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青春Double Side  作者: 南乃太陽
京助編
48/53

ライジング

ジャガックは真鳥市民の心を折るべく、マグナアウルの敗北を全市民に伝える。

取り乱す京助だが、母の言葉で再び自らのあり方を再定義するべく奏音の両親や幹人達三人の元を訪ねる事に。

そして襲撃される街の中で、京助は遂に拳を天に掲げる。

京助は未来へと翔ぶ事が出来るのか?

「……は?」

 ショックのあまりスマホを耳に当てたまま、京助はその場に立ち尽くしていた。

『とりあえず京助の事は財団が守るから。独断専行は絶対にしないでね!』

「……」

 その場に立ち尽くす京助は、奏音へ返事を返す事が出来なかった。

『……大丈夫? 私そっちに行こうか?』

「いや……ありがとう、大丈夫だ。そっちも気を付けて」

 京助は通話を切ると、ソファーにスマホと体を投げ出し、顔を両手で覆って額に爪を立てる。

「クソッ……クソクソクソクソクソクソクソクソクソクソがッ‼」

 ただひたすらに悔しい、敗北した事よりも、連中のプロパガンダに使われてしまった事の方が悔しい。

「やりやがった! やりやがったな! やってくれたなッ! うううううッ! あああッ!」

 普段鍛錬に使っている「鉄人」を何度も蹴り飛ばし、チタンで出来た金属の塊がボコボコに凹んで変形し、最終的に蹴りで真ん中から真っ二つに千切れ飛んでしまった。

「宇宙の……癌細胞共がァ‼」

 足元に残ったチタン合金の塊が京助の拳の一撃で粉砕され、赤くなった拳をぐりぐりと地面に押し付ける。

「京助、落ち着きなさい」

「親の敵のプロパガンダに使われて落ち着けって⁉ どう落ち着けってんだよ!」

 ウィッカーアウルの一件が終わって以降、久しぶりの激昂である。

 怒鳴りつけながらもまだ自分にこんな感情の昂ぶりがあるのかと、京助は自分でも驚いた、

「どうすりゃ良い……どうすりゃ良い⁉」

 采姫はマグナアウルの事を「希望の星」と言っていた、今はその星が堕とされたのである。

 誰かを守る為の戦いには、自分の命こそ大事にしなくてはならないと京助はジガルから学んだ、現に命はあるのだが、それだけだ。

 戦う術を取り上げられた今、京助は何もできない。

 奏音を守る事すら。

「今からどうすりゃ良い‼」

 きっとこれに乗じてジャガックはここぞとばかりに畳み掛けてくるに違いない、その時に今の自分は何も出来ない。

「どうすれば……」

「あぁ……ぐーん……ががががががががが……ぴぃーい……ごごごご……ごあーん」

 突如トトが変な奇声を上げ始め、京助は一瞬だけ怒りが霧散した。

「おい、トト!」

「ごががが……ザボボボボボボボ……聞こえてる⁉」

 トトの口から明らかにトトのものではない声が聞こえてきた。

「え……なんで?」

「良かった! 聞こえてるのね京助!」

「……母さん?」

 何故かトトから美菜の声がする。

「母さんなの?」

「ええ、確かに私よ。お父さんの力を借りてトトを通して今私の声を届けているわ、いい? 落ち着いて聞いてね」

 美菜の声を聞いた事で、京助の焦りと怒りはかなり緩和された。

「すっごく気持ちは分かるわ、もちろん力を持つ者としてのあなたの焦りと、ジャガックに対するあなたの怒りもね。でも焦ったらダメ! 絶対にね。それこそ奴らの思う壺よ」

「じゃあどうすれば良いの? 俺はこのまま準備が整うまで(ここ)に居ろって?」

「そうよ、でもそれ以外の手はない。もしもジャガックが攻めてきたとしても、奏音ちゃん達はしっかりと戦える筈よ」

 京助は首を振りながら美菜へ反論する。

「奏音達の事は信じてるよ、でも俺が行かないと! 奴らのプロパガンダを信じちゃうだろ⁉」

「大丈夫、この街の住人には確かに不安が広がってるけど、何よりも京助が築き上げた信頼がある。だからきっとわかってくれる筈よ。希望の星は堕とせないから星なのよ」

「……」

 諭すような母の口調に、京助はやっと心を落ち着ける事が出来た。

「わかってくれた?」

「うん……ありがと母さん」

「これも親の務めよ……アバターの形成状況はどう?」

 京助は腕を組んで意識を高次元へと向ける。

「……六割七割出来てるって所かな、でもまだ呼び出せるような状態じゃない」

「もし……もしも窮地に陥ってどうしてもという時には、これを使いなさい」

 京助の左腕に温かい感覚が流れ込み、何かと思って左腕を叩いてみると、父の万路が使っていたゼロアウルレットが現れた。

「これは……父さんの!」

「ええ、万が一の事が会った時はそれでゼロアウルになりなさい。でもそれは……使えて三度が限界よ、あまり頼りにしない方がいいわ」

「……わかった、お守り程度でも助かるよ」

「本当は……姿を……見せたかっ……たけど……この……ゼロアウルレットを……送るために……力を割く必要があったから……」

 トトの口から発せられる美菜の声にノイズが混ざり始め、京助は咄嗟に手を前に出す。

「忘れないで……お父さんとお母さんは……いつもあなたの……傍に……ザボボボボボボボ……」

 トトが頭を振って瞬きをし、不思議そうに京助を見る。

「あれ、私……何かありましたか?」

「お前には無かったよ、でも色々あった」

 不思議そうに首を傾げるトトは、京助の左腕を注視して目を細めると、何かに気付いたようにハッとした。

「私の定位置に〝何か〟あります! なんですかそれは!」

「ああ、これは……」

「私という眷属がありながら挨拶もナシとは良い度胸ですね! 姿を見せなさい!」

「落ち着け、今から見せるから」

 京助は左腕を叩くとゼロアウルレットが現れ、トトは一瞬それが何か分からず困惑してしまった。

「……ゼロアウルレット? 何故あなたが?」

「母さんが俺に届けてくれたんだ、まあ左腕に何があっても平気だろ。ほら、バングルになれ」

「どこかに出かけるんですか?」

「ああ、やるべき事をやる」

「やるべき事?」

「俺がやるべき事は、一刻も早く新しアバターを形成する事。だから何があろうともやるべき事をやるぜ」

 掛けてあった上着を取ると、京助は左腕をトトに差し出しながら言った。

