空を超えて
ジャガックの本拠地のある宇宙へ!
マグナライジングアウルとクインテットの六人は、つい防衛戦から攻勢に転ずる。
クインテットはバージョンアップして宇宙更に進化したスーツを引っ提げ、ジャガックの基地艦に殴り込み!
三手に分かれた六人を待つのは、果たしてどのような戦いなのか?
俺は千道京助だったもの。
今や肉体を失い、戦う術もない。動く事も出来ずこうして語り掛ける事しか出来ない。
俺を倒してしまった強大な敵を前にして、それでもなお戦う仲間達を見て、なんとか意識を保っていられるが、果たしてそれがいつまで続くのやら。
さて、どこまで話したやら。ああ、あの三人がこちらに来た所までだったかな。
あれからすぐに俺のアドバイスを受け、様々な点が改善された新しいC―SUITがロールアウトされ、皆はそれを纏って喜んでたっけ。
そしてついに……それを使っての作戦が始まった。
地球の衛星軌道上、ジャガック基地艦のイダムの部屋にて。
凄まじい勢いで扉が叩かれ、何故かイダムは上機嫌な笑みを浮かべて振り返って扉を開けると、こちらを睨みつけるクドゥリが立っていた。
「いよぉ、ク~ドゥリじゃないか」
ベナーグを携えたクドゥリは大股でデスクに座っているイダムに近付いて、上から見下ろしながら口を開いた。
「良いかよく聞けイダム。今私は……これまで生きてきた中で最大級の怒りを抱え、それを抑えながら話している。それを理解した上で……私の質問に答えろ」
「質問……質問……あぁ! なぁ~んでも聞いてくれ」
白い額に浮かんだ青筋が増え、佩いたベナーグの柄に手が伸びかけるが、クドゥリは必死に自制心を働かせてイダムに迫る。
「あの子達に……何をした?」
「なに、強くなりたいというから手伝ってやっただけさ」
「……具体的に言え」
「フフフ……連れて行ったのさ、ナニア星系にな!」
ナニア星系に何があるのか、そしてそこでイダムが何をやったのかは容易に想像がついた。
「ふざ……けるなッ!」
クドゥリは怒りに任せて渾身の力でイダムのデスクを拳で粉砕し、胸倉を掴んで問い質す。
「あの子達はどうなった! 言え!」
「誰も泉には浸からなかったが、一番上が力に呑まれてたっけ?」
クドゥリの顔が青ざめ、イダムの胸倉を離して二、三歩後退して頭を抱える。
「あいつら言ってたっけなぁ……失敗ばかりで不甲斐ないから、せめてお姉様に追いつけるようにはなりたいってよ……手っ取り早く強くなる方法があるって言ったら食いついてきたよ」
もはや抑えが効かなくなったクドゥリは腰に佩いたベナーグを引き抜くと、表面を覆うエネルギーを自身の能力で数十倍にして高めてイダムの首に突き付ける。
「あの子達を傷つけるなら……お前は私の敵だ!」
「そうか、俺に敵であることを宣告する程度にはお前も強くなったって訳か? んん?」
そう言うなり片頬をクッと上げて笑い、裏拳でベナーグを弾くとクドゥリに掌底突きを繰り出し、クドゥリは咄嗟に避けてベナーグを構え直す。
「この俺に勝てるのか⁉ 迷いに塗れたお前が!」
「うるさい黙れッ!」
低周波の音を撒き散らしながらクドゥリはベナーグを振るってイダムを斬ろうとするも、イダムは難なくクドゥリの攻撃を躱して拳状に成形したサイコエネルギー実像を飛ばして反撃する。
「エエッ……セヤッ! 喰らえっ!」
イダムの実像を切り裂いたクドゥリはベナーグの刃を切り離して鞭剣状態にし、イダムを刺し貫こうと試みるも、一撃目と二撃目は身体を翻して回避するも、三撃目は鋒を黒いシールドで防御する。
「その力は!」
「言ってなかったか……ルガーノⅢには俺も行ったのさ‼」
自身の死徒の力を発揮するより早く、イダムが作り出した黒い拳の実像達から赤い電撃が収束し、クドゥリに向かって放たれた。
「うわああああああっ‼ ううっ! ……あああああっ‼ がはっ!」
まるで命そのものを削られているかのような激痛にクドゥリはベナーグを取り落し、壁に叩きつけられる。
「ハハハハ! 今の俺はより強くなった! 迷いを抱えるお前には到底敵わないだろうなァ‼」
床にうつ伏せで倒れ伏したクドゥリは不規則な呼吸を繰り返して立ち上がろうとするも、その上にイダムが乗って来て頭を押さえつけられる。
「これに懲りたら二度とバカな気を起こさないこったな、お前はボスのお気に入りだから手加減してやったが、普通だったら殺してたところだぜ」
「あの……子達は……どこに……」
ボロボロになってまで自分ではなく妹の心配をしているクドゥリにイダムは感心してしまい、抑えつけていた頭から手を離して自分が把握している情報を喋る事にした。
「お前にゃ呆れたぜ、俺が知ってる限りだと……どうも地球に行ったらしいぜ」
「地球だと……どうして……」
「さあな、そういやあの力を除去できる奴と、あの力を克服した奴が居たっけ?」
「サイ……マグナアウル‼」
体力が殆ど残っていないにも関わらず、クドゥリは跳ね起きてベナーグを引き寄せる。
「オイオイ、どこへ行く?」
「決まっている」
右の瞳を不気味に赤く光らせながら、クドゥリは宣言した。
「地球へ行く、今すぐにな」
クドゥリが地球行きを決意した頃、京助達は。
「ついにこの時が来たんだね……」
「ああ、実際の着用テストも終わって……あとやる事と言えばもう一つだぜ」
ついにジャガック基地艦に乗り込む作戦が始まろうとしていた。
「うー、すっごくドキドキする」
「どうした皐月? らしくないぞ」
「いやね、宇宙に行くって楽しみは確かにあるよ? でも私たちが居ない間はどうするんだろうって思うと変な動悸が……」
「大丈夫だってサキちゃん、センキョーのトモダチが守ってくれるよ」
「大丈夫かなアイツは」
