宇宙大決戦!
クインテットと幹部達の戦いは更に白熱し、次第に追い詰められていく。
そして正体公表後に、京助とイダムは初めて顔を合わせる。
果たして仇同士何を話し、いかなる戦いを繰り広げるのか。
最後の戦いが、始まる。
ついに基地艦へと突入したクインテットとマグナライジングアウル。
そしてそれぞれがジャガックの幹部達と激突、地球の軌道上で未来を決める大決戦が幕を開ける!
履帯がついた巨大な脚が振り下ろされ、ルナとデメテルとイドゥンの三人は一斉に飛び退いて展開し、まずはイドゥンが仕掛けた。
「これを……こうして……そらっ! コレでも喰らいなッ‼」
ミサイルマシンガンとレールガンをロングライフルにマウントし、肩からビームキャリアを展開して装甲の一点に照準を定め、全火力をそこへ集中させる。
「良い火力だ、しかしそれだけでは無駄だ」
ザザルの言葉に、イドゥンは走りながら舌打ちをする。
「チッ……案の定フィールド持ちか、はてさてどうすっかね」
自分達はマグナライジングアウルのように常軌を逸した火力で無理矢理フォースフィールドを破ったり、内側に直接ダメージを与える事は出来ない。
「どうにかして工夫してダメージを与えられないかな」
「ダメージは与えられるか分からないけど……フォースフィールドは破れるかも!」
デメテルがナックルアームを握り込みながら言った。
「本当に?」
「うん、でもあいつに張り付く必要があって、それに時間もかかる! だからバックアップお願い!」
ルナとイドゥンは頷き、それぞれの得物を構えながら応えた。
「おうよ、任せな」
「絶対に守るから!」
走り出したザザルの左腕に当たるアームの周りにガトリング砲が出現し、足元で走り回る三人を一掃するように射撃を始めた。
「うっ!」
ルナがこちらに向かってきたレーザー弾を五発ほど太刀で弾き返すと、高速移動でその場から退避し、イドゥンは無重力飛行で、デメテルはシールドでその場を凌ぐ。
「後ろだ! アイツの後ろに回って!」
こちらの攻撃が通らない以上、今は向こうの攻撃を全力で回避するしか方法はない。
何とか全員回り込めたその時だった。
「オイオイ……マジか!」
「こんなのアリ⁉」
「ああ言えばこう言うみたいなロボットだね全く!」
ザザルの背面からアームが八本展開してそれぞれの先端からビームが迸り、二本ずつ収束して威力を高めると合計四筋の螺旋状のビームが三人を追いかけて地面を焼く。
「こんの……どうなってんのこのロボット!」
「一応操縦式なんだよね⁉」
「てかよく見たら前後の向き変わってんじゃねぇか‼」
三人は知る由もないがザザルの〝本体〟は全長六十センチ程の魚型生命体であり、このロボットのコックピットになっているのは、彼が浮いている球状の水槽である。
それ故向きを変えるだけで自在に行きたい場所に向かうことが出来るのだ。
「どうした、クインテットとはそんなものなのか? それとも五人揃わなければ十全の力を発揮する事が出来ないのか? こんな奴らに私の発明は負けたのか? あまり落胆させてくれるなよ」
「うるさいな……あんた如き三人で十分なんだよ!」
ルナがナックルからブレードを展開し、太刀と共に振り抜いて斬撃を飛ばすと、収束ビームの砲台を一つ破壊してしまった。
「ほほう、やったな。見事だ」
三人を称賛しつつもザザルは攻撃の手を更に激しくするべく更に武装を展開する。
「あーもうクソゲー過ぎんだろ流石にヨォッ‼」
両肩にはイオンキャノン、足元にはガトリング、更に右アームの手の甲から高周波が流れる刃がびっしりと生えた鞭が出現し、壁や床を削り取りながら周囲のものを破壊し尽くさんとする。
「エエッ! うわっ!」
ルナがガトリングの弾を弾いている最中に鞭が至近距離で掠め、その煽りを受けて大きく吹き飛ばされてしまう。
「ルナ!」
「私はいいから! 早くフォースフィールドを破って‼」
デメテルは両手にシールドを転送し、更にその上から電磁シールドを展開すると、ザザルのボディ目掛けて走り出した。
「だあああああああっ!」
ガトリングの掃射やレーザー、そして飛んで来る回転ノコギリ等を耐え抜き、遂にデメテルが脚に食らいつくことが出来た。
「よしっ……っと!」
なるべく攻撃されない場所へ向かう為、デメテルは素早くザザルのボディをよじ登り始める。
「登って何をするのかね? どうやったって中には入れんぞ」
ザザルの言葉も耳に入れず、ひたすらデメテルはよじ登りながら考えていた。
(前やったみたいにフォースフィールドと私の電磁バリアを同期させて崩す方法が取れるはず……それに私とお母さんは同じ能力を持ってる)
明穂と茜の力は、身に着けている物と触れた物の強度を上げるというものだ。
(強くできるのなら、その逆も出来る! 京助君が言ってたみたいに、出来ると信じる事が大事! きっと出来る! 私はやれる‼)
デメテルは電磁シールドを展開したままのナックルアームを張り付けると、アームの無い状態の手でザザルのボディに触れる。
「……これは?」
「んお?」
「おお!」