「インタビュー、しに行くぞ!」


 数分後、京助の姿は奏音の家の前にあった。

「え? どうしたの?」

「ちょっと用事があってな」

 玄関先で困惑する奏音に微笑んで見せ、京助は家の中を指差して暗に入っても良いか聞いた。

「うん、いいけど……なんで?」

「おじさんとおばさん居る?」

「うん、二人とも居るけど……まさか言うつもりなの?」

「そっか、まだ言ってなかったのか」

「ごめん、なんか言い出せなくてさ……私が言うのも違う気がして」

「いいんだ、どうせ今から言うんだし」

 奏音と共に京助は家に入ると、ソファーで寛いでいた和沙が慌てて立ち上がった。

「あら京助君、早いわね」

「どうも、おじさん今大丈夫ですか?」

「あら、あの人に用があるの? ちょっと待っててね」

 和沙が自室でリモートワーク中の誠を呼び、誠も不思議そうな顔をしながらリビングにやって来た。

「おお、京助君。どうしたんだい?」

「実はおじさんとおばさんに……大切なお話があるんですよ」

「大切なお話……」

 誠と和沙はお互いの顔を見合わせた後、誠は生唾を飲み込み、和沙はニヤリと笑う。

「あの……二人が思ってるような事じゃないからね!」

「いやでも、大切な事って……ねぇ?」

「大切な事ではあるからさ、とりあえず座ろ」

 ダイニングテーブルに対面で座り、緊張した誠とニコニコする和沙を前に、京助は隣に座った奏音をちらりと見てから話し出す。

「えーっと、二人にずっと隠してたことがあって……まあその、諸々の事情で話さないといけなくなりまして……」

「大丈夫よ、言ってごらんなさい。ねぇ? お父さん?」

「あ……ああ! もちろんだとも! 言いなさい京助君」

 京助は意を決して深呼吸すると二人をまっすぐ見て切り出した。

「俺……マグナアウルなんです」

「?」

 予想外の告白に、二人とも一瞬固まってからまた顔を見合わせる。

「ん? どういう事?」

「京助君が……マグナアウル?」

 意味が分からないとしばらく黙っていたが、二人は半笑いで京助の方を見る。

「京助君……ごめんね、ちょっとそれは信じられないかな」

「マグナアウルって……どこかの組織から財団に行ったんだろ? 大人なんじゃないのか?」

「お父さん、お母さん。これは本当なの、京助は私の事も知ってる」

「奏音……」

 誠と和沙は自分たちの娘がかなり真剣な顔で言うものだから疑惑が幾分か和らいだものの、あまりにも突飛な告白にまだ信じられずにいる。

「京助、やって」

「いいのか?」

「うん、見せた方が早いでしょ」

「わかった」

 京助が右手を挙げると、キッチンの洗った皿達が勝手に持ち上がり、更にソファーやリモコンまでも浮遊し出し、二人は驚いてその様子をきょろきょろと見て回る。

「超能力⁉」

「じゃあ……本当に⁉」

 京助は手を回して浮遊させたものを元に戻すと、京助は頷いて言った。

「はい、俺は本当にマグナアウルだったんです」

 誠は勿論、普段滅多な事では驚かない和沙も、これには流石に驚かざるを得なかった。

「じゃあ……彼氏彼女同士がそうとは知らずに地球とお互いを想って戦ってたって事⁉」

「うん、なんだか……笑えるよね」

 しばらく呆然としていたが、やがて現実としてそれを受け入れた二人は、少しずつ落ち着いてきた。

「いや~良かった……妊娠してるって言われるかと思った……」

「にんしっ⁉」

「しっ! してないっ! 行為もしてない!」

 胸を撫で下ろす誠の横で、和沙がころころと笑いながら答えた。

「だって娘の彼氏から神妙な顔で『大切な話がある』って言われたら……ねぇ?」

「おば、いやお義母さん、娘さんとは清いお付き合いをさせていただいておりますので……大変豊満で美しいボディには時に理性を忘れ本能のままに飛びつきたくなる所ではございますが長男故の我慢強さを発揮し……」

「バカバカバカ野郎! 親の前で何を言い出すの⁉ 信じられないんだけど!」

 赤面して京助を叩く奏音を誠が宥め、気を取り直して四人は再び向かい合う。

「今日はどうしたんだい? それを伝える為だけに来てくれたのかい?」

「いいえ、実はある事情でマグナアウルになれなくなりまして」

「えっ⁉」

「もう一度戦えるようになる為に、二人にはマグナアウルの印象を聞きたかったんです」

「マグナアウルの……」

「印象……」

 二人は同時に腕を組んで考え出し、奏音は京助に小さく耳打ちをした。

「なんで私のお父さんとお母さんに聞いたの?」

「クインテットの事情を知ってなおかつ、(マグナアウル)の事情を知らない人を選びたくて、そしたらおじさんとおばさんになった」

「はぁ……なるほどね」

 しばらく考えていた二人だが、誠が身を乗り出して口を開いた。

「正直なところ、奏音の事で頭が一杯でマグナアウルに気を配る余裕がなかったんだが……結構感謝してた」

「感謝?」

「うん、そうよ。戦場で奏音ちゃんたちを守れる唯一の存在だからね、色々と良くない噂も耳に入って来たけど、なんだかんだ信用してたかな」

「俺はな、どっかで見た日本の国防組織の一員って噂を聞いてたんだけど……」

「あ、組織とかないです。俺一人でずっとやってたんで」

「一人⁉」

 誠は目玉が飛び出んばかりに目を見開き、感嘆の声を漏らしてしまう。

「学校とか……買い物とか……料理とかしながら⁉ 一人⁉」

「ええ、大侵攻始まる前のジャガックは基本的に夜に活動してたんで障りなかったですね」

「それを可能にする資金源……ちょっと甘く見てたぞこれは」

「学校基本お休みになったからねぇ……丁度良かったのかな」

 なんだか世間話のようになってきたが、これまで息子のように接してきた娘の幼馴染にして彼氏が、知らず知らずのうちに苦労をしていたという事実は二人に取ってはかなり重い事実であった。

「大変だったのね……良ければ私達になんでマグナアウルとして戦い始めたか教えてくれる?」

「わかりました……始まりは中学生のあの日から」

 京助は誠と和沙の前で、ジャガックに両親を殺された事から荒んでいた心を奏音に癒してもらった事、クインテットとの出会いから大侵攻の最中に仇であるイダムと出会った事、最後にウィッカーアウルになった時に奏音の手で救われた事全てを話した。

