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青春Double Side  作者: 南乃太陽
決戦編
52/53

地球の夕暮れ

ジャガック基地艦を壊滅させた矢先、クドゥリが乗り込んで来た!

がしかし、サイの活躍によりあっさり鎮圧され、そのまま囚われる事に。

ガディとザリスとジェサムを連れ戻しに来たというクドゥリは、これまで三人が秘めてきた思いを知ることになり、ジャガックへの忠誠心が揺らぎ始める。

そんなクドゥリへと京助がした提案とは一体?

 ゾゴーリ・ジャガックは尻尾巻いて逃げ出し、ゲブル・ザザルバンとセ・ルゲン、そして俺の仇であるイダム・ジャム=ガトローダは死に、ジャガック基地艦も完全崩壊した事で、一旦全ての戦いに区切りがついたかに思えた。

 だがまだ終わっていなかった、これは始まりに過ぎなかったんだ。

 最後にして、俺がこうなった戦いの、ほんの始まりに。


 火星での戦いを終えたマグナライジングアウルは、自分がどれほど早く移動できるか試す為に敢えて瞬間移動せずに己が力のみを頼って地球へと向かっていた。

「地球から火星ってどれぐらいだっけ?」

『十三光分と言われています』

「光で十三分か……そんじゃ光と競争だ!」

 黄金の翼を背にピッタリつけると速度を増し、マグナライジングアウルは太陽系を突っ切っていく。

「見えたぞ地球!」

 あっという間に大気圏を抜けたマグナライジングアウルは京助の姿に戻りながら真鳥市の上空へ向かい、白昼堂々多くの真鳥市民の前で着地して見せた。

「やあ! どうもどうも!」

 黄色い歓声と共に多くの人々が京助に寄って来て、数年来の因縁を解消した事ですっかり機嫌が良くなった京助はファンサービスを兼ねたパフォーマンスをして見せ、念力で複数のサインを書いていると電話がかかって来た。

「ちょっと失礼……はいはい~」

『今どこに居る⁉』

 飛び込んで来た奏音の声に、何やら只事ではない事が起こった事を即座に察した京助は指を鳴らして静かな場所に移動した。

「どうした? 何かあったか?」

『戻れるならすぐに来てほしい』

「戻る戻るすぐ戻るよ、どうした? 緊急事態か?」

『いやそのぉ……なんと言うか……とっても説明しにくい状況と言いますか……』

「ん? 緊急事態じゃないの?」

『まあ確かに緊急事態なんだけど……』

 ここでスマホが取られたのか、通話の相手が皐月に変わった。

『とにかく見ればわかるから。すぐ帰って来て』

「ああ……分かった」

 何かよく分からないが、とりあえず複雑そうな事態が財団で起こったらしい。

 京助は大きく息を吐くと、ウィルマース財団の真鳥市支部へと急ぐのであった。


 スーツに使われるCエネルギーの反応を頼りに皆を探していると、どうやら皆はメディカルセンターの一室に集まっているらしい事が分かった。

「ここって確か……あの三人の?」

 ガディとザリスとジェサムが検査と必須手続きの為に与えられた地球での仮住まいとなっている所である。

「……まさか!」

 あの三人絡みで緊急事態と言えば、もはや一つしかないだろう。

(クドゥリ! 何で地球に居るんだ⁉)

 そんな疑問よりも奏音達の危機の方が大事である。

 京助は半ば蹴破るように扉を開けた。

「おい皆! 大丈……」

 勢い良く扉を開けた京助の足に何かがぶつかり、音を立てながら部屋の片隅に転がっていく。

「……夫……あん?」

 蹴飛ばしたものを目で追うと、それは戦闘用のヘルメットであった。

「えぇ……何コレ?」

 蹴飛ばしたヘルメットから部屋の状態に目を移した京助が見た者は、確かに非常に説明しにくい状況だった。

 京助が予想していた通り確かにクドゥリはここに来ていて、部屋は滅茶苦茶に荒れており、三姉妹が部屋の隅で固まって震えていた。

 だがそれ以外が予想外である。

「なんだこれ……何が起こったんだ?」

「おお、帰って来たかアウリィ。ほら見た事か、ボクの言う通りだっただろ?」

「……クッ」

 クドゥリはサイに組み伏せられており、それを取り囲むような形で奏音達五人と、心なしか気まずそうなガディとザリスとジェサムが立っていた。

「なぁ……誰か俺が火星に行ってる間に何が起こったんだ?」

「火星⁉」

「火星に行ったの?」

「ああ、火星でイダムを倒してきた」

「何だと⁉」

 こちらに向かって食って掛かろうと半身を上げたクドゥリの頭をサイが一切の躊躇なく床に叩きつけ、京助達は思わず顔を顰めた。

「いい加減にしろ、次抵抗したらボクの堪忍袋の緒が切れちまうぞ」

「あの……サイさん」

「ああ分かってる、あんま手酷く痛めつけるなって言いたいんだろ? でも忘れるなよ、君達三人にとってはこいつは確かに姉だろうが、今の君達にはこいつは敵なんだからな」

「……はい」

 もう訳が分からず限界を迎えた京助は、半ば叫ぶように言った。

「なあ誰か! 説明してくれ!」

「ああ、そのぉ……」

「こいつのせいか⁉ こいつのせいで説明できないのか⁉ オーケー!」

 京助がクドゥリを指差すと、ひとりでにクドゥリの周囲の空間が切り取られ、空間隔離による簡易的な牢屋が形成された。

「貴様マグナアウル‼ 何をした!」

 クドゥリが隔離した空間を何度も叩くも、クドゥリの力ではそれを破る事が出来ない。

「よし……とりあえず報告会と行こうか」

「う、うん……そうだね、帰って来たばっかりだけど」


 囚われたクドゥリはそのままに、皆はパイプ椅子に座ってそれぞれが宇宙行で経験した戦いについて報告をする事になった。

「えっと、ウチら三人はね……なんか科学担当とかいう幹部を倒したんだけど」

「名前はザザルバンとか言ったかな?」

「ザザル様⁉」

「何だと‼ ザザルを倒した⁉」

 隔離空間の壁を叩くクドゥリを見て、六人は互いの顔を見合わせる。

「ザザルってそんなにすごいの?」

「聞いたことない幹部ですけど」

「お前なんか知らない?」

「いや~、ボクも名前しか知らない」

「じゃあ君達三人は?」

 クドゥリと同じく驚いていた三姉妹に、京助は水を向けた。

「ザザル様は……私達を作った方です」

「お姉様の遺伝子を基に、クローン技術で私達三人を作りました」

「それだけではありません、ジャガックが持つ技術は、殆ど彼の頭の中で生み出されていると言っても過言ではありません」

「へぇ! そうだったのか」

「そんな存在を倒したんなら、今回の作戦って大収穫じゃない?」

「確かに、それにしてもよく三人で倒せたな」

「まーねぇ」

「どうって事なかったよ」

 鼻を擦って胸を張る林檎と、前髪をかき上げて見せる皐月に、明穂が苦笑いを浮かべながらツッコミを入れる。

「いやいや結構大変だったでしょ……」

 半ば談笑のような報告会を聞いていた隔離空間に閉じ込められているクドゥリは、この憎き六人の仇敵が自分のいない間にジャガック基地艦を襲った事や、ザザルの死という大打撃を齎した事に一人衝撃を受けていた。