ザザルのボディの表面が波打ち始め、明らかな異変が起こり始める。
「破れろ……剥がれろッ‼」
デメテルの能力によりフォースフィールドが弱まった事で電磁シールドの同期が早く完了し、張り付けたナックルアームを再び腕に装着すると、ヴェールを引き剥がすに思い切り両手を引き、それと同時にザザルのボディの表面が一瞬赤く点滅して元に戻った。
「……おお、これは」
ザザルは先程の一撃でフォースフィールドが消えている事に気付いたが、それでもなお泰然とした態度を崩そうとしない。
「よくやった、だが悲しいかな、フォースフィールドを剥がしたとてこの装甲は突破できまい」
驕る風でもなく、事実を淡々と述べているような口調のザザルに、三人は立ち上がって武器を向けながら言ってのけた。
「それはどうかな?」
「攻撃が通るなら……必ず壊せるはず」
「あんまり甘く見てると怪我するぜ幹部サマよ」
こちらに向けて武器を構える三人を見て、ザザルはほんの少し楽しくなってきた。
「そうか……柄にもなく闘争心を刺激されてしまったよ。では先程よりもっと苛烈に行かせてもらうぞ!」
ザザルの鉄壁の防御を崩したルナとデメテルとイドゥン、果たして厚き装甲を破り、その刃を本体に届かせる事は出来るのか。
一方こちらは更に激しい戦いを繰り広げているミューズとアフロダイである。
「フフフフフ……ハッハッハッハッハッハ!」
ルゲンの部下達が操る無数のパワードアーマーやウォーカーをたった相手にしており、否が応にも体力が削られていく。
「はあっ……ウウウッ……ラァッ‼」
一息ついたところに背後からの攻撃を受けそうになったミューズは、その場に伏せると足元を薙いでパワードアーマーをひっくり返すと、コックピット目掛けて石突になっている小型ドリルを突き刺す。
「やっ! おおおっ! ハァッ‼」
アフロダイはウォーカーの天井部分やアーマーの肩等を矢継ぎ早に飛び乗り、ナギナタを強化パーツとして取り付けた弓で相手を斬りつけたり、威力が強化した光矢を放って次々敵を行動不能にしていく。
だがしかし、二人がどれほど武器を振るおうがようやっと敵の三割を削れた程度で、二人の体力も徐々に削られていく。
「無駄だ無駄無駄、どう足掻こうがお前達二人はここで死ぬのだ」
必死に戦う二人に冷水を浴びせるように、ルゲンは目を細めて嘲笑う。
「マグナライジングアウルを連れて来なかったのが仇になったな。超能力も扱えず、ただ鎧に動かされているだけの女が、我々の本拠地をたった二人で闊歩する事自体が間違いだったのだ……それを言うなら、ここに乗り込んできた事。いいや、そもそもジャガックに楯突く事自体が間違いだったのだ!」
そう言いながら高笑いするルゲンを見て、ミューズとアフロダイはもはや黙っていられなくなった。
「そんな大口を叩く割には……自ら出向いて戦わないんですね」
「フン、お前達如きわざわざ私が直接手を下すまでも無いという事だ」
「いいや、それは違うわルゲン……あんたの本性を教えてあげる」
奏音は以前、京助からルゲンと直接戦った時の話を聞いていた。
「あんたは学者タイプの癖にプライドが高すぎて現実が見えてない。その上滅多に顔を出さないから他の幹部に埋もれてる、もしかしたらゾゴーリとかいうボスにはクドゥリとかイダムより……もしかしたら死んだパテウより評価低いかもよ?」
こちらを見下して嘲笑っていたルゲンは一点、口角を歪めて不快感を表す。
「マグナライジングアウルの名前を出してたけど、もし彼がここに来てたとしたら、あんたは一瞬で死んでたよ。あんたみたいな超能力者でもなければコソコソ敵を闇討ちするような臆病者如き! 相手にすらならないって事!」
ルゲンの顔に浮かんだ不快感は、やがて怒りへと変化していく。
「貴様……」
なぜこの女は的確に自分を刺して来るのか、そんな疑問が一瞬湧いたが、見下している存在にぼろクソに貶された事でふつふつと湧いて溜まっていく怒りにそれが押し流されていく。
「なんなら私達二人でもあんたは相手にならない。少なくともそこで臆病な癖にふんぞり返ってるうちはねッ‼」
マズルの奥の方で歯が割れる音がし、治癒の邪魔になる為吐き出してからルゲンは再び二人を見下ろす。
「そうかそうか、良かろう。そんなに私直々に殺されたいか」
ルゲンの姿が下降して消えた後、周囲に控えていたウォーカーやパワードアーマーが一斉に捌けると、一際大きな扉から白いパワードアーマーが出現した。
「良いだろう! あれからさらに改良を重ねた対マグナアウルとして開発されたパワードアーマーで貴様ら二人を葬ってくれる! この私に弓引いた事、後悔する間も与えんわ‼」
ついにルゲンを戦場へと引きずり下ろすことが出来た。
ミューズはアフロダイの手を取って回復能力を発動して疲労感を軽減すると、二人とも深呼吸して武器を構えた。
「いいや、後悔するのはあんたの方よ!」
「私達を甘く見た事は、必ず後悔させます!」
一方ザザルとルナとデメテルとイドゥンの戦いは、より熾烈を極めていた。
(ああクソ……関節を狙いたいけどそもそも近付けねぇんだけど!)