 息子同然と思って可愛がり、時には支えてきた少年の知られざる苦しみの戦いの日々を聞き、誠は腕を組んで眉根に皴を寄せ、和沙は手を膝に置いて俯いてしまう。

「復讐の為とは言いつつ、京助君は俺達を守るべくずっと一人で戦っていたんだな」

「全く気付かなかった……よく耐えたわね」

「いいえ、全部奏音のお陰です」

 京助は手を奏音の肩に置いて微笑み、奏音は思わず赤面する。

「ねえ京助君……あなたは確かに強い力を持っている、でも傷付いてまで戦い続ける必要は……」

「母さん」

 和沙の言葉を誠が遮り、京助の方を向いて問うた。

「京助君、それがやるべき事と自分で定めたのかい?」

「はい、俺は皆と、何より奏音と未来を掴みたい」

「なら俺達は止めない。だがな、命だけは大切にしなさい、俺も母さんも君を大切に想っているんだから……そういう人たちが君にはたくさんいる事を決して忘れるな」

 京助は微笑みながら力強く頷き、誠は顔をくしゃりと破顔させながら冗談めかして続ける。

「京助君は奏音の彼氏なんだ! 娘を悲しませる真似は俺が許さん!」

 この言葉で心配そうな顔をしていた和沙もクスリと笑い、奏音もホッとしたように京助を見る。

「ありがとうございます。二人に話せてすっきりしましたよ、じゃあまだ早いけど……この辺で」

「あら行っちゃうの? ご飯食べていけば?」

「いやいや、こうして話を聞いて回るべき人がまだ沢山いますから」

「次どこに行くの?」

「うーん、とりあえずサイの所行くつもり。その後に幹人弘毅圭太に行こっかな」

「あの三人にもカミングアウトする?」

 京助は顔の下半分を歪めて腕を組み、しばらく唸って考えてから答える。

「しない、あえて隠して聞くことにする」

「そっか、頑張ってね」

「おう、それじゃ……行ってくるわ」

 三人が京助を玄関まで見送り、京助は頭を下げると瞬間移動でその場から消えるのだった。

「……まさか、京助君がね」

「子供って、親が知らない間にあっという間に成長するもんだな……なぁ?」

 誠が奏音の肩に手を乗せ、奏音は少し照れながら答える。

「や……ヤメてよ」

 複雑な思いはあれど、誠と和沙は京助の新たな旅路を祝福するのであった。


 真鳥市の山森の中、そこに全く不釣り合いなスターインターセプター「ゼバル号」の戸を京助は叩いていた。

「おーい、サイ君。起きてるか?」

 ジガルの時とは違い、今回はすぐにサイが出てきた。

「やあやあアウリィ、何やら大変らしいじゃないか」

「なんだ、知ってるなら話が早い」

「ちょうどボクも君に用事があったんだ……ボクというより知り合いだけどね。上がって」

 サイは京助を船内に上げると、宇宙由来の素材で作ったパンのような食べ物とハーブティーを渡す。

「食べな、超能力が一時的に高まる」

「おう、サンキュ」

 京助が奇妙な形と色合いに対して美味な味に驚いている間、サイはカメラとモニターを組み立て始め、どこかと通信を始めた。

「何、誰かと話すのか?」

「ああ、君の安否を確認したい奴が居るから、呼べないかって頼まれてたんだ……よっ」

 数コールの後に、サイの旧知の仲と思わしきあの角が側頭部に生え、腕が四本生えているヒューマノイドがモニターに映し出された。

「ビグス、今大丈夫かい?」

『おうおう、思ったより早かったな』

「よし、呼んで」

 もう誰が来るかは察しがついている、すぐに予想通りの人物が画角に映った。

『梟の旦那! 無事でやんすか!』

「久しぶりだなヅーイ、俺は無事だよ」

 かつてジャガックに所属しており、ニセモノ作戦でニセマグナアウルとして暗躍していたナキトシュラガラパドリアス族の若者ヅーイである。

 ジャガックと決裂した現在は、ビグスのスクラップ売り場で働いている。

『良かったでやんすよ……こっちにはあんまり正確な情報が流れて来やせんから……旦那が本当に死んだかと思って気が気でなかったでやんす』

「大丈夫大丈夫、アバターが使えなくなっただけで無事だから」

『あぁ……やっぱり弊害はあるんでやんすね』

 触角の根元を掻きながら、ヅーイは心配そうにこちらを向く。

「今俺は新しいアバターを再構築するべく駆け回ってる所さ。安心しろ! 俺は負けない」

『そうこなくっちゃァ! ここには居ないけど、この異星人街の皆は旦那の事を応援してる奴らばっかでさァ! あっしも勿論そのうちの一人!』

『一応俺もその一人だぜ兄ちゃん、ジャガックなんてとっととぶっ潰しちまえ!』

 ガッツポーズをするヅーイと、二組の腕で拳を打ち付けて檄を飛ばすビグスに、京助はサムズアップを返す。

「ああ、異星人街の皆の思いもしっかりと受け取ったぜ!」

 京助の無事を確認することが出来たヅーイは、安心して胸を撫で下ろした後にこれから仕事があるからと、再度激励の意思を伝えて通信を切るのだった。

「……アバター、使えなくなったって?」

 カメラを片付けながらサイがこちらに聞いてきた。

「ああ、俺のあり方が変わって合わなくなってきた時に、あの大ダメージを喰らったせいでな。今新しいアバターを構築している所」

「ふーん……アバターを呼び出せなくなった奴は何回か見た事がある、大抵夢や目標に敗れて二度と立ち直れなくなった連中だった」

 何故今からアバターを再構築しようとしている人間の前でそんな事を言い始めるのかと京助は文句を言いたくなる。

「あのな……」

「大丈夫、そいつらは立ち上がろうとしなかったけど、君は違う。再構築上手く行くと良いね」

 あまり興味はなさそうではあるが、一応京助はサイに質問する事にした。

「アバターの再構築に当たって、自分のあり方をしっかりと固める為に色々と皆に聞いて回ってるんだけど」

「あ、そうなの? 何を聞いてるんだい?」

「マグナアウルについてどう思ってる?」

 サイは自分の分のハーブティーを淹れた後、京助に向き直ってから切り出した。

「多分君が求めている答えではないだろうけど、それでも良いかな?」

「ああ、どんな答えでも聞いておきたい」

「まずだね、ボクとしては君のあり方等どうでもいい」

 ハーブティーを啜ったサイは、一息ついてから続ける。

「復讐鬼であろうと、快楽の為に戦おうと、大義や誰かの為だろうとどうでもいい。ボクにとって重要な事は……君が強いかどうかだ」

「俺が強いかどうか?」

 サイは京助を指差し、更に滔々と続ける。

「実を言うと、ボクは君と戦う事を諦めてない」

 京助は飲みかけたハーブティーを思い切り吹き出し、信じられないものを見るかのような目で落ち着き払っているサイを見る。

「ハァ⁉」

「最初に言っただろ? ボクは三度の飯より戦う事が大好きなんだ、特に強い奴とはねぇ」

 口角を裂けんばかりに吊り上げ、サイは身を乗り出して京助に顔を近づける。

「君のあり方が何にせよ、ボクは君が強ければそれでいいんだよ。だからとっととアバターを再構築してもう一度戦える状態にまでなってくれ」

「でもお前……俺を死徒絡みの件で助けてくれたじゃないか」

「ボクはインチキして強くなったやつが何より嫌いなんだ。だってそうだろ? 全てを殺す力なんて、そんなもので宇宙が溢れ返るのはあまりにも不健全だ。だからボクはそれの撲滅を願ってる」

