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青春Double Side  作者: 南乃太陽
京助編
47/53

墜ちた梟

マグナアウル、敗北⁉

マグナアウルを呼び出せなくなった原因は、自分のあり方が変わったからだと知り、京助は自分のあり方を再定義するべく、奏音と皐月と明穂と林檎と麗奈の協力を得る事に。

これまでの戦いを振り返り、自分の問題点に直面した京助。

果たして京助は、無事に再び戦う力を手にすることが出来るのか?

 マグナアウルとクインテットが正式に手を結び、ジャガックとの戦いがより熾烈になろうとしている時、とうとうそれは起こった。

 それは凶兆か、あるいは……。


 しばらく小規模な侵略活動しか展開してこなかったジャガックだったが、海外から潜伏ジャガック兵を炙り出す装置を持ち込まれ、市内に居るスパイの半数が殲滅か捕らえられたことで焦ったのか、再び大量の兵士を差し向けてきた。

「おっとぉ!」

 大型歩行戦車(ウォーカー)と戦いながら後退するイドゥンは、少々離れた場所で戦っている他の仲間たちの通信を聞いた。

『何か今日のジャガック兵おかしいんだけど‼』

『おかしいって……どうおかしいの⁉』

『分からない⁉ 硬い!』

 皆の中でうっすら感じていた違和感が、ここで言語化されたことでようやくはっきりした。

「確かに言われてみりゃ……危なっ! やけに銃弾の利きが悪かった気がする……おっと! それより早く誰か助けて! ウチ一人じゃ辛いわ!」

 試しにレールガンを放って牽制するも、フォースフィールドによって弾かれて有効打にはならなかった。

「クソが……お?」

 黒い流線型の物体がフォースフィールドをものともせずに高速でウォーカーへ突っ込み、大きく揺れたウォーカーの表面に張り付いて手から電撃のようなものを流し、フォースフィールドを無効化してしまった。

「やったね、サンキュー!」

 ウォーカーから飛び降りたマグナアウルはイドゥンの横に並ぶと、首を鳴らして背中の対物ライフルを取り出して威力を調節する。

「最後の仕上げと行こうか」

「わーってるよ、タイミング外さないでよ」

「そっちこそな」

 イドゥンはロングライフルの銃身下部にレールガンをマウントすると、腰のスイッチを三度押し込んでオーバーチャージを発動してエネルギーを送り込み、マグナアウルは対物ライフルに腕からエネルギーを送り込む。

「オラよッ! 持ってけぇぇぇええええっ!」

「ハッ‼」

 緑色の巨大なエネルギーに包まれた実弾と、青白い半物質弾が同時に射出され、大型ウォーカーは脚部のみを残して焼き付くされてしまった。

「ナイス」

「おう、もっと早く来られなくて悪かった」

「ちょい待ち、身体の方は大丈夫なん?」

 数日前にマグナアウルは、クインテットの仲間達に現在自分の体を襲っている不調の事を正直に打ち明けていた。

「……ああ」

「ホントは?」

「さっき少し危なかった」

「大丈夫なの?」

「当分はな」

「無理すんなよ」

「ありがとよ」

 マグナアウルはマントを展開して飛翔し、クインテットと戦っている無数のジャガック兵の方へと向かって行く。

「ちょっと熱いぞ!」

「熱い? うわっ⁉」

 マグナアウルがマントを羽のように羽撃たくと、周囲一帯のジャガック兵全員に青い炎が燃え上がり、進撃が一旦止まった。

「危ないな!」

「これで硬い金属も柔らかくなるだろ、そらよっ!」

 空中で高速移動して蹴りを叩き込み、百人近いジャガック兵を纏めて爆散させた。

「皆! アレやるよ!」

 ミューズがグリップを戦斧に変形させるとオーバーチャージを発動し、ハルバードと共に火達磨になったジャガック兵を数体纏めて切り裂いてからデメテルにパスをし、デメテルはフルチャージを発動して戦斧を持ったままロケットパンチを発動する。