とりあえず巨体差を覆して機動力を封じるべく、三人は脚部を破壊しようと試みているものの、脚部に集中している武装のせいで攻撃が相殺され、その上右手の高周波刃がついた鞭のせいでまともに近付く事すら許されない。
「これが万事休すってやつ?」
鞭の一撃によりめくれ上がった床の破片で出来た安置に身を隠しながら、三人は機を伺っている。
「これは助け求めた方が良いかな」
ルナとイドゥンが話し合う中、今まで身を乗り出しながら黙々と攻撃を弾いていたデメテルが口を開いた。
「やめよう」
「んえ?」
「ちょっと待って、どういう意味?」
「関節を狙うのをやめよう、足に武装が集中してるから、ザザルはとっくに関節が狙われる事なんて予見してたんだ」
「じゃあどこ狙いでいく?」
「頭から落とす!」
それこそ無茶な話に思えるが、どうやら明穂には何か秘策があるらしい。
「ちょっとルナには頑張ってもらう事にはなりそうだけど、大丈夫かな?」
「……わかった、何をすればいい?」
「とにかくあのロボットの近くを走り回って撹乱して、高速移動でね」
ルナは大きく息を吐き、左手にナックルガンを転送してからブレードを展開して二刀を構えると、大きく息を吐いてスタートダッシュの姿勢を取る。
「任せて」
「こっちもね」
ルナは凄まじい速度でその場から消え、青い軌跡を残しながらザザルの周囲を駆け巡る。
「ウチらはどうする?」
「久しぶりに……使います」
デメテルのナックルアームが変形してエナジーアンプリファイヤになり、イドゥンはヘルメットの中でニヤリと笑って大きく頷いた。
「分かった、行こう!」
安置から身を乗り出した二人は走り出し、デメテルはナックルを何度も再生成しながら飛ばし、空中に浮いたナックルは次々とエナジーアンプリファイヤへと変わる。
「バーストォッ‼」
「GO‼」
デメテルとイドゥンの装甲の各部が変形して胸部のコアエナジーストリームラインが露出し、凄まじいパワーが全身を駆け巡る。
「行けっ‼」
デメテルの高火力ビームとイドゥンのライフルから放たれた強化ビームがエナジーアンプリファイヤに当たると威力を何倍にも増幅して、ロボットの胸部に命中する。
「おお、大した威力だ。だがこの程度……おっと! はぁ、成る程考えたな」
ルナの攪乱は、想像以上に効果的らしい。
「この程度だってさ!」
「だったら何倍にも増幅させるまで!」
今度はエナジーアンプリファイヤ同士が受けたビームをリレー形式でバトンタッチし、文字通り威力を何倍にも増幅させてボディに命中させる。
「うおっ……これは……効くな」
ザザルは武器の照準を一部変更してアンプリファイヤを狙うも、光学兵器は即座に増幅して返されてしまう。
「おっと、迂闊だった」
ミサイルと鞭で宙に浮くアンプリファイヤを撃墜しにかかるも、デメテルは即座にロケットパンチを何度も飛ばして再補填する。
「今回はもっと増やす! 囲い込んで‼」
数十個のアンプリファイヤがザザルの体を取り囲み、デメテルとイドゥンのビームの威力を増幅して撃ち出す。
「くっ! これは厄介だな! 撃ち落として……」
「させるかっ!」
無知を振り上げた所にイドゥンがスライディングしながらレールガンを放って鞭の接合部を破壊し、猛威を振るっていた巨大な武器を一つ完全に破壊してしまった。
「おおおっ⁉ がはっ!」
鞭が破壊された直後に何度もエネルギー増幅を受けた三発のビームがザザルの胴に直撃し、大きく真後ろによろめく。
「よし……ハッ!」
足元を撹乱していたルナが跳躍し、冷凍弾を大きく曲がった膝に連射し、フルチャージを発動して斬りつけた。
「っと⁉ おおおおっ⁉」
関節にダメージを負ったザザルのボディはバランスを崩し、更に絶え間ない増幅ビームの攻撃を一点に受け続けた事によって少しずつ溶解を始めていた。
「ルナァァァァァァァアアアッ‼ 決めてぇぇぇぇぇぇええええッ!」
デメテルの指示を聞いたルナは瞬時に意図を理解し、太刀を地面に突き立てながら減速してデメテルの方へ走り、直前で跳躍してデメテルのナックルアームに足をかけると、ロケットパンチを踏み台にして高く飛び上がった。
「バースト……GO」
宙を舞いながらルナの装甲が変形して眩いばかりの青い輝きを放つコアエナジーストリームラインが展開する。
「これで……決めるッ!」
腰のスイッチを三度押し込んでオーバーチャージを発動し、ルナは身体を横にねじって高速で旋回を始め、ザザルのボディに一刀を入れる。
「うおおおおおおおおおおおっ!」
「くっ……まさか⁉ うおおおおおおっ!」
高速旋回するルナの二つの刃によって真ん中からザザルのボディを真っ二つにしてしまい、着地と同時に大爆発を起こしてしまった。
「おお……おおお! やったぁっ!」
「マジか……ヨッシャァッ! 勝った! ウチら三人で勝った! シャアッ! ビクトリー!」
ルナが立ち上がると同時にバーストモードが解除され、デメテルとイドゥンもバーストモードを解除しながら駆け寄る。
「お疲れ、おかげで勝てたよ」
「ううん、デメテルの妙案のお陰」
「イドゥンが鞭を落としてくれてなかったら結構危なかったよ」
「まあここは……私達三人の勝利って事で‼」
三人が拳を重ね合わせてその場を去ろうとした時、背後でぴちゃりという水音がした。
「……は? 魚?」
ガラスや鉄片が体に刺さり、大量の体液を流している見た事も無い魚類が、こちらに向かって這って来ていた。
「……こいつが、ザザルバンなんじゃ」
「そうさ……私の本体が……これさ。よくやったクインテット……納得したよ……勝てない訳だ……これで心残りは……無い」
てっきりもっと惨めに足掻くものかと思ったが、なんだか妙な潔さに三人は拍子抜けしてしまった。
「だが……覚えて……おくといい……発明家は……死んでも……兵器は……生き……続け……る……の……さ……」