「やっぱ死徒関連の力が許せなかっただけか……」

 京助はサイの事を友人だと思っていたが、サイに取ってはどうやらただの喧嘩対象だったらしい。

「いやいやいやいや、ちゃんと君の事は心配だったよ……幾分かは」

「なんだかそっちの方がショックだよ俺は……」

「泣かないでくれ友よ、ボクは君の人格の方も気に入ってる」

 友であり師であると思っていた存在に、今までずっと狙われていたかと思うとなんだか複雑な思いである。

「……ここからはボクの独り言なんだが」

「うん?」

「アウリィの心根は優しさがある……だから復讐に燃えていた時も誰かを思いやる気持ちを忘れることは無かった」

 そんな事はない、誰かの事を思う気持ちがあったのは全て奏音のお陰である。

「例えどんな理由であれ、復讐の炎を滾らせる最中に誰かを思いやる心を忘れなかったのは、優しい証さ……」

 サイはハーブティーに口付けると、最も言いたかったであろうことを付け加えた。

「だから君には、復讐より未来が似合うよ」

「……フッ」

 小さく微笑んだ京助に、サイは照れ臭そうにそっぽを向く。

「さあ帰った帰った! さっさとアバターを再構築して来い!」

 京助はニヤニヤと笑いながらサイの顔を覗き込もうとするも、サイは顔を背け続けて顔を隠し続ける。

「それじゃ! 帰らせてもらおっかな」

「そうか、それじゃね」

 京助を出入口まで見送り、サイは戻ろうとした所で声を掛けられた。

「サイ」

「うん?」

「俺はお前を絶対に倒す、だからそれまで待ってな」

「望むところだマグナアウル」

 二人は闘志が混じった笑みを交わし、再戦の時の思いを馳せつつ別れるのであった。


「そろそろ飯時か……よし」

 京助はグループチャットに通話を掛けると、すぐにメンバー全員が通話に出た。

「よーっすお前ら」

『おう、どうしたよ京助』

「飯行かね?」

『飯ィ?』

『うーんいいけど……』

『ちょっと外出るのは……』

「俺の奢り」

『行く』

『予算いくら?』

『補助で姉ちゃん連れてくけどいいか?』

 今後の投資だと思って、京助は自腹を切る覚悟をするのであった。


 数十分後、まとりキューズモールの近くの広場のベンチで京助と弘毅と圭太が待っていると、まだギプスが外れていない幹人と、その隣で申し訳ない顔をしている藤子が現れた。

「よー、ミッキーマウス。もう松葉杖はいいのか?」

「ハハッ! もう僕は大丈夫だよ……ってやらせんなよ」

「京助君、今日は私が払うから……」

 藤子の申し出に京助は立てた指を振って突っぱね、胸を叩いて言った。

「いいんですよ藤子先輩、色々危ない中幹人を呼び出したのは俺なんで。きっちり払わせてもらいますよ」

 京助を先頭に『とんこつしょうゆ・イハラ』に向かった五人は、店主の娘である由紀に迎えられた。

「あら久しぶりね皆! お父さん! 京助君よ!」

「おお! 久しぶりだな京ちゃんよ! それにしても……いっぱい連れてきてくれたな」

 京助の後ろに居る四人は照れ臭そうに頭を下げる。

「色々あるせいで客が少ないから助かるぜ! 今日はより一層真心こめて作らしてもらうからな!」

「ありがとおっちゃん! でもネギは抜いといてくれよ~」

 五人はテーブル席につき、二冊あるメニューをそれぞれで共有した。

「私ここに来たの初めてだな」

「そうだっけ? ああ、前行こうって言っててお流れになったのか」

「そうそう、だからどれがオススメとか教えてね」

 五人はページを何度も捲りながら、藤子に取って最適なメニューを選択する。

「聞いてるとどれもおいしそうねぇ……どうしよう、皆はどうするの?」

「満腹セット」

「チャーハンセット」

「フル餃子セット」

 三人が指定したのはあの千五百円を余裕で超過するセットメニューで、京助の逆襲を恐れて結局頼むことが出来なかったものである。

「ちょっと幹人! これ高いやつ!」

「うーん……いいよ! 頼め頼め! 俺が出す! 替玉もしろ!」

 京助の腹を切る発言に、逆に幹人達三人が驚いた。

「……マジで?」

「えっ……っちょ、マジでいいの?」

「京ちゃんどうしたの? 熱でもある?」

「いいよ! 俺が呼んだんだから!」

 呆気に取られたような表情で三人は顔を見合わせ、再び京助の方を見る。

「再度確認すっけど……マジでいいの?」

「俺ら奢りのターンで……なんか仕返しとかしない?」

「しない! 俺の気が変わらないうちに頼め!」

「……激アツだな今日は」

 なんだか京助に申し訳ない気持ちを抱えつつ、藤子も何を注文するかを決め、五人はしばらく料理が運ばれてくるのを待った。

「ところでよぉ、なんでみんな呼んだの?」

「そう、俺ちょっとみんなに聞きたいことがあったんだよ」

「聞きたいこと……ほーん、だから奢ってくれたのか」

「そう、諸事情でどうしても聞きたかったもんでな……マグナアウルについてどう思う?」

 京助の問いに皆小さな溜息をつき、特に幹人は背もたれに姿勢を預けて、腕を組み眉を顰めて唸り出した。

「……どうなっちゃったんだろうな、マグナアウルは」

「ジャガックは死んだって主張してるけど」

「いつものプロパガンダだろうけど、でもアレは衝撃的でちょっとなぁ」

「死んでないと思いたいけど、ちょっと分からねぇなコレは」

「姉ちゃんはどう思う?」

「えぇ? うーん……まあでも、一個言えるのは死んでて欲しくないよねって事かな。素性が全く分からないけど、この街を守ってくれてる存在であることは変わりないからね」

 皆ジャガックの言う事は完全に信じてはいないものの、心配はしてくれているらしい。

「じゃあ今朝のアレ抜きにしてさ、普段のマグナアウルについてどう思ってる?」

「やっぱかっけぇよな」

「あのアーマー考えた奴マジでセンスあるよ」

「強いしかっけぇってもう無敵じゃん?」

 デザインのセンスを褒められ、京助は意図せず口角が上がってしまう。

「かっけぇだけじゃねぇのが良いよな、強いしな」

「やっぱ助けられた身からするともうね……大ファンになるしかねぇ」

「私も助けられたけど……アレはちょっと怖かったなぁ」

 大侵攻以降に慧習館が襲われたことがあり、その時藤子が人質に取られていたにも関わらず、敵の撃破を優先してしまったことがある。

 当時のは敵の撃破と藤子の救出を同時にこなせる自信があったからこその行動だったものの、その直後の藤子は腰が抜けて立てなくなっており、数ヶ月経った今でも怖い記憶があるという事に、京助は今更ながら反省した。

