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青春Double Side  作者: 南乃太陽
完結編

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未来へ

謎の赤ん坊青蓮がやってきた事に端を発し、再び真鳥市は死徒の脅威に晒される。

恐るべき力を秘めた死徒ヌヴィエラは、青蓮と異星人の少女メルローの引き渡しを要求。

強硬な姿勢を崩さない京助達についに最終手段に出た!

果たして少年少女は壊滅する真鳥市を救う事が出来るのか?

 ジャガックの侵略を退け、平和になった筈の真鳥市に新たな脅威が襲来した。

 謎の赤ん坊青蓮と、異星の少女メルローを追いかけてやって来た盗賊団はマグナライジングアウル、クインテット、そしてツェルテットによって退けられる。

 しかし盗賊団の裏には死徒ヌヴィエラが潜んでおり、その実力は京助と伯仲していた。

 ヌヴィエラが掲げる使命とは何か? 謎だらけの事件の真相は? そしてこの戦いの行方は一体?


 終焉が始まる。




 千道邸に戻った一行は、休息を取りつつそこで匿われていたメルローに今回の出来事と、ヌヴィエラが出現したしたことを伝えた。


「待って……ヌヴィエラが来たんですか?」

「ああ、一旦撃退したけどな」

 

 メルローは青蓮を抱いたまま頭を抱え、心なしか青蓮も怒ったような表情を見せる。


「あの死徒は盗賊団の用心棒で、盗賊団は要求に従わなかった星へあの女を放つんです」


 少し納得がいった、斬った張ったの世界に身を置いておけば、死徒として多くの命を刈り取れる。だからヌヴィエラは盗賊団と行動を共にしていたのだろう。

 だがしかし、まだ彼女の使命は見えてこない。


「ヒラロの第七惑星は彼女の力によって三分の一が死の星になりました。もしかしたら……この地球も」

「そうはさせない!」


 弱気になったメルローを鼓舞するかのように、奏音が声を張り上げた。


「地球には私達が居る、だからきっと……いや、絶対大丈夫」


 微笑んでサムズアップして見せる奏音に続き、林檎がニッと笑って見せる。


「ウチらのリーダーがこう言ってるから大丈夫だよメルメルちゃん」

「別にリーダーではないけど……大丈夫だよ」


 皆の厚意を受け取って笑って見せるものの、ヌヴィエラの恐ろしさを知っている分メルローは上手く笑う事が出来ず、引き攣った笑みを浮かべる。


「その~、これから俺達はヌヴィエラとか言う死徒と戦わないといけない。その為に奴の力だとか、どんな能力かとかを知りたいんだ。知ってるだけの事を教えてくれないか?」


 京助からの問いにメルローは小さく頷き、忌まわしい記憶を引き出して重い口を開いた。




 ヌヴィエラが使う代表的な力は、ありとあらゆるものを〝終わらせる〟能力を持つという。

 

「死徒特有の力か、彼女が元々使っていた持つ力がそうだったのか、それはわかりません。ひどく曖昧な表現ですが、そうとしか表現する事が出来ない能力なんです」


 〝終わらせる力〟と聞き、皆は首を傾げるばかりであったが、京助だけには理解できた。

 奪取とも違う、ありとあらゆるものを全て無に帰させる。そんな力だ。

 そんな破壊しか生まないような力で、一体どうやってこの宇宙に遍く悲しみを終わらせようというのか。


「実は青蓮もここへ来る際にヌヴィエラと戦ってこんな姿になったんです」

「ん? じゃあ青蓮君は元々赤ちゃんじゃなかったって事?」

「ええ、青蓮は元々あなた達と同じぐらいか、少し年上の男性でした」


 まるで「こんな姿になって不便だ」とでも抗議するように、青蓮がふっくらとした頬を膨らませてぶぶぶと唇を鳴らす。

 それを見た京助の中で朧気だった事件の輪郭がより明確になっていき、ついにある種の確信を得た。


「なあ皆、俺さ……」


 京助がそう言いかけた時、突如リビングのテレビがひとりでについて砂嵐になり、ヌヴィエラの顔が大写しになった。


「なっ⁉ ヌヴィエラ⁉」

「どういうこと⁉」

「どうやってここに⁉」


 突然の出来事に疑問符だらけの中、更にこの場を震撼させる出来事が起こった。


「ちょっ‼ ちょま! 待て待て待て! 貞子貞子!」


 なんとヌヴィエラの大写しになった顔が画面からぬぅと飛び出し、両手がテレビの端を掴んで体全体を画面の外へ出そうと試み始めた。

 

「死徒ってこんな真似できるんですか⁉」

「わかんねぇよ! とりあえずぅ……皆手を貸せ!」


 京助はメルローと青蓮を庇いながら右手をこちらへ出て来ようとするヌヴィエラに向け、少し遅れて奏音と明穂が両手を翳して念力波を放ち、他の皆もそれに追随して念力波でヌヴィエラを画面の中へ押し込もうとする。


「くっ……」


 ヌヴィエラの灰色の美貌に乗る柳眉が歪み、徐々にテレビの中へと戻り始めるも、抵抗すさまじく腕を伸ばしてきた。

 だがその時、メルローの腕の中に居た青蓮の目が青く光り、喃語による怒りの叫びと共に凄まじい念波が放出され、ヌヴィエラはそれに弾かれて完全にテレビの中へ戻ってしまった。


「ツアッ!」


 テレビの中へ納まったヌヴィエラは、肩尾を大きく上下させながら呼吸を整えると、側頭部を抑えながら金色の瞳で青蓮の方を見る。


「セ——ウ——レン——そんな姿に——でも——私——命を——魔す——ね」


 総勢十一人の念力波による攻撃が堪えたのか、ヌヴィエラはテレビとの接続を維持する事が出来ず、画面と音声は乱れている。

 ある程度体力が持ち直した後、ヌヴィエラは姿勢を正して画面の乱れが完全に消え、音声も明瞭になった。


「仕方ありません、ここでも私の使命を遂行しようと思ったのですが、あの二人の排除を優先します。あなた達、メルローとその赤子を渡しなさい」

「馬鹿め、それでハイって言う訳ねーだろうが」

「あなたならそう言うと思っていたわ。ではこうしましょう」


 画面内のヌヴィエラが手を上げた途端、京助の中の全感覚が警鐘を鳴らした。


「やめろ!」


 京助の制止が発せられると同時に腹部に響く衝撃が巻き起こり、千道邸全体、特に窓ががたがたと揺れた。


「うっ!」

「何々⁉ 何が起こったの!」


 立っていられぬほどの衝撃に全員その場に蹲り、倒れる調度品を京助が念力によって咄嗟に抑え込む。


「あいつ……何をした⁉」


 京助は最悪の確信を持って立ち上がると、庭へ飛び出して外を確認する。


「……」


 外の状況を見た京助は「嘘だろ」の一言も発する事が出来なかった。

 それほどまでにその目に映る景色は惨(むご)く、最悪と言えた。


「京助? 大丈……はっ⁉」

「どうし……ああ……う、ああ……」


 真鳥市が、死(・)ん(・)だ(・)。

 千道邸以外の場所が全て何十年も経ったかのような廃墟と化し、豊かな自然は全て枯れ果てて土砂が露出し、見渡す限りの灰白(かいはく)の景色が続いている。

 ここに住んでいた十万人近い人々の命がどうなったのかはもはや火を見るよりも明らかだ。


「……貴様ァッ!」


 京助の目が青く輝き、テレビにかじりついて怒鳴った。


「よくもやってくれたな! 絶対に見つけ出して……」

「これは交渉です」


 ヌヴィエラの言葉の意味が分からず、京助は言葉に詰まってしまう。


「私としてはこんなやり方を望みません」

「何だと?」

「私ならこの街を戻せます」


 そう言われて、京助はこの後にヌヴィエラが言わんとしている事が理解できた。


「街を戻す代わりにメルローと青蓮を差し出せというわけか?」


 ヌヴィエラが頷き、しなやかで美しい細い灰色の指を五つ立てる。


「六時間。六時間の猶予を与えます、それまでにどうするかを決めなさい。今度は私から出向きます、ではその時まで」


 画面が乱れてヌヴィエラが消え、再び千道邸は静寂に包まれた。



 

 京助が後ろを振り返ると、奏音達がクインテットの五人が震えていた。


「皆どうし……くっ、そうか……」


 無理もない、今ヌヴィエラによって一時的に消し去られた真鳥市の中には、彼女たちの家族がいた。

 一瞬にして家族を奪われたのも同然なのだ。


「お父さん……お母さん……颯司……夏穂……」

「明穂……うぅ……」

「その……」

 

 家族を奪われる痛みはよく分かる、そしてその傷はちょっとやそっとじゃ癒えない事を。

 それだけに京助は、彼女らへなんと声をかけて良いかわからないでいた。


「いい加減にしないか!」


 厭(いや)な静寂をサイの手拍子が吹き飛ばし、全員の視線が頭の大部分を埋める真紅の髪に集中する。


「君達の今の気持ちは分かる! だがそうしていてどうするんだ! このまま何もせず五時間経つのを待つのか! それで良いのか! 君達はクインテット! 子供ながら宇宙からやって来た侵略者に、そして死徒の因子を持つ存在にまで抗い戦い続けたんだ! そんな君達がなす術もなくこうして腐っていていいのか!」