宇宙に行っている間はサイがこの街を守る事になっている。
サイの腕は信用している皐月だが、あの性格上しっかりこの街を守ってくれるのか心配なのだ。
「ああ、それは大丈夫、この街を守るのは契約なんだ」
「契約したの⁉ 京助が?」
天文学的な莫大な金を京助がサイに支払ったのかと考えたが、京助は笑いながら首を振って答えた。
「いやいや、俺が契約したんじゃない。サイは財団と契約したんだ」
「じゃあ財団がお金払ったの?」
「いいや、金じゃなくてジャガックの犯罪行為に加担したのを減刑と引き換えに依頼を引き受けたらしい」
「へぇ、そんなのあるんだ」
「どうやら宇宙の法律では地球への侵略行為の現行犯って発覚次第問答無用で死刑になるんだってよ。加担した奴も結構重罪になるらしい」
「そうだったんだ、だから最初にクインテットのレクチャーに呼ばれた時に問答無用で殺して良いって言われたんだ」
「だから散々ジャガックを殺して回ってもお咎め無しだったんだな」
「いやはや納得」
今更ながら色んな謎が解け、納得する六人であった。
「そんな宇宙の法律ってちゃんと機能してるんですかね?」
「確かに……それは疑わしいね」
いろいろ雑談していると、京助のスマホに通知が入った。
「あれ、なんだろ?」
見ると普通科の三年生全員のグループチャットからであり、一本の動画が添付されていた。
「おお?」
大画面にして再生すると、横断幕を持った同じ三年生の男子達と、樹を始めとした女子と美術部メンバーと担任の阿澄を始めとする先生達が映っていた。
『マグナライジングアウルとォ! クインテットにィ! エールを送るぞォォォオッ!』
長ランを着た圭斗の号令と共に全員が音頭を取り、体育祭で使うような大きな旗や横断幕を振り、全身全霊で京助達にエールを送る。
『ここに居る俺達は勿論! ここに居ない奴らも! 慧習館の先生と生徒全員は! お前の事を応援してるぞ‼』
『だから宇宙行っても! 絶対勝ってに帰って来るって! 信じてるからな!』
『京助! 頑張れぇっ!』
『頑張れ頑張れ京助!』
各々の頑張れのコールがスピーカーから割れんばかりに響き、京助の心に刻み込まれていく。
『この街の事をずっと守ってくれた! 我らが親友千道京助君に! 敬礼!』
手ぶらになっている生徒全員が敬礼し、横断幕と旗が大きく揺れる。
『これでエールを終わります! 礼ッ!』
動画はそこで終わっていたが、京助はそれを見る事は出来なかった。
なぜなら彼の視界は滅茶苦茶にぼやけていたから。
「泣いてねぇし……絶対泣いてねぇし……」
「まだ何も言ってないでしょ!」
「泣いてない……俺は泣いてない……」
いっそ清々しい程のボロ泣きである、林檎はその様子を動画に取りながら京助に聞いた。
「センキョー、なんか皆に言う事ある?」
「……ありがとうって言っといて……もうそれしか言えない……」
ボロ泣きしている京助が感謝の言葉を告げる様子をチャットに送り、林檎は京助の代わりに皆に感謝を告げるのであった。
宇宙船の調整と準備が終わり、いよいよ六人は宇宙へと向かう事になった。
「皆お待ちかねの……バージョンⅥの転送鍵だ」
「待ってました!」
クインテットの五人が我先にと白波博士が持つジュラルミンケースに群がり、自分のコードネームが刻まれたものを取る。
「なんか軽くなった?」
「ああ、特殊合金を使う事で強度はそのままに重量を軽減し、使える機能も増やしておいた」
「通信機能だって!」
「いやー、何気にこういうの欲しかったんだよねぇ」
「スーツと同じく色々な環境に体勢があり、高高度から落としても、ゾウの突進にもレーザー照射にも耐えるぞ」
「実際にやったんですか?」
「ああ、だってこれの材質、俺の剣を溶かした奴だし」
「厳密にはそれに限りなく近いレプリカ材質だがね」
だったらやりすぎな程の耐久性にも納得がいく。
「早く新しいスーツを着て戦いたい!」
「まあまあ、これから嫌って程長時間スーツを着る事になるんだ。しばらくの辛抱さ」
転送鍵に刻まれた自分たちのコードネームを確認してしっかりと仕舞うと、京助達は待機所を出て乗り場に向かっていると、途中で礼愛と実久、そして明穂の両親である茜と直樹が見送りに来ていた。
「お父さんとお母さん⁉ どうして?」
驚く明穂の頭を撫で、茜は優しく微笑みながら言った。
「娘が宇宙に行くんだ、上に掛け合って飛んで来たよ」
「すごいな宇宙、俺も行ってみたいぞ」
「戦闘向きなお母さんならまだしも、お父さん役に立つの?」
「おいおい言ってくれるな? 夢見人はすごいんだぞ~」
「そうだね、直樹君は戦う前に終わらせるタイプだからね」
この場に明穂以上に驚いている人物が一人だけいる、京助だ。
「お……母さん? 明穂の⁉ あの人が⁉」
誰だって驚くだろう、身長一九〇センチを優に超す体格のいい女性が友人の母なのは。
「そうか、京助君は明穂さんのお母さんと会った事無いですもんね。そりゃ驚きますよ」
「公安X課に所属してるんだって」
「ハァ~……俺の父さんよりデカい人初めて見た」
明穂と話していた茜が京助に気付き、こちらにやってきた事で京助は若干背筋が緊張する。
「君がマグナアウルか、噂はかねがね」
「ああ、どうもどうも」
茜と京助は握手を交わし、京助の緊張はやや解れた。
「君がそうだったとは……ご両親の件、X課としても未然に防げず残念に思っている、申し訳なかった」
「いえいえ、謝る事無いですよ、悪いのはジャガックですから」
「すまない、ありがとう。こんな事を頼むのも変かもしれないが、娘とその友人達を頼みたい。これは同じ超能力者としての頼みだ、いいかな?」
京助は敬礼しながら答えた。