「確かにあの時はヒヤッとしたわ」

「でもマグナアウルが居なかったらあの状況は打開出来なかっただろうし、なんだかんだ彼には感謝してるかな」

「マジでありがとうって思うぜ、マグナアウルが居なかったらマジで危ない時何回かあったし」

「そっか、弘毅ん()って市街地近くのマンションだもんな」

「うん、一回戦闘機が突っ込んできそうになったのを止めてもらった事あるからな。俺が住んでるマンションの人全員マグナアウルのこと好きだよ、多分」

 友人の話を聞き、自分がどう思われているかを再確認していると、一気に注文したラーメンが運ばれてきた。

「おう京ちゃん、マグナアウルの話してんだって?」

「あっ、あざます……そうなんすよ、おっちゃんも教えてくれます?」

 弦太は椅子を持って来て座ると、弦太は語り始めた。

「俺もな、弘毅君みたいにな、マグナアウルに店を守ってもらったんだよな」

 言われてみれば四ヶ月ぐらい前に、イハラの近くに出たジャガック兵を全力を挙げて掃討したことがあった。

「ちょっと売り上げ落ちてた頃だったし、店仕舞いしちまおうか……なんて考えてた時にマグナアウルに守ってもらってな。あの時のマグナアウルは凄かったぜ、たまに見かける時とは違う鬼気迫る感じだった!」

 確かにあの時は行きつけの店に指一本触れさせまいと、若干本気を出して大軍を必要以上に痛めつけ、その上塵すら残さなかった。

「それ見たらなぁ……あいつ、あんなに頑張ってこの街守ってんのに、なんで俺がへこたれてるんだって思ってまた頑張ろうって気になったんだよ。今もこうしてラーメンやれてんのはマグナアウルと、皆みたいなお客様のお陰ってな!」

「……そうですか」

 自分の戦いは、想像以上に誰かに影響を与えていたらしい。

「なんでお前が嬉しそうにしてんだよ」

 幹人に肩を叩かれ、京助はニヤついたままラーメンを啜る。

「オラ伸びるぞ、早く食えよ」

「おうおう、早く食べな」

 ここに由紀も加わった七人は、その後もマグナアウルについて雑談しながら、ラーメンやチャーハンや餃子に舌鼓を打ち、京助は心と腹を満たされるのであった。

「わざわざ現金でありがとな京ちゃん、ポイントおまけしとくよ」

「いいんすよ、また近いうち来ます」

 店を出た京助は小春日和に思わず目を細め、大きく伸びをして日の光をめい一杯浴びた。

(こんな日差しみたいな……平和な日が一日でも早く訪れて、それがずっと続けばいいのに)

 その日々を多くの人々が望んでいる。そしてそれを取り戻せるかどうかは京助にかかっている。

(早い所、新しいアバターを作らねぇとな)

 皆からマグナアウルがどう思われているのかは聞き、何を守るべきか、何を未来へ持って行くべきかをしっかり再確認した。

「もうすぐだ、待ってろよ」

「何一人でブツクサ言ってんだよ京ちゃん」

 圭斗が肩を組んできて京助は思わず笑顔になり、そこに他の三人も合流する。

「せっかく集まったんだし、カラオケとか行く?」

「いいかもな、カラオケなら今の俺でも楽しめそうだしな」

「うん、だったら今度こそ私に奢らせて! 姉としてのメンツを……」

 藤子がそう言って手を合わせた途端、突如日差しが何かに遮られた。

「……おいおい、マジか」

 てっきりまだ来ないかと思っていたが、よく考えればマグナアウルが出てこない今が絶好のチャンスなのだ。

 狡猾なジャガックがこの機を逃すはずが無い。

「ジャガック!」

「クソッ! せっかくのカラオケが!」

「そんな事言ってる場合⁉ とりあえず家に帰るわよ! 皆乗って! 送るから!」

 幹人に肩を貸し、藤子は急いで車へ向かう。

「京助君も早く! 巻き込まれちゃうよ!」

「俺は大丈夫です、一人で帰ります!」

「でも!」

 尚も自分を車に乗せようとする藤子へ、京助は宥めるように告げた。

「四人も送ってたら時間がかかって危ないでしょ、だから弘毅と圭斗の二人だけでいい! 俺は大丈夫ですから」

 藤子は一瞬反論しようとするも京助の目を見て口籠り、ゆっくりと頷いた。

「絶対に無事でいてよ」

「当たり前です、三人を頼みます」

 藤子は頷くと車に乗り込み、京助は友人たちを乗せた車両が一瞬で遠くなるのを見届けた後、大きく深呼吸をして空を覆うならず者共の船を睨みつける。

「たった今この瞬間……ここに宣言してやる」

 指を上空に突き付けると、京助はたった一人で宣戦布告を突き付けた。

「俺はお前らを絶対に許さねぇ」


 ジャガック出現の報せを受けたクインテットは即座に出動し、今回の戦場となる市街地に向かった。

「よぉし、マグナアウルの分まで頑張るよ‼」

「おう、今回結構規模がデカいみたいだけど……そんなの吹っ飛ばす程暴れてやるぜ!」

「ドンと来いだよっ!」

 クインテットの気合に呼応するように、母艦から大量の戦力が吐き出され、次々と市街地に降り立っていく。

「ジャガック兵またリニューアルした?」

「何回も何回もリニューアルした所で、纏めて捻り潰すだけッ!」

 ジャガック兵は腕を変形させて銃に変えると、整列したまま進撃を始める。

「変形機能付き……何かパテウみたい」

 自分の腕が変形した武器を携えたジャガック兵と、その後ろに配置された大型歩行戦車(ウォーカー)がクインテット目掛けて一斉にビーム攻撃を始めた。

「ミューズ! ルナ!」

「うんっ! わかった!」

「任せてッ!」

 デメテルはまずロケットパンチを放ち、放ったナックルアームの周囲に電磁シールドが展開され、ミューズが拘束弾を放って強度を補強、更にルナがナックルガンでシールドを硬質化させてビームを防ぐ。