 さながら嵐の中吹き荒れる強風の如く、あるいは黒く厚い雲間を裂いて輝く稲妻の如く、サイの言葉が千道邸に響き渡る。


「このままやられっぱなしでいいのか? 違うだろ? せめてどうするかぐらい話すべきだろ?」


 いつも顔半分に張り付いている笑みが剥がれ落ちている、サイは自分が認めた存在がこうして歩みを止めるのが、よほど許せなかったのだろう。


「嘆くのはあとでいい、いつだってできる! 今はあの忌まわしい死徒の女の要求についてどうするのか、それを考えるべきじゃないか?」


 少し空ろな光を称えた戦友達の十個の瞳を一つ一つ見てから、京助は意を決して言葉を繋いだ。


「サイの……言う通りだ。俺達はもう……嘆いてはいられない、ここで嘆いて良いのは裏の世界を知らない幸せな人達だけだ。ここに身を置いている以上、俺達は立ち上がらなくちゃならない……それにさ」


 京助は左腕を叩いて微笑んで見せた。


「希望が無い訳じゃない」


 それを見た奏音は立ち上がって、無理に京助に笑いかけてから皆を振り返った。


「そうだね……そう、そうだよっ! 折れるにはまだ早いよね、出来る事がまだあるよね!」


 健気を通り越して痛々しいまでの奏音の言葉に、京助の胸の奥がチクリと痛む。


「そうね、どうせ折れるなら……やれる事全部やってからがいっか」

「前にも……いや、今までにない規模だけど……今回もどうにかなるよね」

「いンや……ウチらがどうにかするぐらいの気概じゃないとね」

「大丈夫ですよね……私達、地球を救った事もあるんだし」


 追随した四人を見て、京助は万感胸に迫りながら頷いた。


「じゃあ始めよう。俺達はどうするか、それをまず決めようか」


 


 大まかな方針を決めてから皆を休ませた後、京助はウィルマース財団や各地球防衛組織に連絡を取り、事態が収束したら〝洗濯機〟を起動するように要請した。


『上手く行けばそれでよし、しかし失敗すれば……』

『他の人員がやって来て、事態を収束……そして真鳥市自体の記録が永遠に消える』


 一見冷酷に見える措置だが、かつて〝洗濯機〟はアン=ゴル・モア襲来の際に三つの国と七つの街の記録を丸ごと消した事がある。

 これは通例なのだ。


『勝算はありますか?』


 トトの問いかけに、京助は左手を撫でながら言った。

 

『ある……と言いたい所だが、わからない。ヌヴィエラ(ヤツ)の実力は未知数だ』

『その心構えを持っておけばきっと大丈夫でしょう』


 京助が左手に力を込めようとしたその時、後ろから奏音が抱き着いてきた。


「奏音?」

「……今こうして初めて、京助の気持ちが分かった」

「ああ……」


 京助はジャガックにより両親を失い、それ以降一人暮らしなのだ。

 疑似的とはいえ、奏音は同じ状況になっている。


「私の場合は元に戻るかもだけど、京助は一人ぼっちになっちゃったんだよね……」

「一人じゃなかった。お前が居た」

「それでも……それでもさ……こんなに胸が痛くて、悲しくなるんだね」


 奏音の腕がより強く京助を抱きとめ、頬が触れあって体温が直に伝わっていく。


「しばらくの間、こうさせて……」

「ああ……俺からも頼む。奏音が居ると心強いし……一人じゃないって気がするんだ」


 如何に地球最強の超能力者であろうと、オーバーテクノロジーのバトルスーツを纏って戦う女神(ディーバ)だろうと、まだ高校生の男女である事には変わりない。

 皆本音では不安である、使命感という聞こえの良い言葉で誤魔化してはいるが、本来それを背負うべき年齢ではないのだ。

 少年少女達は偶然超能力者である素質を持っていただけで、本当は何も知らず勉強や遊び、そして恋愛に興じているべきだったのだ。


「全く……嫌な運命だよな」

「確かに難儀だけど……嫌ではないよ」

「どうして?」

「過酷で大変な道だけど、京助とより深い所で繋がってる気がするんだ……皆ともね。その思いだけで、私はまだ戦っていられる。他の皆は本当はどう思ってるか分からないけど……少なくとも私はそう思ってるよ」


 この運命を奏音が受け入れてくれているという事実だけで、京助はなんだか救われた気がした。


「ねえ」

「うん?」

「こっち見て」


 京助が右を向くと、奏音が自分から唇を重ね、少し驚きながらも京助はそれを受け入れる。


「絶対、勝とう」

「当然だ。俺には勝利の女神がついてるからな」


 約束の時間まで、残り九十分。




 約束の時間が訪れ、廃墟と化した街に京助とクインテットの五人、そしてガディとザリスとジェサムが佇み、いつもより良く見える月と星の下で死徒ヌヴィエラの来訪を待っていた。


「上手く行くかな」

「人事は尽くした、あとは天命」


 暫くすると月光が歪んで黒い霧の如き黒衣が現れ、ヌヴィエラが顕(・)現(・)して皆の前に降り立った。


「少し遅れましたね。では交渉を……あら?」


 ヌヴィエラはフードから覗く薄黄色の髪をかき上げながら、皆の方をじっと見つめる。


「キュライト総統の令嬢は?」

「条件がある、俺達はまず赤ん坊を差し出そう。その後すぐにお前が真鳥市を元に戻す、メルローはその後で引き渡そう。これで文句ないだろう?」


 ヌヴィエラは柳眉を寄せて目を瞑ると、息を吐いてからシトリンを思わせる黄色い輝きを放つ瞳を京助に向けた。


「そうよね、あなた達からすれば私がこの街を元に戻す保証もない……そういった判断から来た発言でしょう」

「そういう事さ」


 ジェサムがその手に青蓮を抱いたまま前に出て、ヌヴィエラへ偽物ではない事を証明する。


「確認しました……では」


 ヌヴィエラが青蓮へと手を伸ばす。

 

 嗚呼。地球とこの街を守った少年少女達よ。君達は二つの命を諦め、街を救う事を選択したのか。

 死徒の強大な力を前に、膝を折り諦めてしまったのか。

 もうやれる事はないのか。


 ヌヴィエラと青蓮の距離が二メートル程にまで縮まった時、京助が軽く手を上げヌヴィエラが動きを止める。


「何か?」

「その辺かな……もういいぞ」


 京助が言った途端、ヌヴィエラの目の前に二つの赤光が現れ、それが何か理解するより早く赤い閃光によって体を十字に斬りつけられたうえ、手足を氷漬けにされて吹き飛ばされた。


「うわっ⁉ ぐあああっ!」


 吹き飛ばされたヌヴィエラが見たものは、ニヤリと笑う京助と、徐々に姿を現し始めたサイだった。


「一体何が⁉ 何のつもりですか⁉」

「馬鹿(ヴァカ)め! まんまと引っかかったな!」


 そう、京助達は最初(ハナ)からヌヴィエラの交渉に応じる気など毛頭なかったのだ。

 やはり復讐の為に五年もの月日を費やした不屈のマグナアウルと、一般人ながら様々な覚悟を持ってこの世界に踏み込んだ女神達(クインテット)は決して最後まで諦めなかったのである。


