終焉りの始まり
ジャガックとの戦いから数ヶ月。
怒涛の日々を終えた京助は、もう少しで終わる高校生活を憂いていた。
そんな京助の前に全く新しい脅威が迫る!
その始まりは家の前に現れた赤ん坊!?
青春の終わりの物語が始まる。
太陽系第三惑星、地球。
ユーラシア大陸の傍にある弓状列島である日本のどこかに存在する街、真鳥市。
そこはかつて復権を目論む宇宙ギャングのジャガックから狙われており、侵略の危機に瀕していた。
しかしそれを良しとせず、未知なる宇宙の脅威へと立ち向かった少年少女たちが居た。
オーバーテクノロジーで作られたスーツを纏う五人組のクインテット、そして化身使いの超能力者マグナアウル。
彼らはすれ違いと対立を経て、真に手を取り合い背中を預け合う関係となり、やがて奇跡を起こしてジャガックを壊滅に追い込み、生まれ育った街真鳥市と地球への平和と安寧を取り戻すことが出来た。
そして地球を守った少年少女達は、地球に住まう全ての者達から祝福を受け、輝かしい未来を約束された……。
「んっ……」
小さな衝撃と幽かにするパキリという音と共に、グラファイトの粒がオレンジ色の光に照らされて空中へ舞う。
「……」
夏休みの人もまばらな教室で、千道京助は窓越しの夕空から書きかけのノートに視線を移す。
ページ全体に意味のない文字や図形の羅列がなされている中、一点だけ用紙に穴が開いている。京助の筆圧が強すぎてシャープペンシルの芯を折ってしまったのだ。
「ハァ」
高校三年生の夏休み、受験に備える生徒の応援の為に慧習館高校は、教室を自習室として開放し、職員室にて質問を受け付ける時間を設けている。
京助は諸事情で既に進学先が決まっているものの、将来の夢である超能力の研究者の為の勉強や、思いついた発明品のアイデアを纏める為に自習時間を使っている。
「このところ……ずっとこうだな」
そう独り言ちた京助はページを捲り、以前書いたものを見返した。
そこにも無意味に見える幾何学模様と世界各国の言語が悪筆で殴り書きされていたが、真ん中に達筆な文字でこう記されていた。
疑似化身着装装置
果たしてそれは京助の新たな発明品のアイデアなのであろうか。
「ンンン……」
少々苛立ったかのように京助は一部が白くなった前髪を掻き乱した後で撫でつける。
どうやら京助は何かに気を取られ、アイデアまとめに集中できないでいるらしい。
『どうしたのですか? リラックスなさい』
頭の中に直接声がする。
京助の眷属にして相棒である金属生命体トトである。
『なんだか身が入らない……どうしてだ?』
とはいうものの、京助にはその理由が分かっていた。
『本当は分かっているのでしょう?』
『お前は何でもお見通しか……』
何故京助が集中できないのか、それは過去の事をふとした瞬間に思い返してしまうのだ。
マグナアウルとして、あるいはマグナライジングアウルとして人々の前に姿を晒し、超能力を用いてジャガックと戦う日々をふとした瞬間に思い出す。
あの日々の事を憶えている者はもう殆どいない。地球上の安寧を守るために、記録や記憶を惑星規模で改変・改竄する装置である〝洗濯機〟が使用され、宇宙ギャングの侵略なぞ無かったことにされてしまった。
別にその時に戻れたら等と思っている訳ではない。
最愛の彼女である奏音や、その戦友たち。そして三万年生きたと自称する宇宙の傭兵と共に真鳥市を脅かす存在と戦ったり、秘密を共有する仲として交流を続ける日々は、以前のように復讐に身を焦がして一人孤独に戦い続ける日々より遥かにマシだ。
だが何故だろう、あの日々を思うと時折胸を締め付けるような感覚がする。
「俺は何を感じていたんだ?」
自分でも分からない不思議な感覚、どうしてこんな気持ちになるのか?
そう考えながら頬杖をついて窓から差し込むオレンジ色の光を見ていると、天啓のようなものが降って来た。
「……もしかして、俺は終わりが寂しいのか?」
京助はもう三年生。あと七ヶ月と少しすれば、この学校を離れ、人生に区切りがつく。
一人の少年が送るにはあまりにも激動だった高校生活に、いよいよ終わりが見えてきた。それがなんだか寂しいのだ。
「もうすぐ……日が沈むな」
青春が、終わろうとしている。
そしてこの物語は、そんな終焉りの物語である。
翌日早朝、その日は何故だかいつもより一時間近く早く目覚めた京助は、即座に起き上がって周囲を見回した。
「京助? どうしたのです?」
「何か変だ……何かがここに来る!」
そう言われたトトは首を横に振り、京助へ諭すように言った。
「大丈夫ですよ、千道邸はここに居を構えて以来、様々な防護を施しております。たとえここに核や超重レーザービームが降り注ごうと無傷で……」
「そんな事は分かってる! 最近俺自身で強化したんだから……でも確かに感じたんだよ……時空の……揺らぎを」
京助の超能力は人類最強であり、時空すら思いのまま操作する事が出来る。
そんな京助が何かを感じ取ったのならもしかしたら本当に何かあるのではないかと、トトがそう思い始めた時、京助は玄関の方へ走り出した。
「あっ! お待ちを!」
トトが金属製のデフォルメされた小さな翼を動かして追いついた頃には、京助は玄関のドアに手を掛け、呼吸を整えている所だった。
「この先に何かが居る」
「……その何かとは、我々すら想像できない存在なのでしょうか?」
「ああ、千道邸の外部防護網を突破する力を持ったとんでもない何かだ」
込み上げる笑いを抑えることなく京助はドアスコープを覗くも、外の景色は特に変わっていない。
「気を付けろよトト、開けた瞬間吹っ飛ぶかもしれないからな」
「開けるんですか?」
「そりゃ開けるさ、とにかく警戒しとけよ?」
トトは頷いて目を光らせ、京助はドアノブを左手に持ち替え、右手にサイコエネルギーを溜めて突撃準備を整える。
「オラ! どこの誰に喧嘩売……って?」
玄関前に居たものを見て、京助の闘争心は急速に萎えていった。
「えっ……えぇ?」
そこに居たのは怪物や幽霊、はたまた恐ろしい容貌の宇宙人でもない。むしろその対極にあると言える庇護すべき存在。