(まさか場所を特定するとは……この事をボスは知ってるのか⁉)

 だが今のクドゥリには何もできない、先程から秘かに簡易ワープを試しているものの、全く起動しないのだ。

(仕方ない、今のうちに奴らから情報を引き出して……そこからでも遅くはない筈だ)

 ひとまず情報を得るべくクドゥリは一旦抵抗を止めた。

 その後とんでもない事が発覚するとも知らずに。

「そっちの二人はどうだった?」

「私達も幹部を一人倒しましたよ」

「フフン、私ね……京助の敵討ちしてきたんだ」

「え? 誰?」

「ルゲンだよ」

「……あぁ! あいつか! 二人でやっつけたの?」

「ええ、結構危なかったんですが、奏音さんが助けてくれました」

 クドゥリは目を見開いて驚いた、幹部の中では大して仲が良くなく、むしろお互いに嫌い合っていたと思うぐらいの関係だったが、死んだとなると話は別だ。

(残った幹部は私とイダムだけだ。待てよ、となるとイダムの相手は……)

 クインテットが二つに分かれたのなら、残るのはこの男しかいない。

「てことは、あっちに居た幹部全員壊滅した?」

 クドゥリを含め、この場に居る全員の視線が京助に集まる。

「仇は……討てたの?」

 奏音の問いに京助は、目を細めて笑いかけながら答えた。

「過去にけじめを……つけてきた」

 一気に周囲に安堵感が広がり、奏音が京助の手を取って涙を隠すような笑顔を浮かべ、何度も頷きながら無言で京助の健闘を称えた。

「俺の激闘、聞きたい?」

「ああ、そういえば火星に行ったって言ってたっけ?」

「確かに、どんな経緯で火星に行く事になったのか気になるな」

「了解、じゃあ俺がどんな激闘を繰り広げたのか……皆に教えてあげようじゃないか」

 そう言って京助は殆ど脚色無しでイダムとの壮絶な戦いを語って聞かせ、その壮絶な戦いにこれまで一切興味なさげにしていたサイも興味津々といった様子で聞いていた。

「てことは二人は飛びながら火星に行ったの?」

「うん、殴り合いながらな」

「うーむ、地球(ここ)から火星ってどんぐらいの距離あんだろ? 具体的な数値が分からん。サッキーわかる?」

「最も近づいてだいたい五千五百キロ、最長距離で四億」

「億⁉ 億単位なんだ……」

「寒かった?」

「ああ、滅茶苦茶寒いからさ、攻撃喰らった時は痛ぇのなんの……まあでも、俺が勝ったけどな」

 眩しい笑顔を浮かべて両手でサムズアップをして見せる京助に、これまでおっかなびっくりといった様子だったガディとザリスとジェサムが口を開いた。

「あの……愚問かもしれませんが、あなたは死徒の力を完全に開放したイダム様に勝ったのですか?」

「もちろん、あいつ赤い電撃と黒い炎まで使えるようになってやがった」

「わぁ……姉さん以上に使いこなしていますわ」

「私の時もそうですが……よくもあんなものに一人で立ち向かって勝てましたわね」

「いや、俺一人じゃ正直危なかった……父さんが助けに来てくれたから無事に勝てたみたいなもんだったし」

「お父さん来てくれたんだ」

「一緒にリベンジ出来てさ、こんな事今後絶対できないって思ってたから……いい戦いだったかもな」

 京助の笑顔は達成感に満ち溢れつつ、どこか寂しげであった。

「それが数十分前の出来事なんだけどさ……結局こいつが居る理由は何?」

 京助は自分の後ろを指差し、差されたクドゥリは威嚇するように京助を睨みつける。

「ああ、実は私達もよく分かって無くて……」

 ガディとザリスとジェサムが気まずそうに顔を逸らしたのを見て、耳の裏を掻きながらサイが前に出た。

「この件についてはボクが説明しよう。一応護衛の責任者だから」

 

 クインテットの五人が帰還ユニットを使って財団に無事帰還してしばらく経ったあたりのタイミングで、ようやく三人の居場所を見つけたクドゥリがウィルマース財団真鳥市支部に襲撃をかけてきた。

