星を超えた友情
最後の戦いの予感。
こちらからジャガックに攻め込む作戦を財団が立てている最中、宇宙から来訪者がやって来る。
それは死徒の残滓によって変わり果てたガディの姿だった!
ザリスとジェサムは明穂にガディの助命を懇願し、京助は友の願いに応える為に動き出す。
果たして京助はガディを救うことが出来るのか?
俺の名は千道京助。いや、もはや千道京助だったものと言っても良いかもしれない。
俺は今精神のみの、いわば魂魄のような状態で意識を保っている。
俺の肉体は全く原形を留めていないぐちゃぐちゃのミンチ状態で、第二の肉体であるマグナライジングアウルは二十三次元へ返還されてしまった。
自分でも未だ死んではいないこと自体が不思議で仕方ないが、とりあえず意識は保てている。
だが確かに言えるのは、奏音を始めとするクインテット等の共に戦う仲間達や、俺の友人達を含む真鳥市の皆が危機的状況なのに、こんな状態になって何もできない自分が歯痒くて仕方ない。
どうにか状況を打破できるような糸口を探っているが、今回ばかりは難しそうだ。
一体何故俺がこうなったのか、時計の針を戻して数日前から見ていこう。
「ふああ……ふぅ」
朝六時、大欠伸と共に外に出た京助が、正門に取り付けられたポストの蓋を開けると、大量のファンレターがドサリと音を立ててこぼれ出た。
「毎日毎日飽きないね……ありがたい事だけどさ」
「手紙ぐらい良いじゃないですか、さすがに出待ちと取材は勘弁してほしかったですが」
「これも全部皆のお陰だぜ」
白髪部分をかき上げながら、京助は数日前の事を思い出す。
覚悟の上で素顔を晒したとはいえ、即座に各種SNSアカウントがバレたのを皮切りに、あっという間に住所がバレてしまい、品性と知性を欠いた人間や、マスコミ関係者が連日押し寄せる事態に流石に京助も辟易した。
何気なくグループチャットに写真付きでそれを愚痴った所、同じクラスの沢山の友人達が千道邸の前に駆けつけてくれ、大立回りの末にそれらを追い払ってくれたのだ。
その後、戦友である奏音と林檎、イツメンである幹人弘毅圭太が知り合いの男子達と女子数名を引き連れて家にやって来てくれ、ボディーガードや警備員、買い出しの代理などをやってくれたのである。
「ヤバい……思い出してまた泣きそう」
「良い友人に恵まれましたね」
「ホントに……マジで……皆ありがとう……」
「財団と学校もしっかり動いてくれましたからね」
「うん、奏音も心配してくれたし……嬉しかったやら楽しかったやらで……」
京助を守るために集まってくれた皆と共にゲームしたり、勉強会をやったりして、しっかり別の思い出を作ったのだ。
その後ウィルマース財団が慧習館に連絡を取り、京助への過度な接触を止めるように警告を発し、その対策に協力体制を取ることを発表した。
「いかんいかん、顔のコンディション整えとかないと……今日アレだもんな」
「ええ、いよいよ今日が念願のももたろー。チャンネルへの出演日ですよ」
正体公表後、京助に取って衝撃的かつ嬉しい出来事があった。
ある日林檎に呼び出されて何かと思って家に行ってみれば、なんと桃弥がオカルト系クリエイターのももたろー。だった事を知り、京助は文字通り吹き飛んでしまった。
そこからあれよあれよと生放送への出演の話が浮上し、桃弥と京助と財団で話し合った結果、話せる範囲で真鳥市防衛の事情を話しても良い事になった。
「なんかわざわざスタジオ借りたらしいじゃん?」
「しかも生放送ですからね、万全の準備で臨みましょう」
ファンレターの束を予め持って来ておいたエコバッグに入れた京助は、シャワーを浴びるべく千道邸へ戻るのであった。
やがて生放送の時間となり、京助は一瞬ピンマイクの位置を確認すると深呼吸を繰り返して心を落ち着かせ、隣に座る仮面をつけた桃弥を見る。
「どう? 緊張する?」
「まあそりゃしますよ、こういうの初めてだし」
時の人であるとはいえ、今の時代に顔出しで生放送に出る事なんて経験はそうそうないだろう。
「大丈夫、君は森羅万象で一番かわいい妹の友達なんだ。僕がしっかりリードする」
仮面を一瞬外した桃弥がウインクをし、京助の緊張は完全に解れた。
「本番一分前で~す」
京助は努めてリラックスし、心の中で六十秒間数え始める。
「三……二……一……ハイッ!」
「はいはいはいどんぶらこ~、本日は以前から告知しておりましたね……緊急生放送でございます!」
〝夢咲桃弥〟からすっかり〝ももたろー。〟にキャラが変わった事に舌を巻きながら、京助は拍手するももたろー。に続いて小さく拍手をする。
「まあ人の縁というものは数奇なものでございましてね、まどろっこしいって? はい、じゃあ登場していただきましょう! 千道京助さんで~す!」
カメラが自分の方に寄ったのを感じた京助は、頭を下げて両手を上げて手を振って見せる。
「え~どうも、マグナアウル及びマグナライジングアウルとして真鳥市を守らせていただいております千道京助と申します。ももたろー。さん今日はお招き頂きありがとうございます」
「ね、高校生なのにとてもしっかりしていらっしゃる」
コメントでも概ね好意的な意見が見られ、その中に容姿を褒めるものを見つけた京助は思わず微笑んで口を手の甲で隠してしまう。
「はい、今回私ももたろー。のインタビューに応じて下さった理由をお伺いしたいんですが」
「えー、元々俺がですね……ももたろー。さんの家来でして、ももたろー。さんなら信頼できると思ってインタビューを受けさせていただこうかなと思いました。マスコミ関係者の連日押しかけに……まあちょっと迷惑してたので、ここで色々答えとこうかなと思った次第です」
「まあ言った通りね、彼非常に迷惑被ったらしいので、取材とか付き纏いは控えるようにお願いします……てかねえ聞いた? マグナアウルが僕の家来だったんだって。こんなすごい事ないよ」
コメント欄が「やば」や「エグ」で埋まり、その中から「鬼ヶ島涙目で草」というコメントを見つけた京助は思わず笑い出してしまった。
「ごめんなさい、ちょっと面白いコメント見つけちゃって」
「大丈夫大丈夫、じゃあ早速始めていきましょう。マグナアウルとして活動を始めた理由は何ですか? ここ結構皆さん疑問に思ってる方多いんじゃないんでしょうか?」
「そうですね、始まりは中学一年生の事なんですけども……」