「勿論ですよ、万が一すら起こしません」
「ありがとう、今後もし一緒に仕事する機会があればよろしく」
京助はもう一度茜と握手を交わし、直樹から肩を叩かれてサムズアップを受け取った。
「そろそろ時間かな」
「スーツは乗ってから着る感じになるかな」
見送りに来た保護者達に手を振りながら専用ジェットに乗り込み、六人の少年少女はこれから始まる戦いの責任感と、初めて宇宙へ飛び出すという期待に胸を膨らませながらシートベルトを装着した。
『全員の着席が確認されました、強い揺れに備えて安全ベルトの調整を開始します』
少しキツイぐらいにベルトが締められた後、座席下部に把手がせり出してきていよいよ宇宙行の準備が完全に整う。
『カウントダウン開始…………五……四……三……二……一……発進します』
ジェットが宙に向かって発進し、その様子を見ながら保護者組は心配そうに顔を見合わせる。
「上手く行きますかね……」
「ええ、きっとあの子達なら」
「そんな事言ってさぁ、ホントは誰よりも心配してるんでしょスウィート?」
「それは言わないでよハニー」
急にいちゃつき始めた白波夫妻を見て、実久と茜と直樹は肩を竦めるのであった。
やがて大気圏を抜けたジェットは衛星軌道を突き進み、ジャガックの基地艦を捉える。
「……ん⁉ おお⁉」
突如として接近してくる地球のものと思われる宇宙船が見えた事で、基地艦の攻撃要員が大騒ぎする。
「どうしてバレた⁉」
「それより迎撃だ!」
艦上に備えられた重レーザー砲が幾機か展開され、ジェットに向けて一斉に掃射される。
「絶対に近付けるな!」
「近付けたらボスに殺される!」
しかし自動制御のジェットは旋回しながらそれらを全て回避して、逆に仕掛けてきたのだ。
「絶対に撃ち落とせ! 近付かれるだけでもヤバいが、万が一乗船でもされたらお終いだ!」
「もしもあれにマグナアウルとか乗ってたりして、それで万一乗船なんかされたら……」
その一言で全員頭が真っ白になり、これでかえって冷静になることが出来た。
「俺の権限で許可する……超分子分解ビームを使え、正確に狙って撃てよ」
「い、良いんですか⁉」
「良い! さすがに分解ビームを喰らって宇宙に放り出されたら、流石のマグナアウルでも生きてはいられまいっ!」
「そしたら俺らがマグナアウルを倒した英雄になるっすね!」
「いいからお前は銃撃の手を止めるな! 重レーザーとかであのジェットの気を逸らすんだよ!」
重レーザー砲だけではなくプロトン半実体ミサイルも加わり、ジェットの回避行動は更に激しさを増す。
弾幕がより苛烈になるにつれ、徐々に機体へ被弾する事も増えてきたが、辛うじてフォースフィールドが機体の損傷を防いでいる。
「当たりましたよ!」
「だが確実に奴らは近付いている! 油断するな!」
重レーザー砲が更に展開し、若干スピードが落ちた所でプロトン半実体ミサイルが左翼に直撃し、損傷してしまう。
「今だ! ロックは⁉」
「完了しました!」
「消し炭にしろ‼ 撃て‼」
重レーザー砲よりも太く重々しい砲台の超分子分解ビームが展開され、数秒のエネルギー装填の後極太のビームが照射され、左翼を損傷したジェットにはもはや回避できる術はなく、直撃を喰らって小規模爆発を起こして宇宙の藻屑と化してしまった。
「よっしゃぁぁぁ! しゃあっ!」
「やったぁぁぁぁあああ! 迎撃大成功!」
「やったっすね! 無事に迎撃できたっすね!」
無事に迎撃が成功し、攻撃要員達は全員が立ち上がって大喜びする。
「よくやったぞお前ら! 我々初の快挙だぞ!」
「初の快挙? 何がですか?」
「ああ、俺達はこの基地に近付く奴らを迎撃する為に配置されたんだが、そんな奴数年来なかったから暇で暇で半ば閑職になってたんだよ」
「いや~無事迎撃できてよかったな、もしもマグナアウルが乗ってたら俺達大手柄だよな?」
「マグナアウルが?」
「多分こっちに来るような奴って絶対マグナアウルかクインテットしかいねぇよな」
「本当に倒したのか?」
「間違いねぇよ! ただの一般の雑魚をここに送り込む筈がねぇからな」
「あれで倒したって? マグナアウルを?」
「絶対そうっすよ! 俺達はマグナアウルを倒したんだ!」
「お前らが? マグナアウルを? 倒したって?」
「ああそうさ! あの一撃で倒したんだ!」
「本当に倒せるもんかねぇ? マグナアウルが」
さっきから一人水を差すような事ばかり言ってくる者が居り、攻撃要員達は苛立って後ろを振り向く。
「さっきから何だお前、せっかくマグナ……アウル……を……」
全員は見た、今この場に一番居てはいけない存在を。
髪の一部が白くなった地球人の少年と、その背後に居る五人のパワードスーツを纏った女達が自分たちの真後ろに立って居た。
「ハッ……ハッ⁉」
京助は手を振って、そこら辺を歩き回りながら言った。
「あのな、お前らじゃあるまいし馬鹿正直に正面突破するとでも思うか? お前達が気を取られているうちに侵入できたってわけだ」
「け……警報ォ……」
警報を鳴らそうとした寸前に京助がフィンガースナップをして全員を瞬間移動で宇宙空間に放逐し、高熱を送り込んで灼熱死させる。
「上手く行ったね」
「ああ、礼愛さんのお陰さ」
「いいや、京助のお陰かな」
「褒めたって何も出ねぇぞ……さてと」
右腕と左腕を交差し、ライジングアウルレットを出現させ、腕を大きく回して右腕を掲げる。
「翔来!」
星が瞬く青い闇に包まれた京助はマグナライジングアウルとなり、新しい銀色のラインが入ったスーツを纏った戦友達を見る。
「いいなそれ、結構似合ってるぜ」
「褒めたって何も出ないよ、さてと……」