「それで被害状況は……」

「うーん、軽症者数名と、ここの窓ガラスだけ」

「……は?」

 明らかに被害が釣り合っていない、クドゥリの実力なら大打撃を与えられた筈だ。

「なんでそんなに被害出てないの?」

「こいつそんなに弱い訳じゃないでしょ?」

 弱いと言われたことに対する抗議か、クドゥリが隔離空間の壁を強く叩いた。

「あのな……こんな奴に手間取る程ボクが弱いって言いたいのかね」

 こんな奴呼ばわりされたが、相手が相手であるためかクドゥリは睨みつけるだけで抗議しなかった。

「んじゃ結局目的は聞いてないって事?」

「聞く前に君達が集まって来てしっちゃかめっちゃかになったんだ」

「護衛の責任者って言うならしっかり目的聞き出せよな」

「あのね、ボクは強いが万能じゃないんだよ」

「まあ別に……今から何でここに来たか事情聴取すれば良くない?」

「まあそれもそうか、どうする? 手錠と噛みつき防止のアレつけて専用の独房にぶち込んどく?」

「どこまで私を辱めれば気が済む!」

「気が済むまでに決まってんだろボケが。ジャガックってだけで理由は十分だ」

 激戦の疲れを一刻も早く癒したいのにも関わらず、厄介事を持ち込んで来たクドゥリに京助は苛立ちを隠せない様子である。

「あぁ……京助君、敵とはいえ一応あの子達のお姉さんだからさ」

「それに今京助の能力で手も足も出ない状況なんだから、改めて拘束器具とか要らないと思うよ」

「そうか、じゃあ万一ここで暴れ出されても困るし……一応取調室に移動するか」

 皆の同意を得た京助は、財団に連絡を入れてからその場を移動するのだった。


 隔離空間に封じ込められたまま対面に座るクドゥリを見て、京助はつい最近こんなことがあったと思い返しながら、隣のサイと後ろに居るガディとザリスとジェサムを見る。

「それじゃ始めます……そっちは準備大丈夫?」

 京助は別室で待機している五人に確認を取った後で、改めてこちらを睨みつけるクドゥリの方を見据えた。

「さてと、何故お前は地球に来た? それもたった一人で」

「そうだね、何故兵士や部下も引き連れず一人なんだ?」

 クドゥリは相変らずこちらを睨みつけていたが、隠していても意味がないと感じたのか、大きく息を吐いて答えた。

「連れ戻すためだ、あの子達を」

「ふーん……まあ大方そんな事だろうとは思ってたけどな」

「答えろ、あの子達は自分の意思でここに居るのか?」

「なあおい、聞いたか?」

 京助は半笑いでガディとザリスとジェサムの方を振り返ってから言った。

「どうやらこいつお前たち三人の事、何も知らないらしいぜ」

「……いつか話すべきだったわね」

「これに関しては私達が……」

「いいや、お前たち三人は悪くないぜ、俺はこいつに虫唾が走ってる」

 京助はクドゥリに指を突き付け、ガディとザリスとジェサムが口を覆い、サイはこんなにストレートに言うのかと感心してニヤリと笑う。

「何だと?」

「この期に及んで姉貴面してるお前が滑稽で滑稽で」

「お前に何が分かるマグナアウル! 私がどんな思いでここへ来たと思う!」

「お前こそあの三人の何が分かるんだ‼」

 机を拳で殴りつけて京助はクドゥリへ怒鳴り返し、一歩も引かない構えを見せた。

「お前あの三人が地球に居た時何があったか知ってるか? 言えるのか?」

 そう言われてクドゥリは思わず口籠る。定期連絡で満足していた為か、そこまで深く知らなかったのだ。

「あいつらはな……隣に住んでる奴と仲良くなったんだよ、お前と組織と友情の板挟みになってたんだよ。その苦しみを……葛藤を! お前は知ってるのか⁉」

 知らなかった、ずっと自分に似て組織に忠実な存在だと思っていた。

「そうだったのか……今の話は本当か?」

 全員俯き気味がながらも、ジェサムが頷いた事で本当だと確信した。

「そんな……そんな事で責めたりしない!」

「それだけじゃねぇんだよ、こいつらはジャガックに不信感を持ってるって知ってたか?」

「不信感……だって?」

「ああそうさ、お前の扱いの事でな! 知ってたか?」

 クドゥリはジャガックに対し、自分の待遇で不満を抱いた事など一度もない、むしろ自分の帰るべき場所とすら思っているぐらいだが、一体ガディとザリスとジェサムは何が不満なのだろうか。

「知らないだろうな……お前はずっと自分の事しか見えていなかった」

「違う……」

「この三人を守りたいと宣いながら、それは結局口だけだった」

「違う!」

「お前は家族という形に囚われるあまり、大切なものを見落としていた、いいや見ようとしなかったんだ! お前が後生大事にしていたのは三人の妹達ではなく、失った家族という幻想だけ」

「お前に……」

 クドゥリを閉じ込めている隔離空間の中の空間が焼け焦げ、空気中のプラズマが爆発的に増殖する。

「何が分かるんだッ‼」

 クドゥリの体からプラズマの槍が射出され、その全てが前に座る京助に向かうも、空間を遮断している層を破ることが出来ず槍は全て粉々になってしまった。

「お前の事なんて微塵も分からないし分りたくもない……ただな、家族の大切さなら誰よりも分かってるつもりだ」

 そう言われては返す言葉も無い、京助から家族を奪ったのは他ならぬ自分達であり、直接的な下手人は自分の師であるイダムだ。

「お前が死徒の力を得て俺と戦ってダウンした時、ゾゴーリ・ジャガックはお前の心配なんか一切せず、自分の指示に従ったことを真っ先に喜んだ……それを見たあの三人はジャガックという組織に対して不信感を抱いてる! 他ならぬお前を心配してな‼ 知らなかっただろ?」

 京助の言う通りだ、クドゥリはそんな事を全く知らなかった。

「ボスが……そんな事を?」

「お前のボスはお前の事なんて屁とも思ってない。自分に妄信的に従う多少強いだけの超能力者だから目をかけてるだけなんだよ、ただ体よく利用されてるだけだ!」

「そんな……ボスが」

 クドゥリは信じられなかった、ゾゴーリは帰る場所の無いクドゥリに居場所を与え、特別に目を掛けて貰っていたのは薄々感じ取っていた。

 それだけにそんな事があったとは信じられない。

「いいや……嘘だ……嘘だ! ボスが……ゾゴーリ様がそんな……」

 冷や汗を浮かべながら半ば譫言のように京助の言葉を否定しようとするクドゥリを見て、サイは溜息をついて首を振って両手を上げ、京助は机を殴りそうになるのを堪えて怒鳴った。

「なんでまだ分からないんだよ! じゃあ教えてやるよ! ゾゴーリ・ジャガックが基地襲撃の時何したかを!」

 そういえばそうだった、今まで目まぐるしくいろんな出来事が起こっていたせいで失念していたが、ゾゴーリの安否はどうなったのだろうか。

「全部を見捨てて逃げ出したよ‼」

「……ボスは生きてるのか?」

「ああそうさ、確かに組織の長は真っ先に生き延びる事を考えるべきだ……だがお前に連絡の一つでもあったか?」

 もはや何も言えなかった、返す言葉もなくクドゥリは俯くしか出来なかった。

「ゾゴーリ・ジャガックとお前の三人の妹達……どっちが本当にお前の事を考えてるかもう分るだろ?」

 確かに京助の言う事に理があるというのは、クドゥリとしても理解している。

 だがガディとザリスとジェサムの内に秘めた思いと、知らなかったボスであるゾゴーリの一面を一度に知ってしまったことで、半ば混乱状態になっていた。

「お前はこの子たちの事をずっと想って行動してたって言ってたよな? ああ、その思いは確かに本物だったかもしれない、家族に対する思いは」

 俯くクドゥリに対し、京助は更に言葉をぶつけていく。

「でもな! こんなの家族でも何でもねぇ! 家族ごっこしてるだけのお飾りの人形と子供だ!」

「あの子達は人形じゃない!」

「だったらもっと腹割って話せるような環境を作れよ‼ 本音を曝け出せるような関係性を築けよ! お前の心配と! 組織への不信感と! 行き場のない思いと! 地球での友情で! どれぐらいこいつらの心がすり減って疲弊したか! お前には想像つくかよ‼」