「私達がそんなものに乗るとでも思った⁉」

「あまり地球人を舐めない事ね」

「私達は脅しに屈しない!」

「そして引き下がらない」

「例え孤立無援になろうが、それは決して変わりません!」

「私達も同じです、たとえどんな生まれだろうとも!」

「私(わたくし)達を受け入れたこの星を守る為なら!」

「どんな敵にだろうと立ち向かいます!」


 サイは心底満足したような笑みを浮かべて紅蛇を振い、肩にかけて独り言つ。


「それでこそボクが見込んだ相手さ」


 ヌヴィエラは怒りというより意味が分からないといった表情を浮かべ、体に纏わりついた氷を砕きながら言った。


「何のつもりなの! あなた達はこの街を元に戻したくはないんですか!」

「この街を元に戻せるのはお前だけだとでも?」


 京助は左腕を叩きながらヌヴィエラの方を見る。


「無限不可能性を持つ俺ならこの街を元に戻せる。その前にお前を倒して心残りナシだ!」

「どうして……どうしてここまで」

「何故かって? 俺達は決して諦めない。この身尽きるまでやれる事を全部やるんだよ!」

「ベタな言い方をすれば〝私達を倒してから行きな〟ってやつ」


 言葉を繋いだ奏音の肩を叩き、京助はヌヴィエラを指差して言った。


「どうする? 大人しく帰るか、それともやり合うか」


 二択を突き付けられたヌヴィエラは静かに立ち上がり、左腕に巻き付いたブレスレットを引き抜く。


「仕方ないわね……あなた達はここで救(・)済(・)しましょう」


 ブレスレットの飾りを握って胸に当てると、ヌヴィエラは静かに、そして詠うように短い言葉を発した。


「救葬(キュウソウ)」


 ヌヴィエラの黒衣がぶわりと広がり、そこから黒い流水と赤い稲妻が発生して彼女の肢体を包み込み、戦闘用のアバターを作り出す。

 ヌヴィエラのアバターは、聖女の彫像に所々髑髏や骨の意匠をあしらった禍々しくアンバランス極まりないものであった。


「私達も行こう」

「ええ、着装です!」


 京助がライジングアウルレットを展開したと同時に八人の少女達が転送鍵を取り出し、遅れてサイも享楽と憤怒の面を取り出す。


「翔……」

「コードGO!」

「ツェルテット‼」

「クインテット‼」

「轟嵐」

「来ッ‼」


 夜の白灰の廃墟を様々な光が照らし、少年少女達は戦衣装に着替えていく。


「よっしゃ……地球救うぞ!」

「おう!」


 マグナライジングアウルとカプリースが走り出したと同時に、クインテットとツェルテットは青蓮を守るように抱えて逆方向へ走り出した。


「頼んだぞ!」

「そっちもね!」


 ヌヴィエラは骨の柄を持つ長く鋭い鎌(グリムリーパー)を取り出し、マグナライジングアウルもアウルカリバーを取り出して振りかぶる。


「ハァッ!」


 アウルカリバーと紅蛇がヌヴィエラの鎌が交差して衝撃が突き抜け、数秒の鍔迫り合いの後互いを弾き合った。


「フルギュラス・ジア・コーダ!」


 紅蛇から放たれた白い電撃をヌヴィエラは鎌で受け止め、それをマグナライジングアウルへ受け流すも、マグナライジングアウルは側宙してヌヴィエラへ距離を詰めてアウルカリバーを突き出す。


「クッ!」


 ソリッドレイに包まれた刃を紙一重で回避し、ヌヴィエラは自分の周囲に黒い流水に包まれた様々な種類の生物の髑髏を呼び出し、マグナライジングアウルへと差し向ける。


 自分目掛けて飛んで来た黒い水を滴らせながら迫り来る頭骨達を認識したマグナライジングアウルはまず背中から黄金の翼を展開し、羽を飛ばして相殺した後、羽角と鶏冠から光線を放って全て撃ち落としてしまった。


「クソ、どこに……上か!」


 飛行して青蓮を守っているクインテットを追いかけようとしたヌヴィエラを、カプリースが先行して追い、遅れてマグナライジングアウルが追随する。


「私の救済は……邪魔させない」

「そういうの傍迷惑って言うんだ!」


 カプリースは空中で冷気交じりの竜巻を発し、ヌヴィエラはそれを回避して骨の刃を飛ばして牽制する。


「気紛れなる虐殺の化身(ガラゼァ・ブランボス)、三万年の悲しみを背負う存在であるあなたも、私は必ず救って見せましょう」

「ボクの渇きを癒してを救う事が出来るのは飽くなき闘争ただ一つ、死徒の救済なぞこっちから願い下げだ!」


 体に竜巻を纏わせて加速してヌヴィエラへ肉薄すると、カプリースはその手に嵐を纏ってからヌヴィエラへ月の連打を叩き込むも、ヌヴィエラは全身を黒い流水へと変化させて受け流し、更に霧化してカプリースの後ろに回り込んで羽交い絞めにする。


「クソッ! 放せ!」

「大丈夫……すぐに救われるのよ」

「どうしてこう……救世を掲げる奴ってこう視野が狭いんだ⁉」

「いいえ、今に思い知るわ、私の正しさを……さあ、母に全てを……」

「視野が狭いってのはそのままの意味さ」


 気付いた時はもう遅い、真横にマグナライジングアウルが現れ、ヌヴィエラへ蒼い火炎を浴びせていた。


「まだまだ!」


 火達磨になったヌヴィエラへマグナライジングアウルは黄金に輝く無数の刀剣や槍を飛ばし、ヌヴィエラは何とかそれを回避するも、廃墟と化したビルに激突してしまう。


「アウルブラスト!」


 ヌヴィエラがビルに開けた穴へ正確に潜り込んだマグナライジングアウルはアウルブラストから強化されたソリッドレイの弾丸を放ち、火達磨になりながら壁や床に激突し、そしてガラス片を浴びるヌヴィエラへ追い撃(・)ちをかける。


「くっ……うぅっ!」


 ヌヴィエラは廃墟を抜けてから全身に灯った蒼炎をかき消し、聞き取れぬほどの音量で何事か呟くと、腹部の骨を思わせる装甲を開いてそこから黒煙を吐き出した。


「行きなさい、救世の障壁を打ち破るのです!」


 ヌヴィエラの腹から吐き出された黒煙の中で徐々に空想上の幻獣を思わせる骸骨達が実体化していき、ドラゴンは被膜なき翼をはためかせて大顎をかち鳴らし、水牛と犀(さい)を混ぜ合わせたかのような巨躯の持ち主は角をぶるぶると揺らしてからひと踏みで地震を起こせそうな足で天を駆け、もはや元の生き物が何だか分からない八本脚は転がりながら鋭い足先で空を切る。


「何だこいつら! うおっ!」


 ドラゴンがマグナライジングアウルへ迫り、回避した先で八本脚が足先の刃で切りつけようとしてくる。


「オラオラオラァ!」


 アウルブラストの連射で八本脚を一時的に退けたはいいものの、今度は牛犀が凄まじい速度で突進し、横に生えた角で絡め取られかける。

 しかしぎりぎりで時空移動によって回避し、そこに追いついたカプリースが加わる。


「なんだこいつら?」

「ヌヴィエラの召喚獣って所か」

「そうか……いや待て! 肝心の召喚者はどこだ!」

「‼」


 ヌヴィエラの姿はどこにもない、だが何処へ向かったかは明らかだ。


「しまった!」


 果たして二人のアバター使いはこの危機を脱し、ヌヴィエラへ追いつく事が出来るのか。



 

 青蓮を連れ数分おきに隠れる事が出来る場所に移動していたディーバ組であったが、ここでとうとう異変が起きた。


「んっ……」


 イドゥンが変な声を上げて顔の辺りを叩いている。正確には左目の辺りを。


「ねぇ、それって……」

「うん、めっちゃ痙攣してる。ヤバイ」


 イドゥンは超能力によって第六感が発達しており、危険が迫ると左の下瞼が痙攣するのだ。


「私も感じます、何か確かにが迫ってる」


 アフロダイも短期未来の予知が出来る。その両者が危機を伝えているのだ。

 全員武装を固めて警戒し、ジェサムは左腕の青蓮を固く、それでいて優しく抱きしめる。

 

 各々の武器を構えて周囲を警戒しているとふとジェサムは足元の感覚がおかしい事に気付いた。


「皆さん! 下です!」


 全員がジェサムの足元を振り返ったのと、そこから黒い水が屹立して聖女の彫像に髑髏が絡みついたかのような姿(アバター)となったヌヴィエラがジェサムを羽交い絞めにしたのは同時だった。


「ジェサムッ!」

「妹を離せ‼」


 ガディの大剣がヌヴィエラへ向かうも、強烈な念力によって吹き飛ばされる。


「さあ、その子を私に……」


 ヌヴィエラの甘い声を聴いてジェサムは脱力しかけたが、すぐにマシンガンの銃底で頭を殴りつけると啖呵を切って見せた。


「誰が渡すものか! アフロダイ!」


 ジェサムは叫ぶと同時に青蓮を念力でアフロダイの元へ飛ばし、アフロダイはそれをキャッチしてヌヴィエラへ槍の穂先を突き付ける。


「この子は絶対に渡しません!」


 宣言と共にアフロダイは跳躍してその場から飛び去り、追いかけようとしたヌヴィエラをザリスのレーザーウィップが締め上げて地面に引き下ろし、そこにミューズのバズソーハルバードとガディの大剣が襲い掛かる。


「あなた達! なぜそこまでしてあの子にこだわるの! 街を元に戻したくはないの⁉」

「街も戻す! あの子達も助ける! 私達は何百匹も何千匹も兎を追うのよ!」

「確かに私達はマグナアウルやサイよりも遥かに弱いかもしれない。でも総勢八人の女神(ディーバ)からあの子を奪える⁉」


 ミューズのバズソーハルバードによってヌヴィエラはアバターを斬り付られ、咄嗟に骨の鎌(グリムリーパー)を取り出して斬りつけようとするも、レールガンの一撃に武器を弾き飛ばされてしまう。