そう言ったきり、ザザルは口から体液を流しながら事切れてしまった。
「ハァ~ア、勿体ぶっちゃってさ」
「まあ、どんな兵器が来ても皆で倒すだけだけどね」
「うん、行こう。もしかしたら合流できるかも」
ジャガックの兵器を担う存在を倒した三人は、更に打撃を与えるべく進むのであった。
「ぬおおおおあああああああっ!」
ミューズとアフロダイの二人と、特別製パワードアーマーを纏ったルゲンの力は完全に拮抗、戦いは熾烈を極め、ついにパワードアーマーが吹き飛ばされてしまった。
(何故だ……なぜ鎧を纏っただけの、それも疲弊している筈の女二人に手古摺る⁉ これはマグナアウルを倒す為に調整されたんじゃないのか⁉)
ルゲンは信じられなかった、自分が圧倒して終わると信じて疑わなかった。
なのにどうして押され気味になっているのか。
「畳みかけましょう」
「うん! バーストGO‼」
ミューズとデメテルの装甲が変化してコアエナジーストリームラインが露出し、マゼンタと紫の力強く眩い輝きが周囲を覆う。
「調子に乗るなよ……地球人風情がぁっ‼」
ルゲンはパワードアーマーを起こし、両腕にヒートチェーンソーを装備し、肩にレーザーショットを展開すると、猛烈な勢いで走って来た。
「大人しく投降を受け入れれば! 良いものを!」
ヒートチェーンソーを回避しながら、アフロダイが槍とナギナタを合体させてトライデントにする。
「勝手な事ばかり……言うなっ!」
トライデントでヒートチェーンソーを挟み込んでから捻ってチェーンソーを破壊し、続け様に放たれた肩のレーザーショットをトライデントで防ぐ。
「あんた達ジャガックのせいで……今まで色んな人達の命が! 幸せが! 踏みつけにされてきたんだ!」
アフロダイの後ろからミューズが跳躍して現れ、ハルバードを振り下ろしてヒートチェーンソーと切り結ぶ。
「ハッ!」
ハルバードの回転刃とヒートチェーンソーの刃が甲高い高音と火花が散り、ミューズはそのまま渾身の力を込めて押し返して自分の武器で装甲にダメージを負わせる。
「クククキキキキキキキキキギィィィィィィィィィィイイイイッ‼」
心底見下していた地球人類に圧倒されているという事実にもはや耐えられなくなったルゲンは発狂寸前である。
「絶対に殺す……殺す!」
そう宣言したルゲンだが、ミューズとアフロダイの攻撃は更に苛烈化していき、装備した武装も次々破壊され、その上美しさすら感じられた白い装甲はズタズタの傷だらけになっている。
(かくなる……上はッ‼)
もはや使い物にならなくなったパワードアーマーに残された武装を全て展開すると、ルゲンは背中から脱出した。
「あっ! 逃げた!」
「とことん卑怯な……クズ野郎ですね」
二人の言葉を気にすることなくルゲンは背中から生えたパワードアームで素早く壁をよじ登り、何処かへ去って行ったルゲンを追おうとしたが、自動操縦になったパワードアーマーがそれを阻む。
「まずはこっちからか! セイッ‼」
エネルギーを込めた蹴りでパワードアーマーを吹き飛ばし、ミューズとアフロダイは腰のスイッチを二度押し込んでフルチャージを発動すると、ハルバードとトライデントにエネルギーを送り込む。
「ハァァァアアアアアッ‼」
「セヤッ‼」
トライデントに刺し貫かれ、持ち上げられて放り投げられた所にハルバードで一刀両断され、対マグナアウル専用機として作られたパワードアーマーはミューズとアフロダイの二人によって完膚なきまでに破壊されたのであった。
「フッ……ふぅ……」
バーストモードが解除され、二人は己の得物を杖代わりにして一息ついた。
「とりあえず危機は乗り越えましたね」
「うん、これからルゲンを……」
その時、アフロダイの脳裡に危険信号が迸った。
「危ないッ‼」
ミューズを突き飛ばしたその直後、アフロダイの肩に楔型の飛翔物が突き刺さり、その場から軽く吹き飛んでしまう。
「へっ⁉ あっ!」
アリーナの隅で、クロスボウのようなものを構えていたルゲンがこちらを笑いながら見ていた。
「……ルゲェェェェェェェェェエエエエンッ‼」
ミューズは怒りに任せて思い切りハルバードを振ると、エネルギーで形成された回転刃が複数個飛び、パワードアームと手足を切断する。
「ぐごわっ! 腕が! 足がぁぁぁあああっ‼」
手首からワイヤーを放ってルゲンに巻き付けると、思い切り引っ張って拘束する。
「アフロダイ! 大丈夫⁉」
返事がない、即座にスーツ同士を同期してバイタル等調べると、なんと脈拍がかなり落ちているではないか。
「なんで……ただ刺されただけでしょ⁉」
「クックックック……さて、それはどうかな?」
詳細を調べると、なんと刺さった楔から毒物が検出された。
「毒!」
「地球人がどれほど耐えるか見物だな! 私に跪くと言うのなら……」
ルゲンが何か色々言っていたが、ミューズは冷静に状況を分析する。
(大丈夫……超能力者なら普通の人間より丈夫だからまだ耐えてくれるはず、考えろ)
その時ふと、ルゲンの手足の切断面の組織が蠢き、再生を始めようとしている様子が見えた。
「待てよ」
自分の力が再生能力なら、これを応用する形でアフロダイの毒を解毒できるかもしれない。
それには過剰と言っても良いぐらいの再生能力が必要だ、例えば、尾を切られても再び生えてくる爬虫類のような。
「さてそろそろ私に……おい何のつもりだ」
ルゲンの胸とアフロダイの胸に手を当てたミューズは、大きく一息ついてから両手に神経を集中させた。
「おい、なんの真似……ぐっ⁉」
ルゲンの再生しかけていた手足が止まり、成長しかけていた新たな組織が全て朽ち果て始め、短い咳を何度もしながら苦しみ出す。
「ガホッ……グホッ……貴様……なにをし……うううううっ」
ルゲンが苦しむのに比例してアフロダイにも変化が訪れた。
「かはっ……あはっ! うぅぅ……ふぅ……うぇ……」
呼吸が戻り始めると同時に刺さっていた楔が排出され、スーツに空いた穴も修復されていく。