 クドゥリは顔を上げて三人の妹達の顔を見ようと試みたが、どうしても顔が上がらない。

 京助の言う通り、自分では妹達を思っているつもりだったかもしれないが、それは本当につもりだけであって、クドゥリはガディとザリスとジェサムの置かれている状況や、心境についてあまりにも無知であった。

「お前はまだいいよ……どんな苦労したかは知らねぇけど、故郷を出て色々やってた時期があるんだろ? でもあいつら三人は違う。ジャガック以外の世界を知らないんだ! お前が……たった一人の家族であるお前がだれよりも周りに気を配って、助けてやらねぇといけないんじゃないのか?」

「……」

「家族家族って、お前は言ってるけどな……一度でもあの三人の心に触れようとしたことなんてなかっただろ? そんなもの所詮上辺だけの家族だ、それを今更姉貴面して新しい道を歩み始めた三人の邪魔しようってんなら……その時は俺が絶対許さねぇ」

 もはやガディとザリスとジェサムは自分の手を永遠に離れてしまったのだろうか。

「私は……また……」

 また家族を失ってしまった、だがしかしこればかりは仕方ない、家族にとって大切な事を分かっていなかったせいだ。

「まぁ、アウリィが色々言った通りなんだけどさ」

 ここでようやく黙って聞いていたサイが口を開いた。

「君さぁ、何か迷ってるよね?」

 目が眩むほどの深紅の髪をかき上げながら、まるで全てを見透かすような口調で言ったサイにクドゥリは不気味なものを覚えた。

「こんな見た目だけどボクは傭兵やってて長いからさ、戦い方でそいつが何考えてるかとかだいたいわかっちゃうんだよ。君は何かに迷ってる、迷いを抱えてる、そうだろ?」

 イダムにもそう言われた、確かに自分でもなにかままならない思いを抱えているように思うが、それが何かはよく分からない。

「今君には転機が訪れようとしている、人生の転機がね」

 ニヤリと笑って顔を近づけるサイに、クドゥリはこれまで言われたことを振り返る。

「このままジャガックという泥船に居座り続けて、いざとなったら部下を簡単に切り捨てる船頭と共に水底に沈むか、それとも勇気を出して新しい道に進むか……さあどうする? バーニャラ・クドゥリ?」

 そんな事を言われても、今更ここまで沈んだ状態で果たしてどうにかなるのだろうか。

「まあ一つ覚えておいてほしいのは、こういう転機は滅多に来ないって事さ。どこにも居場所がなくなって、野垂れ死にかけてた没落貴族の娘が用心棒やってた荒くれ者に拾われて、新たな居場所として宇宙を股にかけるギャングに入る……なんて事ぐらい珍しいよ」

「私の事だろうそれは。だがしかし……」

「なんかコレ……メンタルカウンセリングとか人生アドバイスみたいになってないか?」

 頬杖をつきながら京助がそうボヤき、サイは肩を竦めて見せる。

「まあいいや、お前がジャガックから足を洗うのを迷っているとしてだな……何を義理立てしてるんだ?」

「ボスは私に居場所を与えてくれたんだ、どこにも行く当てのなかった私に……」

「でもそれは昔の話だろ? 今はどうだよ? お前はもう見捨てられたも同然だぞ」

 京助の言う通り、ゾゴーリはこちらに連絡や伝言すら残さず今どこに居るかすら見当もつかない。

 これは確かに見捨てられたも同然かもしれない。

「ここ最近のお前らって……全然成果を上げれてなかっただろ?」

「それは誰のせいだと思って……」

「当たり前じゃねーか、自分が住んでるところに変な奴らが来たら追い払うのが普通だろ?」

 そう返されたらぐうの音も出ない。

「こいつに聞く限りゾゴーリ・ジャガックって……その~自己中心的で癇癪持ちなんだろ? 成果を上げることが出来てなくてパワハラ受けてたんじゃないのか? パワハラってわかる?」

 なんだか京助の言う通り人生相談めいてきた。

「それぐらいわかる……確かに厳しい叱責を受けた事もある、だが裏社会では普通の事だろう?」

「まず裏社会に居るのが普通じゃないって事に気付こうね」

「裏の極みみたいなお前が言うなよ」

「それは今言うなよ。話を戻すと嫌な思いした事ぐらいあるだろ?」

「それは確かに……大きな声では言えないが、肉体関係の強要もあった」

 それを聞いたサイの目が大きく見開かれ、片手で口を押えて何かを必死に訴えかけるようにそこらじゅうを指差し、察した京助は空間をこの先のトイレに繋げてやると、サイはそこへ思い切り吐瀉物をぶちまけた。

「信っじられねぇ! あのクソババア何考えてんだ! こんな若い子相手に!」

 よっぽど気持ち悪かったらしく、サイは目を充血させてもう一度吐き出しそうになっていた。

「マジで信じられねぇあの老いぼれババア! 自分の年ぐらい考えろってんだ‼」

「お前も大概年食ってるだろ」

「ボクは事情で年を取らなくなったんだ! ()()みたいな若作りとは違う! うぅ……寒気寒気……気持ち悪ィ……」

 かなり思い切ったカミングアウトにガディとザリスとジェサムも驚きと共に嫌悪感を露わにしたっ事で、クドゥリもようやく自分が置かれていた状況が異常だったことを認識し始めた。