「くっ!」

「させねーよ、もっと喰らいな!」


 イドゥンの肩や脇が変形してミサイルポッドやレーザーショットが出現し、両手のライフルとミサイルマシンガンと共にヌヴィエラへ光弾やミサイルの雨を浴びせる。


「ううっ……タアッ!」

「うおっ!」

「きゃっ⁉」


 ヌヴィエラは周囲に黒い流水を放ち、周囲が怯んだ隙に宙を舞って青蓮の追跡を再開する。


「そっち行った! 気を付けて!」




 ミューズからの通信を聞いたアフロダイは崩れかけた廃墟の上に降り立ち、ブーツと手甲の特殊機能を起動して外壁を駆け下り始めた。


「あら?」


 こんな状況なのにもかかわらず、青蓮は風を受けて楽しそうに笑っている。


「図太い子ですね、将来大物です」


 そう呟いた直後、降り立った廃墟の壁からヌヴィエラが出現し、アフロダイは咄嗟に跳躍して地面に降り立って槍を構えた。


「一対一よ、勝てるかしら?」

「勝てる勝てないではありません」


 槍を振り回して穂先を突き付け、アフロダイはヌヴィエラに宣言した。


「最後まで戦うんです、それが我々クインテット」

「なぜそこまでするのです……わからないわ」

「それが使命だから、それ以上でもそれ以下でもありません」


 返答を聞いたヌヴィエラのアバターが俯き、アフロダイは首を傾げつつ青蓮を抱き留める。


「やはりこの宇宙は悲しみに満ちている」

「はい?」

「本来戦うべき存在ではない者まで戦っている。こんなものは悲劇です」


 まるで憐れむようなヌヴィエラの言葉に神経を逆撫でされ、ヘルメットの内側で眉を顰めながら怒鳴りつけた。


「その悲劇を生んでるのは紛れもなくそっちだ! ふざけた事を言わないで!」

「すぐに分かる、私の理念が正しいと……」


 ヌヴィエラの予備動作に能力が反応し、アフロダイが跳躍して避けたのと、先程まで彼女がいた場所にトリケラトプスを思わせる黒霧を纏った髑髏が飛んで来たのはほぼ同時だった。


「クッ! せいっ!」


 穂先にドリル状のエネルギーを生成してヌヴィエラへ射出するも、目眩まし程度にしかならなかった。


「この程度、なんになるというのです?」

「時間稼ぎ、それも上手く行った」


 背後でした別の声に反応するより早く複数の斬撃がヌヴィエラを襲い、全身を流水にして回避するも距離を大きく離されてしまう。


「してやられましたね……」

「強さに胡坐かきすぎじゃない?」


 先程ヌヴィエラを切り刻んだ刃を肩に背負ったルナの言葉と共に、八人の女神が集結する。


「ウチが持つよ」

「ありがとうございます」


 アフロダイからイドゥンに青蓮が渡ったのを見て、ミューズがバズソーハルバードを地面に突き立てて皆へ宣言した。


「皆、気合入れるよ!」

「了解!」


 全員の手が右肩にかかり、仕込まれたダイヤルを回して音声認証を起動する。


「オクタモードオン! バーストGO‼」


 ディーバスーツの各部が変形してそれぞれのスーツに八基内蔵された出力向上し小型化されたコアエナジーストリームラインが露出し、スーツの出力が何万倍も向上する。

 このディーバオクタモードこそ、CーSUITのバーストモードの流れを汲む一時的な強化状態である。


「まずウチから……デカいの持ってきな!」


 イドゥンが小脇に青蓮を抱えながら腰のスイッチを三度押し込み、オーバーオクタチャージを発動して腰だめにしたライフルから緑色の超巨大光弾を放つ。

 迫る光弾をにべもなく裏拳で払ったヌヴィエラであったが、目標を逸れた巨大光弾はザリスのレーザーウィップが絡め取り、まるでチェーン付きのモルゲンスタインハンマーの如くそれを振り回し、何度もヌヴィエラに叩き付ける。


「ウウッ! ハッ!」


 次の衝突より早くヌヴィエラが骨片を飛ばしてウィップとエネルギー弾を断ち切るも、それをルナが自分の太刀に突き刺し、より長いサイコエネルギーの刃を形成する。


「ハァッ! おおっ!」


 斬りかかって来たルナに何とか反応したヌヴィエラは骨の鎌を生成して迎え撃ち、数度の剣戟の末にエネルギーの刃を手折った。


「まだまだ!」


 手折られて宙を切る刃をデメテルが吸収し、両手のナックルアームを重ね合わせて高火力ビームをアフロダイに向けて放ち、それを背中のエネルギー変換機に取り込んだアフロダイは、強化された弓で渾身の一発を解き放った。


「ううっ……うううっ! サアッ!」

「まだまだ耐えるか! えいやっ!」


 弾かれてあらぬ方向に飛ぶ光弾をキャッチしたジェサムは即座に自分のエネルギーを乗せてヌヴィエラに放ち、さすがに対応しきれず光弾を肩に喰らって仰け反る。


「ナイスジェサム! ハァッ!」


 斜め上に飛んだ光弾をミューズがハルバードで受け止め、エネルギーで形成された巨大なバズソーでヌヴィエラを唐竹割の要領で斬りつけた。

 しばらくヌヴィエラの鎌とミューズのバズソーハルバードが火花を散らしていたが、ミューズはヌヴィエラの向う脛を蹴りつけ、バランスを崩した隙に後退しながらバズソーを飛ばす。


「締めは私が!」


 総勢七人分のサイコエネルギーが乗ったバズソーを受け取ったガディの大剣は八つの色に光り輝き、その光に合わせて膨大な余剰エネルギーが周囲に吹き荒れる。


「これが私達渾身の一撃! 受けてみなさい‼」


 八人分のサイコエネルギーがガディの能力によって更に強化され、十字の斬撃となってヌヴィエラへ向かって飛んで行った。


「成程、確かにこれは……」


 十字の斬撃がヌヴィエラの腹部に直撃し、地面に軌跡を描きながら大きく後退する。


「どうだ! 行けるか⁉」

「油断は禁物です……最後まで……」


 ザリスがそう言いかけた時、ヌヴィエラの後退が止まり、彼女から何か黒いものがせり出してきた。


「!」


 正確には腹の部分から噴き出した黒いものは自分に突き刺さった斬撃を侵食し始め、角を持つ草食動物の頭骨と思わしきものに姿を変え、十字の斬撃を噛み砕いて呑み込んで大きなげっぷをひとつ残した。


「あらはしたない」

「なんなの……アレは」

「私のかわいい友人ですわ、私の使命にも理解を示し、こうしてついて来てくれるのです」


 ヌヴィエラが腹から出てきた頭骨をひと撫ですると、がばりと口を開けてそこに赤黒いエネルギーを収束させ始めた。


「まずい!」


 デメテルがバリアを張り、ミューズとガディとザリスとジェサムの四人がバリアを補強する。


「返礼がしたいみたいですわね。それも特大級の」


 あの赤黒い光球はウィッカーアウルが使っていた黒死球を何百倍も凶悪にしたものだと全員一目で見抜いた。

 冗談じゃない、こんなもの喰らえば死(・)を(・)超(・)え(・)た(・)死(・)が待っているに違いない。

 なんとか防がなくてはならないが、果たしてマグナライジングアウルと互角以上に戦って見せるような相手の一撃を防ぐことが出来るだろうか。


「ヤバい来る!」


 草食獣の頭骨から光球が放たれ、凄まじい速度で飛来したそれはバリアを容易く破って女神(ディーバ)達を呑み込まんとその魔の手を伸ばす。

 全員が逃れられぬと腹を括ったその時、空中から七色の軌跡が降り立ち、赤黒い光球を掻き消してしまった。


「悪い、遅くなった」

「なっ!」


 現れたマグナライジングアウルとカプリースを見てヌヴィエラは心底驚いたような声を上げる。


「あの子達は……まさか倒したとでも言うの!」

「もちろんだとも、なあ? アウリィ?」

「いくら強力とはいえ五百人で囲んで撃てば誰だってくたばるさ」


 マグナライジングアウルは時空操作を応用し、別の空間に同時に存在する事で分身が可能なのだ。

 それを利用してカプリースと共にヌヴィエラが差し向けた骸獣を全て倒したのである。


「そうですか……あの子達も救済しなくては。しかしそれは後回し、今はあなた達の救済が先よ」

「そうかい、じゃあより一層難しくなるぜ」


 マグナライジングアウルの左腕にゼロアウルレットが出現して一本刃のブレードを展開した。


「まさかそれって!」

「そのまさかさ……」


 右腕に出現したライジングアウルレットとゼロアウルレットのブレードを重ねると、その力を解き放つかのように腕をゆっくりと、そして大きく回してマグナライジングアウルは叫んだ。


「無限翔来ッ‼ ハァッ!」


 マグナライジングアウルの装甲が徐々に変化していき、七色を纏った鎧が乳白色と黄金に彩られ、背中から白と黄金の二対の翼が展開する。

 黄金に輝くその姿は、ジャガックとの長き戦いに決着をつけた無限の力を宿した梟。

 

「その姿……まだ成れたんだ!」


 かつて絶望をひっくり返したその化身(アバター)の名は?