「はっ……ふぅ……おお……」
「戻った⁉」
アフロダイが起き上がり、軽く手足を動かすとミューズの方を見て頷いた。
「ミューズ……ありがとうございます」
「……無事だったのねアフロダイ‼」
ミューズはアフロダイに抱き着き、最初こそ困惑していたアフロダイもそっと抱き返して互いの無事を喜んだ。
「……ふぅ、うわぁ! 蘇生出来て良かったよぉ!」
ミューズとしてもギリギリの賭けだったらしく、内股気味に座り込んで脱力する。
「どうやって治してくれたんですか?」
「あいつから自己治癒能力を拝借したんだ」
ミューズが指した方には目は濁り、呼吸も浅く、失った手足を動かして苦しみ藻掻くルゲンが居た。
「助け……助け……て……」
今ルゲンはアフロダイが受けていた数倍の苦痛をかぶせられているのだ、他ならぬ自分が調合した暗殺用の毒の効果を受けるとは、なんとも皮肉な話である。
手足を失い何もない今は、見下していた相手に縋る事しか出来ないのも、惨め極まりない。
「死に……たく……ない……」
ルゲンが絞り出した言葉を聞いた途端、ミューズはさらりと言ってのけた。
「今までさんざん誰かを苦しめてきたんだから、自分の番ぐらい受け入れなさいよ。それに良かったじゃない、今際の際で誰かの役に立ててさ」
それを聞いたルゲンは完全なる絶望に顔を歪め、背を向けるミューズとアフロダイに失った腕を伸ばすのであった。
「いや~……さっきの絶対地球を守るスーパーヒロインとしては相応しくなかったよね」
「それぐらい良いんじゃないですか? ルゲンって京助君に毒盛った奴でしょう? 私だって彼氏が居て、同じ事されたら……もっと言ってるかもしれません」
「うーわ、アフロダイのそういうの切れ味すごそう」
「ハハハ……それほどで……もっ!」
「おおっ⁉ 何この揺れ!」
アリーナを出て談笑しながら別の場所に向かおうとしていた二人は、突如この船全体を揺らすような大きな揺れに襲われた。
果たして何があったのだろうか。
揺れの原因は、やはりこの男である。
「ふっ……よっと! オラオラオラ‼」
マグナライジングアウル。現在、ゾゴーリ・ジャガックを探し出して対面するべく基地艦を破壊し、立ち塞がる敵を全て薙ぎ倒しながら猛烈な勢いで進んでいる。
上級構成員のみが立ち入れるエリアをめちゃくちゃに破壊しながら進むマグナライジングアウルだが、ここで違和感に気付いた。
「おっかしぃな……誰一人として幹部に会わねぇぞ」
もう掃いて捨てる程上級ジャガック兵を倒してきたが、全くと言って良いレベルで幹部に出会わない。
「あいつら何してんだろうな」
そう考えながら明らかに豪華な扉を見つけ、それを殴りつけて破壊した直後、何か巨大な力がマグナライジングアウルを吹き飛ばし、反対側の壁にまで叩きつけられる。
更にその力は周囲の物体まで滅茶苦茶に破壊し、あろう事か船の外装まで突き抜けて一部の内装が宇宙空間に露出して、マグナライジングアウルをも宇宙空間に放逐してしまった。
「なんだ⁉ 何をしやがった⁉ 何が起きやがった⁉」
翼を展開して姿勢を立て直すと、素早く周囲の状況を確かめる。
「……滅茶苦茶だぜ、まるで波動砲でも喰らったみたいだ」
破片から破片に飛び移って何とか基地艦まで戻り、マグナライジングアウルは小さく呟いた。
「俺じゃなかったら死んでたな」
無事に戻れたとはいえ、まだ何が起こったのかは分からない。
「何かが爆発でもしたのか?」
「いいや、そうじゃない」
聞き覚えのある声がして振り返ると、そこには最も探し求めていた相手の姿があった。
「イダム!」
崩れかけの柱に身を預けたイダムは、片頬をクッと吊り上げて笑うと、直立してマグナライジングアウルの方を見る。
「久しぶりだな……小僧」
アバターを元の次元に返還した京助は、生身のままイダムに向き合った。
「ついに生身の対面だな、今度は逃げるなよ」
「ああ、逃げないさ。俺をこうした地球人がここに居る。逃げるわけないだろ?」
「フン、お前はそんな相手から一度は逃走したんだぜ」
「言うじゃねぇか、泣き叫ぶしか出来なかった小僧が。立派だ立派だ」
これ以上の応酬は意味がないと感じた京助は話題を変えた。
「これお前がやったのか?」
「いいや、これはウチのボスが逃走した時の反動さ。空間爆縮の反動で近くの物が全部吹っ飛んだ」
「そうか、生存は長の最上使命って訳か……それでお前は置いて行かれたわけだ」
「置いて行かれた? いいや、俺はボスを行かせたのさ」
「へぇ、自ら捨て駒になりに来たって?」
「違う、俺が望んだからさ」
「望んだ?」
「お前との最後の決着を……な」
つまりイダムは、京助との戦いに全てを賭ける気でいるのだ。その為に先に主君であるゾゴーリを逃がしたのだ。
「お前との因縁はこれで終わらせる。俺をこんな体にした落とし前はつけてもらうぜ」
「寝言は寝て言え毛玉風情が、梟を生み出したのは他ならぬお前だ」
拳を握り込んでライジングアウルレットを出現させ、京助は皆に通信する。
「皆聞こえるか? 俺だ」
『京助! 大丈夫⁉』
「ああ、五人ちゃんといるか?」
『うん』
『はいは~い』
『居るぜ』
『こっちは無事です』
京助は全員揃っている事に安堵しつつ、ゾゴーリには逃げられた事を伝えた。
『そっか……残念』
『でも撤退させたのは前進だね』
「いいかみんな、よく聞いてくれ。今すぐ帰還してくれ」
『え? 帰還? なんで?』
「……俺はこれから、過去の清算をしなくちゃならない」
それを聞いた五人は、京助が今から何をしようとしているか瞬時に理解できた。
幾人かは止めるべく声を上げようとしたが、雰囲気に呑まれて口籠ってしまう。
『じゃあ……一つ約束して』
「言うな、ちゃんと分かってる」
『……お願いだよ京助』
「ああ、必ず生きて戻る……愛してるよ」