京助は両親の死から日常生活を送る裏で秘かに鍛錬を積んだことを話し、更にそんな生活を大侵攻が起こるまで続けていた事を大変だと感じたエピソードを織り交ぜて話した。
「……なんて言って良いか……凄いな」
コメント欄も絶句しているか、かける言葉も出ないため、捻り出した慰めとこれからの幸せを祈るものばかりの状態で、これで美味いもの食えと言わんばかりに投げ銭が飛び交った。
「ちょっとなぁ……言葉が出ません。すごいよ君は」
「俺だけじゃここまで来るのは無理でしたよ。支えてくれる友人と幼馴染の彼女のお陰です」
京助がカメラに向かってサムズアップと笑顔を浮かべた途端、コメント欄が一斉に「は?」で埋め尽くされ、半ばネタの嫉妬コメントが濁流の如く流れ始める。
「コラコラ嫉妬すんな、皆が待ち望んだマグナアウルが……おい待て! やめろチャンネル登録解除するなじゃい! 戻って来て!」
しかしすぐに「これぐらい不幸な生い立ちだったら彼女ぐらい居ても罰当たらないだろ」というコメントが投稿されてから流れが変わり、徐々に嫉妬コメントはかき消されていった。
「はい、ね……ウチの家来の嫉妬コメントで溢れてしまいましたが、申し訳ない! 気を取り直して次の質問へ行きま~しょう、戦ってて強いと感じた敵は居ますか?」
京助はしばらく考えた後、唸りながら答えた。
「クドゥリ……ですかねぇ? 初めて戦った時に彼女とのデートの予定が重なりそうになってて、ドンと構えてたつもりなんですけど、今思うと結構焦ってましたね」
「クドゥリってあの女幹部ですよね? なんか彼女が人気を集めているという話もございますが、それについてはどう思いますか?」
「あ~……うん、ノーコメントで」
京助は知っている、マグナアウルやクインテットばかり持て囃されている中で、クドゥリが美人すぎるエイリアンとして話題になっているのを。
何件かイラストが描かれているのも見た。
京助としては確かに良い体つきをしているとは思うものの、どこが良いのか全く分からない。
「話を戻すと、イダムはクドゥリ以上に滅茶苦茶強かった。結局の所勝負ついてませんからね……イダム見てるか? 俺はお前を絶対に倒してやる」
カメラに指をビシッと突き付けて宣言した京助に、スタジオ内から応援の拍手が上がる。
「宣言を頂いたところで次に移ります……マグナアウルのモチーフを梟にした理由って何ですか? っていうかアレは、自分でデザインしたの?」
「そうですね、マグナアウルもマグナライジングアウルも全部自分でやりました。一応デザイン画があるのでそれを……」
京助のフィンガースナップと共にスケッチブックが空中に出現し、生の超能力実演にスタジオもコメント欄も大いに沸き立つ。
「生超能力! 良い物見れましたよ皆さん。そして更にマグナアウルのデザイン画という貴重なものが見れますよ。これは凄いよ?」
「良いですか見せて?」
「ぜひぜひぜひ」
京助がスケッチブックを開くと、コメント欄は困惑と驚きに溢れ、ももたろー。は背もたれに背を預けて天井を仰ぐ。
「これ鉛筆?」
「一応シャーペンと色鉛筆で」
「これ書いたの中一だよね?」
「そうっすね」
「ッス~……負けました! 師匠と呼ばせてください」
急に土下座を始めたももたろー。に、京助は慌てて駆け寄って起こそうとした。
「いやいやいや! 俺ももさんのイラストめっちゃ好きなんで、優劣とかないんで!」
コメントでも絵の上手さを称賛する声が上がり、イラスト担当を京助にしろという口さがないコメントも上がる。
「中一でこれでしょ? 最近はどうなの?」
ページが捲られてマグナライジングアウルのデザイン画を見せられると、ももたろー。はもはや頭を抱える事しか出来なくなってしまった。
「すごいね……イラストレーターで食べて行けるんじゃない?」
「どうですかねぇ……まあちょっと将来の視野には入れとこうかなって思います」
しばらくマグナアウルやその装備のデザイン画を紹介したり、リクエストボックスに届いた視聴者からの質問に答えた後、時間も押してきたため最後のコーナーに入った。
「名残惜しいですけど、これから最後の質問に行きたいと思います! 実はですね、私ある情報を手に入れまして」
「はいはい」
「ウィルマース財団で新計画が始動中という話を聞いたのですが……」
「言っちゃっていいですか?」
「おお!」
不敵な笑みを浮かべる京助にコメント欄がにわかに沸き立つ。
「マグナライジングアウルとクインテットでですね……今度は仕掛けに行こうと思ってます」
「おお! 仕掛けに行くっていうのは、こちらから攻勢に転じるという事ですね! どのような方法かは……」
「……はまだ言えません! やられっぱなしで終わる訳にはいきませんからね。皆さん! マグナライジングアウルと、僕の大切な仲間達であるクインテットを応援お願いします! あなた方の気持ち一つが大きな励みになりますからね」
「はいありがとうございました、マグナライジングアウルこと、千道京助さんでした」
「それでは、今日もこの街を守りに行ってきます!」
京助はカメラに向かって手を振ると、瞬間移動でその場から消えるのであった。
瞬間移動で消えた京助の姿はクインテットの待機所にあり、それに気付いた皆に温かく迎えられた。
「お疲れ様~!」
「うーい、これで良かったんだよな?」
「バッチリだった! スパチャいっぱい飛んでたね」
「今回の出演料振り込まれたら皆でどっか行こうな」
皆が京助に労いの言葉をかける中、約一名のみムスーッとした顔でテレビに映る生放送の映像を見ている者が居た。
「おーい」
「ナニ」
「お前の兄ちゃん、めっちゃ良いやつだったな」
「ン」
「お前がブラコンになる理由がよく分かったぜ」
「テメコルァ! 誰がブラコンじゃ!」
まるで野犬のように歯牙を剥き出してこちらに襲い掛かる林檎を瞬間移動で躱し、京助は優雅に緑茶を啜った。
「ところでさ、俺も新しい計画の事知らされてないんだけど、どんな計画なの?」
「ああ、そうだったね。京助君には万が一のことがあった時の為に広報の日まで伝えないようにしてたんだった」
「そうなのか、教えてくれ!」
五人について来るように言われた京助は、研究エリアに向かった。
「ハァイ、アウルボーイ」
研究エリアに居た礼愛が京助に向かって手を振り、京助は今までにない呼ばれ方にムズムズしつつも頭を下げた。
「お母さんそれやめてよ……」
「良いじゃない私のかわいい美の女神さん、あなた達は……ああ、多分アレを見に来たのね!」