ガディとザリスとジェサムから情報提供を受けたジャガック基地艦の地図のホログラムを投影し、今自分たちがどのあたりに居るかを把握する。
「いまここね」
「何から潰す?」
「うーん、やっぱりさ……」
デメテルが指さしたのはこの艦の四割を占めるエリアだった。
「ここ真っ先に潰した方が良くない?」
それはクローンと兵器工場兼兵舎であった。
「確かに、こいつを確実に潰しといた方が今後絶対タメになるよな」
「じゃあ隠れながら行く?」
「いいや」
クインテットの五人に背を向けたマグナライジングアウルは、指を組んで関節を鳴らすと、現在地から目的地の方角に当たりを付け、指をくねらせながらその方角を見据える。
「今度は真正面から行くぜ」
五人の脳裡に、基地を襲撃してた時のマグナアウルの様子が浮かび、またあんな感じの事をするのかと思わず溜息が出てしまう。
「あんまりひどく壊さないでよ?」
「飛ばしすぎると私達死んじゃうからちょっと抑え目で頼むよ」
「分かってるって、早く準備しな」
五人が短期飛行ユニットを起動したのを確認したマグナライジングアウルは、壁に向かって突撃をぶちかまし、床と壁と天井を破壊しながら目的地へ一直線に飛翔する。
「抑え目って……話聞いてたの?」
「あれが抑え目なんでしょ、早く行くよ!」
轟音を響かせながら飛んでいくマグナライジングアウルを追いかけ、五人は飛翔して追いつこうとする。
「これじゃ秘密裏に来た意味ないですね」
「そしたら炙り出せるからちょうどいいとか言いそう」
やっと追いついた所で、既にマグナライジングアウルは工場の入り口を守る守衛やオートマタと戦闘を始めていた。尤もそれは戦闘というより一方的な虐殺に近かったが。
「私達も行くよ!」
「おうよ、最初の一発はウチが!」
イドゥンはロングライフルを生成すると転送したミサイルマシンガンを合体させ、体の様々の部位からビームキャノンを始めとした銃器類を展開し、周囲一帯のものに照準を合わせる。
「工場を全部! ぶっ壊ァす!」
イドゥンから放たれたビームや実体弾、大小様々なミサイルが周囲に撒き散らされ、重く閉ざされた扉が破壊されてしまった。
「ウエッホ……ガッホ! おいコラァ‼」
もうもうと立ち込める煙から、マグナライジングアウルが出てきた。
「俺ごと巻き込んだよな今⁉」
ロングライフルの銃口を上に向けて、涼しい顔でイドゥンは言ってのけた。
「あんたはこれしきじゃ死なないっしょ、ホラ行くよ」
六人はさながら巨大な怪物の口のように開いたジャガックの兵器工場の中へ進み、悪魔を身中から粉砕するべく進むのであった。
轟音が何度も響き渡り、自分が入っている水槽の水が揺れた事でようやく異常に気付いたザザルは、ついに煩わしいという理由で切っていた監視カメラの映像をつけた。
「は?」
自分の工場に絶対に居ないはずの、そして絶対に居てはならない存在が居るではないか。
「……遅かれ早かれとは思っていたが、今来られるのは面倒だな」
ザザルは自分の〝体〟のアームを動かして警報と迎撃システムを起動させ、カメラ越しにそれが起動したのを見届けると〝本体〟はゾゴーリと連絡を取る。
『なんだ、最上位警報を出したのはお前か。何事だザザル』
ホログララムで映し出されたゾゴーリの三つの目は少々不機嫌そうに細められている。
「マグナライジングアウルとクインテットが本艦に侵入しました」
ザザルの言葉を聞いた途端、ゾゴーリの顔は「少々不機嫌」から「激怒」に歪み、右の上下の拳を突き付けてザザルを怒鳴りつけた。
『ハァァァァァァアアアアアアアッ⁉ 何だと⁉ ふざけるなよ!』
「私に当たっても仕方ありますまい。ひとまず落ち着いてください」
『落ち着けるか馬鹿者! 奴らに……奴らに侵入を許しただと⁉ よくも私の城にジギを招き入れてくれたな‼ 許さんぞ使えん大馬鹿者共めが!』
ジギとは惑星バルヴィーに生息するモグラとゴキブリを合わせたかのような害獣である、ゾゴーリの怒りはそれ程までに凄まじい。
「只今迎撃に当たらせています故、ひとまず落ち着いてください。これでは私が何も喋れない」
『何を喋ると言うのだ⁉』
「あなたにやってもらわなくてはならない事がある」
この期に及んであまりにも自分のペースを崩さないザザルに一周回って感心したゾゴーリは話を聞くことにした。
「最終計画を何としても隠蔽し、そして来るべき時に備えて奴らに妨害させないために、必要なものを集めて逃げる準備をして頂きたい」
『……ぐぅ、そうかわかった。何をすればいい』
ゾゴーリはザザルの出す指示を記録し、この〝最終手段〟を決して起こさないようにと釘を刺して通信を終えた。
「さてと……全く」
水槽内のモニターのホロパネルのボタンを押し、自身のラボの後ろに収納されていたものを開放する。
「戦うのは面倒だが……死ぬよりはマシだ」
ザザルが現在使っているボディよりも一回り程大きく、そして無骨なボディが現れた。
「久々に戦うとするか」
警報が鳴る中、研究所兼工場内に居た兵士たちが迫って来る。
「来ましたね」
「ええ、やりますか!」
ミューズが回転刃付きハルバードを、ルナが太刀とナックルガンを、アフロダイが双刃のナギナタを取り出し、ダメテルはサイバスの構えを取る。
「アウルブラスト」
イドゥンもレールガンを転送して二丁で構え、戦闘準備を整えた。
「皆……行くよ!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおッ!」
六人それぞれが別々の場所に走り出し、敵を屠っていく。
「ハアッ!」
「せっ!」
ミューズのハルバードとアフロダイのナギナタがロングリーチを生かして敵を切り裂き、道を切り拓いていく。