それだけ言って通信を切り、新機能である瞬間帰還ユニットでクインテットの五人が地球へと戻ったのを感じ取った京助は、イダムの方へ向き直る。
これでお互い後顧の憂いは無くなった。あるのはただ、背負ったものと胸の内に秘めた思いだけ。
「これで最後だイダム……お前を殺して、過去に区切りをつける」
「望む所だ、お前を殺して屈辱を雪ぐ」
イダムが構えたと同時に、京助は地球を背に腕を大きく回して宇宙に向けて手を掲げる。
「翔……来ッ‼」
それがゴングの代わりとなり、二人は同時に走り出した。
姿を変えて行く京助にイダムは先手必勝で殴り掛かろうとするも、マグナライジングアウルは瞬間移動で後ろに回り込んで蹴りを叩き込む。
「おおっと! ハアアッ‼」
回避して距離を取ったイダムは黒く染まった拳の実像を飛ばし、マグナライジングアウルは翼を展開すると羽を飛ばして対抗する。
「フンッ!」
「アウルカリバーッ‼」
真上から足の実像が振り下ろされる直前、マグナライジングアウルはアウルカリバーでそれを引き裂いて跳躍し、イダムへと直接斬りかかる。
「ハッ! くおっ!」
手の形状をした実像を幾重にも重ねて防御するも、アウルカリバーはまるで瓦割のようにそれらを破壊し、咄嗟に避けた事で地面を割って破壊してしまった。
「面白い……本気で行くか!」
イダムは両腕を交差させると全身に黒い靄を纏い、体内に巣食う死徒の残滓を開放した。
「この期に及んで死徒の残滓に頼るのか‼」
「何とでも言え! お前は御せなかったこの力で引導を渡してやる!」
黒い拳の実像を八個生成するとそれらに赤い雷を纏わせて、マグナライジングアウルへと電撃を叩き込んだ。
「ふっ!」
咄嗟に翼を展開して回避したものの、着弾地点が大きく抉れて壊れかけていた基地艦が更に破壊される。
「アウルブラストッ‼」
マグナライジングアウルは武器をアウルブラストに変えると、ありったけのエネルギーを送り込み、二発目の赤い電撃を真正面から迎撃する。
「フッ……ヌウウウウウウッ‼」
「うおおおおおおおおおおっ‼」
互いに出力を全開にし、赤い電撃と七色のソリッドレイがぶつかり合って一瞬空間が歪み、限界を迎えた事で大爆発が起こった。
「うっ!」
「ぐおはあああああっ!」
二人は爆発により基地艦ごとの場から大きく吹き飛ばされるも、マグナライジングアウルは翼を駆使してイダムの方へ一直線に飛翔する。
「オオオオッ! ラッ‼」
イダムが体勢を整える前に、マグナライジングアウルが殴り飛ばし、基地艦に叩きつけられたイダムに食らいつく。
「ウウッ‼」
「オラッ‼」
ジャガック基地艦を破壊しながらお互いを殴り合い、まだ生き残っていた僅かな構成員も巻き込みながら大乱闘を続ける。
「とっとと……くたばりやがれ‼」
イダムを一際強烈に打ち据えたマグナライジングアウルは、首にワイヤーを巻き付けると、更に基地艦を破壊しながらイダムを引きずり回す。
「ぐおおおおおおっ! このっ……きさっ……まっ……良い……加減……やめろおおおおおおおおおおおっ!」
巻き付いたワイヤーを掴むと、イダムは逆にマグナライジングアウルを投げ飛ばして壁に押し付けると、強烈なドロップキックを食らわせた。
「うおおおおおおおおおっ! くぅっ!」
壁を幾重にも壊しながらマグナライジングアウルは吹き飛び、イダムは一際巨大な黒い拳の実像を作り出すと、マグナライジングアウルへと飛ばした。
「……畜生やりやがったなクソ毛玉……フッ! ハッ‼」
迫り来る黒い拳を前ににして、マグナライジングアウルは青い炎を纏った黄金の球を射出して対抗する。
黒い拳と黄金の球がぶつかる直前、黒い拳が開いて球を握り潰してしまった。
「フン……忘れたか、全てを呑み込む無敵の力を」
「そういうオメーこそ忘れたのか、俺はそれに打ち勝った奴だってな」
握り込んだ黒い拳が内側から破裂すると、無数の小さな青い炎を纏った黄金の球がイダムへと襲い掛かる。
「うおっ!」
即座に拳の実像を大量に呼び出して対抗すると、マグナライジングアウルがこちらに向かって走って来ていた。
「やっぱり俺に一番合ってる……戦い方は!」
肩部装甲と兜の口周りが変形し、更に手足の装甲も一部変化したマグナライジングアウルは、思い切りイダムへと殴り掛かる。
「徒手空拳だ!」
イダムは紙一重で回避するも、二発目を喰らって大きく後退する。
(何だ今のは⁉)
一発、たった一発喰らっただけだ。
だがまるでこの一発に何十発も喰らったかのような感覚と衝撃だった。
「気付いたか」
マグナライジングアウルが構えながら続ける。
「俺の拳は何度も届く。同じ場所に、少し遅れてな」
なんてことは無い、時空操作能力を応用して攻撃を何度も喰らわせているだけである。
「調子こくなよ……マグナアウルゥゥゥゥゥウウッ!」
右目を赤く輝かせて怒鳴りつけながらイダムは黒い炎と赤い電撃を纏い、マグナライジングアウルへと殴り掛かる。
「オオオッ!」
イダムが殴打と共に黒い炎と赤い電撃を放つも、マグナライジングアウルは瞬間移動で後ろに回り込んで蹴りを叩き込む。
「ううううう! ちょこまかと!」
「対応できない……お前が悪いッ!」
更にもう一発蹴りを叩き込んで後退させた所に畳み掛けようとするも、黒い炎と赤い電撃を同時に喰らってマグナライジングアウルは吹き飛ばされてしまった。
「あいつ……赤い電撃を……クソッ……これってこんなに痛かったのか……」
「大口叩いてた割にはその程度か! フンッ!」
再び黒い炎と赤い電撃をイダムが放ってきたが、マグナライジングアウルは羽角と鶏冠から波打った形状の光線で抵抗し、スパークしたエネルギーが互いを吹き飛ばした。
「あまり使いたくは無いけど……VOOOOOAAAAAAAAAAAAH‼」
吹き飛んだイダムに口から放った光条を叩き込んで壁ごと破壊し、マグナライジングアウルは瞬間移動で真横へ移動して更に畳み掛ける。
(地獄の痛みを……味合わせてやる!)