「ルナ!」

「了解! よっ!」

 数人纏めて吹き飛ばしたロケットパンチから戦斧を受け取ると、フルチャージを発動して二体切り裂いた後に戦斧を投擲する。

「私は……これでっ!」

 アフロダイがフルチャージを発動して三日月型の鏃を形成して戦斧に向けて放ち、戦斧はさらに勢いを増して飛び、それにイドゥンがロングライフルからの射撃でさらに勢いをつける。

「最後は俺だな! ハッ!」

 飛んで来た五人分のエネルギーが乗った戦斧を引き寄せると、マグナアウルは戦斧にエネルギーを送り込んでチェーンを柄に巻き付ける。

「ソォォオオオオアアアアアッ‼」

 マグナアウルはチェーンのついた戦斧を振り回し、完全に地上に居るジャガック兵を壊滅させてしまった。

「フゥッ!」

 チェーンを巻き取ってひしゃげた戦斧を修復すると、それをミューズに返却した。

「ありがと、お疲れさん」

 ジャガック兵はもう粗方倒した、あとは上空を飛び回る五機の戦闘機のみである。

「あとは、アレらか」

「そうね、対空戦に……ん?」

 なんだか戦闘機の飛び方がおかしい、突然ホバリングを始めたかと思ったらゆっくりと各機が近くに迫り、それぞれが合体して砲台を形成した。

「お前ら危ない‼」

 マグナアウルが無数の盾を生成して念力でクインテット全員を吹き飛ばしたのと、合体した戦闘機の砲台から高威力のレーザービームが射出されたのはほぼ同時だった。

「マグナアウル‼」

 そのレーザービームは何枚もシールドを敷き詰めた障壁を徐々に溶かし始め、色濃い影を道路に落とす。

「このままだとマグナアウルが!」

「でもどうやって止める⁉」

「やってみるしかないですよ!」

 アフロダイはナギナタを転送して弓の強化パーツとして取り付けると、三日月が十字型に交差した鏃を生成して弓を放って砲台自体を狙うが、あまりの高エネルギーに途中で矢自体が崩壊してしまった。

 ほかにも様々な方法で戦闘機を止めようとするも、レーザービームがあまりにも高威力すぎてどれも失敗に終わった。

「止める方法は無いの⁉」

「エネルギー切れを待つしか……でも!」

 生成した盾はもう殆どが溶けかけており、マグナアウルの方も限界が近いらしく、膝をついて肩で息をしている。

 そしてついに。

「うぅ……があああっ!」

 念力を維持出来なかった事で盾が吹き飛び、高威力のレーザービームがマグナアウルに直撃し、派手に吹き飛んで道路を転がった。

「くっ……ぬううううあああああっ‼」

 大ダメージを受けながらもマグナアウルは最後の力を振り絞って溶けずに残った盾全てを操作して戦闘機にぶつけ、盾が記憶していたビームの威力全てが炸裂した戦闘機は大爆発を起こして相打ちとなって終ったものの、問題が起こったのはその後である。

「……あぁ」

 仰向けに倒れたマグナアウルの装甲が徐々に分解され始め、皆は慌ててマグナアウルを囲んでその姿を隠した。

「マグナアウル‼ しっかりして!」

「なんかダメージ受けて吹っ飛ばされたことはあっても……こんな事なかったよね?」

「それぐらい……もう不調が限界だったのかな」

 ともあれ敵は無事に殲滅した、五人は手負いのマグナアウルを抱えながら、財団の迎えを待つのだった。

 

 メディカルセンターに運び込まれた京助がどうなったのか心配して一時間、待機所の扉が開いて皆そこへ振り返ると、どこにも処置を受けた形跡の無い京助が憮然とした顔で現れた。

「あれ、大丈夫そう?」

「なんかてっきり包帯ぐるぐる車椅子で来るかと思ったのに……どこも異常とか怪我無さそうね」

 無事そうな京助に喜ぶ五人に対し、相変わらず憮然とした顔で首を横に振って京助は口を開く。

「いいや、大怪我してる。それも超重い後遺症」

 そうは見えない、二本の足で立てているし、外見上は怪我も無く至って健康そのものだ。

「大怪我って……どこが?」

「これだよ」

 京助は自分の右腕を叩くと、アウルレットを出現させた。

「うわぁ……」

「こんな……ひどいですね」

 アウルレットはまるで内部からスパークが起こって焼け焦げたような有様になっており、外装は溶けてボロボロ、そして手を翳す部分にある宝石のような装飾は蜘蛛の巣状にヒビ割れていた。