「赤……ちゃん?」
おくるみに包まれた生後十ヶ月程の赤ん坊が千道邸の玄関前に横たわっていた。
「えっ……何?」
「さあ……私に聞かれても」
「誰かに捨てられ……おお! よちよちどうしたのかな~?」
泣き出した赤ん坊を拾い上げ、京助は見様見真似で揺らしてあやす。
「うーん、腹減ったのかな? トト、粉ミルクのレシピは?」
「あなたの脳へ転送します」
テレパシーでレシピを受け取った京助は物質生成能力で粉ミルク入りの哺乳瓶を作り出すと、赤ん坊に与えて落ち着かせる。
「うん、お腹減ってたみたいだな」
「良かったです。良かった事は良かったのですが、今後どうしますか?」
そうだった、あまりの出来事にすっかり忘れていたが、京助はこれからこの名前も知らない赤ん坊の世話をしなくてはならない。
しかもこの赤ん坊は千道邸の防護網を破ってここに現れた可能性があるのだ。
今のところは無害だが、もしかすると危険を秘めているかもしれない。
「なあトト、こういう時頼るべき奴がいる。そう思わないか?」
「……はい?」
「それで私達をこんな朝早く呼びつけたのね」
「そういう事、いや~助かるよ、やっぱ持つべきは彼女と友だな」
千道邸に集まったのはクインテットメンバーである奏音、皐月、明穂、林檎、麗奈と、現在地球人として暮らしているガディとザリスとジェサムの八人である。
「ん~~……ばっ!」
弟と妹を持つ明穂の育児スキルは大したもので、クッションを使ったいないいないばぁで完全に赤ん坊をあやしている。
「それで結局この子は何?」
「そりゃ決まってる、センキョーとカノちゃんの子供っしょ」
京助が林檎の話を否定する前に、真っ赤になった奏音が首を振りながら否定する。
「いぃ⁉ いやいやいや! 違うって! まだそこまで行ってないから!」
「ハァ? 早く行けっての」
「早く行けってのもおかしいだろ」
「んーじゃあセンキョーの隠し子」
「もっとおかしいだろそれは……あ~奏音? 違うからね? そんな事してないからな?」
隠し子疑惑に奏音のから怒りと疑念の視線が飛んで来たが、京助はなんとかそれを躱して赤ん坊の様子を見に向かった。
「可愛いですねぇ」
「大きくなったらすごく……この子どっち?」
「男の子」
「だったらすごくカッコ良くなるんじゃない?」
そんな事を話している六人のよそで、ガディとザリスとジェサムの三人はまるで時間を忘れているかのように赤ん坊を見つめていた。
「そんなに珍しいか?」
「ああいえ……その……」
「私達、初めて間近で赤ちゃんを見たものですから……」
「こんなに……小さくてかわいい……」
戦う為に生まれ、そしてそれしか知らなかった三人が今はこうして赤ん坊にメロメロになっている。
ジャガックとの戦いが終わって三ヶ月程度だが、三人の情緒はかなりまとも寄りになっているようだ。
「まあ可愛いのは良いんだけどさ、この子はどこから来たの?」
「監視カメラあったよね? 見た?」
「いやまだ、じゃあ見るか」
京助が手を翳すとひとりでにテレビがつき、記録映像を再生しはじめる。
「俺が起きる十分前から」
特に代わり映えしない景色が続いていたが、京助が目覚めた時間になった途端、玄関の周囲の空間が球状に歪んで、そこから吐き出されるように赤ん坊が現れたのだ。
「……何コレ?」
「ワープしたの?」
「いえ、ワープではこうはなりませんよ」
「じゃあ超能力?」
「だとしたら京助さんに聞く方がよくありませんこと?」
皆の視線が集まる中、京助は無言で指を動かして映像を巻き戻し、再び赤ん坊が吐き出される瞬間を凝視する。
「何か分かった?」
奏音の質問に対し、京助は無言でその辺に置いてあった林檎のスマホを左手で取り上げて意味深に見つめた後、能力を発動してその場から消してしまった。
「オイコラァ! なにしやが……」
林檎の抗議に対して京助は鼻先に指を立てて静かにするよう示し、右手を出して何かをじっと待ち始めた。
「……」
きっかり二分間、無言の時間が続いた後、京助の右手の周囲の空間が球状に歪み、そこから林檎のスマホが吐き出された。
「あぁ良かった! 戻った……」
「何を試してたの?」
「ただのテレポートではなさそうだけど……」
林檎にスマホを返した後でも、京助は何か考え込んでいる様子である。
「何を試したの?」
「……高度な能力を試してみたんだ」
「そっか、何か分かった?」
「ああ……いや、確定してない事を喋る訳にはいかない。ちょっとまだ不確定要素が多すぎる」
そう言いながら京助はソファにちょこんと座る赤ん坊を抱き上げ、じっと眼の辺りを見つめ、抱き寄せて肩のあたりの匂いを嗅ぐ。
「何してるの?」
「確かめてる……うん、わかった。こいつ超能力者だ」
一同に激震が走り、一斉に赤ん坊へ視線が注がれる。
「えっ……分かるものなの?」
「いやそれより……この子は超能力を使って京助の家まで来たって事?」
「そうなんだよ皐月、気になるのはそこなんだ」
曰く、京助の仮定によると、この赤ん坊は間違いなく超能力を用いてここに来たが、赤ん坊がそんな芸当は出来ないという。
「超能力者の赤ちゃん……うーん、君は一体どこから来たんだい?」
京助の質問に答えず、赤ん坊はただ嬉しそうに笑顔を見せる。
「犬のおまわりさんも困っちゃうねこりゃ、どこから来たのかも分からなけりゃ……」
赤ん坊に釣られて苦笑した京助に、麗奈が思いついたように口を開いた。
「手掛かり、分かるかもしれませんよ?」
「ホントに⁉」
「財団の力を使うんです!」
それと同時期、麗奈の父であり真鳥市防衛の責任者でもある白波博士に麗奈から電話がかかって来た。
「はいはい私だ。麗奈か……うん? データベースを使いたい? どうして? うん……調べたい人物が居る? どんな奴だ?」
「こんな奴です」
「おおわっ!」
白波博士は空間歪曲で現れた京助達にも驚いたが、それ以上にその腕に抱かれた赤ん坊を認めて目を丸くした。
「君達……その子はどこで?」
「あの~、話すと長くなるんだけどね」