時空操作による連続殴打は、時間差はあれど全く同じ打撃が発生する。
つまりこれで浸透勁を使えばより深く、そしてより多く浸透する事になる。
「ハッ! セッ! トワァーッ!」
マグナライジングアウルによる浸透勁の連打を喰らったイダムは、即座に全身が痛みが走る。
「ぐぐぐぐぐ……うぅぅぅぅうっ!」
「梟爪……爆身破ァッ‼」
マグナライジングアウルが親指、人差し指、中指をイダムの体に突き立てたその瞬間、体内に浸透したサイコエネルギーを纏った衝撃が全て爆ぜた。
「ううううううっ! がぐっ……ぐぅ……ああっ……」
胸や腹や背中が爆ぜ、イダムは血と臓物をぶちまける。
「くっそ……俺が……この……俺が……」
僅かに残ったまともに残っている臓物を手で掬い、破れた皮膚から覗く機械が血とも油ともつかない液体を吹き出しながら駆動している。
「痛みを感じろ……苦しみを感じろ! 他人を蹂躙し続けたお前は痛み苦しむ義務がある!」
逃れようもない程の痛みによってマグナライジングアウルの言葉も遠くなり、膝をついたイダムは譫言のように呟いた。
「まだ……足りないのか……俺にはまだ……足りないのか」
もはや逃げる事は許されない、そもそも今のマグナライジングアウルならば、逃げた先にも先回りして追いかけてきそうだ。
「全て……擲つ! もっと食え! 俺の全てをくれてやる‼」
「おい何をして……ッ⁉」
イダムの中に巣食う死徒の残滓が溢れ出し、黒い靄は炎となってその体を包み込んで、傷を負った体を変質させていく。
「まさか……あの時みたいに!」
エグザイル化したクドゥリや、ウィッカーアモンとなって暴走したかつての自分のように、イダムもまた暴走するのではないか。
「させてたまるか!」
念力を発動させて周囲の瓦礫や散らばったパーツを引き剥がしたマグナライジングアウルは、絶叫しながら全身を黒い靄に包まれるイダムに向けてそれらを集中させる。
「完膚なきまでに……潰れろ‼」
やがてイダムは金属の塊に完全に覆われ、マグナライジングアウルは最後のトドメに青い炎柱を発生させ、完全に焼き尽くそうと試みる。
「燃えろ燃えろ燃え尽き……ぐあっ!」
青い炎柱の中に残った金属の塊から、まるで卵を割るように何かが飛び出し、マグナライジングアウルを殴りつけて吹き飛ばす。
「クソッ……どうなった⁉」
瓦礫の上に横たわったまま上を見上げると、黒い炎を纏ったイダムが宙に浮いており、更なる変質を始めようとしていた。
「こりゃまるで……悪魔そのものだな」
機械と化した手足は歪で悍ましい色と形状に変わり、顔の半分は歪んで異形そのものとなり、更に頭部にはねじれた二本の角と背中には翼を備えていた。
「虎に翼……窮奇そのものだな」
死徒の残滓に完全にその身を売り渡し、更なる力を得たイダムは両方の頬をぐっと吊り上げて笑うと、翼をはためかせてマグナライジングアウルへ突撃する。
「うおっ! ぐあああああっ!」
羽交い絞めにされたところで全身を包む黒い炎に焼かれ、マグナライジングアウルは思わず苦悶の声を上げ、何とかイダムを蹴って引き離してこちらも翼を展開する。
「俺に勝てるか? 今の俺に!」
「……勝つ。勝てる勝てないじゃねぇ、勝つ‼」
イダムが両目から赤い光線を放ち、マグナライジングアウルは羽角と鶏冠から放つ光線で抵抗し、溢れたエネルギーがもはや壊滅寸前だった基地艦を完全に破壊してしまった。
「もはや苦しませるとか言ってる段階じゃねぇ、あいつは一刻も早く始末しねぇと!」
真っ二つに割れた基地艦から這い出たマグナライジングアウルは、アウルブラストとフィッシャーキングを呼び出すと、合体させて必殺の一撃への準備を整える。
「こいつで完全に仕留めてやる‼」
基地艦から出てきたイダムに照準を向け、マグナライジングアウルは引き金を引いた。
「梟翼乱舞ッ‼」
七色に輝くブレードが射出され、それぞれの色に輝く七つのブレードに分裂してイダムへと襲い掛かる。
「フンッ……ぐぬぬぬぬぬぬぬ……」
飛来した七つのブレードがイダムに着弾する寸前、イダムが纏う黒い炎がそれらを阻む。
「ぐぐぐ……フフフフフフフ……お前の力……確かに強力だ……だが……俺には敵わんぞ!」
そう言って秘められた力を全開にすると、ブレードが全てあらぬ方向に飛んで行って基地艦の残骸へと着弾し、次元降下を起こして跡形もなく消え去ってしまった。
「何だと⁉ うおわっ!」
取り込んで無効化する事はあっても、まさか弾かれるとは思ってもいなかったマグナライジングアウルは突進して来たイダムに吹き飛ばされ、そのまま掴み合いになったまま衛星軌道を外れて戦いの舞台を宇宙空間に移すのであった。
「ううっ……ハァッ‼」
「トゥアッ‼ 喰らえッ!」
太陽系の一角で、黄金の翼と黒い翼がはためいて絡み合いながら、壮絶な戦いを繰り広げていた。
「くっ……」
「ぬうっ! ハアッ‼」
イダムの角から赤い電撃が放たれ、マグナライジングアウルも羽角と鶏冠から光線を放って抵抗するも、無数の拳の実像に吹き飛ばされ、遥か彼方へと吹き飛ばされていく。
「うわあああああっ……があっ!」
無数の黄金の羽を飛ばしながらマグナライジングアウルは恐怖と混沌と名付けられた衛星の間を突っ切り、軍神の名を冠する赤き遊星へと墜ちていく。
「うわっ……くおおおっ! あああっ!」
高高度から容赦なく叩き付けられた後に、地球とは大きく異なるマイナス二桁の冷気が容赦なくその身に吹き付け、流石のマグナライジングアウルでも痛みに悶える。
「フフフフフフフ……どうやら勝負あったようだな」
追いついたイダムが火星に降り立ち、倒れたマグナライジングアウルの頭を掴んで立たせる。
「だがお前はよく頑張った! 俺にここまでの力を出させたのは流石だぜ。だが悲しいかな……ここまでだ‼」
頭を掴んだまま足の実像を大量に呼び出し、無抵抗のマグナライジングアウルにぶつけて再び吹き飛ばす。
「だああああっ! ぐはっ!」
更に吹き飛んだマグナライジングアウルに黒い炎と赤い電撃を浴びせ、ある程度甚振ってから首を掴んで持ち上げた。
「お前はここで一人……誰にも看取られず死んでいく!」
「……」
「結局お前は何も守れないのさ‼ 親父とお袋を俺に殺されたあの時と同じようにな!」