「そうです! 京助に見せてあげたくて」
「今あの人がテスト中よ。ついて来て」
礼愛について大きな扉を潜ると、白波博士とその部下たちに出迎えられた。
「おお、来たか。待ってろ、もうすぐ煙が晴れる所だ」
分厚い強化特殊ガラスによって仕切られた部屋の中に充満した黒煙が晴れて、そこから現れたものを見た京助の顔がパッと綻んだ。
「おお! 新しいヤツ!」
煙の中から現れたのは、新型のC―SUITだった。
全体的には現行のバージョンⅤに似ているが全体的にスマートになり、最も目を引くのが各所に追加された銀色のラインである。
「これって、提供した父さんの技術使った奴ですか?」
「そうだよ、おかげでこいつが作れた」
「私から説明するね」
礼愛が持っていたタブレット端末を操作し、各部の説明を始める。
「正式名称はC―SUIT.V.Ⅵ。クインテットの五人に、あなたの協力を加えて丁度六という数字になったのは良い偶然だったかもしれないわね」
「ホントだ、ナイスな偶然っすね」
「さっき耐久度のテストが終わってね、装甲耐久度はバージョンⅤから耐久度と密閉性は大幅に向上したの。加えて気圧自動調節も追加されたからありとあらゆる環境に適応できるようになったわ」
「深海にも、高高度にも?」
「ええもちろん、そして……」
礼愛が指で天井を指差しニコリと笑い、付け加えた。
「宇宙空間にも」
「宇宙にも……まさか計画って⁉」
五人と白波博士、そして礼愛は頷いて京助に告げた。
「そう、ジャガックの基地艦の場所を特定し、直接仕掛ける。そのために新スーツには宇宙に適応する機能が必要だったの」
「ははぁ、なるほど……それでか。しかしジャガックの基地艦の場所って分かってるんですか?」
「大丈夫さ、今我々が総力を挙げて場所を割り出している真っ最中だからな、もうすぐに分かるぞ」
こちらから仕掛けるとは聞いていたが、想像以上の攻めっぷりに京助は驚いてしまった。
「行き方ってもう決まってるんですか?」
「もちろん作戦はある、しかしこの作戦は君の力を頼ることになるが、それでも良いかな?」
「ああ、勿論ですよ。じゃんじゃん使って下さい!」
待機所に戻った六人は、ほぼ確定した新型C―SUITのスペックを見てあれこれ騒いでいた。
「出力が五百二十パーセント向上だって!」
「やっぱり京助君のお父さんって天才だったんだね」
「でも足りない部分を補ったのって京助なんでしょ?」
「いやいや、ただ父さんが凄いだけさ」
いつ新しいスーツが纏えるか、五人は非常に楽しみな様子である。
「ついに奴らの本拠地に行くのか、なんか緊張するなぁ……」
「京助ってジャガックの基地がどこにあるか特定出来てなかったの?」
「ああ確かに、てっきりしてるものだと」
京助は笑いながら手を振って答えた。
「してたらとっくに行ってるよ、特定しようとしたけど結局出来なかったんだよな」
「どうやってしようとしたの?」
「俺の力で全世界の宇宙望遠鏡と人工衛星のシステムに入り込んで地球の衛星軌道上の怪しい物体を探り当てようとしてたね。元に戻すのが滅茶苦茶難しそうって理由でトトに止められたけどな」
やはり超能力というのは常軌を逸した力であり、それが自分達にも備わっていると考えると、奏音達は高揚感にも似た恐ろしさが湧き出てくる。
「ちょーのーりょくで思い出したんだけどさ、センキョーってライジングになったじゃない?」
「ああ、おう。そうだな」
「具体的にどの辺が変わったん?」
「え、分かんない?」
「わかんねーよ」
「まあそもそもマグナアウルの時点で強かったからね……」
「でも結構強くなったと思うんだけどなぁ」
「あのね、元々強かった奴がもっと強くなった所でその違いはよく分からんのよ」
京助としては分かりやすく強くなったつもりでいたが、意外と周囲にはその差はわからないらしい。
「わかったじゃあ俺が直々にどこがどう強くなったかを……」
自信たっぷりに胸を張った京助の言葉が、けたたましいサイレンによって遮られる。
「……今から実演でご覧に入れよう。今回の敵は可哀想だがね」
「せっかくなら新スーツで行きたかったけど、緊急事態だから仕方ないね!」
「皆行くよ!」
六人は戦いの準備を一瞬で整えると、今日のこの街の平和を乱す敵を討つべく動き出すのであった。
「今回の敵、そこそこ少ないね」
「そうだな、いつもだったら空を埋め尽くすぐらいウヨウヨ来るのにな」
今回は輸送戦闘機三機と、いつもの侵攻と比較しても少ない方である。
「でもこういうの、油断させといて後々本命が来るパターンなんだよね~」
「確かに、だったら本命来るまで温存しようかな」
「温存って……どうやって?」
「生身で戦うの」
「またそうやって……無茶しないでよ?」
「たりめーだ」
輸送機から降りてきたジャガック兵と自律殲滅オートマタを確認した六人は、まず乗っていた装甲車で突っ込んでから一斉に車を降りた。
「無理しないでよ!」
「分かってるっての」
黒い鎧を纏った五人の少女と、生身のままの少年を囲み、ジャガック兵達は一斉に向かってきた。
「ウオラッ! ソラソラソラァ! お前らそんなもんか⁉」
軌跡が見える程素早い蹴りで、京助はジャガック兵を切り裂いていく。
あまりにも早すぎるが故に、突きや蹴り等の打撃が斬撃と化しているのだ。
「よっ! おおぉっとぉ!」
自律殲滅オートマタが戦闘に割り込んできて、京助は瞬間移動を駆使して回避すると、相手に肉薄して拳の連打を叩きつける。
「危なっ! レーザーか!」
オートマタの顔から放たれたレーザーを半身を逸らして回避し、京助は自分に意識が向いている周囲の敵をすべて把握した。
「よし! セッ!」
再び放たれた二発目のレーザーを見切った京助は、そのレーザーを掴んでへし折り、二振りの棒のようにして振り回しながら相手を次々と叩き切っていく。
「ハッ! セヤアアアアアッ!」
鞭状にしたレーザーで周囲の敵を撫で斬りにした後、京助は上空へと目標を定める。
「纏めてぶっ飛ばす! 喰らい……なッ‼」
サイコエネルギーでレーザーを伸ばした京助は、宙を漂う船たちを投槍の要領で狙いを定めると、渾身の力で投げつけて刺し貫いた。
「まぁ……こんなもんかな」
空中で輸送船が大爆発を起こすも、散らばった欠片は京助の能力によって一点に集まって消滅してしまった。
「さてと、次の相手は……ッ⁉」
京助の頭の奥に、頭痛にも似た閃きが走る。
(なんだこれ……変な感じがする!)
