、夜を過ごしていた。
飲みかけのコーヒーはもう冷めていて、新しい熱々のコーヒーを混ぜて温度を取り戻させる。
ちょうどいいくらいの温度になって飲みやすい。
ミルクと砂糖たっぷりの甘々コーヒー。美味しくて美味しくて感激する。
感動を覚えているときに、楓は唐突に口を開いた。
「そう言えばさ、茜ちゃんと正木って実際どうなの?」
「ぶふぉわ!!……、かな…急に何言うの?」
唐突に、私と正木のことを聞いてきた。
それもそうだろう。私の正木への思いはもう楓は知っている。そしておそらく、牡丹も皐月も知っているだろう。
「いや、だってさ?幼馴染なのにそこから何も進展が無いじゃん。そろそろくっついたって不思議じゃないよ?」
「んー………そうと思いたいんだけど………正木があの性格だからな」
「まぁ………その上で好きなんでしょ?」
「ちょ!ちょっと!はっきり言わないで!………もう!恥ずかしい」
私は激怒する。本心をまんま言われると少し意識し過ぎてしまう。
「それに………まだこのままでいいんだよ」
「何で?」
「今はまだ………正木は変わることを望んでいないから」
「うーん………そう言えばさ、何で正木はそんな性格になったの?」
「それはね………私もわからないんだ。教えてくれなかった」
「へえ〜………何かあったのかな?」
何年か一緒にいるのに、私はまだ真相を知っていない。
だから、この状態ではまだ告白なんてしてはいけない。
全てを知る、その時まで。
どうも!萩原慎二です。
今日、1月19日から、『カクヨム』と言うサイトでもこの作品を投稿することにしました。
まだ知名度はあり以下ほど小さいですが、頑張っていこうと思います。
誤字脱字、感想等も受け付けております。
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