「……ははははっ」
この期に及んで笑い出したマグナライジングアウルに、流石にイダムも気味悪さを覚えた。
「何が可笑しい?」
「いやなに……何も守れないのはお前の方だろ?」
「何だとぉ?」
「正確に言えば、お前は守るべきものを自ら放棄し続けた……見てみろよ、今のお前には何がある? お前は自分の力にしか興味がない、どうしようもない程に空っぽだ!」
「違う!」
「空っぽな上に強者に向かっては逃げ出す程臆病で、借り物の力で威張り腐ってる、お前はクズだ、クズ以下だ‼」
「貴様‼」
イダムの纏う炎がより勢いを増し、顔はより歪に歪む。
「それにな……今の俺は一人じゃない!」
何のことかとイダムが聞き返すよりも早く、マグナライジングアウルの両肩から一筋の銀色の光が閃き、イダムを吹き飛ばしてしまう。
「うっ!」
イダムの手から離れたマグナライジングアウルは一瞬崩れ落ちるも、すぐに立ち上がって手を伸ばした。
「来い! アウルウィング‼」
宙を舞う銀色の光はマグナライジングアウルの手に収まり、やがて一振りの双刃剣へと姿を変えた。
その武器はかつて父が世界を救った際に取った、梟の翼を模した二振りで一つの刃である。
「一回使ってみたかったんだよ」
大きく後退したイダムが再びこちらへ赤い電撃を纏った拳の実像を飛ばすも、アウルウィングを振るって実像を切り裂き、三日月型の斬撃を飛ばしてイダムごと実像を吹き飛ばしてしまった。
「なんだ……それは! その武器は!」
「俺が一人じゃない事の……何よりの証明だ!」
イダムは黒い炎を放って距離を取ろうと試みるも、マグナライジングアウルはアウルウィングを分割して黒い炎を防御しながら双剣状態でイダムを斬りつける。
「何故だ! 何故効かない!」
「狙った相手が悪かったな‼」
一際強烈な一太刀を浴びせた直後、どこかから銀色の閃光がイダムに攻撃を仕掛けた。
「ぐああああっ! ぐぅっ……何だお前は! 何者だ!」
マグナライジングアウルが横を見ると、同じ武器を持った銀と黒の梟を模した装甲を纏った男が傍に立っていた。
「父さん……来てくれたんだね!」
ゼロアウルは大きく頷くと双刃剣状態のアウルウィングを、マグナライジングアウルも双剣になったアウルウィングをそれぞれ構えてイダムへと向かって行った。
「ハッ!」
四つの刃がイダムを切り裂き、邪悪な黒き死の力を、銀色の翼が切り裂いていく。
「貴様らが……俺より強いなぞ……断じて! 断じて認めねぇぞ‼」
ついに渾身の力を込めてイダムは巨大な拳の実像を発生させ、マグナライジングアウルとゼロアウルはそれを真正面から見据える。
「どうする?」
ゼロアウルは無言でアウルウィングを分割すると、マグナライジングアウルは頷いてアウルウィングを合体させる。
「そう来なくちゃ……行くぞ!」
飛来する実像に対して、真っ先に飛び上がったのはゼロアウルだった。
体を旋回させながらゼロアウルは拳の実像に真正面から突撃し、瞬時に実像をバラバラにすると、斬撃を飛ばしてイダムの翼を切り裂いて撃墜させてしまった。
「父さんが繋いだチャンスを……無駄にはさせない!」
墜落するタイミングでマグナライジングアウルは跳躍し、アウルウィングを振るってイダムへ刃を振り下ろす。
「これで最後だ!」
銀色の刃がイダムの四肢を斬り落とし、最後に二本の角を切断する。
「うおおおおおおおおっ!」
絶叫し苦悶するイダムを背に、マグナライジングアウルとゼロアウルは刃を振るって背を向けた。
「夜は終わりだ……イダム‼」
黒き死の力が爆ぜると同時に、ゼロアウルは満足げに頷いて姿を消すのであった。
「うぅ……うぁ……あぁ……」
決着はついた、イダムにはもはや戦う力どころか、動く力すらない。
「あっけないもんだな、力を求めた者の末路がこれか?」
「マグナ……アウル……」
四肢を失い、藻掻くイダムにマグナライジングアウルが近寄り、膝立ちでその様子を見下ろす。
「俺を……殺せ……」
「ずっと考えてたんだ、いざお前を殺せるってなったら……どうしようって」
「早く殺せよ! お前の悲願だろ!」
マグナライジングアウルは喚く仇を見下ろしながら、静かに続けた。
「俺の手で殺すことも考えた」
「そうだ早くしろ! 俺を殺せ!」
「だがそれじゃ……お前の罪は贖えないと思うんだ。俺に取っても、他の誰かに取っても」
初めて恐怖の相を浮かべたイダムの胸に、マグナライジングアウルがゆっくりと手を当てる。
「だからお前は……お前の力で死んでもらう事にした」
マグナライジングアウルがイダムの胸に手を沈め、何かを引き出すと同時にイダムが絶叫し、全身が黒い炎に包まれた。
「うわああああああっ! ぎゃああああああっ!」
「力に溺れた代償だ、その力を抱いて溺死しろ。それがお前への罰だ」
背を向けて去るマグナライジングアウルへ、イダムは残った右目を向けて半ば絶叫しながら助けを求めた。
「痛い! 痛いんだ! 止めてくれ! 助けてくれ! 頼む!」
その叫びに振り返る事無く、マグナライジングアウルは静かに、そして厳かに告げた。
「お前に二度と、朝は来ない」
黄金の翼を広げ、悲願を終えた梟の化身は地球へと向かうのであった。
「……」
『終わりましたね』
「ああ……終わったな」
『いい報告が出来そうですか?』
「そうだな、帰ったらみんなを連れて……墓参りだ!」
この時の俺は、本気で区切りがついたと思ってた。だが忘れていた、知らなかった。
地球に一人、家族を求めた女が来ていた事を。
今や組織を失った家族を求め迷い続けた女は、果たして地球でどんな波乱を巻き起こすのか。
そして俺は、俺達はそれにどう向き合うのか、それはまた次の機会に話すとしよう。
To Be Continued.
クインテットは幹部達を葬り去り、そして京助は仇たるイダムを倒すことに成功しました。
過去にケジメをつけ、全てを乗り越えた京助は、きっとどんな困難も乗り越えられる事でしょう。
ゾゴーリも逃げ出し、これで真鳥市を取り巻く状況は一件落着ですね。
あれ、誰か忘れてないかな?
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まだまだ続くよ、また来週!