「まあちょっと脱線したけどな、今お前が居るのは三つに分かれた岐路なんだ」

 京助が三本指を立てながらクドゥリに説くように話し始める。

「一つはお前を見捨てたボスについて行くか」

 薬指が折られて残った二本の指を立てて続ける。

「そしてもう一つは、また孤独にどこかへ放浪の旅を続けるか」

 最後に残った人差し指を振りながら、京助は強調するように声のトーンを落としながら言った。

「最後の道は……本当にお前を思ってる奴らについて行き、支えてもらいながら贖罪の道を歩む……この三つのうちどれかだぜ」

 最後の道を聞いたクドゥリは、驚いたように目を見開いた。

「贖罪って……お前、私を殺さないつもりか⁉」

「それはお前次第だよ」

「それは分かってる! だが……前までのお前なら問答無用で私を()りに来ていただろう? 何故だ⁉ どういう風の吹き回しだ⁉」

 左右で異なる色の瞳を見開いてこちらに迫ろうとするクドゥリに対し、京助は腕を組みながら椅子に体を預けて、まるで過去を懐かしむかのように語り始める。

「色々あってな、俺も変わったのさ。確かに今でもジャガックの事は憎いし、一刻も早く出てってもらいたいと思ってるよ」

 耳のインカムに触れながら、更に京助は続ける。

「でもな……改心や更生のチャンスを潰すのは何だか違うように思ってな、それより何より無暗に命を奪いたくない」

 ジャガックの恐怖の象徴にして、何度も自分を死ぬ直前まで追い詰めた男からこんな言葉が出るとは思わず、クドゥリは全ての思考が停止してしまう。

「人は変われるかもしれない……俺のニセモノが現れた時から薄っすらそう思うようになってな」

 あの憎悪の塊のような千道京助(マグナアウル)が変わったのなら、自分も変われるのかもしれない、そんな考えをかき消すようにクドゥリは首を振って項垂れる。

「なんだ? なんで首を振った?」

 サイにそう問われたが自分でもよく分からない、何が自分にブレーキをかけてしまうのだろうか。

「何か踏ん切りが付かない事があるのか?」

「お前の言う通り……私だって真に私を思ってくれる存在の近くに行くべきだと分かっている。だが……どうしてもボスへの忠誠心が断ち切れない」

 サイは溜息を吐いて後ろに居るガディとザリスとジェサムを見て、三姉妹の方もどうしたものかと困り果てた表情になる。

「ままならないね、人の心は」

 皆が匙を投げようとしている最中、京助はインカムを押さえながら顔を逸らした。

「なぁ、今からものすごく突飛な提案をするけど、怒らないで聞いてくれよ」

『突飛? 突飛ってどういうふうに?』

「ちょっと聞いてて」

 クドゥリへ向き直った京助は咳払いをして姿勢を正して口を開いた。

「クドゥリ、提案がある」

「提案? 何をするつもりだ?」

「俺と……決闘しないか」

 文字通り突飛な提案に、モニター越しに見ている五人やガディとザリスとジェサムだけでなく、隣に居たサイまでもが「何を言ってるんだこいつは」と言わんばかりの視線を浴びせる。

「……決闘?」

 あまりに突飛すぎるせいか、クドゥリですら困惑している。

「お前みたいな奴の場合、言葉より剣を交えた方が早いだろ?」

「まあ……確かにそうだが」

「剣を持っての戦いの最中、自分を改めて見つめ直す。その相手に俺がなってやるって話だよ」

 何を言っているんだと思ったものの、心の奥底では抗しがたい感情が湧き上がってくる。

「お前の迷いと悩み、俺がスッパリ断ち切ってやる。どうだ? 悪い話じゃないだろ?」

「……いいだろう、私に付き合う覚悟をしているというのなら、それに応えるべきかな。このバーニャラ・クドゥリ、マグナアウルに決闘を申し込もう」

 こうして突飛な提案は受け入れられ、周囲の人々はこの提案を実現するべく奔走を始めるのであった。


 クドゥリが手錠を掛けられて独房に入れられた後、一息つくべく談話室に向かった京助を奏音が待ち構えていた。

「おう、お疲れさん」

「お疲れさんじゃないよ、あんたが一番疲れてるでしょ」

 奏音が用意していた緑茶を受け取り、京助は飲み干してから椅子に座った。

「人生の仇との戦いを終えて火星から帰ってきたらコレだよ? 大丈夫?」

「何言ってんだよ、俺はまだ元気モリモリだぜ」

 両腕を上げてダブルバイセップスのポーズを取って元気な事をアピールする京助だが、奏音はまだ湿った視線を送り続けている。

「無理する癖、直ってないね」

「無理してないって」

「してる」

「してない」

「そういうのがしてるの~」

 奏音に指で脇腹を突かれながら、京助は自分の脳がセロトニンを大量に分泌しているであろうことを自覚した。

「今ので疲れが全部吹っ飛んだ」

「は……はぁ⁉ バカじゃないの?」

「これぐらいのメンタリティじゃなきゃ世界は守れないさ」

「むぅ……」

 不満げに頬を膨らませる奏音の肩を、京助は笑いながら抱き寄せた。

「本当は帰ったらお前と死ぬほどイチャつきたかったけど、ちょっとお預けになりそうだな」

「じゃあそれここでやっても……いや待って違う」

 奏音は思わず漏らした心の声に口を押さえ、それを聞いた京助は大変満足そうな笑みを浮かべて奏音を抱きしめる。

「俺は良いよ? でもアナタこんな公の場所で耐えられるの?」

「た……耐えられません」

「じゃあ()イチャぐらいで」

「うん……わかった」

 京助と奏音は、しばらく密着しながらお互いの疲労感を解消するのであった。

「なんか……うまい事はぐらかして躱された気がする」

「そんな事ないない」


 それから数時間後、真鳥市支部の敷地内で十分な広さと万全の対策が敷かれた闘技場が展開され、クドゥリもそこへ移された。

「まあ無いとは思うけど、万一でも脱走したりその意思を見せたりしたら、決闘立会人のボクが相手になるからそのつもりで」

「今更逃げ出したりなぞしないさ、そんな事をしたとて意味がないからな」

「決闘する奴より弱い立会人もどうかと思うけどね」

 暗に自分はマグナライジングアウルより弱いと漏らした事に対し、クドゥリは驚いてサイの方を見た。

「へぇ……お前がそんなことを言うとは意外だ」

「なんだ? 君はボクは自分を宇宙最強だと信じて疑わない馬鹿だと思ってたのかね?」

「馬鹿だとは思っていなかったが、てっきり自分を最強だと思っていると」

「ボクは他者と自己の評価は正確になるように心がけてる」

「自信過剰ともいえる発言は、三万年に渡る経験に裏打ちされたものだったわけか」

「そういうこと、そしてここしばらくはボク以上の逸材に出会えていなかったが、彼はすさまじい力を持ってる」

「伸びしろというやつか」

「そうだね、いずれ神々の領域セレスティアル・ディメンションに至るかも……」

 宇宙の中でも指折りに実力者が、そんな太鼓判を押す存在とこれまで互角に渡り合ってきたのかと思うと、なんだか畏れ多いようでいて首筋にゾワゾワ来るような興奮が止まらないという奇妙な感覚がクドゥリの中で駆け巡る。