麗奈と京助が変わりばんこにこの赤ん坊の事を話し、白波博士は腕を組んで頷きながらその話を聞き、説明を聞き終えた後で目を瞑って天を仰いだ。
「なるほど、それで医療データベースにアクセスし、その子の手掛かりを得たいという訳だな?」
「そうなの、お願いお父さん! 協力して!」
「この子の能力が暴走したら命の危険があります。どうにか対策を立てないと」
「わかった、掛け合ってみる」
白波博士はウィルマース財団裏医療部門に連絡を取ってデータベース使用の許可を取ると、赤ん坊の口腔内細胞を採取して、データベース解析にかけた。
「このデータベースって何のデータなの?」
「ウィルマース財団が世界中の医療機関と協力して集めた地球上全人類のDNAデータです。この地球上に存在するのなら、データが出て来る筈で……」
麗奈の説明の途中で、明らかに良くない結果を告げる音が鳴り、データベースの画面には「|Nobody Knows《該当なし》」の表示が出た。
「なんで?」
「誰も知らない……こんな事あるんですか?」
「さあ、私も初めての事でな、なんとも言えないな」
赤ん坊の身元探しは振出しに戻りかけたその時、京助の脳裡に電撃が走った。
「あの、サイコエネルギー波動測定装置ってありましたよね?」
「ああ、真鳥市全域をカバーしてるやつな」
京助は手を叩いて博士を指差し、皆の方を振り返ってニヤリと笑った。
「手掛かりが掴めるかもしれない!」
「本当に⁉」
「どうやるん?」
ウィルマース財団真鳥市支部にはサイコエネルギーの波動を計測する装置があり、日夜真鳥市全域のサイコエネルギーの挙動を記録している。
「この子が現れた瞬間、俺はサイコエネルギーの揺らぎを感じたんです。もしかしたら他にもそんな揺らぎが起こっていたかもしれない! そこを辿ればきっと!」
「なるほど! 博士!」
「わかった! データを見よう!」
医療データベースから真鳥市の地図に切り替わり、特殊な波動が計測された履歴が表示される。
「!」
「おお……」
「これは!」
なんと千道邸で計測されたのを皮切りに十数分から一時間程度の間隔で揺らぎが真鳥市各地で何個も発生しており、最期に観測されたのは三分前だった。
「こりゃ何かあるっしょ」
「また真鳥市に何かが起ころうとしてるのか……」
「手分けして探そう、三十分以内に発生した揺らぎの場所に向かうよ!」
奏音達が新たな形状の転送鍵を取り出し、京助は右腕に触れて事に備える。
「また始まるみたいだな」
それが終焉りの始まりだとは、まだ誰も知らなかった。
クインテットは二組に、ガディとザリスとジェサムで一組、そして京助は単身という五組で動く事になり、京助の空間歪曲によって各々別のエリアに向かった。
「ここには何があるのでしょうか?」
遠くに見える廃工場を眺めながら、ジェサムが小さく呟いた。
「京助さんが警戒する程の力が発生しているから、それ相応の何かしらはあるのでしょうね」
「用心なさい二人とも、相手は一人とは限らないのだから……」
長姉ガディの言葉にザリスとジェサムは頷き、転送鍵を握りながら揺らぎが発生した廃工場へ向かった。
「さてと、扉を……」
「待って姉さん!」
扉に手を掛けたザリスの手をジェサムが掴み、扉に耳を押し付けた。
「……! 大勢いる! 誰かを……女性を取り囲んでいます!」
それを聞いたガディはデザイナークローンとして強化された筋力を余すことなく使って重い鉄扉を蹴り飛ばし、中の様子を確認する。
「アァ⁉ なんだ?」
明らかに輩臭い宇宙言語が飛んで来ると同時に、大勢の視線が三人を突き刺す。
「下品な共通言語ですこと」
「こんなもの聞いていれば耳まで腐りそうですわ」
「こんな言葉を吐き出す口もすごい臭いがしそう」
現地住民がいきなり共通宇宙言語を喋り出した事に驚いたチンピラ達だが、そこは舐められない事に命を賭ける者達。
すぐに鼻で笑って言い返してきた。
「お前らの共通言語も大概だな」
「ババ臭ェったらありゃしねぇ!」
「ギャハハハ!」
「なんですって! 私達生まれて一年と少しよ!」
怒るジェサムをザリスが宥め、周囲を素早く確認する。
「あそこで気絶してる子が囲まれてた子ね」
「ええ、多分そう」
三人の視線の先には、青紫色の肌をした自分達と同い年ぐらいの異星人の少女が居た。
「わかった……笑っている所申し訳ありませんが、その女の子を離してくださる?」
「アァ?」
笑っていた輩たちは一斉に威嚇体勢に移り、中にはナノテクアーマーを展開したり、武器を引き抜く者も居る。
「おい女ども、ノコノコ現れた挙句にターゲットを渡せだァ?」
「厚かましいアマ共だぜ」
「てーかよ、あいつらマワさね?」
下卑た笑い声に顔をしかめた三人は、転送鍵を展開してから最後の警告を発した。
「もう手加減は必要なさそうね」
「あなた達が何者かは存じ上げませんが」
「痛い目を見てもらう必要がありますね」
「痛い目見るダァ? それはお前らだよ!」
一斉に武器を取り出して襲い掛かって来た異星人のチンピラを前に、ガディとザリスとジェサムは深呼吸してから転送鍵を取り出した。
「準備はいい⁉」
「ええ! もちろん!」
「コードGO! テルツェット‼」
声紋によるコード認証が行われ、ガディとザリスとジェサムの体をグレーの装甲が覆っていく。
これぞ京助と白波博士によってC―SUITの更なる発展形態であるディーバスーツである。
装甲の着装が終わると同時に各人のスーツのエナジーストリームラインがセルリアンブルー、フォレストグリーン、ファイヤレッドに輝いて起動が完了する。
「何だぁ⁉」
「行くわよ!」
「はい!」
まずザリスのレーザーウィップが空中を踊り、愚かにも迂闊に近付いたチンピラ達を吹き飛ばした後、ジェサムの二丁のマシンガンが追い打ちをかける。
「ハァッ!」
思わぬ反撃に後退したチンピラ達だったが、ガディは退避を許さず跳躍して後ろに回り込むと、思い切り大剣を振って斬撃を飛ばして囲ってしまう。
「抵抗はやめなさい、今なら生かして連行できる」
「偉そうに……俺達は退かねぇ!」