なんとも言い表せない感覚と感情が、胸の奥から湧き上がって全身に行き渡る。
生理的不快感、根源的恐怖、そして強烈な焦燥感。
「これは……」
京助がこんな感情を抱くのは、もはやただ一つしかない。
素早く周囲を見回し、自身の感覚を頼りに気配が漂う所を探り当てると、時空の歪みが確認出来た。
「来るのか……イダム」
まだ確定していないのだが、京助は自分が今感じているのは、死徒の残滓の力であると半ば確信していた。
そしてその力の持ち主は、因縁の相手であるイダム・ジャム=ガトローダであることを。
「え? イダム⁉」
ミューズが相手を飛ぶ斬撃で吹き飛ばし、京助の方へ駆け寄る。
「イダムが来るの⁉」
「分からない……でもあそこから死徒の残滓を持った何かが来るのを感じる」
二人でそこに注視していると、時空の歪みが拡大して、一台の人員輸送機が空中へ躍り出た。
「あれは!」
確かにそれはイダムがやってくるときに使っていた、特殊なペイントが機体に施された輸送機だった。
だがどこかおかしい、機体の所々から黒煙が噴き出しており、動きが非常に安定してない。
「イダム……じゃない?」
「じゃあ俺が感じているアレは何だ?」
とはいえこのままでは墜落するのは火を見るよりも明らかである、京助は手を翳して機体を空中に縫い留めると、慎重にこの付近に輸送機を持ってくる。
「あれ、どうしたのそれ?」
敵の数も減って来た所でほかの四人も京助の方へ集まって来る。
「なんか死徒の力をこの飛行機から感じるって京助が……」
「死徒⁉」
唐突に出てきた不穏なワードに、皆一斉に警戒する。
「てかこれイダムの専用機体じゃなかったっけ……」
「しかも壊れてるしなんか変」
いくつもの奇妙な要素に、五人の警戒心はマックスまで高まった。
「いずれにせよ、俺達でこいつを何とかしないと」
京助は五人を見回し、互いに頷いてから機体を徐々に下げていく。
その時であった。
突然機体の方から轟音が響き渡り、凄まじい勢いで黒い霧のようなものを纏った何かが飛び出して来て、五人は一斉にその場から飛び退いた。
「あいつは⁉ まさか!」
京助は確かに、黒い霧の中に居るものの顔が見えた。
「デメテル……」
「何⁉」
「あいつ……ガディだ」
「……嘘」
飛び出してきた黒い靄は全身を震わせながらその身を起こし、腕を広げて天へ向かって咆哮した。
「ウオオオオアアアアアアアアアアアアッ‼」
ほとんど金切り声に近い咆哮だったが、確かに皆はその声に聞き覚えがあった。
「ガディ……ガディなの?」
「シィィィイイイイイッ……ハァァァァ……」
こちらを振り返ったガディの顔が露わになり、六人は思わず目を見開いた。
顔の右半分はクドゥリの遺伝子を受け継いだ美少女のものと変わりない。
だが左半分は全体的に斜め上に引き延ばされたかのように歪んでおり、口は吊り上がって長い牙が露出して二股に分かれた舌が見え、目は元からあったものは引き延ばされたようになって周囲に複数個の小さな目が追加され、その瞳は全て不気味な赤で彩られていた。
「完全に死徒の力に飲み込まれてるね……」
体の方もかなり変化しており、頭部と肩には捻じくれた黒い角、そして背中には未発達の翼らしき器官が生え、腰からは二股の尻尾が蠢いている。
「そんな……なんで死徒なんかに身を明け渡したの⁉」
「いずれにせよ……アイツを倒す! そうじゃなきゃ……」
「待って! お願い!」
「お願い! 後生だから待って!」
六人の背後から二人の声が聞こえ、振り返るとザリスとジェサムが泣きじゃくりながら駆け出し、姉の元へ駆け寄ろうとする。
「ちょっと! 危ないから止めて!」
デメテルはザリスの腕を掴み、ジェサムは近くに居たイドゥンが羽交い絞めにして制止するも、それに構わず二人は異形と化した姉に向かって。
「姉さん! お願い! 目を覚まして!」
「こうなったのは姉さんの意思じゃないでしょ! 邪悪な力を跳ね除けて!」
不気味に伸びた爪と、乱れた鱗が発生した腕を上げ、ガディは頭を抱えて唸り始める。
「ウ……ウウウ……アアア……アアアアアアアアアアアアァァァァァァアアアッ‼」
しかし魂を喰らい潰す死徒の力には抗えず、ガディは咆哮を上げてこちらに向かってきた。
「下がってろ!」
京助は近くにあった道路標識を念力で引っこ抜いてガディの頭に叩きつけようとするも黒い靄で攻撃を無効化され、二段構えでマンホールも引き剥がしてフリスビーのように投擲して頭にぶつけて意識を逸らすと、彼女の周囲を念力で包み込んで中の時間を急速に遅らせる事で簡易的な封印を施した。
「姉さん……」
涙でぐちゃぐちゃになった顔の二人に近付き、京助は低い声で言った。
「訳を聞こうじゃないか」
ザリスとジェサムを連れて財団に戻った六人は、二人が検査を終えるまでの時間、待機する事になった。
「なんでこんな事に……」
明穂の落胆ぶりは凄まじく、他五人もなんと言葉をかけて良いか分からない状態である。
「ガディは……そこまでして私達と殺し合いをしたかったのかな?」
「でもジェサムが『こうなったのは姉さんの意思じゃない』って言ってたっしょ? だったら何か別の要因でああなったんじゃねーかとウチは睨んでるんだけど」
「そう……かな? そうなのかなぁ?」
「ああ、多分そうだと思うぜ。ここからは俺の考えになるが、いいか」
明穂に紅茶を差し出して、京助は語り始めた。
「死徒の残滓は少しずつ人の精神を喰らうもの、だから最初は本人にそこまで変化は見られない。だからウィッカーアウルもマグナアウルとそこまで差異は無かったし、クドゥリだって人型を保ってた……ガディがあんなにすぐ異形になったって事は、多分不意打ちで死徒の残滓に関する何かを浴びた可能性が高いと思うんだ」