「マグナアウルっていう第二の俺の肉体(アバター)が、爆発的に進化する俺の力と魂に耐えられなくなってた所にあの一撃をドカンと喰らった訳だ。そりゃ機能不全になるよな」

「それじゃあもう……マグナアウルにはなれないの?」

「試したんだ、そしたらアウルレットがこうなった」

 収納されていた次元断裂ブレードがポロリと落ち、それを見た京助は右腕を叩いてアウルレットを収納する。

「治る……んだよね?」

「分からない、でも一応対策は立てた」

 京助はスマホを取り出してメッセージアプリの画面を見せる。

「成程、確かにそれが一番かもね」


「ふむ、成程……確かに緊急事態だね」

 場所は移って千道邸、京助に緊急事態だからという理由で呼び出されたレイは、腕を組みつつ頤に手を当てて発生した問題に向き合っていた。

「一個聞きたいんだが」

「はいはい」

「この子たちはなんで居るの?」

 オーブンが焼き上がったベルの音がし、キッチンから明穂と奏音が顔を出す。

「ああ、あはは。お構いなく」

 皐月と麗奈はダイニングテーブルに座ってお茶を飲んでおり、林檎はどこからか引っ張り出してきたビーズクッションに体を預けてスマホを弄っている。

「なんか俺の事心配なんだって、いい仲間を持ったもんですよ」

 その割には好き勝手やっているのが気になったが、京助がいいならそれで良いかと、レイはそう思う事にした。

「そうか、ならいいんだ……さて、話を戻すとアバターの話だろ? 実はそういうの、結構あるんだ」

「そうなんですか」

「そう、アバターは別の肉体であると同時に、その者の〝あり方〟や〝生き方〟でもある。これを聞いたらマグナアウルが不調を起こした理由はもう分るね」

「俺の〝あり方〟が変わったから?」

「ご名答」

 アバターとはある状況に適応した肉体を生成し、高次元からそれを呼び出して体に纏う超能力である。

 具体的に言えば、インド神話に登場する無敵の体を持つアスラのヒラニヤカシプを屠ったヴィシュヌ神のアバターのナラシンハの例が分かりやすいだろう。

 このように、状況に合えば無類の強さを誇るアバターだが、その状況から外れてしまえば途端に弱くなる。

 ヴィシュヌ神のように何個もアバターを持っていれば使い分けが可能だが、京助はアバターを一つしか持っていない、よって千道京助という人物の生き方が変わった事で、マグナアウルがずっと不調を起こしていたのである。

「俺のあり方……俺の生き方」

「マグナアウルを生み出したとき、君は何を思っていた? 何を考えていた? 何を目指していた? そして何のために生きていたか……よく思い出してみてくれ」

 京助がマグナアウルを生み出し、そして初めてその身にアバターを纏ったのは、記憶が正しければ中一の頃である。

 あの頃はただただ必死だった、ジャガックが憎かった、当時は名前も知らなかったイダムが憎かった、一日でも早く敵を討ち滅ぼしたかった。

「夜は終わりだ、そしてお前に朝は来ない。復讐鬼、そして報復と絶望の化身……それが(マグナアウル)だった」

 では今はどうだろうか、確かにジャガックは憎いし許すことなど天地がひっくり返っても出来ない。

 だがそれだけではなくなった、守りたい人が居て、守りたい友が居て、そして取り戻したい景色がある。

「どうやら少しずつ分かって来たみたいだね」

「皆を守りたい、それだけじゃダメなんですか?」

 レイは首を振って京助の肩に手を置いた。

「皆を守って、君は何をしたい?」

「……」

 そう言われると出てこない。

「それをハッキリさせないと駄目だ。自分はどうあるか、どう生きるかを誰かに依らずに自分自身で決めるんだ」

「成程……」

「まあでも、それを決めるのを誰かに手伝ってもらうのも良いんじゃないか? 自分がどんな人間か、誰かに聞いて回ってみて……誰かの目を通して自分探しをしてみると良いんじゃないか? 瞑想とかやってみると良いのかな、とにかく自分で決める事。それが大事だよ」