チンピラの一人がガディへ金属製の杖で殴り掛かるも、ガディは剣のフラーで防いでから足を狙った蹴りを入れて姿勢を崩し、柄尻で殴りつけてダウンさせた。
「これ以上やったら侵略と見做すわ! そうなればその場で殺されるわよ!」
「やってみろ! どうせ出来やしねぇ!」
「本当に愚かね……ザリス! ジェサム! 侵略行為と認定! やるわよ!」
「了解!」
「分かりました!」
ガディへ複数のチンピラ達が向かうも、ザリスがレーザーウィップを伸ばして体に巻き付け、そのまま腰のスイッチを押し込んでエネルギーをチャージし、数人纏めて体を焼き切ってしまった。
「チィ!」
チンピラの一人が大型の銃を即座に組み立てて乱射し、三人は一時回避を余儀なくされる。
「あんなに撃ったら仲間に当たるでしょうに」
「その程度の事すらわからないのでしょうね」
「まあ厄介なのに変わりありません、私が仕留めてきますわ」
ジェサムはそう言うとあえてその身を前面に晒し、何発か撃って射手の気を引いた。
「ちょこまかとォ!」
乱射されるバスケットボール大の光弾を回避しながら、ジェサムは腰のスイッチを二度押し込んでフルチャージを発動し、自分の武器にCエネルギーを送り込む。
「死ねッ!」
これまでの二倍の大きさの光弾が放たれ、巨大な光弾が迫るも、ジェサムはバク転しながらマシンガンからファイヤーレッドの光線を放ち、巨大な銃ごと射手を撃ち抜いてしまった。
「クソ! あの女を……うっ!」
「ぎゃあっ!」
異星人の少女を連れて逃げようとしたチンピラ達はガディの大剣の一撃に葬り去られ、気絶した少女は無事に保護された。
「保護したわ! 一旦引くわよ!」
少女を抱えた姉を見たザリスとジェサムは自分の武器を振いながら撤退していたが、あと少しで出られると言った所で電磁防壁を張られてしまう。
「ああっ!」
「姉さん! この程度なら!」
「やりましょう!」
この三人の能力はエネルギー操作、この程度の電磁防壁ならば破る事が可能だが、今回はそれが出来なかった。
「ちょっと待って! あれを!」
ザリスが指差した先では空間が球状に歪んでおり、そこから流線型の洗練された形状をした歩行戦車が現れ、ガディとザリスとジェサムに向けて副砲を乱射し、三人は咄嗟に展開して銃撃を回避する。
『これは……』
『どうやらあれを倒すまで……うっ!』
歩行戦車が主砲をぶっ放したらしく、廃工場が大きく揺れて天井の一部が崩落する。
「出て来い! あのメスガキごとぶっ殺しても良いんだぞ!」
ウォーカーの八本脚の駆動音と、副砲による乱射が廃工場にこだまし、ガディは無意識に腕の中の少女を抱き留める。
『対策は?』
『そうですね……私が引き付けて、ザリス姉さんが足を奪い、ガディ姉さんが胴体を……』
『んな回りくどく行くより、もっとやりやすい方法があるぜ』
三姉妹のテレパシーに聞覚えのある声が割り込み、空間が歪んで前髪の一部が白く染まった少年が現れる。
「京助さん⁉」
「よっ、手が空いたから手伝いに来た」
そう言いながら京助は飛んで来る副砲の弾丸を空中に縫い留め、拳を握って消滅させてしまった。
「んだお前は!」
「お前らの悪夢」
半笑いかつ嘲るような調子で言ってのけた京助に逆上したギャングたちは一斉に襲い掛かるも、京助は腕すら動かさず一睨みで全員その場に縫い付ける。
「お前らが誰かは知らないが……俺の故郷で散々暴れ回った代償は払ってもらう」
死刑宣告に等しい一言と共に京助は左腕に右手首を重ね、大きく腕を回してライジングアウルレット展開する。
「翔……来ッ!」
右腕が天に突き出されると同時に京助の体が星が瞬く青い闇に包まれ、その中で肉体が徐々に変化していく。
「おぉぉ……ダッ!」
青い闇が振り払われると同時に七色の輝きを纏う梟の鎧を纏った超人が現れ、その威容にその場に居る全員が息を呑む。
「俺はマグナライジングアウル、この街の守護者だ」
なんとか眼力の呪縛を振り払った幾名かが武器を振って襲い掛かるも、マグナライジングアウルは攻撃を回避しつつカウンターを叩き込む。
「その程度か」
「ナメんな!」
歩行戦車の主砲から楔型の光弾がマグナライジングアウルに放たれるも、マグナライジングアウルは平然とそれを受け止めると、逆にそれを投げ返してチンピラ達を吹き飛ばしてしまった。
「うおおおおおっ!」
「さてと、お前らには勿体ない武器だが、こいつで葬られることを光栄に思え。フィッシャーキング、アウルブラスト」
二種の武器を取り出したマグナライジングアウルはそれらを合体させると、戦車に向けて狙いを定める。
「梟翼乱舞!」
七色の軌跡を描いてブレードボウが飛んで行き、戦車に命中すると同時に次元収縮を起こして三次元宇宙から完全に消滅してしまった。
「ふーっ……」
マグナライジングアウルが大きく息を吐くと、装甲が解けるように消失して京助の姿に戻っていく。
「お疲れ、大丈夫か?」
「ええ、私達は大丈夫です」
「それよりも……この子が」
ガディが抱いた異星人の少女を見せ、京助はじっとその少女を見つめる。
「見た事ない種族だな、あいつらに追われてたのか?」
「ええ、気絶した所を保護しました」
「とりあえず帰ろう、何か分かる事があるかもしれない」
無事に全員帰還して報告を聞いた後、皆は首を捻る事となった。
「サイコエネルギーの揺らぎと、武装集団……そして赤ちゃんと宇宙人の女の子」
クインテットも武装チンピラ集団と交戦したようで、無事に帰還できたものの手古摺らされたという。
「この一件……謎だらけね」
「とりあえずあの子が目覚めるのを待つしかないな」
「待つ必要はないよ」
京助は医療スタッフに断ると、眠っている異星人の少女の頭に人差し指を当てた。
「ハウワァッ!」
跳ねるように起き上がった少女は身体を縮めて恐怖に震えていたが、京助は両手を上げて敵意はない事を姿勢で伝え、ゆっくりと彼女の近くに座って銀河共通言語で話しかけた。
「大丈夫、俺達は敵じゃない。あいつらから君を助けたんだ、怯える事はないよ。落ち着いてくれ」