それを聞いた明穂は、なんとなくホッとした気分になった。
まもなく六人は呼び出され、手錠を掛けられたザリスとジェサムに面会した。
「えっと……」
前に出ようとした皐月を林檎が肩を掴んで制止し、小さく首を振って明穂の方を見る。
「そうだね」
明穂は二人の前に座ると、意を決して口を開いた。
「久しぶりね」
「……ええ、そうね」
「こんな形では……会いたくはなかったけれど」
「私もそう。本当ならあなた達と戦いたくはなかった……出来ればお姉さんとも」
こちらをまっすぐ見据えて言葉をかける明穂に、ザリスとジェサムは目を逸らす。
「話によると……助けを求めて来たのよね?」
「そうよ! もはやジャガックには私達の居場所はない!」
「我々はここしか知らない、しかしここにはもう……」
「わかった、まずは話だけ聞かせて。それから判断する」
「マグナアウルの正体が判明した時……任務の失敗で半ば軟禁状態にあった私達三人は、イダム様に連れられてお姉様の故郷の衛星に向かった」
「イダムだって?」
割って入ろうとした京助を奏音が制止する。
「イダム様はそこで自身の力を強化し、そして姉さんはその巻き添えに……」
京助が予想した通り、ガディが死徒の力を得たのは自分の意思ではなかった。
「お願いします! 姉さんを助けてください!」
「ジャガックからも抜けます! 知ってる事も全て話す! 差し出せと言うならこの体を差し出して研究に使っても構わない!」
「姉さんがあんな得体の知れない力に侵されるのはもう見てられない!」
「だから……どうか……」
必死の頼みに皆呆気に取られる中、京助がその沈黙を破った。
「……ガル」
ナイフを生成した京助は刃の先端を持って放り投げ、空中で二本に分裂させるとキャッチして、明穂の隣に座った。
「今からお前達の手錠を外し、こいつを渡す。お前らの言葉がどれぐらい本気か証明しろ」
京助は明穂の方を見たが、明穂はここで良いと言わんばかりに頷いて見せ、深呼吸の後に念力で手錠を外し、二振りのナイフを机の上に置く。
「自由に使え、本気を証明しろ」
ナイフの刃渡りは四十センチの片刃で、刀身が波打って、峰の部分は返しがついている。明らかに殺傷を意識した形状である。
「……」
「……フゥ」
突如ドンという音が響き、何事かと後ろに居た四人が覗き込むと、なんとジェサムが自分の右手首にナイフを突き立てて、ぐりぐりと回して傷を広げていた。
「うっ!」
思わず声を漏らす者が居る中、ナイフを両手に持ったザリスは更に目を覆いたくなるような行為を始めた。
「うっく……ああぁ……うぅぅ……」
なんとザリスはナイフを自分の顔に突き立て、顔面を斜めに横断する傷をつけ始めたのだ。
「……うぅ」
凄惨な光景に、皐月と麗奈は思わず目を逸らしてしまう。
「……うぅ……はぁ」
「……ぐぅっ……ああっ!」
顔面に傷をつけたザリスと、利き腕に穴を開けたジェサムは痛みに耐えながら大きく深呼吸して、こちらから一切目を背けなかった京助と明穂を見据える。
「これが証明……」
「二度と武器を握れなくても……お姉様からもらった顔も……姉さんが居ないのなら必要ない……」
京助は血の付いたナイフを回収すると、二人に手を翳して言った。
「いいだろう、お前達の姉ちゃんを助けてやる」
気が付くと二人の傷は治っており、京助はその場を後にしていた。
京助について部屋を出た五人は、輪になって再び話し合いの場についた。
「信じていいの? 罠かもしれないよ」
「そうだな、皐月の言う通りかもしれない」
「私だって……あそこまで見せられたら信じたいけど、あの三人が送り込まれた事自体が罠って可能性もあるからさぁ……」
「罠だとしても、死徒の力を振るうものは放ってはおけないでしょ」
「でも対応を間違えたら……」
「もう、うんざりなんだ」
唐突に発せられた京助の言葉に、皆は一瞬ドキリとする。
「死徒のせいで謂れの無い誰かが死ぬのは……うんざりだ。だから俺はガディを助けたい」
京助の強い意志の言葉に、皆は引き下がるしかなかった。
「わかった、じゃあ私達はサポートしたらいい?」
「いいや、今回皆はあの二人を連れて戦いを見守っておいてほしい」
「……一人でガディと戦うつもり?」
「いいや、二人だ」
京助が二本指を立ててニヤリと笑った事で、五人はその二人目が誰の事か分かってしまった。
「成程……」
「そんじゃ、そいつを引っ張り出すために説得に行って来る」
京助が瞬間移動で消えたのを見送り、残された五人は互いに顔を見合わせる。
「もしもあの三人が……本当に地球に住むってなったとしたら、皆はどうする?」
明穂の問いかけに対し、皆唸りながら考えを巡らす。
「……確かにあの三人は敵だったけど、戦う為だけに生み出されてしまったのは可哀想だと思う。どこにも居場所がないって言うなら、地球や私達がそれになってあげたいとは思うな」
「私もそう思いますが、やはり禊はあって然るべきだと思います」
「そうね、無知だったでは済まされない事だし……そうしていく中であの三人はやっと受け入れられると思う。その場すら与えないってのも残酷だから」
「んーそうね、でもいちおーあの三人も被害者的側面はあっから、そこも加味してやんねーと」
概ね皆が受け入れる方向で考えてくれている事に、明穂はホッとして小さく微笑むのであった。
それから一時間程して、ザリスとジェサムを連れたクインテットの五人は、車内から時空球に閉じ込められたガディと、その前に立つ京助とサイを見ていた。
「全く……」
愛刀・紅蛇を弄りながら、サイは京助の方を向く。
「面白いものと戦えるって言うから期待して来たのに、死徒の残滓と戦う羽目になるとは」