「分かりました、ありがとうございますレイさん。マジで助かりました」

「まあ行きがけの駄賃にこれぐらいはしてやるよ」

 そう言ってレイは京助の右腕を取ると、そこに手を翳して緑色の光を照射する。

「今のは……」

「次元干渉器を直しておいた。君がアウルレットと呼んでいる物だね」

「おおマジか! ありがとうございます!」

「それじゃ頑張ってくれ、応援してるよ」

 そう言うとレイは、ポケットの中の懐中時計を開いて片手で竜頭を回して空間を歪め、京助を労うように手を振りながら何処かに去って行った。

 

「フゥ……自分探しか」

『とりあえず当てはすぐそこにありますね、五人分』

「……そうだな、奏音達だけじゃなくて、いろんな奴らにも色々と聞く必要があるだろうな」

 京助が脳裏で誰に話を聞いて回るか脳内でリストアップしていると、明穂がお盆に乗ったマフィンを持ってきた。

「お待たせし……あれ? レイさんは?」

「ああ、もう帰っちゃった」

「えぇ……なんでぇ? せっかく焼いたのに」

「良いよ俺が二個食べるから、家主権限でね」

「ズル……くはないか、材料全部京助君の家にあったものだし」

「ヘヘッ、そういう事。みんなで食べようぜ」

 京助はダイニングテーブルへ向かい、クッションの上で微睡みかけてた林檎を座らせてティータイムが始まった。

「じゃあ食べましょうかね……あぁ、やっぱコレだね」

「洋菓子に緑茶って合うの?」

「こいつは何にでも合う、紅茶にだって合うよ」

「いやいやそれは無いでしょ」

 クリームが乗ったマフィンを食べながら、六人はひと時の癒しを享受した。

「そーいやそろそろ新学期か」

「マジか」

「ジャガック絡みの事が全く解決せず私達受験生になっちゃったね」

「どうなるんだろうね……今後」

 自分達は百歩譲ってまだいいとして、問題は自分達以外の何も知らない友人達である。

 ジャガックのせいで受験に少なからず影響が出るだろう。

「私達が悪いって訳じゃないけど……なんか責任感じちゃうな」

「ああ、その気持ちは分かるぜ、俺も一人で戦ってた時はそんな考えがずっと付き纏ってた。奏音に申し訳ねぇ……ってな感じで」

「そんな事思ってくれてたの~?」

「ああ、デートの度にそう思ってた」

 奏音の方からものすごい勢いでハートのオーラが京助の方へ飛んでおり、それを見た皆の心の中になんだか生暖かい風が吹く。

「また惚気が始まったよ」

「まあいいじゃん……ところでさ、マグナアウルにはなれそうなの?」

「うーん……もう、二度となれない気がする」

「二度となれないって……え、大丈夫なの?」

「ああ、その辺は大丈夫だ」

 京助は皆に、先程レイと話したことを語って聞かせ、これからやろうとしている事も全て話した。

「つまり、いろんな人に自分がどんな人間かインタビューして回って、自分探しをやるって事?」

「そう、そうして最終的に自分のあり方を再定義しようと思ってな」

「最初にそのインタビューするのが私達って事?」

「ああ、よろしく頼むぜ」

 二個目のマフィンを食べながら、京助は皆にサムズアップをする。

「じゃあ食べてからインタビューかな」

「おう、てか加須多保の時も思ったけどマジで明穂の料理美味いよな」

「エヘヘ、ありがと」

「もー、そればっか!」

「奏音のも美味いよ、初デートの時一回だけ食ったけどありゃ美味かった」

「それ思い出補整かかってません?」

「わっ! 麗奈ちゃん! 何てこと言うの!」

「へっへっへ! 言われてみりゃそうかもな」

「あーっ! ひーどい! 人目憚らず美味い美味いって泣いてたくせに‼」

「冗談に決まってるだろ、機嫌直せって、な? ちゅっちゅ」

「そっ……そんなんで許すほど……まあ許すけど……」

「ちょっろ」

「言うなって」


 ティータイムが終わった後、六人は地下に向かってグループディスカッションのように円形に座り、京助はホワイトボードを持って来て左上に『千道京助について』と書いてからボードの前に腰かける。