 

「俺はマグナインフィニットアウル、無限の化身だ!」


 光り輝くその姿に死徒であるヌヴィエラも警戒を強め、腹からせり出した頭骨も怯えたように中へ引っ込んだ。

 

「あなたの強さが如何ほどであろうと、私の救済は揺らぎません」

「こっちこそ譲れないものがあるんだよ! この街を絶対に取り戻す!」


 ヌヴィエラの肩から骨の翼が出現したのと、マグナインフィニットアウルが跳躍したのはほぼ同時であった。


「ハァアアアッ!」

「うおおおっ! アウルブラストッ!」


 ヌヴィエラの翼から放たれる赤い稲妻を纏った骨の楔をマグナインフィニットアウルは黄金の光弾で全て打ち落とし、反撃にアウルブラストから白と金の二重螺旋状の光線を放つ。

 しかしヌヴィエラはギリギリで光線を避けつつ薙ぎ払いにも対応し、再び腹から草食獣の頭骨を出して赤黒い光球を放たんとする。


「行け! トト!」

「その言葉待っていましたよ京助‼」


 マグナインフィニットアウルの左手から勢い良く小型で金属製のデフォルメされた鳥が出現し、小さな翼に反して凄まじいスピードで頭骨へ迫り、目から緑色のビームを放って赤黒い光球を破裂させてしまった。


「次はこれです!」


 トトの小さな羽がソリッドレイを纏った巨大な刃と化し、目にも留まらぬ速さでヌヴィエラの周囲を飛んでその身を斬りつける。


「なっ⁉ これは一体⁉ 金属生命体⁉」


 その小さな体躯に完全に翻弄されたヌヴィエラは、意識を完全にトトへ持っていかれてしまった。

 

「俺を忘れちゃ困るな」

「ッ!」

「アウルカリバーッ‼」


 黄金の刃がその身に迫るも、もはやヌヴィエラには回避する余裕がない。


「大無限・梟爪空裂断‼」


 空間すら斬り裂く無限の刃がヌヴィエラの体を襲い、片翼と左腕が断ち切られる。


「これでも喰らいなさい!」

「ついでにこれもな! VOWAAAAAAA‼」


 トトの眼光線とマグナインフィニットアウルの嘴(クラッシャー)から放たれる衝撃音波がヌヴィエラを襲い、ついに地面に叩きつけられてしまった。


「墜とした!」


 全員が降り立ったマグナインフィニットアウルの近くへ向かい、片手でなんとか立ち上がろうとするヌヴィエラを見る。


「まだ……手は残っている……」

「いいや、もう終わりだ。フィッシャーキング」


 アウルブラストとブレードボウを合体させてヌヴィエラへ照準を合わせたのと、他の皆がマグナインフィニットアウルへエネルギーを送り始めたのは同時だった。


「皆の力、しかと受け取ったぜ!」


 七色に輝くブレードボウが黄金のオーラを発し、サイコエネルギーの発する風が先端に収束していく。


「不可説転・梟翼乱舞ッ‼」


 命中すればあらゆるものを零次元に還してしまう刃がヌヴィエラへ放たれ、半身を失ったヌヴィエラは回避しきれず直撃を受けた。




 次元降下による影響でヌヴィエラの周囲の空間がいたずらに星が瞬く青い闇に覆われ、その体が魂ごと零次元に還されていく。


「これで終わり?」

「そうだと良いけどな」

「案外呆気なかったね」


 弾かれた事はあれど、この技を直撃されて無事だった者はいない。

 さしもの死徒ヌヴィエラであろうとこれで終わる。


 筈だった。


 まず異変に気付いたのはイドゥン、左瞼の痙攣が起こり、青蓮を抱き寄せてライフルを構える。


「ヤバいなんか変だ!」


 イドゥンの叫びと共に蟠る青い闇から巨大な骨の腕(かいな)が二本現れ、収縮を始めた青い闇を広げて中からヌヴィエラを引っ張り出した。


「何だと⁉」


 現れたヌヴィエラは背中から巨大な見た事もない生物の異形の骨格をした腕を生やしており、今度は人型としてのアンバランスさが際立って更に不気味さを際立たせている。

 それよりも次元収縮を自力で脱したという事実にマグナインフィニットアウルは戦慄を覚え、次の一手の思考すらままならなくなった。


「次元収縮まで備えているとは……あなたは強大です。ですからもう……出し惜しみはしません」


 ヌヴィエラはそう宣言するとまるで全身を痙攣させるように動かし、自身のアバターの各部に配置された骨格を全て開き、そこから赤い稲妻が混じる黒い靄を発生させて徐々に空高く昇っていく。


「う……わ」


 黒い靄の中から様々な生命体の無数の骨が発生し、それが蠢(うごめ)き犇(ひし)めきながら組み合わさって巨大な形を作り出す。

 その姿はまるで……。


「でかくて黒い……蝶だ」


 翅を広げれば四十メートルを優に超す骨で形作られた漆黒の巨蝶は、ヌヴィエラという蛹から羽化したようであった。


「あいつママって呼ばれてたよな……まさかこういう意味じゃなかろうな」


 あの翅を形作っているのは今まで奪ってきた命の数々であろう、それが彼女の体内から出てきたという事は、その魂の数々を取り込んでいるということに他ならないのではないか。


「胎内回帰ってこと? 嫌すぎるんだけど……」


 死の蝶(ヌヴィエラ)は後翅の尾状突起に似たあの腕を動かし、十人の戦士達を押し潰そうとしてきた。


「クッ!」

「ちょっ! 京助ッ!」


 ヌヴィエラの腕が振り下ろされる直前、マグナインフィニットアウルが駆け出し、瞬時に四十メートルサイズになって腕を防御する。


「巨大化もできるとは……」

「驚いたか? お互い第二形態になった事だし、第二ラウンドと行こうじゃないか!」


 死の巨蝶へ黄金の梟が突っ込んだことで第二ラウンドが始まり、舞台は空中へと移っていった。


「アウルブラストォッ!」


 マグナインフィニットアウルがアウルブラストを向けた途端、ヌヴィエラの背から生えた骨格全てから赤い稲妻を放って距離を取り、頭骨をこちらに向けて次々と光弾を放つ。


「アウルカリバー‼」


 即座にブラストをカリバーに切り替えて迫り来る赤黒い光弾を切り裂き、マグナインフィニットアウルはソリッドレイの斬撃を飛ばして応戦する。


「ハッ!」


 骨同士がからからがしゃがしゃと響きながら翅をはためかせて上昇し、マグナインフィニットアウルも追随して追いかける。


「ハッ! うっ! うおっ! オオオオオラッ!」


 マグナインフィニットアウルはヌヴィエラの尾状突起の腕と殴り合いながら上昇し、互いの巨躯で月を覆い隠すに至った頃、ヌヴィエラの背中から一本の背骨が屹立し、その先端の爬虫類のものと思われる頭蓋骨がこちらを向く。


「全身全霊の一撃よ、耐えられるかしら?」

「お生憎様、耐久には自信ありでな!」


 頭蓋骨の顎が五つに分かれて禍々しい気配が顎に収束し始め、それを感知したマグナインフィニットアウルは背中から白と金の二対の翼を展開する。

 勝負は一瞬。ヌヴィエラの攻撃か、マグナインフィニットアウルがそれを破ってカウンターを放てるのか。

 さながら侍同士の果し合いか、ガンマンの決闘の如き雰囲気が周囲に充満する中、ここでヌヴィエラが予想だにしなかった行動をとった。


「なっ!」


 なんとヌヴィエラは頭蓋骨の照準を逸らし、この戦いを見守っていたクインテットへ稲妻を伴った赤黒い光線を放ったのだ。


「あっ——」


 赤黒い光線が直撃する寸前、マグナインフィニットアウルが皆に覆いかぶさり、その身で赤黒い光線を受け止めた。


「うぅっ……ぬあっ……ああああっ! ぐああああっ!」

「京助! 京助ッ!」

「ヤバい! センキョーが!」


 苦しんでいる。

 無限の力を手に入れ、あらゆる不可能を可能にしてしまうマグナインフィニットアウルが、成す術もなくその力を一身に受け止めて苦しんでいる。


「京助君! もうやめて!」

「このままじゃ死ぬよ!」

「この姿でもこれは無理ですよ! 退いてください京助君!」


 仲間達の懇願にも関わらず、マグナインフィニットアウルは苦鳴を漏らすだけでその場から頑として動かない。


「まさか……」


 抱いていた違和感に気付いたカプリースは、アバター越しの顔を青く染めて絶叫した。


「余波がこっちに全く来ていない! 君まさか……この死徒の力を吸収しているのか‼」


 いくらマグナインフィニットアウルに死徒の因子に耐性があろうと、一度に大量の死徒の力を取り込んでしまえば無事ではいられない。

 かつて神々の領域《セレスティアル・ディメンション》に至った強力な超能力者が、死徒に容易く敗れたのをカプリース(サイ)は何度か目撃している。


「やめろ! 止せ! 今度こそ戻れなくなるぞ‼」


 それでもマグナインフィニットアウルは動かなかった、ただ皆を守りたいその一心で。


「うぅ……くっ……」


 その思いはヌヴィエラの限界を凌駕し、ついに光線の照射が止まった。


「ああ……うあ————」


 しかしそれは同時に、命と魂の限界でもあった。

 マグナインフィニットアウルは凄まじい勢いで縮小して元の等身大となり、纏った黄金も剥がれて七色の鎧となり、それも色褪せてかつての復讐と絶望の化身だったマグナアウルとなり、それすら砕け散って生身の姿に戻ってしまった。