「お、どうやらあっち側の準備が終わったみたいだ」

 サイは腕を振ってクドゥリの手錠を外し、目の前の扉を指差した。

「行ってこい。納得いくまで戦ってきな」

 大きく深呼吸して気持ちを整えた後、クドゥリは戦闘用のヘルメットを被ってから戦場へと向かうのだった。

 

「来たか」

 先に待っていた京助が持っていた金属製のケースを念力でクドゥリに向けて飛ばし、クドゥリはそれをそのまま念力で開けて中身を取り出した。

「私のベナーグ……二つとも取っておいたのか」

「あの三人にどっちも取っといてくれって頼まれたのさ、まあ明らかに折れてたからって捨てるのも何だかおかしな話だしな」

 折れた初代ベナーグと現在使っている新しいベナーグをクドゥリが受け取ったのを見た京助は、フィンガースナップでクドゥリの周囲の隔離空間を解除する。

「どうやら準備が整ったらしいな」

「ああ、始めようか」

 京助の一言で背後の扉が三重に重く閉ざされてカメラが展開し、更にエネルギーフィールドが壁を覆った。

「どうした? 着替えないのか?」

 未だに生身のままの京助に、クドゥリは眉を寄せて疑問を露わにする。

「決闘だぞ、本気を出してもらわないと」

「だったら……」

 白髪をかき上げながら二本指を曲げて挑発しながら京助はニヤリと笑って言った。

「引き出してみろ。今の俺の〝本気〟を」

「成程……随分と甘く見られたものだな‼」

 京助に一瞬で肉薄したクドゥリは、逆手に持ったベナーグを引き抜きながら斬りかかるも、京助は上体を逸らして斬撃を回避して裏拳でカウンターを叩き込み、本格的な戦闘が幕を開けた。

「くっ……ハッ!」

 裏拳をベナーグのハンドガードで受け止めたクドゥリは、跳躍して距離を取りながらベナーグを純手に持ち替えながらライフルに変形させ、京助目掛けて乱射する。

「もう少し考えてから攻撃しろよな」

 退屈そうに京助はビーム弾の大群に指を向けると、空間がねじ曲がって全てクドゥリの方へと反射した。

「ここまでは……見抜けなかっただろう!」

 即座にベナーグを大剣に戻したクドゥリは、迫って来たビーム弾を全て刀身で吸収し、巨大化した刀身を京助目掛けて思い切り振り降ろした。

「ヤアアアッ‼」

 渾身の力を込めて振り下ろした光の刃を纏ったベナーグだが、中程から両拳を叩き付けられてへし折られてしまった。

「良い手だった、けど凡庸だ!」

 京助は折った光の刃を掴むと、それを全てソリッドレイに変換してクドゥリ目掛けて投げナイフのように投げつけてきた。

「くっ!」

(あの光り方は間違いなくソリッドレイ! 今の私に無効化できるか⁉)

 回転しながら飛んで来るソリッドレイの刃に向け、クドゥリは傍らから折れたベナーグを取り出してありったけの力を込めて黒い刀身を形成してソリッドレイの巨大な刃を粉砕する。

「……そういやお前も死徒の残滓持ちだったっけ、それ出すってんなら流石に呼び出すべきかな」

 京助は腕を交差させて大きく回し、ライジングアウルレットを展開してから腕を天井に掲げた。

「翔来ッ‼」

 ライジングアウルレットの次元鍵から星が瞬く青い闇が広がり、京助を包み込んでその姿をマグナライジングアウルへと変えていく。

「……高次元に繋がる扉を作り出し、そこからアバターを呼び出しているのか。やってることが滅茶苦茶だ」

「マグナアウルだった時のやり方の方がもっと滅茶苦茶だったぜ」

「これではアバター剥がしも使えそうにないな……まあ今のお前の到達次元では私も干渉出来そうにないが」

「まあやってみると良いんじゃないか? アウルカリバーっと」

 アウルカリバーを取り出したマグナライジングアウルは、クドゥリへ刃を向けてから剣を構えた。

「剣を交えるのは久々だな」

「最後に会った時のお前は獣そのものだったからな、では行くぞ!」

 両者同時に駆け出し、クドゥリの二本のベナーグをマグナライジングアウルがアウルカリバー一本で抑え込む。

「ハッ!」

「セイッ!」

 ベナーグのピンクと黒の刀身がマグナライジングアウルを何度も捉えるも、アウルカリバーはどの太刀筋に対しても正確に切り返して来る。

「どうした? 防御だけでは決着がつかんぞ」

 口ではそう言うものの、クドゥリはマグナライジングアウルの剣捌きに不気味なものを覚えていた。

(なんなんだこいつの剣は……防御があまりにも正確すぎる! まるで私が繰り出す攻撃を全て先読みしてるみたいじゃないか!)

 それでいて防御しかしてこないのが不気味で仕方ない、どんな力を隠して出し惜しみしているのかが全く読めないのだ。

「早く攻めて来い、これは決闘だぞ!」

 挑発で相手の力を引き出そうとするのは我ながらなんとも安易な方法だとクドゥリは思ったが、案外これが効果的だったらしい。

「そうか、じゃあこっちから行くぞ」

 アウルカリバーによる強烈な薙ぎ払いが二振りのベナーグを弾き、何とか柄は離さなかったものの胴体がガラ空きになる。

(あっ……)

 死を間近に感じ取ったクドゥリは腹部に何重も光子のバリアを張るも、それらをすり抜けてアウルカリバーの刀身がクドゥリの腹に迫り、咄嗟に自分に念力をぶつける事で高速で後退して壁を蹴って距離を取る。

「うっ! はぁっ⁉」

 直撃は回避したと思っていたが、刃の先端は届いていたらしく戦闘服が破れて素肌に薄い傷がついていた。

(上達……じゃない)