「ではね、始めさせていただきます」

「よろしくお願いしま~す」

「まあその~そんなに堅くならないでいいからさ、俺とマグナアウルについてどう思ってるか教えてくれないか?」

「京助とマグナアウルについてね」

 何分か考える時間を与え、五人は暫く唸りながらこれまでの日常と戦いを回顧した。

「あ、センキョー、これ挙手制で行く感じ? それとも普通に話す感じ?」

「どっちでもいいけど、普通に話し合う感じで俺は行きたいと思ってるかな」

「了解、もーちょいジカンくれ」

 しばらく経ってからなんだか雰囲気が変わってきた事を感じ、京助は手を叩いて切り出した。

「もうなんかみんな考えたっぽいから、そろそろ話してもらおうかな」

「わかった、じゃあ新しい自分のあり方って言うなら、まずマグナアウルについてどう思ってたかっていうのから話さない?」

「そうだな~、そういうのじゃんじゃんくれ」

「じゃあ……どうぞ」

 京助以外の四人の視線が皐月に集まる。

「なんで私がトップバッターなのさ……」

「だってホラ、一番マグナアウルについていろいろ思ってそうだし」

「う~ん、そうだなぁ……」

 半笑いで言い辛そうにしながら、皐月は腕を組んで体を丸めてから切り出した。

「まあその、今はそんな事全然思ってないって前提で聞いてほしいんだけど……初対面の時絶対信用ならないって思って以来、ずっとその感覚が心の中にあったね」

「うんうん、なんでそう思ったの?」

「正直すっごく……怖かったんだよねマグナアウルって」

 怖かったという言葉を聞き、京助は舌で頬を押しながら天井を仰ぐ。

「怖かった……」

「なんかね、あんな尋常じゃない雰囲気撒き散らすような存在は絶対ロクなのじゃないって咄嗟に思ったんだよね。今思えば怖かったんだと思う私」

「そんなに……漏れてた?」

「いやいやすごかったよぉ?」

 明穂が首を振りながら話に入って来た。

「え、俺明穂(デメテル)になんかしたっけ?」

「輸送船撃ち落としたことあったじゃん?」

「……あぁ~、やったな!」

 何のことか京助も思い出した、一度マグナアウルをクインテットの作戦に協力させる為、後ろから近づいたデメテルの背後に一瞬で回り込んで銃を突きつけた事があった。

「本当に死んだかと思ったもん私。全身の筋肉がガッチガチに固まっちゃってさ」

「すんませんした!」

「いやいやもういいんだよぉ」

「もし私が殺意向けられてたら顔出した後でも……うーん、やっぱり京助って分かったら信じちゃうかもな」

 自分がそんなに信用ある存在だったとは意外である。

「ちょっと揉めましたよね、最初の方」

「あぁ~あったね、皆で方針決める会議したよね」

「ああ、やっぱ集団で戦うからそういう事やるんだ」

「うん、クインテットとして活動始めてから半月ぐらいで……なんかちょっとギスっちゃった時があって」

 それを聞いた途端、京助の目が飛び出さんばかりに見開かれ、驚愕の声が口から漏れ出した。

「そんな時一瞬でもあったのか⁉ う~わ、信じられんわ」

 五人は笑いながらうんうんと頷いて、まだまだひよっこだった時の事を思い出す。

「色々あったのヨ、ウチらにもね」

「そんな時にも意思疎通できるように、父が会議の場を設けてくれて、そしたらどんどん悪い雰囲気も解消されていって、そこからなにかしら拗れそうになった時話すようになったんです」