「京助ッ!」


 前のめりに倒れた京助を、ミューズが真っ先に抱えて仰向けにし、ヘルメットを収納して顔を見せる。


「嫌だ、嫌だ嫌だ、行かないで京助!」


 悲しみというより恐怖の表情を浮かべた奏音は京助を揺さぶるも、半眼かつ半開きの口という生気を失いかけた表情をしており、ただ前髪の白髪部分が揺れるだけである。


「ダメ! 行かないで! 行かせないんだから! ……うっ⁉」


 京助の服の胸をはだけさせた奏音が見たものは世にも悍ましいものだった。

 胸に空いた二点の黒穴——かつてルゲンの毒槍によって刺し貫かれた部分——から黒い模様が蜘蛛の巣状に広がっており、まるで京助を侵蝕して飲み込まんとしているようであった。

 

「触れたら危な……あぁ……」


 カプリースが制止する間もなく奏音は京助の胸に手を当て、治癒能力を発揮する。


「うっ……っく……うぅ……」


 死徒の因子の侵蝕は凄まじいもので、奏音にまでその手を伸ばそうとしていた。

 それにも構わず治癒を続けようとした所に、別の手が重ねられた。


「えっ、皐月?」


 ヘルメットを収納したクインテットメンバーが次々と集まり、京助の胸に手が重なっていく。


「私達にもやらせて」

「京助君を死なせたくないのは同じだから」

「ウチらの恩人で……大切な仲間(ダチ)だし」

「出来る事は少ないけど、微かな助けになるのなら喜んで協力します」


 そしてガディとザリスとジェサムの三人とカプリースは彼女らの壁となって武器を構えた。


「護衛は任せてください」

「まだヤツ(ヌヴィエラ)は休息していますが、それが終われば必ず!」

「京助さんと皆は絶対守ります」

「命尽きるまで……いや、死んでもここは通さねぇ」


 死徒の因子に侵されながらも五人は頷き、自身の力を発動して京助の中の因子を取り除こうと試みる。


「本当に大した耐久力ね……けれど二発目はどうかしら?」

 

 

 ヌヴィエラが二発目の準備を始め、サイとツェルテットの三人が構えたと同時に、不安そうな同時に不思議そうな顔をした青蓮が、小さくて少し肥えた手を京助の胸に乗せるのだった。




 そして肝心の京助は。


「うわっ! あああああっ! ううっ‼」


 ヌヴィエラが放った死徒の因子は肉体だけでなく魂まで侵し、黒い靄となって心界の中にまで押し寄せてきた。


「ヤバい……俺の心界が!」


 白京助との戦いを制し、月の浮かぶ静謐な森に戻った筈の心界が、以前と同じく赤い空とねじくれたオブジェが渦巻く荒野となっていき、ついにはそれすら消え失せてひたすら黒い空間に投げ込まれてしまう。


「今すぐ戻らねぇと! 皆が! 奏音が!」


 覚醒しようと試みるも上手く行かず、そのうち心界を覆った黒い何かが京助の手足を包み始めた。


「うううおっ! やめろ! 放せ!」


 拘束を解こうと藻掻くも黒い物体は決して剥がれず、それどころか下半身を覆い始めて京助を完全に拘束してしまった。


「く……そ」


 それでも振り解こうと藻掻いていると、前方に眩しいばかりの光が発生し、そこからくすんだ灰色の肌をした豊かでしなやかな肢体を持つ金色の瞳をした全裸の女が現れる。

 ヌヴィエラだ。


「お前! ここから出……」

「落ち着きなさい、愛しい我が子よ」


 ヌヴィエラの優しげでよく通る美声がこの場に反響し、これにはさすがに京助も頭がくらくらしてきた。


「さあ、私の元へ還り、悲しみに満ちた宇宙から解放されるのです」


 黒々とした闇の中から後光と共に現れたヌヴィエラは、美しい曲線を描くシルエットと、程よく肉が乗った肢体も相俟って、さながら宗教画の如き美しさを感じさせた。

 先程の優しい声で既に思考の一部を奪われた京助は、思わず頭に手を回して抱きついてきたヌヴィエラに身を預けそうになる。


「いい子ね。さあ……私の所へ」

「待て! 待て! やめろ!」

 

 辛うじて動く肩と首を振ってヌヴィエラを振り解くと、京助は大きく息を吐いて奪われた思考を取り戻してから怒鳴りつけるように聞いた。


「お前、ずっと救済とか悲しみがどうのとか言ってたが、やってることの意図も意味が分からないぞ⁉ 俺を何から救済するつもりだ⁉ そしてお前の言う悲しみって何なんだよ! それを理解しないまま救済なんてされたくねぇぞ!」


 一息で言いきった京助は大きく息を吸い込んで頭を振り、シトリンの如き金の輝きを放つヌヴィエラの双眸を見る。

 するとヌヴィエラは聞き分けの無い子供をあやすような笑みを浮かべ、よりゆったりと優し気な口調で語り始めた。


「分かったわ、教えてあげる。私の言う悲しみとは一体何なのかを」




 思い出してごらんなさい? この宇宙は酷い所よ。

 宇宙全土に諍いと怒り、そして憎しみが満ちて多くの連鎖を生んでいる。

 大きなものから些細なものまで、やがてそれらは老若男女、果ては神と呼ばれる存在まで巻き込んで悲しみとなる。

 私はその悲しみを宇宙から取り除くと決めた。この宇宙の病理である悲しみを。


 よく死徒たる私の方が宇宙の病理だと言われるけどそれは違う、本当の病理は〝死〟ではなく悲しみ、私が掴んだこの〝死〟という力は真の病理たる悲しみを癒す薬なの。


 なぜ死が悲しみへの薬になるのか?

 死は全て奪い去ってしまうじゃないかって?


 そうよ、物事には全て終わりがある、その究極系が死。

 そして終わりは悲しみを呼ぶ、どんなに楽しい事も、この上なく喜ばしい事も、最後には必ず終わりを迎える。

 こんなの、悲しすぎるじゃない。

 

 だったらもう、最初から無かったことにすればいい。

 終わってしまう前に、安らかな最後を。

 楽しい事や喜ばしい事も、憤るような事も悲しい事も、全て終われば悲しい事なんて起らない。


 いままでの対処療法とは違う、悲しみに対する究極の薬は私の導く安らかな〝死〟なの。

 

 あなただってそうでしょう?

 お父様とお母様を亡くされたあの日から、ずっと苦しみ続けていたのよね?

 事態が解決したように見えるけど、この悲しみをずっと胸に秘めているのがよく分かるわ。


 そして今、あなたは別の悲しみを抱えてる。

 この時が終わってしまうのが辛いんでしょう?

 大人になる直前の若さと力に満ち溢れた青春の日々がもうすぐ終わりを告げようとしている。

 

 だったらその前にあなたは今の姿のまま、この楽しかった記憶と感覚を保ったまま、私に全てを委ねなさい。

 そして還ってきなさい、この母の元に。

 

 さあおいで愛しい我が子、千道京助(マグナアウル)……。




「……ふざけんな」

「えっ?」


 あまりにも予想外な一言に、ヌヴィエラは心底困惑し、すぐに目線を下に向けた。

 自分が抱(いだ)いていた京助の表情は、母の前で見せる子供の安堵とは正反対の、決して許せぬ存在に対する怒りに燃えているではないか。


「いま……なんと」

「ふざけんなって言ったんだよ!」


 京助の怒りの発露と共に周囲を包んだ黒い空間にヒビが入り、徐々に剥がれ始めてきた。


「初めから無かったことにすればいい? 悲しみに対する究極の薬は〝死〟だ? そんな幼稚な発想でお前は多くの人達の命を奪った事を正当化したのか!」


 京助に纏わりついた黒いものが引き延ばされて千切れかけ、ヌヴィエラは思わず後退する。


「お前の言った通りこの宇宙は悲しみだらけさ! 争いは無くならないし、誰かを平然と傷つける奴はいるし、大切な人と突然永遠の別れになる……どこもかしこも悲しい事まみれ、キリがなくてうんざりだ」

「そうです、私はそれを!」

「けどなァ!」


 拘束から無理矢理足を引き抜きながら京助はヌヴィエラを睨みつける。


「そこで留まってちゃダメなんだよ! いくらだって泣いていい、けど前を向くんだ! 進むんだよ! より良い未来、素晴らしい事が待ってるって信じて!」


 京助は一筋涙を流し、頭を振って更に続ける。


「父さんと母さんの事は未だに思い出すし悔やんでる、あの時に戻れたらって思うよ! けどな、俺が過去に囚われる事をあの二人は絶対に望まない! それに命を賭して俺を守ってくれたのも! 俺に生きてほしかったから! 俺に未来を託したから守ってくれたんだ!」


 万路(かずみち)と美菜(みな)が遺した発展途上の技術や物品の数々に触れ、京助は実感していた事がある。

 二人は自分がこれらを完成に導き、未来へと繋ぐと信じていたんだと。

 それだけに京助は、自分の手前勝手な主義主張のためにヌヴィエラが両親を使ったのが許せなかった。

 