 これにより初撃は防げたものの、相手は威力を高めてバリアが完全に破壊されてしまった。

「バカめ、バリアを割ったが……」

「運の尽きです‼」

 粉々になったバリアの破片に向けてイドゥンとアフロダイがそれぞれエネルギー弾と光の矢を放ち、無数の緑色の光弾と紫色の光矢が割れたバリアの破片に反射して複雑な軌道を描いて多数のジャガック兵を巻き込みつつウォーカーの足が破壊され、何人かのジャガック兵が倒れたウォーカーに押しつぶされる。

「よし、このまま畳みかけて……え?」

 押し潰されたジャガック兵が、体の一部を欠損させながらも這い出てきて、時間を掛けつつも欠損部位を回復させていった。

「ちょっとこれ……しっかり強くなっててヤバいんじゃない?」

「ホントにあのブリキロボットもどきみたいじゃん」

 異様な程強い回復能力に加え、体内に内蔵した武器を使う点は、死んだ筈のパテウを思わせる。

「もしかしたら装甲も結構硬かったりして!」

 ミューズはハルバードを転送し、太刀を生成したルナと共に相手に斬り込んで見た所、その見立て通り手応えはかなりのものだった。

「やっぱり硬い! みんな本腰入れて掛かった方がいい!」

 どういう訳かジャガックは劣化版パテウを雑兵として大量生産する術を見つけたらしい。

「でも倒せない……数じゃない!」

 ルナが高速移動でジャガック兵に突っ込み、飛び蹴りからの跳躍で周囲に凍結弾を撒き散らす。

「凍結助かる! だああああっ!」

 両腕に取り付けたボールハンマーユニットで次々とジャガック兵を粉砕していき、フルチャージしてハンマー同士を叩いて衝撃波を発生させると、凍り付いた無数のジャガック兵が粉々に砕け散った。

「動けなくさせれば、どうって事ないね!」

 アフロダイもナギナタを振り回し、次々とジャガック兵を切り裂いていく。

「後処理は……ウチがやる! ドラアアアアアアアアッ!」

 アフロダイによって細切れにされたジャガック兵が、イドゥンのミサイルマシンガンで次々と爆散していく。

「ハッ! やああああっ!」

 フルチャージしてエネルギーを武器に送り込み、エネルギーに満ちた刃を振り回して、ジャガック兵を文字通り細切れにしてしまう。

「パテウとは違って、細切れになっても再生するという事は無い様です」

 逆に言えば際限なく戦わされるという事態にはならないという事である。なるべく攻撃を避けつつ、高火力で焼き尽くすか何度も攻撃を加えて文字通り八つ裂きにしてしまえば相手は倒れる。

 いかに大群で攻めて来ようと、それは彼女らに取って問題にならない。

「倒せる相手なら……倒し切るまで!」

「その意気だね! Bモードオン! バーストッ! GO‼」

 バーストモードになったミューズは、まずこれ以上の戦力追加を防ぐために、空を飛ぶ輸送船に向けてハルバードを振るって刃を飛ばしてまとめて一刀両断してしまう。

「チッ……耐火チェンバーか」

 耐火チェンバーがパージされ、中から中型ウォーカーとフライトバイク隊が出現しクインテット目掛けて次々と襲い掛かった。

「私達も行くよ! Bモードオン、バーストGO‼」

 五人全員がバーストモードとなり、空中を舞う敵を迎撃する。

「あのウォーカー、ウザいな……誰か頼める?」

 五台のウォーカーがフライトバイクの迎撃中に茶々を入れるように攻撃をして妨害してくるのだ。

「私が行こうか?」

「頼むぜルナちゃん」

 戦闘に居るウォーカーの副砲のバルカンレーザーを左右に避けて回避し、スライディングで真下に潜り込んでコックピット目掛けて凍結弾を撃ち込んでいく。

「来て!」

「オウよ!」

 イドゥンのロングライフルから放たれるエネルギーを太刀で受け取り、ルナは青と緑の刃を振るってウォーカーを一刀両断し、その勢いのままナックルから展開したブレードで二刀流になって残りの四台も次々と切り裂いてしまった。

 邪魔なウォーカーを倒し、残るは飛び回るフライトバイク隊だ。

「さっきのアレで一気に決めませんか⁉」

「アレね……了解ッ!」

 デメテルが電磁バリアを張ったロケットパンチを放って高火力ビームを放ってそれを粉々に割ると、アフロダイが光の矢を、ミューズがハルバードの刃を飛ばし、跳弾の要領でフライトバイク隊を次々と撃ち落としていった。

「粗方落としたね……あ、はい」

 ある程度敵を倒したのも束の間、衝撃的な報せが飛び込んで来た。

「え⁉ 避難中のエリアに⁉」


 クインテットが戦っている前線から少し離れた避難中の人々がまだ残るエリアにて。

「おい、マズいぞ!」

 誘導していた財団の部隊員が指差した先には、突如出現した三機の輸送戦闘機があり、あっという間にこちらに近付いて来て、ジャガック兵やウォーカー、フライトバイク隊を展開して差し向けてくる。