「らしくないぞ戦闘狂、今回の目的は救出だから、そこだけ頼むぜ」
「当てはあるのかい?」
「斬る、凍らす、戻す」
「成程、それでボクが必要だった訳だ」
「んじゃ無駄話はこの辺にして……始めるぞ」
「ああ、やってくれ」
京助が手を翳すと球体に閉じ込められたガディが解放され、再び大地に落ちたガディはゆっくりと顔を起こし、左側に大きく裂けた口を開けて咆哮し、二人に向かって突進を始めた。
「っと!」
「危ねッ!」
京助とサイは跳躍して突進を回避し、それぞれライジングアウルレットと憤怒享楽の面を取り出す。
「準備は?」
「超万端」
その答えに満足したサイはニヤリと笑って仮面をつけ、京助は腕を大きく回して右腕を空に向かって突き出す。
「轟嵐」
「翔来ッ!」
サイの体に真紅のガラス片が纏わりつき、京助の周囲に星が瞬く青い闇が広がり、双方の肉体が徐々に変わっていく。
「ハッ!」
「テアッ!」
ついにマグナライジングアウルとカプリースが並び立ち、ガディは再び咆哮しながら二人へピンク色の光線を放ってきた。
「アウルカリバーッ‼」
片刃の大剣を取り出したマグナライジングアウルは光線を斬り裂き、カプリースは斬馬刀サイズになった紅蛇を担ぐと地面を叩いて凍り付かせ、発生した氷の上を滑りながらガディに攻撃を加え始める。
「ホラホラホラ! 今回は本気だぞ‼」
カプリースから放たれる電撃弾や氷流弾を、ガディは黒い靄を発生させて無効化して反撃の隙を伺っていると、マグナライジングアウルがアウルカリバーを振るって斬りかかって来た。
「ハッ!」
「ウゥゥウゥッ!」
ガディは不気味な形状の大剣を靄の中から生成してそれに対抗し、無理な力押しでアウルカリバーを弾いて刺し貫こうとするも、マグナライジングアウルは瞬間移動して背後に回り、青い炎をまとった金色の金属球を放ってガディを吹き飛ばしてしまった。
「ウェアアアアアアアアッ‼」
ガディは大剣を振るって複数の斬撃を飛ばし、マグナライジングアウルは瞬間移動で、カプリースは斬撃を紅蛇で切り裂き、二撃目以降を跳躍で回避しながら肉薄する。
「強烈なの、行くぞ!」
反撃の隙を与えずガディの腹に連続でパンチを食らわせ、カプリースはトドメの一撃に両手突きを食らわせて大きく後退させた。
「来た来た! そらよっ!」
ガディの後ろに回り込んでいたマグナライジングアウルは内部破壊効果のある浸透念波を浴びせ、反撃も躱してもう一度念波を浴びせる。
「UUUUUAAAAAAAA‼」
咆哮と共にガディの口から放たれた黒いビームを仰向けに伏せて回避したマグナライジングアウルは、足からソリッドレイを放ってガディを吹き飛ばす。
「グリエ・デラヴ・コーダ‼」
紅蛇から放たれる強烈な寒波を真正面から浴びて面食らうガディだが、即座に靄でそれを無効化して逆に黒い煙をカプリースに浴びせて後退させる。
「アウリィ! 分かった事がある!」
「なんだ!」
「この子の持つ死徒の力はそこまで強くない!」
「その見立てが正しけりゃ良いんだがな! アウルブラスト‼」
地面に突き刺さっていたアウルカリバーが銃型に変形しながら飛来してマグナライジングアウルの手に収まり、そのままソリッドレイの光弾を連続で撃ち出す。
「オオオオオ……」
ソリッドレイの連射を回避したガディの口から黒い煙幕が吐き出され、背中の翼を仰いでマグナライジングアウルの周囲を煙で包み込む。
「ぬおおおっ! おおっと……こいつは効くな」
体中から火花が散り、何かが奪われていく感覚がする。
「だが残念だったな……俺にも翼はあるんだよッ!」
マグナライジングアウルの背中から輝く翼が展開し、その羽撃たきの一撃で霧をガディの方へと押し返し、そのまま空中へ舞い上がるとアウルブラストの掃射を食らわせる。
「ハァッ!」
「ウウウウオオオオッ‼」
ガディは背中の翼を巨大化させると両手に剣を持ってマグナライジングアウルを追い、そのまま空中戦が始まった。
「飛べるのかよ……オラッ!」
アウルブラストのソリッドレイの連射をガディは全て回避するも、空中でターンして戻って来た弾丸は予想しておらず、咄嗟に靄を発生させて無効化する。
「あの靄インチキだろ! 俺も使ってたけどさ」
靄から飛び出したガディはその勢いのまま斬りかかり、マグナライジングアウルは瞬間移動でそれを回避する。
「スワロー!」
刀身を半物質化させた剣を取り出し、マグナライジングアウルはガディと空中で何度も切り結ぶ。
「エエッ……テアッ!」
ガディの大剣を弾いたマグナライジングアウルは、アウルブラストの掃射を至近距離で叩き込み、黒い靄の無効化限界値を無理矢理突破してダメージを与える。
「グウウウッ……アアッ!」
完全に不利と悟ってガディは大きく翼をはためかせて逃げ出し、マグナライジングアウルは即座に食らいついてガディを追う。
「逃がさねぇ……死徒の残滓を絶対切除してやる!」
真鳥市の上空を飛び回り、時折ガディから放たれる黒い斬撃波を回避したりアウルブラストで相殺し、相手の集中力が切れるタイミングを待つ。
(あそこだ……あそこへ行け)
ビルや建物の隙間を縫って、ガディは高架下の真下を通過した。
「よし! オラッ‼」
同じ軌跡を辿りながらマグナライジングアウルは高架下を通過し、通過したと同時に体を回転させて三人に分身する。
「分かってるな?」
「当たりめーだ。レイヴン、ブラックスワン」
「任せな。シュービル、アルバトロス」
それぞれ武器を構えるとスピードを上げ、ガディの真横にぴったりと張り付いて飛行する。
「ウッ⁉ ンンッ!」
双方から銃撃を喰らったガディは必死で靄と能力を駆使して防御するも、二人のマグナライジングアウルはガディの周りを旋回しながら銃撃を始め、ついに防御も追いつかなくなってしまった。