少女は京助と奏音達八人を見て、ほんの少しだけ態度を緩和させる。
「今の銀河共通言語?」
「ああ、完全にマスターしたよ。地球の言語は絶滅したの含めて全部覚えちゃったし」
「どーなってんのよアンタの頭は」
京助達のやり取りを聞いて安心したのか、少女は耳に手を当てて何か操作した。
「あの……私の言葉、伝わってますか?」
少女の言葉は流暢な日本語であった。
「おお! モジュール入れてたのか」
「良かった、京助君を通訳としてこき使う事になる所でした」
「こき使われなくて良かったぜ」
仲良さげな様子を見て、少女は完全に警戒を解いた。
「さてと、君の名前と出身地と種族は?」
「はい、私はメルロー。ヒラロ星系第二惑星キュライト出身のキーシュランです」
聞いたところで分からない、京助は麗奈にアイコンタクトをしてデータベースを参照してもらうも、登録された異星人のデータにはキーシュ族のものは無かった。
「ないですね……彼女が地球に来た初めてのキーシュランという事でしょうか」
「じゃあ別のデータを呼ぶか」
京助は空間歪曲でどこかへ出て行き、メルローが驚いている間の数秒間の間に、エスニック風衣装を纏った目が眩むほどの真紅の髪の毛を持つ中性的な人物を伴って戻って来た。
「あのね、ボクも暇じゃないんだよ?」
「今は暇してたろ? だから良いじゃないか」
「もし仕事してたらどうするんだ?」
「財団に手を貸すのがお前の仕事だろ? 気紛れなる虐殺の化身さん?」
「こいつめ……」
張り付いた笑顔にうんざりした色を浮かべ、サイはメルローの方を見る。
「うん、キーシュランか?」
「おお、やっぱり知ってたのか」
「ああ、知ってるけど……お前さんどうやって地球に来た?」
心底不思議そうに聞くサイに対し、奏音は質問の意図が分からず口を開いた。
「どうやってってどういう意味?」
「いやね、おかしいんだよ、ヒラロ星系からこの太陽系までは七千ベフ……光年換算で約五十億光年なんだ」
「えっ? えっ? 今なんて言った? 五十億?」
「だいたいね。ボクの記憶が正しければキュライトはそんな超長距離を移動できる技術を持っていない筈なんだよ……だからどうやって来たか不思議でならないんだよね」
その話を聞いてメルローは少し不思議そうな表情を浮かべるも、すぐに何かを決断したような顔になり、京助達十人を見つめた。
「どうやって私がここに来たのか……それを説明するにはあの連中についても話さなくてはなりません」
「詳しく聞こうか」
ヒラロ星系は豊富な資源を持つ惑星が多く、例に漏れずキュライトは肥沃な土地があり、様々な農作物や家畜を育てるのに向いている土地であった。
あの武装集団は各地を荒らし回る盗賊団であり、ヒラロ星系の豊富な資源に目を付けて襲撃に来たという。
「キュライトはじめ星系は全力を挙げて抵抗致しました……しかし盗賊団の用心棒が凄まじい力を持っており、ヒラロは壊滅の危機に追い込まれました」
「狙われて……壊滅寸前」
「しかし同盟者がこの危機を救い、ヒラロを巡る攻防は拮抗状態にまで持ち直しました」
ヒラロの同盟には地球も含まれており、住人たちを受け入れたり、逆に戦士を派遣して盗賊団を大いに困らせた。
そこで盗賊団は地球への攻撃を開始、現在刺客を次々と送り込んでいる最中だという。
「それで、君はどうやって地球に?」
「私は……キュライト総統の娘なんです。私も義勇軍を率いて戦っていましたが、要人故に護衛付きでここへ逃がされました」
メルローの言葉が正しければ彼女の護衛がここに連れてきた事になるが、肝心の護衛が何処にも見当たらない。
「護衛はどこに行ったの?」
皐月が皆の疑問を代弁する中、明穂は何か確信を持ったような表情で皆とは別の方向を向く。
「明穂、どうかしたの?」
ザリスの問いに、明穂は笑っているような焦っているような表情を浮かべてやけにゆっくりとした口調で言った。
「……ねえ、今から突拍子もない事言ってもいい?」
「まあ、どうぞ」
そう言うと明穂は部屋を去り、しばらくしてあの謎の赤ん坊を腕に戻って来た。
「メルローについてた護衛ってさ……この子なんじゃない?」
何を言い出すかと思えばあまりに突拍子もない話であった為、幾人かが否定の言葉を言おうとした所、ここで誰もが予想できない事が起こった。
「……青蓮?」
「ん?」
「青蓮! 青蓮だわ!」
赤ん坊は腕を広げて見せたメルローを見て破顔し、きゃっきゃと楽しそうな笑い声を上げて手足をばたつかせる。
「青蓮! 良かったぁ……」
明穂は青蓮と呼ばれた赤ん坊をメルローに渡し、メルローは青蓮を抱いて心底安心したような笑顔を浮かべた。
「生きてたのね……良かった」
「オイオイ、こりゃマジで赤ンボが護衛なのかもしれないぜ」
「どうしてわかったの明穂ちゃん?」
「えぇ……えっと、特に根拠のない勘だったんだけど……まさか的中してるとは」
メルローがどうしてここに来られたのかという謎は解けたは良いが、ますます謎が増えているような気がする。
「えーっと……」
京助が今何が起こっているのかという事を整理しようとしていると、サイが肩を叩いて部屋の外を指差した。
「少し外す」
「どうしたの?」
「ああ……連れション」
「やだもー! 早く行ってきて」
部屋から少し行った廊下で、サイは壁に寄りかかりながら京助へ言った。
「あの子の言う事。なんかおかしいぞ」
「というと?」
「正直なところ、ヒラロに侵略的価値はない」
「うん? どういうことだ?」
サイ曰く確かにヒラロは豊かな星だが、原始的な段階をようやく抜け出した程度で、わざわざ盗賊団が狙いをつけるような所ではないと言う。
「じゃあメルローが嘘ついてるって事?」
「いいや、そうは思えない。うまく言い表せないが……何かが、この物事を解決する為に必要な重大な何かが欠落しているように思う」
サイの言う〝何か〟が、今日起こった出来事と合わさって京助の中でぼんやりと実像を帯びてきた。
「多分だが、俺はその何かが……」
京助が言いかけた途端に警報が鳴り響き、麗奈が部屋から顔を出す。