「市民に近付けさせるな!」

 部隊全員が全力を挙げて抵抗する中、京助はその様子を遠くから見ていた。

「チッ……マズいな」

 千里眼でクインテットの様子を見るに、まだこちらには来られそうにない。

「……どうする?」

 自分の左腕と徐々に市民の方に近付くジャガックの戦力見て、京助は歯軋りしながら思順する。

「ゼロアウルで……行くべきか?」

 だがここで父の助けを借りるのも何か違うような気がするが、今目の前には今にも命の危機に晒されている無辜の人々が居るのだ、どちらを取るべきだろうか。

 京助が悩んでいるとジャガックの輸送戦闘機からスピーカーが展開され、耳障りな大声が周囲に響く。

「地球人に告ぐ! ジャガックから地球人に告ぐ! 無駄な抵抗を一切止めろ!」

 誰が従うかと言わんばかりに隊員達が更に攻撃をより苛烈にする。

 だが装備の差が圧倒的であり、戦闘機から放たれたミサイルで隊員達が吹き飛ばされてしまい、スピーカーから再び音声が流れる。

「もう分っただろう? クインテットは当分来ない、そして何よりマグナアウルは死んだ! 貴様ら地球人にはもう希望は無いのだ!」

 京助は舌打ちをして左腕を掲げ、ゼロアウルレットを呼び出そうとする。

「さあ早く降伏しろ!」

「嫌だっ‼」

 避難している者達の中から聞き覚えのある声が聞こえ、京助は挙げた手を思わず引っ込める。

「お前達の言う事なんて! 僕は絶対に信じないからなっ!」

「おい! 誰かあの子を止めろ!」

 避難する人々の中から、まだ幼い少年が飛び出し、たった一人でジャガックの軍団と相対する。

「清桜⁉」

 清桜は無数のジャガックの戦力と嘲笑を前にしても臆することなく、怒りのままに叫んだ。

「マグナアウルは生きてる! 倒れたってまた立ち上がって! 絶対に僕らを守ってくれるに決まってる!」

「小僧……まだ現実が受け入れられないようだな、今朝我々が示した通りマグナアウルは死んだのだ!」

「違う! マグナアウルはどんな時だって僕たちを助けてくれた‼ 前に僕にそうしてくれたみたいに……絶対に駆けつけて! 助けてくれるんだ!」

 清桜の信愛と怒りの叫びを聞いた京助は、今度は右腕に視線を移す。

「……へぇ、良く吠えたな小僧、こんな時にも駆けつけてくれると無駄な祈りをしながら……死ねッ!」

 清桜目掛けて戦闘機から一筋のレーザーが放たれ、着弾までの須臾の間、清桜はぎゅっと目を瞑って着弾の衝撃に備えた。

「絶対に……来る!」


 身を焼くような痛みと熱を覚悟した清桜だが、それがいつまで経っても来ない事に違和感を抱き、固く閉じた瞼を開けると、誰かが自分の前に立って、片手でレーザーを抑えながらこちらを見ていた。

「ナイスファイト、お前の勝ちだぜ清桜」

「……京助君?」

 京助は腕を上に向けると、レーザーの軌道が跳ね上がるように曲がり、幾機かのフライトバイク隊に命中して撃墜した。

「今の……どうやって?」

「そこで見ててくれ……きっと最高のものが見れるぜ」

 京助は腕を払うと、清桜の後ろに居た市民たちにサムズアップを向け、ジャガックの方へ向き直る。

「何今の……」

「今ビーム腕で受け止めてなかった?」

「てかあいつ……千道じゃね?」

 大勢の人々の視線をその背に受けながら京助は前へと一歩踏み出し、ジャガック兵達もその異様な雰囲気に気圧される。

「何だお前は! 今何をした!」

「何って? 別に大したことはしてない……友達の危機を助けただけさ」

 わざとらしく芝居がかった手振りで話し始め、京助はジャガック兵達を苛立たせる。

「ただの人間がどうしてそんな真似が出来る⁉」

「そこだよ! そこ! お前達が負ける理由は!」

「何だと⁉」

「お前達はここに住む皆の応援を侮って負け続けた! そして今回も……それで負けるんだ」

 これで完全にジャガックの怒りは頂点に達し、怒鳴りつけるように反駁する。

「何の力も持たないお前ら如きに何が出来る! マグナアウルはもう居ないんだぞ!」

 京助は大きく息を吐き、小さく何度も頷きながら言った。

「そうだな、もうマグナアウルは居ない、二度と現れない」

「京助君、なんでそんな事?」

「残念だが清桜、マグナアウルはもう居ないんだ……でももうすぐ生まれるぞ」

「生まれるって、何が?」

「新しいマグナアウルさ」

「新しい……マグナアウル?」

「ああ、新しい力と決意を秘めて……今生まれる!」

 多くの人々が見守る前で、京助は腕を交差してアウルレットを出現させ、腕を大きく回して空に向けて掲げる。

「俺は未来へ……翔ぶ! 翔ッ来!」

 三本の次元鍵から光が迸ると同時に京助の体が星が瞬く青い闇に包まれ、徐々にその中で姿を変えていく。

「なにあれ⁉」

「まさか……嘘!」

「京助君が!」

 青い闇が晴れて中から現れたのは、全身に虹を纏って光り輝く全く新しい姿のマグナアウルだ。

「マグナアウルだったんだ!」

 張り詰めた雰囲気は歓声によって一気にかき消され、ジャガックは驚愕に包まれる。

「お前ッ! 生きていたのか!」

 新しい姿になったマグナアウルは喚声を浴びながら、ジャガックへと指を突き付けて自らの名を名乗った。

「俺はマグナライジングアウル! 未来と希望の化身だッ‼」

 マグナアウル改めマグナライジングアウルは一斉に攻撃を仕掛けてきたジャガック達をものともせず走り出し、背中に黄金に輝く二枚の翼を展開して跳躍し、空高く舞い上がってから数多くの敵を見下ろす。