「有象無象の烏合の衆……この宇宙から退場願おうか‼」
マグナライジングアウルは黄金に輝く翼を展開し、その翼を切り離して無数の羽に変えて操作して敵の大群にぶつける。
「起爆!」
舞い散る無数の羽が次々と爆ぜて爆縮し、敵の数が大きく減った。
「ありがとマグナアウル!」
「助かる……よっ!」
多くの敵に押されそうになっていたルナとデメテルの道が開け、ルナは高速で動き回りながら斬撃を飛ばし、デメテルは力強いサイバスの動きで無数の敵を殴打し、最後に高火力ビームで一帯を薙ぎ払う。
「開けた! 奥に進もう!」
やっと道が開けた事で六人は一斉に奥へと走り、追いかけてくる残ったジャガック兵を門の欠片をイドゥンとアフロダイとルナが手を翳して引き寄せ、上から落として押し潰してしまった。
「おお、やるじゃん」
「私達だって超能力者なんですよ?」
「偶には使わないと錆びちゃうからね」
友の力の成長具合に感激しつつ、マグナライジングアウルは進路に目をやる。
「さてと、ここに三つの通路がある」
「もはや定番だね」
「三手に分かれる? 二・二・二で」
「いや、一・二・三が良いだろうな」
この口ぶりから誰が一なのかは一目瞭然である。
「うん、どうしてよ?」
「十中八九敵は俺達の様子を見てる、俺と一緒に居たら確実に集中砲火を喰らうと思うんだ」
「まあ理には適ってるか……じゃあグーパーで分かれる?」
「いや、イドゥンとアフロダイは別々が良い。それぞれに第六感と短期未来予知があれば危険はかなり排除できるだろうからな」
マグナライジングアウルの提案に五人は目から鱗といった様子で「あぁ~」と言いながら頷いた後で話し合い、結果ミューズとアフロダイ、ルナとデメテルとイドゥンで分かれることになった。
「何かあったら絶対に報告する事、特にアンタね」
「へいへいよ、分かっておりますよ」
「本当に頼むよ?」
「分かってるって、お前達こそ危なかったら〝これ〟な」
マグナライジングアウルが手首の上でダイヤルを捻るような仕草をして、五人はサムズアップを立てたり、頷いたりして見せた。
「うん、新機能でしょ?」
「本当に危なくなった時に使いますから」
お互い気を付けることを約束し、六人はそれぞれの道へ進むのであった。
クインテットと別れた後、適当に場所を荒らしまわってクローン工場らしき場所を潰し終えたマグナライジングアウルは、一人大きく息を吐いて上を見た。
「やっと……ここに来れたんだ」
もしもこの時が来たら、絶対にやろうと決めていた事がある。
「猿山の女帝、ゾゴーリ・ジャガックに会いに行こうか!」
自分の人生に大きな傷を残した存在のトップがどんな奴か、ずっと気になっていたのだ。
「まあボスに近付けば、あの唾棄すべきクソサイボーグ猫とか真っ白女も出て来るだろうしな。行くか!」
記憶しておいた地図を基に、ゾゴーリの部屋がある場所に当たりを付けた。
「うーん、ここから行ったら折れるな」
この場から跳躍して突っ切れば、ジャガックの基地艦はきっとそこを軸にして折れてしまうだろう。
「しゃーねぇ、まだ破壊する訳にはいかねぇからな」
その場で軽く跳躍すると瞬間移動し、上級構成員の居るエリアに向かった。
持っていたアウルブラストを肩に担いで、散策するように歩き出すと、上から幹部直属のジャガック兵が次々と現れ、エレクトロエッジを使った武器を構える。
「へぇ、そう易々と通すわけにはいかないって?」
エレクトロエッジを起動して刀身に電気を通し、威嚇するように火花を散らしてマグナライジングアウルに迫る。
「哀れだな、大人しく逃げ出していれば……少しは生き延びられたものを!」
サブマシンガンを生成して二丁拳銃を用い、マグナライジングアウルは敵陣へと突っ込んでいくのであった。
ジャガック基地艦が襲撃で大騒ぎになる中、丁度入れ違いになる形で一台のスターセールが真鳥市の上空を通過していた。
「流石にバレたらまずいな……ここにしよう」
クドゥリは適当な山中に当たりをつけると、ファルバス・デロイのフィールドセールを折り畳んで着陸した。
「あいつをどうにかして探さねば」
クドゥリはサイの居場所を探る為に歩き出す。もしも妹達が死徒の力をどうにかする為に接触するとするならば、きっと真っ先にサイの元に行くだろうという考えからだ。
目立つ容姿を隠す為、髪を束ねて帽子で隠し、サングラスとカーキ色のコートを纏い、以前キャッチしたゼバル号の信号を頼りに歩き出す。
「あいつが変えてないと良いんだが」
襟を立てて顔がなるべく露出しないように心がけるも、帽子にサングラスのコートを纏った高身長の女という不審者に向けられる奇異の視線を浴びつつ、クドゥリは街を抜けて別の山へとたどり着く。
「やはり考える事は同じか」
山の中に入ったクドゥリはついにゼバル号を見つけ、ノックもなしに扉を開け放つ。
「サイ!」
顔に張り付けたかのような笑みを浮かべながら、両手を広げてクドゥリを迎えに来るかと思ったが、船内は静かでその上暗い。
「居ないのか?」
クドゥリがそう漏らした途端電気がつき、ゼバル号の制御補助AIが起動して空中にホログラム文字が浮き出る。
「ザルクは分からん。共通言語か分かる文字にしろ」
ぶっきらぼうに言ってのけたクドゥリを嘲笑うかのようにルガーノの公用言語であるルガグラフが表示され、クドゥリは呆れたように言った。
「お前はどうしてそんなに性格が悪いんだ……まあ昔からそうだったか」
ゼバル号の制御補助AIは嘲笑や挑発めいたの意の言葉を表示し、何の用かとクドゥリに聞いた。
「お前の主人はどこに居る?」
制御補助AIが表示した答えを見て、クドゥリは思わず目を丸くした。
「何だと! ウィルマース財団に⁉ 何故だ⁉」