 そういった時期を乗り越えたからこそ、今の固い絆で結ばれた五人が居るのかもしれない。

「それで、みんなその会議の時俺の事どう思ってたの?」

「私はジャガックと同じくくりで敵として見た方がいいって言ったね」

「そっか、明穂はどう思ってた?」

「私は……様子見したほうがいいって思ってたかな、生物兵器工場を潰した時から、どっちかと言えば味方寄りになったかな」

「ユメリンゴ、お前は?」

「ウチィ? うーん……あ、思い出した。どうでもいいって言った」

 流石に京助も椅子からずり落ちてしまった。

「オイ! 何だどうでもいいとは!」

 何故か笑いながら林檎はそれに答える。

「だってマジで敵味方とかどうでも良かったんだもん、攻撃してきたら敵で良いっしょぐらいの感覚だった」

「結構適当だな……」

 思えば林檎(イドゥン)は割と自分の扱いが雑だった気がする。

「麗奈はどう思ってた?」

「そうですねぇ……目的が同じなら、共闘せずとも味方と見做していいと思ってましたね」

 そしてついに、京助は一番気になっていた相手の心中を聞くことにした。

「奏音はさぁ、ずっと(マグナアウル)の事一貫して味方って思ってくれてたみたいだけど、なんで?」

「まあ、そうだな。一言で言えば、マグナアウルを見た時……嬉しかったんだよね」

「嬉しかった……かぁ」

 イマイチしっくりこない感情に京助は首を傾げる。

「どう嬉しかった?」

「あの時まで私達五人でやって来てさ、仲間は居たけどちょっと何処か心細さはあったの。でもさ、私たち以外にジャガックと戦ってくれる存在が居たんだって思うと、なんだか嬉しかった」