「いい加減飛行機ごっこも終わらせようぜ。ハアアアアッ! タァッ‼」
羽角と鶏冠から放つ波打った光線がガディに直撃し、ガディは空高く打ち上げられる。
「ウゥアアアアアアアアアアアアァァァァァァアアアアアアッ‼」
痛みに悶えるガディへマグナライジングアウルは分身を解除して更に畳み掛ける。
「アウルカリバー!」
アウルブラストをアウルカリバーへと変えると、ガディの翼を切り裂いて地上へと叩き落としていく。
「さっ! そろそろ仕上げの時間だ!」
ガディの落下地点の時空を捻じ曲げて出入口を作り出し、マグナライジングアウルはカプリースが待っている場所へと繋げて自分もそこへと飛び込んで元の場所へと戻るのであった。
「待ちくたびれたよ」
時空の穴から戻って早々、紅蛇を杖代わりにして待っていたカプリースにそう言われた。
「まあそう言うな、もう少し料理すれば良い塩梅になる」
「ちょっと本気出しても良いか?」
「殺すなよ」
「分かってるって……ハッ!」
跳躍したカプリースは紅蛇に赤いエネルギーを纏わせ、思い切り振り抜いて竜巻を発生さてガディをその中に巻き込む。
「ウウウ……! グアッ!」
身動きが取れずに苦悶するガディを見て畳み掛けるように、カプリースは全身に電撃を纏って竜巻内部を縦横無尽に駆け回って攻撃を加え、その影響で竜巻が徐々に真紅に染まっていく。
その様子はまさに。
「出たな、血の嵐」
宇宙でその名を轟かせているサイの二つ名がここに体現されたのだ。
「ハハハハハ! ハァーッ‼」
心底楽しそうに笑いながら竜巻の根元に降り立ったカプリースは、遥か上方に居るガディに向けて細かい水の粒子とマイナス一万度の寒波を同時に放ち、凍り付いた水が弾丸のようにガディに突き刺さる。
「アアッ……ウウッ! デェェェェアアアアアアッ‼」
どうにか竜巻から脱出するべく黒い靄を纏うも、圧倒的な暴風の前にそれは全て吹き散らされ、全身に氷の弾丸がまさに雨霰の如く突き刺ささり、更に体内で氷の弾丸が血を吸収して〝成長〟した事で凄まじい痛みが駆け巡る。
「トドメだ! ハァッ!」
カプリースは竜巻に身を任せ、旋回しながらガディに突っ込んでいく。
「デンバストラ・ジョット‼」
電撃を纏った蹴りがガディに突き刺さると同時に竜巻からガディが蹴り出され、カプリースが着地すると同時に竜巻は霧散してしまった。
「満足したか?」
「ああ、大満足。最後の仕上げと行くかい?」
「そうだな、もう抵抗する力も無いだろうしな」
深呼吸したマグナライジングアウルが腕に力を込めると、アウルカリバーが変形して両刃の大剣に変形し、刃が七色の光に包まれると同時に、マグナライジングアウルの目と装飾も輝き始める。
「上手くやれよ?」
「言われなくたって上手くやるさ!」
光り輝く剣を構えたマグナライジングアウルは再び翼を展開し、グロッキーなガディへ向けてアウルカリバーを構えて一直線に飛翔する。
「お前がどう思っていようが知ったこっちゃないが、お前を待ってる奴がいるんだ。俺はその思いに……報いたい!」
アウルカリバーが放つ七色の輝きが増し、マグナライジングアウルはその身を翻してガディへ肉薄する。
「梟爪……永劫断ッ‼」
それはまさに時空を断ち切る一撃。
ガディの異形と化した体が胴体から真っ二つに切り裂かれ、まるで明所に引きずり出された虫けらの如くその体から靄状の死徒の残滓が噴出し、ガディの体も元に戻る。
「今だ! やれ‼」
「おうよ!」
待機していたカプリースが紅蛇の鋒をガディの体に潜んでいた死徒の残滓に向け、渾身の力を込めてマイナス四千億の寒波を浴びせ、完全に身動きが取れないようにする。
「フッ!」
それをしっかりと確認したマグナライジングアウルはアウルカリバーの刀身に触れ、印を結ぶように刀身をなぞった。
「戻れ!」
アウルカリバーが元の片刃に戻ると同時に、なんとガディの真っ二つになった体が引き寄せられ、元に戻ったではないか。
「トドメ行くぞ!」
「おう!」
両者それぞれの得物にありったけのサイコエネルギーを流して凍り付いた死徒の残滓を断ち切ると、逃げも隠れも出来ない残滓は完全に消失してしまった。
「……フッ」
「……ハァ」
完全に死徒の力が消滅したのを感じた二人はアバターを解除して、大きく息を吐きながらその場に座り込んだ。
「まさかあんな力技で死徒の残滓を切除するとは」
「そうするしか方法は無かっただろ」
「もっといろいろあっただろうに……でもまあ、これが君らしいと言えば君らしい」
互いにニヤリと笑っていると、奏音達がこちらへ駆け寄って来た。
「お疲れ!」
「おう」
「いや~真っ二つにした時はマジビビったかんね! 戻した時はそれ以上に目ン玉飛び出そうになったけど」
皆がこちらに来た事で自分の役目が終わった事を察知したサイは、立って大きく伸びをしながらどこかへ歩き始めた。
「それじゃ、あとは頑張りたまえ」
サイがテレポートした先へ労いのハンドサインを送ると、京助は立ち上がってガディとそれを取り囲む四人の方へ向かった。
「どうして……何故目覚めないの!」
「姉さんは……姉さんは助かるのよね⁉」
悲痛な顔でこちらに向かって問いかけるザリスとジェサムに、明穂と麗奈は何も言えないでいた。
「死徒の残滓を取り除いたとはいえ、かなり体力を奪われている」
ザリスの腕の中で眠り続けるガディの額に手を翳し、ダメージの具合を吟味する。
「姉さんは助かるの?」
「眠ってるだけさ、奏音」
京助に呼ばれた奏音がガディに近寄り、彼女の手を取って回復能力を発動する。
「俺と奏音で回復をかけた。だけど念のため点滴とかあった方がいいかも」