AIが表示する文字を読み、クドゥリは更に目を見開き、眉根に皴を寄せながら咄嗟に窓から外を眺める。
「ジャガックを抜けたがってる三人の女を監視する為……だと?」
まさに青天の霹靂である。あの三人がジャガックからの離脱を望んでいたとは夢にも思わなかった。
「……何が……何があった!」
まさかあの可愛がっていた妹達が、自分に黙ってジャガックに反旗を翻そうとしていたとは。
クドゥリの白磁のように輝く肌に、焦りと疑惑から来る汗が滲む。
「いや……きっと何かの間違いだ! そうに決まってる! 財団に脅されて……」
もしもこのAIに顔が着いていたとしたら、鼻っ面に一発叩き込みたくなるような心底憎たらしい顔で言っているだろうと容易に想像がつく一文が表示され、クドゥリは怒りに任せて怒鳴りつけた。
「お前如きに何が分かる! 所詮は紛い物の心を持ったAIの癖に‼ 私達は血を分けた家族なんだぞ!」
それでも補助AIはペースを崩さず、更にクドゥリの心の古傷を抉り出すような一文を表示する。
「……そうさ……私は……家族に恵まれなかった……だからこそ……これ以上失いたくないんだ」
浅い呼吸を繰り返していたクドゥリは大きく深呼吸して心を落ち着けると、扉を見据える。
「あの子達を……取り返す!」
クドゥリが背を向けてゼバル号を去った直後にAIは、クドゥリを嘲笑うような、それでいて憐れむような一文を残すと船内の電気を消灯するのだった。
三つに分かれたうちのルナとデメテルとイドゥンのチームは、しばらく進むと自律殲滅オートマタの研究をしていると思われるエリアに出た。
「あの厄介なオートマタ達はここから生み出されてたんだね」
搭載予定だったであろう兵器の数々を見て、皆はこんなものが搭載されてしまったらどうなってしまうんだと内心戦慄してしまった。
「事前に阻止出来て良かったね」
デメテルの高火力ビームがあらゆる装備を焼き尽くす。
「こんなのフル装備されちゃたまったもんじゃない」
「てかオートマタって普段折り畳まれてるけど、どうやってこんなん取り付けるつもりだったんだろ?」
「アレでしょ、もっと大きなオートマタを作るつもりだったんでしょ」
「ういぃ……考えたくなかった」
更に電子機器や研究途中の兵器や部品を破壊しながら奥へ奥へと進んでいると、棚が壊れて崩れた所に、明らかに何かを秘匿しているであろう重厚な丸い扉が現れた。
「ほーへーふーん……何か隠してるんですかぁ⁉」
試しにイドゥンが扉を蹴ってみた所、轟音が響くも少しの傷しかつけることが出来なかった。
「入る?」
「そりゃね」
「どうやって入る?」
「私に考えがある」
そう言うとルナはナックルガンを取り出してフルチャージを発動し、丸い扉に銃口を向ける。
「よっ!」
丸い扉が氷で覆われ、スーツ越しにも少しひんやりした感覚がする。
「よし、イドゥンよろしく」
「なるほど、急に冷やして急に温めんのね!」
凍り付いた重い扉を、イドゥンがロングライフルから放たれる緑色のビームで扉の表面を焼き、徐々に氷が解凍されて水と化し、扉に使われている金属もオレンジ色に変わり始める。
「よしよし! ラスト!」
デメテルがナックルアームの表面をサイコエネルギーで覆い、渾身のロケットパンチを放ったことで見事に扉が破壊され、新しい道が開かれた。
「よし、行けるね」
三人はロケットパンチで抉れた扉を潜ると、そこは先程までのオートマタのラボとはまた別のラボが展開されていた。
「……何ここ?」
「オートマタの研究所じゃ……ない?」
奇妙な機械や人類が使っているものに酷似した実験器具が机の上を汚しながら並んでおり、更に奥の方には無数の体組織の標本らしきものが浮かんでいる。
言うならばそのラボが扱う研究は。
「生物学の……ラボ?」
「ただのラボってワケじゃなさそう」
イドゥンが屈んで見ていたのは、ケースに入った何かの肉片のようなものが内部で放電している様子である。
「確かに、何だろうこの電気は」
他にも同じような肉片が浮遊していたり、何かエネルギーを放出しているものがある。
「ここにあるものは、何かしら秘匿されるだけの理由があるって事だよね」
「そうね……いきなり壊さなくて良かったかも」
「どうする? データ抜く?」
「抜き取ろ」
「気を付けてね、今の所一切遭遇してないけど、データ抜いた途端に敵が滅茶苦茶出て来るかもしれないから」
「怖い事言わないでくんねぇ?」
そう言いながら腕の装甲を展開し、イドゥンはその中に入っていた侵入端子を接続してARを操作し、ここで行われていた研究を探り出そうと試みた。
「よし、残ってるのは全部抜き取った、ウィルスバスターもかけたから行こ」
端子を回収すると、三人は奥へ奥へと歩き出す。
「奥になんかあるよ」
見た所机の上に置かれていたケースに入っていた肉片の更に大きな標本たちらしい。
「何があるんだろう?」
「うわっ……」
「うぅ……」
ルナとデメテルは液体の中に浮いていた標本を見て、思わず吐き戻しそうになる。
標本の数々は辛うじて人型を保っていたが、主に哺乳類や両生類等のパーツをミキサーにかけて成型したかのようなグロテスク極まりないものばかりであった。
「一体ここで……何の研究をしてるの?」
困惑していると下から突き上げるような小さな振動がして、一気に下方へ降っていく。
「気を付けて!」
三人は即座に背中合わせになり、ルナは太刀とナックルガンを構え、デメテルはサイバスの構えを取ると同時にいつでも高火力ビームを撃てる体勢に、そしてイドゥンはミサイルマシンガンを転送して周囲を警戒する。
やがて降下しきると広い場所に出て、天井近くに備わったスピーカーから声が響く。