「また揺らぎが観測されました! 今度は一カ所で特大です!」
「行くか?」
「乗り掛かった船だ、行くよ」
京助は皆の前に戻り、空間歪曲で現場に移動するのであった。
現地に着くと、そこには完全武装の盗賊団と、四機の歩行戦車とパワードスーツ、そして球体に手足が生えたかのようなロボットが待ち構えていた。
「ハァ、どっかの宇宙ギャングを思い出すね」
奏音の言う通り、ジャガックも似たような兵器を寄越してきたのを思い出す。
「ギャングも盗賊団も頭の悪い反社集団だから考えが似通るんだろうな」
言語調整フィルターを通して京助の悪罵を聞いた盗賊団はいきり立って武器を掲げたが、リーダー格がそれを制止する。
「まあまあ、落ち着けお前達。俺達とそっちで何か行き違いがあったようだな」
「行き違い……」
「ああ、俺達はここで争う気はそんなにねぇんだ。ただキーシュランのガキを寄越してほしいだけなんだよ、取引と行こう、交渉だ!」
リーダー格の言葉を聞き、皐月は首を振りながら鼻で笑った。
「馬鹿なの、あんた達」
「なんだと?」
「交渉するなら、その武装は何?」
「……」
普通なら威圧されるだろう武装の数々も、数多の修羅場を乗り越えた少年少女達に取っては暖簾に腕押しである。盗賊団の最大の誤算はそこだった。
「盗賊流の下品な交渉が誰にでも通じるとでも?」
「ウチらはバカ相手のオドシなんて効かねぇから」
「残念でした、お引き取りを」
屈辱のあまり組んだ腕に力を込めていたリーダー格だったが、ついに低い忍耐力の限界を迎え、肩を竦めて部下達に目を向ける。
「お前ら、連中は死を希望しているらしい……思う存分望みを叶えて差し上げな」
周囲の空気が闘気によってぶわりと膨らみ、盗賊団は武器や防具次々と展開・起動して装備を整えた。
「野郎ども! 俺達の流儀を見せてやんな!」
大声と共に走り出した者達を見て、皆は顔を見合わせる。
「行くよ皆」
「ああ、準備万端だぜ!」
奏音達八人が転送鍵を取り出し、ディーバスーツの呼び出し体制を整える。
「コードGO!」
「クインテット‼」
「ツェルテット‼」
少女達の体をグレーの装甲が覆い、装甲に色とりどりの輝きが宿る。
「あれ? アバターは?」
京助とサイはアバターを纏わず、生身のままニヤニヤしている。
「こいつらには勿体ない」
「この格好で結構だ」
ミューズは肩を竦めるとバズソーハルバードを取り出してこちらに向かって来る盗賊団を迎え撃ち、柄で顔面を打ち付けてから刃で半身を一刀両断してしまった。
「ハッ!」
マゼンタの光の軌跡がミューズのハルバードと共に舞い踊り、次々と盗賊団が吹き飛ばされていく。
「ミューズ!」
京助が念力で縫い留めた盗賊団をミューズに思い切り投げつけ、それを見たミューズはすかさずフルチャージを発動してエネルギーで構成された回転刃が放たれ、盗賊団の塊は一刀両断されてしまった。
「もー、いきなりなんだから」
「それでも合わせてくれるの、最高だぜ」
「当たり前でしょ」
乱戦が始まった直後からルナは高速移動能力を駆使して盗賊達の間を縫って青く輝く刃を振っていた。
「エェッ! サァッ!」
気合と共に分厚い装甲を纏っていた巨漢を一刀で半分ほど切り裂き、刃を引き抜いたルナはナックルガンで冷凍弾を乱射する。
「ナイス冷凍、よっ!」
凍り付いた巨漢にイドゥンによるミサイルマシンガンが叩き込まれ、粉微塵になって吹き飛んでしまった。
「ひっさしぶりにミサイルマシンガン使ったよ」
「最近スナイパーばっかりだったもんね」
「狙い撃ちも良いけど、ガシガシ前に出るのもいいもん……だねッ!」
ノールックで後ろに迫っていた盗賊をイドゥンのレールガンが撃ち抜き、ルナが即座に切り捨てる。
「ミューズの言う通り、あいつらを思い出すね」
「全然苦戦しなくなったのは、ウチらが強くなったのか、それともスーツの性能が良くなったからか」
「両方って事にしとこう」
「ンだね」
数か月前を懐かしみながら、二人は敵を屠るのだった。
アフロダイによる槍の軌跡が踊り狂う中、まるでその軌跡を縫うようにサイはアクロバットな動きを披露しながら白い電撃を放っていた。
「サイさん! 合わせてください!」
「んえ?」
アフロダイは跳躍して距離を取ると槍を弓に変形させると、天に向けて弓を引き絞る。
「なるほど。ほらよ」
アフロダイの弓の鏃にサイが放つ白い電撃が乗り、白い稲妻を纏う紫色の光の矢が周囲一帯へばら撒かれ、あるものは脳天から、あるものは至近距離に落ちた矢の爆発に巻き込まれて次々と消失していった。
「感謝します」
「いやぁ、君の機転には驚かされる」
先の戦いで撤退を選んでしまった歩行戦車にリベンジするかのように、ガディとザリスとジェサムはデメテルを交えて二台の歩行戦車へ向かって行った。
「作戦は前の通り!」
「前の通りが分からないけど、とりあえず合わせれば良いのね!」
「ええ! 頼むわデメテル!」
まずデメテルがナックルアームからバリアを展開して歩行戦車の副砲から放たれる機関銃を防ぎ、そこに気を取られている隙にジェサムが跳躍してバリアの壁を越え、マシンガンで車体の上部に光弾を叩き込む。
「プロテクトされてる……けど私達なら突破ける!」
反対方向に着地したジェサムは更に光弾を浴びせ、二台の歩行戦車は主砲を百八十度回転させてジェサムへ狙いを定める。
「今だ!」
狙いがジェサムに向いた隙を見たザリスがすかさずバリアを通り抜け、歩行戦車の脚にレーザーウィップを巻き付けると、ディーバスーツの補助機能を使って地面すれすれの低空飛行を行いながら、合計十六本あるウォーカーの脚を巻き付けて締め上げてしまった。
「ぐっ……むぅぅぅううっ!」
超能力者特有の強化された身体能力と、デザイナークローンであるが故の強靭な筋力が全身全霊で動き、歩行戦車は足をもつれさせ、二台とも車体がぶつかり合って動けなくなる。
「おっと! させないから……ねっ!」
二台のうち一台のウォーカーの主砲の照準が脚を締め上げるザリスの方を向くも、デメテルが展開したバリアを殴って飛ばし、歩行戦車の中身を痺れさせる。