「訳知り顔で語りやがって、お前が父さんと母さんの事を使うのは……絶対に許さない‼」


 左腕に纏わりついた黒いものを引き千切り、京助は更にヌヴィエラに詰め寄りながら胸の中の熱をぶつける。


「お前言ってたよな、全てには終わりがあって、それが更なる悲しみを生むって。だからこそ……全力で! 生きるんだろうが‼」


 右腕の拘束も引き千切った京助は完全に自由になり、若干の恐怖が混じった驚愕の相を浮かべたヌヴィエラへ向けて指を突き立てて言った。


「悲しい事があったって、誰かと一緒に乗り越えればいい! そんな奴らと大きな事を成し遂げて喜びを分かち合って! 楽しい事したりとかとかバカげた事で盛り上がってみたりとか些細な事でもいい! そういうのを重ねて! 悲しみも怒りも楽しみも喜びも全部全部! ひっくるめて抱えて生きていくのが人生ってもんじゃないのかよ‼」


 京助の言葉に熱がこもる度に黒い空間がひび割れて光が差し込み、その光を受けたヌヴィエラは苦悶の声を上げる。


「俺はまだやりたい事がある、やるべき事がある! 誰かと見たい景色も、誰かとやりたい事もある! 過去に囚われてた俺は、その誰かのお陰で未来を信じて進めたんだ! あいつらと生きたい! 未来へ進みたい! だから俺は!」


 振り上げた拳に蒼い炎を宿し、京助は渾身の力でヌヴィエラを殴りつけながら言った。


「まだ終わる(しぬ)訳には行かねぇんだよ‼」


 ヌヴィエラの絶叫と共に黒の世界が完全に砕け散り、眩いばかりの白い光が降り注ぐ。


「ん?」


 白い光の奥から人影が現れ、京助と同い年か少し上ぐらいの青年の姿になりながらこちらへ迫ってくる。


「——ちゃん! これ使って!」

「えっ……なんて⁉」


 青年が投げたものを左手で受け取り、京助は青年に向かって聞いた。


「君はもしかして! おい待ってくれ!」


 青年を呼び止めるより先に、京助の視界は白い光に埋め尽くされてしまった。




「来た!」


 巨蝶と化したヌヴィエラから赤黒い光線が再び放たれ、カプリースの冷気とガディとザリスとジェサムの念力がそれを食い止める。

 冷気が広がって巨大な氷の壁を作り出すもしかし、溶けるでもなく侵蝕されて徐々に劣勢となっていく。


「うう……まずいですわ」

「ボクも年貢の納め時……いやまだだ! 最後まで!」


 後退しながら防御を続けるも、結局侵蝕には抗えず追い詰められてしまった。


「すまない……もう……」


 苦しそうなカプリースの声を聞き、奏音は思わず呟いた。

 

「もう……ダメなの?」


 その瞬間、京助の両眼が大きく見開いて蒼く光り輝き、左手を翳して光線を受け止めて相殺してしまった。


「なっ⁉ 復活した!」


 京助はヌヴィエラ含めた全員が驚く中で立ち上がり、体に入った死徒の因子を振り落としてから大きく深呼吸する。


「……京助?」


 奏音が見守る中京助は右手から七色に輝く光の球を、そして左手から銀と蒼に輝く二つの光の球を出し、胸の前で合成させると、さながら丸盾(バックラー)のような手甲を作り出して右手に装着した。

 それはまるで大型化したアウルレットそのものである。

 

「……」


 無言を貫いたまま京助は大型アウルレットを操作して合計九本にもなるブレードを展開し、それを額の前に持って行き目を瞑ってから静かにこう告げた。


「未来へ」


 どうしてだろうか、皆は不思議とこの言葉に続きたくなってしまった。


「未来へ」


 まずガディが続く。


「未来へ」


 ザリスが続く。


「未来へ!」


 ジェサムが続く。


「……未来へッ!」


 麗奈が続く。


「未来へ」


 林檎が続く。


「未来へ!」


 明穂が続く。


「……未来へ」


 皐月が続く。


「フッ……未来へ!」


 サイが続いた。そして最後に。


「うん! 未来へ!」


 奏音の言葉を受けた京助は腕を回すとアウルレットを腰だめにして、繋いできた言葉を結んだ。


「未来へ翔(と)ぼう!」


 腰だめにした腕を天へと突き出し、京助は自分を変えるための言葉を放った。


「無限光(ムゲンコウ)! 翔ッ来ッ‼」


 アウルレットから目を焼く程の膨大な光が迸るのと、本能的に危険を感じたヌヴィエラが京助目掛けて無数の光弾を放ったのはほぼ同時だった。


「あっ!」

「うっ!」


 アウルレットから放たれる光と、光弾による爆発によって見えなかった前方がようやく見えるようになった頃には、京助が居た所にはクレーターがあるのみで姿は影も形も無くなっていた。


「……」


 京助はどこに消えたのか、結局死徒により跡形もなく消されてしまったのか。

 そんな不安は、林檎の腕の中に居た青蓮が解消してくれた。


「……あっ!」

「おお!」

「あの光は……」


 皆の真上、死の蝶(ヌヴィエラ)が浮遊している所よりも高い場所に、まるで新たな太陽の如き蒼く輝く光がひとつ灯っていた。


「その姿は、まさか死の淵で新しい力を得たとでも言うの!」


 眩い光が徐々に引いて行き、蒼と白と金の三対の翼を持つ青みがかった白金の装甲を持つ梟の戦士がその中から姿を現し、厳かではあるものの聞き慣れた声で告げた。


「父さんが守り抜いた過去(アイン)は、俺が今(アインソフ)として繋いだ……そして今! 俺は更なる力を! その先の力を手に入れた!」


 過去(げんてん)と現在(むげん)、そしてその先の力を手に入れた新たな化身(アバター)の名は?


「俺はマグナアインソフアウル! 未来と希望、そして可能性の化身だ‼」


 無限から出(い)でし可能性の光、即ち無限光(アインソフアウル)。

 京助はそれをその身に宿す奇跡を起こし、見事この世へ凱旋したのである。


「いくら……否定されようが……いくら……壁が立ち塞がろうが! 私の救世は! 止まらない‼」


 ヌヴィエラの翅とマグナアインソフアウルの翼が同時に動き、両者の三度の衝突により最後の戦いが始まった。


「ハァァァアアアアッ!」


 ヌヴィエラの翅から放たれる光弾をマグナアインソフアウルは合計六枚の翼から舞い散る光の羽毛で相殺しながら肉薄し、素早い突きと蹴りを放ってヌヴィエラを吹き飛ばす。


「クッ⁉ うっ!」


 そうしてヌヴィエラが体勢を整える暇も与えず、マグナアインソフアウルの旋回突きとドロップキックが叩き込まれ、手刀によって骨で形作られた翅の一部が切り離され、飛行に於いて大きくバランスを崩してしまう。


「違う……これまでとは違う! 私の力が悉く!」


 ヌヴィエラの全てを終わらせる力がマグナアインソフアウルに全く通じない。

 動揺するヌヴィエラへ、マグナアインソフアウルは白み始めた空を背に告げた。

 

「当たり前だ、今の俺の力は無限の可能性を切り拓く力だ‼ いくらお前が終わらせようとも、何度お前が死を撒き散らそうとも! その度に俺が新しい可能性を切り拓き! 無限の光で道を照らしてやる! そしてこの力があれば……お前を倒す事だって‼」


 両拳の突きからの掌底の三連撃で完全に方向感覚を失った所に、時空移動や重力操作といった様々な超能力を駆使したマグナアインソフアウル渾身の蹴りを喰らい、ヌヴィエラは遂に地面へ叩きつけられた。


「ううぅっ! かっ……くく……うぅ……」


 何とか起き上がろうとしたヌヴィエラだが、ここで体が動かない事に気付いた。

 まるで体に九つの鉛が埋め込まれたかのように。


「体が……うっ!」


 それでも何とか起き上がったヌヴィエラが見たものは、地平線から昇る太陽を背に三対の翼を広げ、右腕を握り込むマグナアインソフアウルだった。


「大無限……フッ!」


 空中で美しい軌跡を描いたマグナアインソフアウルは、左手を突き出してヌヴィエラへ凄まじい速度で向かい、ヌヴィエラは最後の抵抗で自分の体から出た無数の骨から光弾や光線、そして赤い稲妻を放つ。


「ウォォォォォォオオオオオオオッ‼」


 迫り来る攻撃も意に介さず進み、遂にヌヴィエラへマグナアインソフアウルの右手が刺さり、周囲一帯を光と衝撃が駆け巡った。


「梟爪爆身破ッ‼」


 断末魔と共に無数の骨が次々と爆発し、ついに死徒ヌヴィエラは未来の力の前に敗れたのであった。




 地に降り立ったマグナアインソフアウルの翼が消え、周囲に蒼白金の羽毛が舞い踊り、それが曙色の太陽光に照らされて美しく幻想的な景色を作り出す。


「うっ……あはっ! うぅ……」


 羽毛舞い散る景色の中で元の姿に戻り、腹部に大穴が開いたヌヴィエラが最後に残った巨大な骨を支えに地面に座り込んでいた。

 

「私は……悲しい宇宙を……救いたかっただけ……それは間違っていたのですか?」

「俺だって悲しい宇宙なんか嫌だよ」

「じゃあ……どうして?」

「いくら悲しみを否定した所で、それは既に自分の一部なんだ。きっとそれは宇宙も同じこと、しっかりとそれに向き合って乗り越えて行かないと、本当の意味で悲しみは癒えないんだ……お前も自覚があるんじゃないか?」