『やあどうもクインテットの諸君、私はゲブル・ザザルバン、ジャガックの兵器開発を一任されている幹部だ。初めましてだな』
こんな幹部聞いたことがない。無理もないだろう、何故ならザザルは今この瞬間を除いて一切戦いの場に現れなかったのだから。
『私の秘匿ラボを見つけ出し、ここまでたどり着いたのは感心した。だが中のものを見られた以上、それが何か分からないにしろ生かしておくわけにはいかない』
「あっそ、じゃあここを焼き払って蒸し焼きにして殺すって?」
「それとも水圧で押し潰して殺す?」
『いいや、ここに来た君達へ科学者成りに敬意を示し、私直々に葬ってやろう』
「出来るの? 今まで一度も出てこなかった奴が」
「臆病風に吹かれてた奴が、今の私達には勝てると思うの?」
『臆病? 違うね』
閉ざされていた大きな扉が展開し、巨大な戦車のようなものが現れ、各部が変形して人型になる。
「なっ……」
「これは……」
「噂をすれば……何とやら……」
先程ラボに置いてあった数々の兵器を備えた巨大なロボットが、三人を見下ろして屹立している。
『戦うのが面倒だっただけさ』
こうして突然ルナとデメテルとイドゥン対ジャガック幹部ザザルの戦いが幕を開けたのだった。
一方その頃ミューズとアフロダイは、ひっきりなしに表れるパテウの劣化した力を持った強化ジャガック兵を処理すべく、ハルバードと槍を振るっていた。
「もーっ! 多すぎ!」
エネルギーの回転刃を飛ばして周囲の敵を撃破し、二人で壁伝いに走って部屋に駆け込み、協力して調度品を扉の前に積み上げ、チャージしてエネルギーをそれぞれの得物の刃先に送り込んで溶接してしまう。
「ハァ……ハァ……マグナアウルについて来てもらえば良かったかなこれ……」
「他の皆はどうなってるんでしょうね?」
念のため周囲を警戒しつつもその場で休憩し、何かありそうな場所へと歩を進める。
「痛い所ある?」
「いえ、今の所は大丈夫ですよ」
「分かった、とりあえず……進める所を探そうか」
短期未来予知が出来るアフロダイを先頭に、二人は別の所のドアを抜けて進み出す。
「ここってさ、さっきと違って研究室って感じしないよね」
「確かに変ですよね……まるで別のエリアみたい」
二人がそう感じるのも無理はない、ここはクローニングにより生み出された強化ジャガック兵の宿舎となっている場所である。
つまり先程ミューズとアフロダイが大量の敵に遭遇したのも、敵の暮らしている場所のど真ん中に突っ込んだからであり、無理からぬ事である。
数多くの敵が潜みひしめく場所に放り込まれたミューズとアフロダイ、果たして無事にこの場を切り抜けることが出来るのだろうか?
「シッ……」
弓を持って先行していたアフロダイが、ミューズを手で制して進まないようにする。
「どうしたの?」
「見えました。この先居ます」
一時避難した部屋からやっと別の所に繋がるドアを見つけた矢先の出来事であった。
「どうする?」
「共通装備を使いましょう、そうですね……引力爆縮グレネードを」
「OK」
ミューズはグレネードランチャーを転送すると、チェンバーに専用弾を装填すると頷いて、アフロダイは扉に指を掛けた。
「……」
アフロダイの三本立てられた指が一本ずつ折られていき、完全に握りこぶしになった直後にドアが小さく開き、間髪入れずその隙間に引力爆縮グレネードが叩き込まれて、クインテットがやって来たと異さんで飛び出した兵士達は財団新兵器の餌食となる。
「おおおおあああああっ!」
「ぎゃあっ! ううぐうううああああああっ!」
「ヴオアアアアアアアアア‼」
よく分からない宇宙言語を次々と兵士たちが捲し立てるが、絶叫している事と汚穢な言葉を吐いている事はしっかりと理解することが出来た。
骨が軋み肉が潰され、まさに肉塊と成り果てたジャガック兵達を見て、アフロダイは槍を弓に変形させると、鏃を三日月形にして肉塊に狙いを定める。
「ハッ!」
気合と共に三日月型の矢が放たれ、肉塊は完全消滅してしまった。
「これで進めますね」
「すごいねこれ……よく考えたと思うよ」
「あまり個数は無いそうですから慎重に使いましょう」
その後も次々と現れるジャガック兵をやり過ごしていると、遠方にエレベーターらしきものが見えた。
「エレベーター! 急ぐよ‼」
「はいっ! よっ!」
転送したスタンプワイヤーを投げてボタンを押すと、ミューズは迫り来るジャガック兵の数々を倒し、攻撃を回避しながら奥へと向かう。
「三秒後に開きます!」
アフロダイは背中に提げておいたナギナタを中央から分割して弓に合体させて準備を整え、二人は三秒かけて近づいてくる敵を倒し、扉が開くと同時に足のジェットを駆使して跳躍し、籠の中に滑り込んだ。
「寄るなッ‼」
フルチャージを発動して弓を引き、ナギナタのエネルギーブレードと鏃に紫色のエネルギーが収束し、指が離れると同時に光の矢が螺旋を描きながらジャガック兵を纏めて貫いて、その間にミューズが全力で閉扉ボタンを連打する。
「閉まれ閉まれ閉まれ‼」
やっと完全に閉まりそうになったその刹那、下半身を失ったジャガック兵が手を突っ込んできたが、ミューズは躊躇なくその手を戦斧で斬り落とすと再び閉扉ボタンを連打する。
「フゥ……閉まった……」
緊張が解けた事で二人は一息ついて腰かけ、下へと向かうエレベーターにその身を任せた。
「次はどんな所に出るんだろ」
「さっきみたく敵が沢山出て来るのは勘弁被りたいですね」
二人は暫しの間の休息を享受するのであった。
数分経ってエレベーターが到着し、周囲を警戒しつつ外に出ると、そこは歩行戦車やパワードアーマーの解発研究をしている所であった。
「おお! こういう所に行きたかったんだよ」