「挨拶代わりだ、持って行きな!」

 翼の周囲に青白い炎を纏った金色の金属球が複数個出現して、次々とジャガック兵へと襲い掛かり、一瞬で消滅させていく。

「マグナアウルを殺せぇっ!」

 フライトバイク隊がこちらに向かって銃撃を仕掛けてきたが、マグナライジングアウルは神出鬼没な瞬間移動を繰り返して回避し、空を飛び回りながら相手を引き付ける。

「ハアッ! トゥオワアアアアアッ!」

 羽角と鶏冠から七色に輝く波打った光線を放って一気にフライトバイク隊を殲滅すると、マグナライジングアウルは翼をはためかせて地面に降り立った。

「殺せ殺せ! こいつを殺せぇえええっ!」

 大量の中型ウォーカーと大型ウォーカーが三台投入され、マグナライジングアウルへと一斉に砲火を浴びせかけるも、それらは全て被弾直前で消失してしまう。

「アウルカリバーッ‼」

 マグナライジングアウルの胸から光が出現し、それを手に取ると片刃の大剣に変わった。

「梟爪彗星ッ!」

 アウルカリバーの刃にソリッドレイが満ちてそれを振りかぶると、空間ごと切り裂くような斬撃が枝分かれして中型ウォーカーを細切れにしてしまう。

「まだまだァ! 終わらせねぇぞ!」

 細切れになったウォーカーの残骸の山を蹴って跳躍し、大型ウォーカーに肉薄して何度も何度も斬りつける。

「ハッ! セヤッ!」

 蹴りを叩きつけて文字通りウォーカーを崩壊させると、今度はこちらに集まって来つつある戦闘輸送船に狙いを定める。

「アウルブラスト‼」

 持っていたアウルカリバーが変形してライフルサイズの銃へと変わり、二つの銃口にエネルギーが集まっていく。

「昨日のお返しだ、好きなだけ喰らいな‼」

 ソリッドレイの弾丸が次々と射出され、戦闘機を次々に撃ち落としていく。

「フィッシャーキング‼」

 ブレードボウを生成するとアウルブラストの先端に合体させ、ブレードと装甲が七色に輝き始める。

「梟翼……乱舞ッ‼」

 ソリッドレイを帯びた七色に輝くブレードボウが射出されると同時に、無数に分裂して戦闘機に命中し、次元収縮を起こして全ての戦闘機の残骸が消失した。

「ウウウウオオオオオオオオッ! 許さん! 許さんぞォッ‼ マグナアウル!」

 次元収縮を起こす直前に機体から飛び出したパワードアーマーが着地し、マグナライジングアウルの前に立ちはだかる。

「今度こそ殺してやる!」

「俺はマグナライジングアウルだ、アップデートしてけ?」

 煽るような発言に苛立ったパワードアーマーを纏った隊長格は思い切り殴りかかるも、瞬間移動で数メートル上方に移動して回避する。

「オオオオオオオッ! 死ねぇッ!」

 改良に改良を重ねられた高威力のビームバルカンを放つも、マグナライジングアウルは涼しい顔で瞬間移動で回避を続ける。

「回避も飽きてきたな。よっ!」

 そう漏らしたマグナライジングアウルは地上へと移動すると、あろうことかビーム弾を全て手で弾き始め、パワードアーマー渾身の超火力レーザー砲も貫手で引き裂いて砲台ごと破壊してしまった。

「そろそろ終わらせてやる」

 フィンガースナップと共にマグナライジングアウルの姿が六人に分身してそれぞれが銃系の武器を持ち、分身全ての装甲が輝き、銃口にエネルギーが収束する。

「ハァァァアアッ! シャアアアアアッ‼」

 六人のマグナライジングアウルから放たれたエネルギー弾が集中してパワードアーマーは爆散し、戦いの様子を見ていた市民達から大歓声が上がった。

「宣言しよう……」

 アウルブラストを持っている本体へ分身が収束して一人に戻ったマグナライジングアウルは、腕を挙げて真鳥市民達へ叫んだ。

「俺はここに居る‼」

 見事に復活と進化を遂げたマグナライジングアウルを、大歓声が包み込むのであった。


 無時に侵攻を切り抜け、財団の待機所にて。

「本当に大丈夫なの? 顔出しなんかしてさ」

「ああ、覚悟の上でやったんだ。何よりも信頼が大事だと思ったからな」

「私達もしようかな、顔出し」

「うーん、ちょっと怖いから要相談だね……」

 上機嫌の京助は大きく伸びをして改めて皆の方を向いた。

「俺が新しい力を手に入れられたのは、皆が居たからだ。本当にありがとう、これからも一緒に戦ってくれ!」

 ストレートな感謝の言葉と思いをぶつけられた五人は、なんだか少し照れ臭くなる。

「う……うん、分かってるよ。当たり前じゃん!」

「ウチらにも分けて欲しいな、その超能力……なーんて」

「何にせよ、また戦えるようになって良かったね」

 京助は頷いて奏音を抱きしめて頬にキスし、照れた奏音は京助を引きはがす。

「これからの戦いはいよいよ大詰めだ……決戦の時はきっと近い」

「確かに、いよいよ総力戦だね」

「全てをぶつけよう」

「そうね、でもそれだけじゃなくて……私はガディとザリスとジェサムの三人も助けたい!」

 明穂の決意表明に、京助は力強く大きく頷いた。

「ああ、助けよう。やりたい事、全部やろうぜ」

「これからもより一層協力していこう」

 奏音が拳を突き出し、京助がそれに自分のものを重ね、皐月と麗奈と明穂が続き、最後に林檎が拳を重ねる。

「翔ぼう」

「未来へ!」

 数奇な運命を歩んでここに集った少年少女達は、今心を一つにして決戦へと向かおうとしている。

 最後の戦いが、今幕を開けた。


京助編 完


 地球から何光年も離れたナニア星系第四惑星ルガーノ、その第三の月であるルガーノⅢにて。

「ここが……追放者の泉」

 ガディとザリスとジェサムは、水の中から放たれる異様な雰囲気に、完全に委縮していた。

「ここでお姉様が……あの力を?」

「その通りだ」

 そう言いながら不愛想な顔で暗がりから現れたのは、京助の因縁の相手であるイダム・ジャム=ガトローダである。

「イダム様……何故私達をここへ?」

「……()()()が生きていた、俺をこうした……あいつが!」

 常に嘲笑的な含み笑いをしているイダムには珍しく、顔にも言葉にも怒気が籠っていた。

「あろう事かあいつは……マグナアウルだったんだ! 今度こそ奴を殺す! その為に更なる力が必要だった訳だ……お前達も力が欲しいだろう? 強くなりたいんだろう? だから俺はお前達を連れてきたんだ」

 イダムは体内の機関の音をわざとらしく鳴らし、服を全て脱ぎ捨てると泉の中へ入っていく。

「死の力よ! 俺に更なる力を!」

「死の力⁉」

「ここには……そんなものが⁉」

 イダムの片目が赤く光ると同時に、泉の中から黒い靄状のものが噴出してイダムを覆い尽くし、三人は思わず後ずさりする。

「ッ……ハハハハハハハ! 感じるぞ! 俺の力が高まっていく!」

 三人は直感を通り越して本能で察知した、これは絶対に良くない何かだ。

 こんなものに関われば、命を食い潰されてしまう。

「どうした! 来ないのか! どんな力だろうとどんな手を使おうと! 力を貪欲に追い求め強くなれ! それが強者への道だ‼」

 そんな事をすれば行きつく先は災厄の化身だ、そんな事は生まれて間もない三人でも分かる。

「弱いからこそ強者に食われる! 強者に喰らわれたくなくば! 不自由の鎖を断ち切り好きな選択をしたくば強くなれ!」

 そのイダムの言葉がガディの胸の中に眠っていた闇を呼び起こし、そしてその闇に反応してか、イダムの体を覆っていた黒い靄がガディにも迫る。

「嫌ッ……うっ……ああああっ! 嫌あああああああッ!」

「姉さん!」

「やめて! 姉さんを離して!」

 夜の洞穴から女の絶叫と男の笑い声が響き、そしてまた新たな死徒の力を得た者が誕生した。

 波乱の最終決戦前夜、果たして地球と少年少女の運命や如何に?


To Be Continued.

第四章最終回です!

闇に堕ちて動けなくなった京助が、皆の助けを借りて再び立ち上がり、最後は未来へと向かう為に翔び立つ。

そんな物語でしたね。

ですがまだまだ物語は続きます!

次回から最後の戦いを描く決戦編が始まります! これは楽しみ!

感想コメント、Twitter(現X)のフォロー、友達へのオススメもよろしくお願いします。

ではまた来週、決戦編にてお目にかかりましょう!

よろしくお願いします!

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