 それを聞いたヌヴィエラの瞳が見開かれ、そしてしばらくした後、一筋の涙が零れ落ちる。


「どうしてもっと……早く気付かなかったのでしょう……こんな事に気付くまで……私は……罪を重ね過ぎた」


 ヌヴィエラの言葉に、マグナアインソフアウルは振り返って、今にも朽ち果てようとしているヌヴィエラの姿をその目に焼き付けた。


「私は自分の悲しみから目を逸らすあまり……それを宇宙に拡散させしまった」

「死に浸け込まれたんだ。お前の心の奥底の悲しみを、奴らに利用されたのさ……安心しろ、もうお前が悲しみを拡散させる事はない」


 朽ち逝く体と魂を自覚しながら、ヌヴィエラは深い青色をした地球の空へ手を伸ばした。


「同じところに……行けるかは分からないけど……今……行くから……ね」


 崩壊していくヌヴィエラへ、マグナアインソフアウルは敵に告げる言葉を投げかけた。


「もう、夜は終わりだ。そして今、朝が来るよ」


 弔いにも似たその言葉を受けたヌヴィエラは、涙で顔を濡らしながらも唇に笑みを浮かべ、完全に朽ち果てるのであった。


「さあ、最後だ」


 マグナアインソフアウルが空に手を向けると、まるで時間が巻き戻ったかのように崩れた建物が元に戻り、白灰の町は色彩を取り戻して山々の命が再び芽吹き、死んだ筈の真鳥市はあっという間に元の姿を取り戻した。


「ありがとよ……未来の力を」


 元の姿に戻った京助は、右手のアインソフアウルレットを眺めながら呟くのだった。



 

「そうかそうか……そんな事があったのか」


 全て終わった後のウィルマース財団真鳥市支部で、白波博士は十人の話を聞いて少々大げさに頷きながら戦い明けの戦士達を労った。


「君達だけでよく切り抜けてくれた……ありがとう」

「いえ、偶然が重なっただけです」

「偶然が重なっただけであんなに強くなるかね?」

「そーだそーだ! 目を離すと強くなりやがって! 全く羨ましい限りだぜ」


 出会った時は手加減して遊べる相手だったというのに、気が付くとあっという間に自分を追い越して行った京助にサイは少し嫉妬を覚えているらしい。


「まあまあそれは今良いからさ……」

「ていうか、よくヌヴィエラの誘惑を跳ね除けられたよね。同じ目に遭えば……うーん、私でもどうなるか分からないや、正直心を委ねちゃいそう」

「父さんと母さんの話し出されて頭にガーって血が上ったんだよな。それよりも奏音が……あいや、皆がヤバイって必死だったからさ」

「おぉ~、今際に想うのはやっぱり奏音なんだね」

「ちょっ! 皐月ぃ! 茶化さないでよぉ!」


 赤面する奏音と耳の裏を掻く京助に、皆はやっといつも通りの日常が戻って来たのだという気がして、ようやっと心の底から笑う事が出来た。


「そうですか……ヌヴィエラは倒されたんですね」


 メルローは心底安心したような表情を浮かべ、青蓮も笑ってメルローの頬に触れる。


「そういや、こっちはまだ解決してなかったな」


 メルローと青蓮を元の場所に帰さなくてはならない。


「そうだった! 大丈夫なの? 迎えとかある?」

「ああ、実はその……」

「大丈夫だぜ、俺が送り返すよ」

「そうですか! でも私達……」


 何か言いかけたメルローに向けて京助はウィンクを送り、それを見たメルローは驚いたような表情を浮かべ、それから照れ臭そうに笑って首を振った。


「分かってたんですね」

「まあな、もし良ければだけど、ここに少し留まってみないか?」

「留まるなら観光案内出来るけど?」

「美味しいご飯のお店いっぱいありますよ?」

「なんなら私がなんか作ろうか?」


 皆が寄ってくるのを見て申し訳なさそうに首を振り、青蓮の頭を撫でてから言った。


「ご厚意は嬉しいですけど、私の仲間や部下達がヒラロで戦っています。すぐにでも帰らないと」

「そうか、じゃあ広い所に行こう、見送るよ」

 



 財団真鳥市支部の中庭に向かった一行は、京助が両手を翳して空間を歪め、巨大な球上の空間の歪みを作り出すのを見守った。


「さ、これで帰れる筈だ」

「本当に……ありがとうございました。何と言って良いやら」


 女子(ディーバ)組はメルローへ口々に餞(はなむけ)の言葉を送り、笑顔で青蓮と触れ合って別れを惜しみ、ある程度それが一区切りついたのを確認した京助は、メルローに声を掛けた。


「なあ、少し青蓮を貸してくれないか」

「ああ、いいですよ」


 メルローから青蓮を受け取った京助は、屈託のない笑顔を向ける赤ん坊を見て、思わず顔を綻ばせる。


「なんかいざ向き合うと、言いたい事吹っ飛んじゃったな」


 不思議そうな顔をする青蓮の頬を撫で、京助は思い出したかのように言った。


「残酷な奴にも、臆病な奴にもなるなよ。誰かを憎んでもいいけど、やりすぎちゃいけない、なるべくいろんな場所のいろんな奴と会って友達になれ。そしてなるべく楽しく幸せに生きる事……またいつか会おうな。それじゃあ返すよ」


 京助は青蓮の左手に触れてからメルローへ青蓮を返し、小さく手を振って歪曲空間に向かう二人を見送ったのだった。


「うーん、これにて一件落着かな!」


 一時は真鳥市壊滅という事態まで行ったが、無事に倒すべき敵を倒して守るべきものは守る事が出来た。


「うーん、落着と言えば落着だけどさぁ」

「うん? どうしたの明穂?」

「青蓮君って……どうして京助君の家に来たの?」

「あぁ~確かに、そもそも青蓮って何者?」


 皆が疑問を口にする中、林檎が京助の方を指差す。


「みんなちゅーもーく、なんか一人分かってそうな奴が居まーす」


 見れば京助はなんだか嬉しそうな笑顔を浮かべて笑っているではないか。


「え? 分かってるの?」

「そういやヌヴィエラの最初の襲撃の前にボクに何か言いかけてたよな」


 皆の耳目を集めながら、京助は白い空間に居たあの青年の事を思い出していた。


「じいちゃん、か……フフッ」


 彼は確かに自分をそう呼んだ。彼の正体はきっと。

 

「え、今なんて?」

「俺さぁ! 今新しい目標が出来たんだ!」


 急に宣言した京助に驚く皆の様子に構わず、京助は構わず続ける。

 

「宇宙に……人類を宇宙に連れて行く、その手伝いがしたいんだ。今色々やってるけど、並行して頑張ろうと思う。だから応援してくれないか?」


 京助の宣言に対し、奏音が前に出てその手を握った。

 

「もちろんするに決まってる、私だけじゃなくて皆もしてくれると思う。そうだよね?」


 皆も仕方ないなという風に頷き、それを見た京助と奏音は微笑む。


「もしかしたら手伝えることあるかも? じゃんじゃん私達をの事、頼って」

「……ありがとう」


 お互いに微笑んだのち、奏音は率直な疑問をぶつけた。


「ところで結局さ、青蓮君って何なの?」

「内緒」

「は?」


 京助の姿がパッと消え、振り返ると庭園の奥の茂みから顔を出している京助が居た。


「あっ! 本当に教えない気だな!」

「はぁ⁉ そんな事許されると思ってんの!」

「京助君! 戻って来なさい!」


 引き留める皆へ舌を出して挑発し、京助は背を向けて逃げ出した。


「京助さん! 待って!」

「コラァ! センキョー! 事の真相を教えんかい!」

「君だけ知ってるなんて許さないぞアウリィ! 戻ってこい!」


 皆から逃げながら京助は高笑いし、背から翼を広げて大空へ飛び立つ。


「ちょっとぉ! 戻って来なさいよ!」

「ハハハハハハハハハハハ!」

「京助~っ!」


 あと数ヶ月で青春という時間は終わってしまう、だがそれは新たな世界の幕開けでもある。だから恐れる事も憂う事もない。

 何故なら京助には共に戦った仲間や、大切な友人達といった者達がついているからだ。

 皆と共に進み、切り拓いていく未来を想像しながら、京助は青空へと手を伸ばすのであった。




青春Double Side 完


To Be Continued Never Ending Journey.

いかがでしたでしょうか、これが青ダブの真の最終回でございます。

元々マグナアインソフアウルは泡沫のように思いついたネタだったのですが、もうやるにはここしかない、その思いからやり切っちゃいました。

今回はラストに相応しい凄まじいスケールでお送りしてみましたが楽しめたでしょうか?

壊滅する真鳥市に相手が死徒、それでも諦めない京助達。彼らには不屈の心が似合います。

いずれ青蓮の活躍が描かれる事はあるかも? 

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ではまた、ハイポリアで!

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お疲れ様でした! 青蓮の正体……(ニヨニヨ) 奏音たちが気づく日が楽しみです。
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