「この作戦のメインは戦力の削減ですからね。それじゃ……やりますか」
「んひひ……そうだね」
ヘルメット越しに悪い笑みを浮かべた二人は一帯を縦横無尽に駆け回りながら次々と試作品や機材を破壊して回り、最後の一発として二人ともオーバーチャージを発動し、ミューズが形成した巨大回転刃をアフロダイが槍で受け取って投擲する事で、試作品どころか壁ごと崩壊してしまった。
「第一弾完了かな」
「穴が開いたので、ここ通って次に行きましょうか」
その後も目についたウォーカーやパワードアーマーを破壊しながら進み、手頃な小型ウォーカーを見つけた二人はそれをハッキングして乗り込み、それを用いて移動しつつ破壊工作を続けていると、ある地点に来たところで急激に周囲の景色が変わってしまった。
「なっ……何今の⁉」
「……そうか、ワープトラップです。一瞬すぎて感知出来なかった」
つまり二人をここに誘引したがっていた者が居たという事。
「とりあえず周りを確認しよう」
ハッチを開けて周囲を確認すると、さながら大侵攻の時のようなアリーナが目の前に広がっており、自分達をここに連れてきた者が一体何をさせたがっているのかを理解した二人は、にわかに筋肉が硬直して緊張感が走る。
「隠れてないで出て来たらどうですか黒幕さん」
「かったるいの嫌いなの、早く出て来い‼」
しばらくするとアリーナの二階席のドアが開きそこから蜘蛛を思わせる機械のアームが現れた。
「全く、役立たず共には呆れる。この私直々に出張る羽目になるとはな」
先端が尖った機械のアームが地面に張り付き、ついにアームの主がその姿を現した。
「あいつは確か……」
補助用アームに体を釣られた、狡猾そうな顔をした爬虫類型ヒューマノイドだ。
「冥途の土産に教えてやろう、私はルゲン、ジャガック幹部のセ・ルゲンだ!」
その名を聞いたミューズの目が大きく見開かれ、怒りの炎が双眸に灯る。
「お前か! お前がルゲンか!」
京助の中に眠り続けていた死徒の残滓を覚醒させ、ウィッカーアウルへ変貌させた切っ掛けを作った張本人である。
京助を苦しめた奴というだけで、ミューズにとっては八つ裂きにしても足りない存在である。
「てっきりマグナライジングアウルがこちらに来ると思ってはいたが……お前達二人で本当に僥倖だ」
「それ……どういう意味ですか?」
「フフフフ……お前達二人を確実に殺せるという事だよ!」
「そう、その鼻をマズルごとへし折ってやる! さっさと来い! 細切れにしてやる!」
いきり立つミューズに対してルゲンは嘲笑を浮かべると、その場で両手を広げた。
「そうかそうか、そんなに戦いたいなら戦わせてやろう。その前に肩慣らしをさせてくれるわ!」
そう言うなりアリーナの扉という扉が開いて中から大量のウォーカーやパワードアーマーが現れ、ミューズとアフロダイの方へ迫って来た。
「ッ!」
咄嗟に反応して受け流すも、こちら二人に対し百近い相手をしなくてはならないのは、もはや不利などという次元ではない。
ハルバードで攻撃を受け止めて弾き返してから、ミューズは心底楽しそうにこちらを見下ろすルゲンに向けて怒鳴りつけた。
「セ・ルゲン‼ この卑怯者‼」
ザザルとルゲンがとうとう動きだしたのをカメラのモニター越しに見ていたゾゴーリは、ストレスのあまり右下手の爪を噛みながらもう一つのモニターを眺めていた。
そのカメラはマグナライジングアウルを捉えており、今はまだ大丈夫だが、二時間もすれば確実に自分の元に辿り着きそうな勢いだった。
「うぅぅ……マグナ……ライジング……アウル‼」
ありったけの兵士を投入しているが、焼け石に水を通り越してマグマに水である。しかも戦力の逐一投入という形になっているため、戦術的にも非常に良くない。
「クドゥリは! クドゥリはどこだ!」
呼びかけに応える少し低めの美声は返って来ない、何故なら彼女は今地球に居るのだから。
「何故だ! 何故いない! まさか死んだんじゃあるまいな⁉ もしそうだったら……いいやその前にこのままだと私は……私は!」
「ご安心をボス、クドゥリは諸事情で地球に居ります」
部屋に入って来たイダムに、ゾゴーリの恐怖心はほんの少し和らいだ。
「何をしている、戦いに行け」
「まあまあお待ちをボス、私なりの考えがあっての事なのですよ。それよりボス、先程ザザルから指示を受けていた様ですな」
「ああ、逃げろと言われた」
「では今からその準備をしたらいかがでしょう」
ゾゴーリの三つの目が見開かれ、下二本の腕が机を叩く。
「おめおめと逃げ出せと言うのか! この私に!」
「いいえボス、考え方の転換です。面子を優先して万が一死んでしまっては元も子もありますまい、大局的勝利を勝ち取るのです」
「大局的勝利……大局的勝利か」
「機を伺うのですよボス。ですが逃走のタイミングはある程度引き付けてからがよろしいでしょう、ですが引き付け過ぎてもダメだ。そこは駆け引きですな」
ゾゴーリは大きく息を吐いて唸ると、再び椅子に腰かけて囁くように返した。
「考えておこう」
果たしてジャガックの本拠地の中で迸る熱き三つの火花は、一体どのような戦いを繰り広げ、どんな勝敗を決するのか。
最終決戦を見逃すな!
To Be Continued.
皐月と明穂と林檎の三人はザザルと、奏音と麗奈の二人はルゲンと戦う事になりました。
京助の対戦相手はもう言わずともわかるでしょう。
ですがそのイダムも怪しいやり取りをしており……。
果たして最終決戦はどうなるのでしょう?
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ではまた来週お会いしましょう。