「トドメと行きましょう」
「うん!」
ガディとデメテルは同時に腰のスイッチを三度押し込んでオーバーチャージを発動すると歩行戦車に向かい、片方は大剣によって一刀両断され、もう片方は強烈な殴打によって原形が留めなくなるまで吹き飛ばされてしまった。
「ナイス連携」
「そちらが合わせてくれたからですわ」
抜群の連携によってあっという間に追い込まれた盗賊団の戦力は、もう歩行戦車二台とロボットのみとなってしまった。
「貴様ら……クソッ! 一体何者なんだ!」
「やっつけたお仲間にも言ったが、俺達はお前らの悪夢だよ」
「ふざけやがってクソガキ!」
主砲二台とロボットの腕のバルカン砲が京助へ向き、一斉に光弾が火を吹いた。
「やれやれ、この程度で超能力者をどうにか出来ると本気で思ってるのか?」
京助は手を翳す事もなく光弾を空中で縫い留めると、歩行戦車のうち一台を指差してこちらに引き寄せる。
「神々の領域に至った能力の一端……特別に見せてやるよ」
京助が引き寄せた歩行戦車に軽く触れると、中身を含めたありとあらゆるパーツが全て傷ひとつなく正確に分解して吹き飛び、がしゃがしゃと音を立てて地面に落ちてしまった。
「さてと、次はどうする?」
京助の挑発に残った歩行戦車が跳躍して飛び掛かり、巨大な脚で首を狙った蹴りを叩き付けようとするも、まるで背負い投げを喰らったかのように空中で引き倒されてしまう。
「さんざん念力の腕は見てきただろうに。どうしてこう……反社ってみんな頭が悪いんだ?」
そんな京助の言葉を聞いた歩行戦車は即座に立ち上がると、主砲から火炎を放ち、京助は手を翳して冷気を浴びせかける。
「ほぉ、これはこれは」
サイが感心したような声を漏らし、京助は意味深な笑みを湛えて冷気を放出し続け、ついに歩行戦車ごと氷漬けにしてしまった。
「じゃあな」
京助は口元に掌を当てがって息を吹きかけると、蒼い炎が爆発的に膨れ上がって氷漬けの歩行戦車を包み込み、塵や水蒸気すら残さず焼失させてしまった。
「はい次」
残るはロボットである。
流石に学んだようでロボットは京助の出方を伺い、何を仕掛けてくるかを待っていた。
「あっそう、じゃあ俺から行く」
そう言うと京助の背から超高濃度サイコエネルギーによって構成された黄金の翼が出現し、それの羽撃たきによってロボットが吹き飛び、舞い踊った羽がロボットへと集中し、連鎖爆発によって鉄くずになってしまった。
「さァーてと……おい、出て来い」
「……チッ、バレたか」
先程この場を取り仕切っていた盗賊団のリーダー格が物陰から現れ、防護マスク越しに京助を睨みつける。
「お前がリーダー?」
「まあそういう事になってるな」
「そう、見た所お前ひとりしか居ないみたいだな……せっかくだし、真剣勝負しないか?」
「真剣勝負だ? 馬鹿な事を……」
リーダー格が言葉を紡ぐ前に京助はミューズの方を振り返り、ミューズは言葉すら発さずグリップを京助に投げ、それを受け取った京助はグリップを細身で両刃の直剣に変化させて構えた。
「超能力は使わない。文字通りの真剣勝負さ」
「なんだと? マジでやろうってのかよ」
「なんなら目瞑って後ろ向いててもいいぞ」
「チッ……舐めやがって!」
戦略的な事を考える理性も内に秘めた獣性には抗えず、リーダーは得物である二振りの電撃刃を起動すると京助へ向かって斬りかかった。
「……サッ!」
抜きすら見えぬ須臾の剣閃。
使い手以外には誰にも知覚できない剣技が炸裂し、盗賊団のリーダーは腕ごと鳩尾の辺りから両断されてしまった。
「超能力……じゃねぇかよ……」
「いいや違う、俺の技量だ」
京助が宇宙侍ジガルから受け継いだ時空間すら断ち切る秘剣は今なお冴えわたっているようだ。
「さんきゅ」
「うん、どういたしまして」
京助に剣を返却され、ミューズはそれをグリップに戻して腰に取り付ける。
「全滅だな」
「全滅……か……ククククククク」
上半身のみとなったリーダー格が笑い出し、それを聞いた京助が振り返って手をひらひらさせながら言った。
「おーおー、始まったぞ。悪特有の死に際の勿体ぶりが」
「全滅全滅……いずれにせよ……俺達の目的は果たされたんだ……」
「なに? 死にに来たってか?」
嘲るような調子で言ってみた京助だが、内心穏やかではないものを感じ取って警戒心を強める。
「俺達があの総統の娘を……捕えればそれでよし……仮に全滅したとしても……そのにおいを辿って……あの人が来るから……それでよし!」
ただの勿体ぶりではなさそうなセリフに、皆武器を持つ手に力がかかる。
「ああ、来てるな……死に掛かってるから余計に感じる……あの人が……来てる! ママ!」
絶叫にも近い最後の「ママ」の言葉と共に空間が揺らぎ、そこから黒い霧がゆったりと出現した。
「!」
「ああ……来てくれたんだね……」
この場に居るほぼ全員の背筋に氷の柱がねじ込まれ、毛穴という毛穴が総毛立ち、体が魂のレベルで悲鳴と警鐘を鳴らす。
「ようやくわかったよ……あんたが母親と名乗っていた理由……間違いなくあんたは俺のママだった……そうだろ? ヌヴィエラ……」
黒い霧は半身分かたれたリーダー格の上に蟠り、その中からくすんだ灰色の繊手を伸ばして両頬に触れると、リーダー格は心底幸せそうな表情を浮かべて事切れてしまった。
「悲しい……また終わってしまったのね。悲しみに満ちた終わりに、せめて幸福な安らぎを」
くらくらする程の美しい声を聴いてようやく気付いた、先程時空の揺らぎから現れたのは黒い霧ではなかった。それは全身を包むゆったりとした黒衣を纏った灰色の肌をした妙齢の美女だった。
「なに……これ」
「体が……うぅ……」
ディーバスーツのAR機能が、発汗や心拍数の増大を伝える。その根源は明らかだ。
ヌヴィエラと呼ばれた美女から発せられる気配は、ただ「異星人特有の異物感」だとか「敵」といった類のものではない、もっと根源的かつ未知なるものである。
だが皆は知っている、覚えている。一体何がこんな気配を発するのかを。