 最後に刃を交えたのは数か月前だが、この数ヶ月でここまで剣技が冴え渡るとは思えない。

「もはやこれは()()だ……どうやってここまでになった?」

「色々あってな、どうだ? 一割でも吸収してみるか?」

 この決闘は|マグナライジングアウル《京助》から言い出した事であるが、さっきから掌で転がされているようで、こちらとしては全く面白くない。

「さっき言っただろう、いくら強くなったとて……私を甘く見るなよ‼」

 両方のベナーグを鞭剣に変形させると、マグナライジングアウル目掛けて小さなエネルギーの刃を飛ばしながら(しな)らせた先端を向かわせる。

「弾幕で埋め尽くせばいいって考え方がワンパターンなんだよッ‼」

 マグナライジングアウルの背に黄金の翼が展開し、この場を埋め尽くさんばかりのエネルギーの刃を翼から放たれた黄金の羽が迎撃する。

「くっ!」

「鞭の扱いも改善した方がいいな! ルースター(メイス)!」

 ベナーグの刀身が生成されたメイスに巻き取られ、身動きが取れなくなった所にマグナライジングアウルが迫る。

「ハァァアアアッ‼」

 武器が使えなくなったクドゥリへアウルカリバーを振り下ろされ、クドゥリは歯を食いしばりながら空中のマグナライジングアウルを睨みつける。

「うおおおおおおおおおっ! セヤッ‼」

 その身が一刀両断される寸前、クドゥリはベナーグから手を放し、なんとアウルカリバーを念力で受け止めた。

「へぇ……やるじゃねぇか」

「まだまだ……やれるさ!」

 受け止めたアウルカリバーを弾き飛ばすと、ベナーグに残っていたエネルギーを吸い取ってから増幅させると後退したマグナライジングアウルへ飛ばし、徐々に距離を開けていく。

「やっと本領発揮か? じゃあこれはどうだ!」

 アウルカリバーで飛来したエネルギー弾を弾くと床に突き刺し、青い炎に包まれた黄金の金属球を連続で射出する。

「そんな攻撃が精一杯か⁉ 見損なったぞ!」

 クドゥリの能力で青い炎が消失し、紫の炎に変わって逆にマグナライジングアウルへ降り注いだ。

「おっと! ハッ!」

 マグナライジングアウルが手を翳して投げ返された火炎弾を全て握り潰すと、この隙にクドゥリが死徒の残滓によって構成された黒いベナーグを取って斬りかかって来た。

「うおっ⁉」

 咄嗟に瞬間移動で回避すると、床に突き刺したアウルカリバーを取って切り結ぶ。

「今のは一本取られたぜ」

「これから何本も取られるぞ」

「へぇ、だんだん真剣勝負っぽくなってきたな‼」

 拮抗していた状態から両者同時に相手の(つるぎ)を弾き、クドゥリが跳躍して後ろ回し蹴りをマグナライジングアウルに叩き込んで距離を取り、純粋なエネルギーで構築された黒い刃を叩き付ける。

「考えたな! だが無駄だ‼」

 強力な念力波で黒い刃を弾き返し、刃を戻したベナーグをライフルに変えて突進しながら連射する。

「撃ち合いか! アウルブラスト‼」

 アウルカリバーをアウルブラストに変え、こちらに迫りながら黒い光弾を放ってくるクドゥリへ真正面から突撃し、互いに回避もせずソリッドレイと死徒の力を雨霰の如く銃撃を加える。

「うわっ!」

「ぐぅっ……」

 互いに限界を迎えて吹き飛ばされた後で、再び銃口を向け合って今度は互いにエネルギー弾を放射して拮抗状態になる。

「ぬおお……おおっ!」

「うぅ……ハアアアアアアッ!」

 放射した七色を纏うソリッドレイと黒い死徒の因子が競り合い、ビーム同士が重なり合う点から余剰エネルギーが漏れ出し、床と壁を焼き始める。

(ヤバい……フィールドが壊れる!)

 二十四次元に到達した超能力者が放つ高濃度のサイコエネルギーと、あらゆるものを呑み込み喰らう死の力が競り合いながらこのまま暴発しようものなら、大損害では済まないだろう。

(なんとかしねぇと……やるしかねぇ!)

 マグナライジングアウルは手を翳し、徐々に拮抗点の死徒の力を念力で押し返しそのままアウルブラストをアウルカリバーに変形させ、思い切り斬撃を飛ばして射撃自体を中断させた。

