1話
窓脇の花瓶の花を取り替えた。すずらんから、スノードロップへ。
「寒ぅ…」
東洋の桃色の花が散り、世界は白へ変化していく。雪がチラチラと舞う景色は、いつの日か見た魔法のようでワクワクする。窓を覆う霜を布で拭って、外に出ている楽しそうな人間を眺めた。二人の子供が地面に積もっている薄い雪をかき集めて投げ合っている。微笑ましくてつい顔がほころんだ。
「僕は早く暖かくなってほしい」
私の独り言に答えたのは上司であるフォクス先生。柔らかいソファに身を落とし、コーヒーをすすりながら新聞を読んでいる。すきま風が先生の体を震わせた。
「まだ夏になったばっかですけど」
遠い昔、魔女が季節を反対にしたらしい。その名残なのか、暑い季節を冬、寒い季節を夏という。昔の王様が魔女を裏切ったから腹いせにそうされたのだが、なんとも子供っぽい嫌がらせである。季節が反対になって特段困ることはないのだ。慣れてしまえばこちらのもんというわけで。
「夏自体がなくなってしまえばいいんだよ」
「それ冬の時も言ってましたよね」
私は先生に掛け布団を用意する。こうはいっても先生が寒がりなのは百も承知だ。去年も一昨年も夏に風邪を引いているのだから、体をいたわるのは当然のことである。
「…夏はどこのお店も繁盛しませんから」
「いいじゃないか。夏の間は休める」
「獣じゃないんですから冬眠しないでください。そもそも稼がなきゃこの隙間も埋まりませんよ」
「空から降ってこないかな…金」
何馬鹿なこと…なんて思いながら私は玄関に向かう。扉のプレートを「closed」から「open」にするためだ。変えたあと、また先生のもとへ戻る。先生は新聞を閉じて天井を眺めていた。…多分目が疲れたのだろう。
「ルケーレ、早くコーヒーを淹れ直してくれ」
私を横目に見ながら先生は傲慢な要求をこちらにしてきた。そう、傲慢である。殻になったコップを見て私はため息をついた。傍にあったクッションを拾い先生に向かっておもいっきり投げつける。
「自分で淹れろ!」