硬直した雰囲気を破るように、サイが紅蛇を引き抜いてヌヴィエラに向ける。
「気を付けろ! この女は因子持ち……いいや、死徒だ‼」
死徒。
意思を持つこの宇宙を蝕む病理の如き存在から力を分け与えられ、生あるもの、ひいては宇宙そのものを死で埋め尽くさんとする使者。
その因子を持つ者だけでも凄まじい力を発揮し、かつてはマグナアウルが変異したウィッカーアウルや、京助の怨敵イダムや好敵手クドゥリ、そしてガディがその力に取り憑かれ、真鳥市の守護者たちに何度も立ちはだかった強敵である。
今目の前に居るヌヴィエラは、ただの因子持ちではなく、死徒そのものなのだ。
これまでの強敵とは数段上を行く存在だと、皆は固まったままの体で理解した。
「死徒……ええ、そうです。私は死徒、間違いないわ」
「……一体何しに来た? この星で好き勝手出来ると思うなよ」
「好き勝手? 何か勘違いしているようね」
ヌヴィエラに見られた事で、秘かに懐に伸ばしていた手が止まる。憤怒と享楽の面を取り出せれば、アバターを呼び出す事が出来る、だがサイには出来なかった。
あらゆる修羅場を経験し、虐殺の化身とも悪夢の体現とも呼ばれた歴戦の傭兵が動けなくされた。
それだけでヌヴィエラが秘めたる実力に一同は戦慄した。
「私はこの悲しみに満ちた宇宙を救済しに来たのです」
天使そのものと言ってもよい程の美貌と、その美貌の大黒柱と言える一切混じり気の無い純粋無垢な光を放つ金の瞳の持ち主が、あまりにもどす黒く生を根こそぎ奪うかのような瘴気を放っているアンバランスさが不気味極まりない。
「悲しみを終わらせる、それが私の使命。それはどこに居ても変わらない事よ」
心の底からそう思う沈痛な面持ちで目を閉じるヌヴィエラだったが、その陶然とした雰囲気に水を差した者が居た。
「カッ! 何が悲しみを終わらせるだよ。反社に加担した分際で」
この場に居ながら動く事の出来る唯一の例外、それが京助である。
「女の子と赤ンボ追っかけ回すのがお前の使命か? さぞかし高尚な使命だな」
ヌヴィエラはその美しい顔に疑問符を張り付けて首を傾げた。彼女は今、初対面で自由に動き、そして軽口まで飛ばすことが出来る者に初めて出会ったのだ。
彼女は知らなかったが、京助はこの世に生を受けて十七年間、地球を滅ぼしにやって来た死徒アン=ゴル・モアが植え付けた因子と共に生きてきたのだ。多少死徒の瘴気に当てられたぐらいなら蚊に刺された程度でもない。
「そう、彼らはここに居るのね」
「居るとも、連れて行くつもりならそうは行かねぇ。諦めて帰りな」
ヌヴィエラは首を横に振り、京助の方を向いて言う。
「私の使命は至上命題。彼らに邪魔立てをされた以上は見過ごせません」
「じゃあ俺もその邪魔者になろうかな」
「なるほど……」
「ベタな言い方をするなら〝俺を倒してから行きな〟ってやつさ」
「そうですか……では」
京助とヌヴィエラの交差した視線の間に不可視のエネルギーが満ち満ち、強烈なサイコエネルギーの余波が周囲一帯に吹き荒れた。
「くっ! はっ! はぁっ……」
その余波によってようやく動けるようになった他の九人は、まるで薄氷の上を歩くかのような気持ちで京助とヌヴィエラの睨み合いを凝視する。
「あれは……ただ睨み合ってるだけじゃなさそうですね」
「多分だけど……ウチらにはわかんない戦いをしてるんだよ。そうでしょ? サイコロ?」
「ああ、悲しいかなボクでも高度過ぎて全部見えない」
神々の領域に至った超能力者と死徒による、清浄の気と負の気がぶつかり合う両者不動の戦い。
果たしてこの勝負はどちらが勝利するのか。否、そもそも決着がつくのか。
「京助……」
奏音に取っては交差する視線の間で巻き起こる高度な戦いなぞどうでもいい、ただ京助が無事でいる事、それだけが望みである。
「負けないで、お願い!」
その呟きを京助が拾った直後、周囲一帯に満ちた清浄な気が二倍近く膨れ上がり、ばちんという何かが弾かれたかのような音と共にヌヴィエラが目を見開いて仰け反った。
「ッ! うぅっ……ふっ!」
ヌヴィエラの灰色の肌に珠のような汗が浮かび、美しい顔が疲労と苦痛に歪む。
「あなたは……そうか、今理解したわ……あなたがそうなのね……大いなる梟……マグナアウル!」
「おーおー、宇宙でも俺の名声は轟いてるのか、嬉しい限りだぜ」
ヌヴィエラの苦痛で歪んだその顔に、彫像を思わせるもう一つの顔が重なり、黒衣に包まれた体にも骸骨を想起させる造形が浮かぶ。
これは彼女のアバターであろうか。
「アバター使いか……」
「考えが変わりました、あなたと何の準備も無くぶつかるのは危険すぎます」
霧を思わせる黒衣をはためかせて立ち上がると、ヌヴィエラは浮遊し始めた。
「近いうちにまた来ます……必ずや私の使命を果たす。全ての悲しみを取り除く日まで」
浮遊したヌヴィエラが消えたのを確認した京助は、一息ついてその場に崩れ落ち、ミューズが慌ててその体を支え、他数名がその後に続く。
「危なかった……目を逸らしたら確実に俺が負けてた」
「どれぐらいで目を逸らすところだった?」
「あと少し、ほんの十秒続いてたらヤバかった」
今や神々の領域に至り、地球最強となった京助にすらそう言わしめるヌヴィエラの実力に一同は身震いを禁じ得ない。
「でもここでこうしてる訳にはいかない」
京助は胸を叩いて立ち上がり、大きく息を吐いて夕日を眺めて言った。
「奴を止めないと……地球が危ない」
謎多き赤ん坊青蓮と異星の少女メルロー、そして死徒ヌヴィエラ。
真鳥市に一体何が起ころうとしているのか?
終焉が、始まる。
To Be Continued.
お久しぶりでございます。
京助が、奏音が、真鳥市の面々が帰ってきました。
とはいえ次回で完結ですが(笑)
果たして死徒に勝てるのか、メルローと青蓮の正体は?
なんと次回は明日更新されます。
青ダブの終わりの物語をぜひお楽しみに。
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それではまた明日お会いしましょう!