乗って来た車でメディカルセンターに運ばれたガディは、すぐに検査に回され異常なしと判断された後、体力回復の為の栄養剤の点滴を打たれることになった。
「これって目覚めるの?」
「奏音は死徒の力を至近距離で浴びても目覚めたんだ。ガディは人類よりも遥かに強いデザイナークローンなんだから多分大丈夫さ」
「体のつくりが違うって事ね」
ガディが眠るベッドの傍には、ザリスとジェサム、そして明穂がおり、目覚める時を今か今かと待っていた。
病室に運び込まれてから一時間半経ち、何処か張り詰めたような空気が部屋の中に満ち満ちた頃、ガディの口から声が漏れた。
「!」
「姉さん!」
「……ザ……リス? ジェサムも……私は……一体」
何が起こったか分からないガディだったが、近くに居た明穂の顔を見た途端頭に掛かった霧が急速な晴れ、周囲を見回して京助や奏音達の顔を見た途端、自分の身に何があったかを察知した。
「私は……敵に助けられたのね」
「ええ、助かったの!」
「彼らのお陰で!」
そう聞いた途端ガディは点滴チューブを自分の首に巻き付けて締め上げようとし、京助が念を飛ばしてチューブを切断した事で事なきを得た。
「何するんだ!」
「何って……死のうとしたに決まってるじゃない」
「何を言うの姉さん!」
「せっかく助かった命なのよ!」
「そうね、私の命は助かった……それで?」
ガディはアンニュイな色が浮かぶ相貌で妹達を見る。
「ジャガックは信用ならず、もはや地球にも居られない……失敗続きの挙句敵に助けられたとあってはクドゥリお姉様にも顔向けできない!」
病室全体がしんと静まり返り、ガディは更に続ける。
「もう私達は……この宇宙のどこにも居場所が無いのよ」
「ガディ……」
心底絶望しきった顔で、ガディは腕に残った針を引き抜いて言った。
「だったらもう……いっそのこと死んだ方が……」
ガディがそれ以降の言葉を紡ぐ前に、強烈な破裂音が部屋内に響き渡った。
「え? は?」
皆起こった事に困惑していた、何故なら林檎がガディの頬を張っていたのだ。
「お前……何してんの?」
「さっきから聞いてたらヨォ……甘ったれた事グダグダグダグダ並べやがっていい加減にしろ!」
その目は普段の林檎からは考えられない程怒りに満ちていた。
「あんたが自分の置かれた境遇に対してどう思おうが勝手だ! けどな……死ぬ事で逃げるような惨めな真似だけは絶対にすんな‼」
ずっと頬を抑えて林檎の言葉をその身に浴びていたガディだが、林檎を睨みつけて反論する。
「だったらどうすればいいと言うの⁉ 私達には道はない!」
「だったら探せば良いだろ! 足掻いて藻掻いて泥水啜っても道を探して必死に生きろよ! 多くの人達が突然命を奪われてしまうこの世界であんたは命拾いしたんだよ! 助けられたんだよ! そんな風に生きる為生み出されてとはいえ、多くの命を踏みつけにする連中の手助けをしてきたあんた達には苦しみながら生きて償う義務がある! 死ぬ事で逃げるなんてウチが絶対許さねぇから‼」
もう五発は頬を叩きそうな勢いで捲し立てた林檎は、大きく息を吐いて少しトーンダウンして続ける。
「それに……あんたには妹が二人いるじゃん、それだけじゃない。あんたの為に居場所を作ろうってしてくれてる人が居るんだよ。本当は敵であることを分かってても、それでも手を差し伸べようとしている人が居るんだ! 道が無いなんて……言うな!」
再び深呼吸を置いてから林檎は続ける。
「下らないプライドなんて全部捨てろよ、こんな風に差し伸べられた手を払ったら、あんたはもう一生落ちていく羽目になる! 人の思いだけは無碍にするな!」
ガディは一瞬、こちらを見る明穂の方を見たが、すぐに目を伏せてしまった。
「私達は……あなたを騙していたのよ? あなたの善意に浸け込む真似までした」
「……そうだね、ここに来た理由と目的、そして名前は全部嘘だったかもしれない」
ザリスとジェサムが見守る中、明穂はガディの手を取って続けた。
「でも三人と私たちが居て楽しかった事は……嘘偽りじゃないと思ってるから、どう?」
ガディの肩が震え始め、更に明穂は続ける。
「私だけじゃない、颯司も夏穂もずっと心配してたんだ。あなた達がジャガックから離れて、犯した罪を償うつもりなら、私は喜んであなた達の居場所になるよ」
「どうして……そこまでして……」
「言わなきゃいけない?」
明穂は優しく微笑んで続けた。
「友達だから」
ガディの目に溜まった涙が零れ、明穂の目をしっかりと見据える。
「ごめんなさい……どうすれば良いか分からなかったの……ごめんなさい!」
ガディの手をザリスとジェサムが取り、姉が考えを改めた事を喜んだ。
「姉さん! 私達も一緒に!」
「一緒に支え合って生きましょう!」
「私がついてるから、一緒に頑張ってこ」
「明穂……ありがとう」
三人の声が重なり、やっとこの部屋にも平和が訪れた。
「お前があんなキャラだとは思わなかったよ」
「うるせーな、自分でもびっくりだわ……あー疲れた」
「ありがとよ……おかげで一つの命を救うことが出来た。すげーよお前」
「そーお? あんがとさん」
友を思う気持ちが悪の道から救い出し、そして命をも救ったのだ。
友情は星をも超える。今回の戦いは、そう実感した出来事であった。
To Be Continued.
いよいよ最終章たる決戦編、スタートいたしました。
マグナライジングアウルはまだまだ隠された能力が盛りだくさん、今後の活躍に期待して下さい!
晴れてこちら側に来たガディとザリスとジェサム、今後の彼女らの運命は?
感想コメント、Twitter(現X)のフォロー、友達へのオススメもよろしくお願いします。
ではまた来週!