「うわあああああっ! ぐぅっ‼」

 エネルギーの反動がクドゥリを襲って吹き飛ばされ、壁に叩き付けられ、フィールドのエネルギーが背中を焼く。

「あうっ……ああっ……ハッ……フゥッ……」

 着地と同時にヘルメットが取れ、長く濃い紫色の髪がばさりと広がる。

「まだやれるのか?」

「見縊る……なよ!」

 気合で黒いベナーグを構えたクドゥリだが、体力的にもこれが最後の一撃になるだろうことは容易に想像することが出来た。

「分かった……一度だけ全身全霊を叩きつけてやる」

 そう言うとマグナライジングアウルはアウルカリバーを変形させ、虹色に輝くソリッドレイで形成された両刃の剣を構える。

「……決闘、正真正銘の……決闘!」

 クドゥリは髪をかき上げると、黒いベナーグに自分の中にある死徒の残滓を全てを出し切るかのように力を叩きつけ、変形したアウルカリバーと遜色ない大剣を作り出す。

「ハアァ……」

「……」

 互いの剣が放つ輝きをその目に焼き付け、両者最大級の技を繰り出すべく構えを取る。

「これで最後か」

「正真正銘の……決着を!」

「ああ、決着だ!」

 アウルカリバーの虹とベナーグの黒がより輝きが増し、両者同時に走り出した。

「おおおおおおおおおおおおおおっ!」

「シャアアアアアアアアアアアアッ!」

 両手で剣を取った二人は、同時に剣を振り上げた。

「グア……バストラン‼」

「梟爪……大空断ッ‼」

 虹の刃と黒の刃が交わり合って眩いばかりの光が生まれた。


 光が収まり、しばしの静寂の後で細切れになった黒い刃が床に突き刺さり、霧散するようにその刃が消えてからようやく両者構えを解いた。

「勝負ありか……」

 振り返ると背を向けたままのマグナライジングアウルの装甲が徐々に分解を始め、京助の姿に戻った。

「どうだ? 戦ってみてどうだった?」

 そう聞かれたクドゥリは、折れたベナーグを見ながら大きく息を吐いて呟くように漏らした。

「どう……か」

 ベナーグをまた折られてしまった、かつては凄まじい喪失感と怒りが渦巻いたが、不思議な事に今は爽快感すらある。

「不思議だ、負けたのに……愛刀を二度も折られたというのに……なんだか晴れやかな気分だ」

 京助が宣言した通り、クドゥリの迷いを無事に断ち切れたらしい。

「どうするか決まったか」

「……済まない、少し我儘を聞いてはくれないか」

「とりあえず言ってみな」

「あの子達と四人だけで話したい、良いだろうか」

 迷いそのものは断ち切れたものの、根からの完全消滅は難しかったらしい。その役目を担う事が出来るのは、自分ではない事も京助は理解していた。

「行ってこい。ただし、部屋の外で監視させてもらうぜ」

「恩に着るよマグナア……いや、千道京助」

 ここで名前を呼ばれるとは予想外だった京助は驚いたように目を見開き、クドゥリが自分を敵ではなく好敵手と捉えた事になんだか嬉しい気分になった。

「今終わった、部屋を用意してやってくれ、そこにガディとザリスとジェサムを」

 折れたベナーグを床に置き、長い髪を靡かせて晴れやかな顔で去って行くクドゥリの背中を、京助は頷きながら見送るのだった。


 用意された一室で久しぶりに直接顔を合わせた四人は、これまでのコミュニケーション不足で出来た溝を埋めるように、ただひたすらにこれまであった事を語らい合った。

「もっと近くに居ることが出来たら、お前達が苦しむことは無かったかもしれないな」

「私達ももっと……お姉様を心から信じる事が出来ていたらもっと変わっていたかもしれませんわ」

「死徒の残滓の件は本当に申し訳ないと思ってるよ……私のせいで怖い思いをさせてしまった」

 しばらく謝罪による謝罪が続き、気まずい静寂が部屋を包む。

「お姉様は……これからどうするのですか?」

 静寂を破ったジェサムの言葉に、クドゥリはしばらく考え込む。

「お前達三人は……もう地球(ここ)でやって行くつもりなのか?」

 そう聞かれた三人は頷いて答えた。

「私達の正体と所業を知ってなお、居場所を作ってくれると約束してくれた友が居ますから」

「かつての敵であるにも関わらず……彼女はそう言ってくれました」

「それに私は命を二度も助けられた恩がありますから」

 もはや三人の意志は固いらしい。

「お前達の友人とはクインテットに居たのか……良い友人を持ったな」

 ガディとザリスとジェサムの三人がなんだか自分の手を離れてしまったようで、寂しさからクドゥリの口の中に少し苦いものが広がった。

「私もお前達と共に……ここでやり直したいと思い始めてる」

 そうは言ったものの、数百年単位で過ごしてきたジャガックへの未練はまだ残っている。

「しかしまだ私の心は整理がついてないようだ……私は弱いな」

「いえ! そんな事は……」

「強かったのならすぐに判断出来ていたさ、少し一人で考える時間をくれないか?」

 三人ですらジャガックを離れる決断をするのに時間が必要だったのだ、クドゥリなら猶更だろう。

 ガディとザリスとジェサムは少し寂しそうな顔をしながら頷くと、クドゥリは立ち上がって微笑んだ。

「ありがとう。戻ったら……お前達が私の居場所になってくれるか?」

「もちろんです」

「お姉様の為ならば」

「これから本当の家族になりましょう」

 

 去って行くクドゥリを見ながら、京助達は様々な思いを抱えていた。

「行かせて大丈夫だったのかな?」

「大丈夫なんじゃね? 直接戦ったこいつが太鼓判押してんだからさ。んね」

「んあ? ああ、そうだな。もし暴れるようなら俺がすっ飛んで行くし」

「それにクドゥリは……多分あの三人を裏切らないと思うからさ」

 直接戦った京助と、ガディとザリスとジェサムと友情を結んだ明穂が言うなら間違いないだろうと、皐月は納得する事にした。

「あのさぁ、ちょっと思ったんだけどさ」

「どうした奏音?」

「もし恩赦の一環であの四人が私達と共闘ってなる事……あるのかな?」

「……あり得るね」

「マジかぁ~、なんか……感慨深い」

「そうですよね、かつての敵と手を取るなんて」

「能力的にも私達と相性良いからお得じゃんね」

「改名したら? 九重奏(ノネット)に」

 皆はそんな話をしながら、手を取り合う未来に思いを馳せるのであった。


To Be Continued.


 真鳥市の森の中、愛機ファルバス・デロイの近くに座り、クドゥリは木漏れ日の夕日の熱を感じていた。

「新しい道……か」

 どれほど困難かは分からない、だが四人なら乗り越えることが出来るように思う。

「フッ、あの子達を心配させる前に戻るとする……ッ‼」

 何かが飛んでくる感覚がして咄嗟に避けた所、ファルバス・デロイの船体に何か金属が当たった音がした。

「筋弛緩ダーツ⁉」

 何者かが自分を狙っている、それも地球の勢力ではない。

「何者だ⁉ 出て来い!」

 そう言って現れた者達の姿を見て、クドゥリは驚愕のあまり目を見開いた。

「ジャガック⁉」

 何故ジャガックが自分を狙うのか、そんな疑問を抱く前に筋弛緩ダーツの掃射を受ける。

「うっ!」

 武器もない中で反撃の隙を伺いながら必死に避けていたが、足にダーツを受けたのを皮切りに、腹部にもダーツを受けて倒れ込んでしまった。

「あぅ……うぅ……」

 体が動かせなくなる中、派手なドレスの裾が見えた。

「やあクドゥリ、わざわざ迎えに来てやったぞ」

「ボス……」

 ゾゴーリは意識が朦朧とするクドゥリの頬を掴み、ぐっと引き寄せてニヤリと笑った。

「逃げられるとでも思ったか? ずっと言ってきただろう? お前は私のものだと」

 意識が落ちる前にクドゥリが見たものは、三つの目を細め口を歪めて笑うゾゴーリの顔であった。

「ガ……ディ……ザ……リス……ジェ……サ……ム……」

 いくら後悔してももう遅い、意識が完全に落ちたクドゥリを見たゾゴーリは背後の部下に告げた。

「丁重に運べ、最終計画を実行段階に移す!」

 最後の計画とは一体なんなのか、まるで未来を暗示するかのように、黄昏の空は徐々に暗くなるのであった。

まだ全て終わってはいない、真の戦いはこれからなのだ。

ついに一人となったゾゴーリが繰り出す計画とは?

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全ては来週、明らかになる。

決して見逃すな!

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