 だからあの時、一も二も無く戦いを終えた自分の元へすっ飛んで来たのかと納得がいった。

「告白したばっかりだったから、京助守るために頑張るぞ! ってなってた時に、私達より遥かに強い助っ人が来たから、もうなんか舞い上がっちゃって」

「ふんふん、成る程」

「共闘とかしないって言ってたけど、なんだかんだ手を貸してくれたり助けてくれたことがあったから、ウィッカーアウルになってもずっと信じてた」

 一度は影に堕ちかけた自分が名乗った名を聞いた京助は、ふとある疑問が湧いた。

「今ふと思ったんだけど、ニセアウル騒動の時、俺の事どう思ってた?」

 そんな事もあったと皆が懐かしみつつ、あの時の事を回顧する。

「あの時はさ、皐月ちゃんが真っ先にアレは偽物って言ってたよね」

「うん、戦い方が全然違ったからね。それになんか雰囲気違ったし」

「私もなんか違うなって思ってたんだけど……静観って感じだったね」

 結構騙されていた者が多かった中、皆は割と分かってくれていたという事実に数ケ月越しながらなんだか胸が熱くなる。

「正直その時も百パーセント違うって訳じゃないかなって思ってたけど、皐月が絶対違うって止めてくれたから対応誤らずに済んだね」

「そっかそっか……なんか……温かい、泣きそう」

「まー感動するのは良いけど、なんか趣旨ズレてね?」

 確かにこのままでは思い出話に花を咲かせているだけである。

「そうだな、これは俺が自分を見つめ直す会なんだからな」

 仕切り直しの為、京助は次の質問に移った。

「じゃあこの際、ハッキリ言ってもらおうかな。俺とマグナアウルの良くない所、全部ぶっちゃけてほしい」

 この質問が投げかけられた僅かコンマ以下五秒で、全員が同じ答えを寸分のズレも無く放った。

「「「「「抱え込みすぎ!」」」」」

 軽く吹っ飛びそうになりながらも、京助は半笑いで応えた。

「ハイもう、大変そこは自覚しております……」

「いや、してないね」

「してたら今日みたいなことは起こりませんよ」

「ああ……うん」

 死徒の残滓の事や、ジガルとの修行を経てこの悪癖は割と改善されたと自分では思っていたが、そんな事は無かったらしい。

「そうでございますね……確かに身を挺してっていうのは、まあ……でもあの時はああするしか」

「そういう所、本当に」

 真顔の奏音に遮られてしまい、京助は委縮してしまった。

「今まで誰にも相談出来なくて、年単位で一人でやってきたっていうのがあるかもしれないけど、京助だって私達と同い年の高校生なんだから」

「うーん、なまじクッソ強いのがいかんね。ノブレス・オブリージュ的なのはいいけど、自分のキャパはしっかり自覚しといたほうがいいよ」

「俺のキャパねぇ……」

 実際どの程度なのだろうか、京助自身もよく分かっていない。

「無理を押して出来てしまった事ってよくあるんじゃないですか?」

「あぁ……その〝悪い成功体験〟ってやつ?」

「そうですね。誰にも並ぶ者が居ないほど強かったけど、ずっと一人で戦い続け、なまじしばらくそれで上手く回っていたのが抱え込む癖が悪化したんだと思うんですよ」

 レイの言う通り誰かの目を通して良かった、こんな事自分では気付けなかった。

「せっかく友達ってだけじゃなくて、仲間になったんだから。もっと心から私達を信じてほしいだよね」

「何言ってんだよ、皆の事は信じてるさ」

「もちろん京助も私達の事信じてるんだろうけどさ、なんだろう……守るべき存在っていう認識が抜けてないのかな? そんな感じがするんだよね」

 そう皐月に言われてみれば、確かに未だそんな認識が抜けていないような気もしないでもない。

 事実としてそういう認識があったから、先程の戦いで皆を庇ってアバターに止めを刺してしまった。

 真剣な眼差しで口を尖らせ、顎に指を当てて下を向いて物思いに耽る京助に、耐えかねた奏音が慌ててフォローに入る。

「まあもちろん京助もさ、私達の事を信頼してくれたから自分がマグナアウルって明かしてくれて、さっきの戦いの時も庇ってくれるのは凄く助かったしありがたかったけど……でもやっぱり身を挺してっていうのはあんまり良くない癖だなって」

 大侵攻以降、自分でも知らず知らずのうちに自己犠牲的精神が根付いていたらしい。

「戦いの面において、誰かを心から信頼する事……これが俺の今後の課題かな」

 自分の最大の欠点を知ることが出来た、だがそれだけでは自分を見つめているとは言えない。

「俺がやりたい事。俺が皆を守って、やりたい事……ねぇ」

「思い浮かばない?」

「そうだな、何の為に皆を守って戦ってるのか……今は自分でも分からない」

 振り返ってみれば復讐の為に戦っていた頃も、京助は復讐が終わった先に何がしたかったのかを全く考えていなかった。

 それでも報復と絶望の化身マグナアウルを生み出せたのは何故だろうか。

「やっぱり……心の芯の部分の熱量か」

 あの時は吹き上がるマグマ如き憎悪に全身を焼かれていた、その熱に動かされるままに動いていたからなのかもしれない。

「センキョー、ちょい聞いていい?」

「んあ、おう」

「アンタのご両親の仇ってイダムなんだよね?」

「そうだな、間違いない」

「今のアンタに聞きたい、イダムへ復讐はどうするの」

 京助は数秒黙り込んで目をぐるりと動かして答えた。

「過去へのケジメとしてやり遂げる。絶対に」

「やり遂げるつもりではいるのね」

 気が付けば戦う理由は復讐だけではなくなり、奏音や友人を守りたいという思いも徐々に大きくなってきた所で大侵攻が始まり、それによって守るべき対象が無辜の人々までに広がって自分の中のウェイトが無視できない程大きくなっていた。

 そこに死徒の残滓の一件が片付いた事で、身を焼くほどの憎悪が弱くなってしまった。

「でも前程強く復讐を考えてる訳じゃない……そうでしょ」

「何でもお見通しって訳か」

「マグナアウルはジャガックに報復して絶望を与える存在として、アンタが作り出した化身(アバター)なんでしょ? でも今のアンタはそうあり続けるのを良しとしなかった、なんで?」

「……このままじゃいけないって思ったんだよな。身を焦がす程の憎悪と恐怖が独り歩きした結果、暴走して自分を通り越して自らの手で大切な人を殺しかけた」

 いずれ憎悪は自分どころか愛する人にすら向くという事が分かってから、京助の心中で憎悪という感情はかなり萎んでいった。

 少なからずそういった理由でマグナアウルが自分と適合しなくなっていったのかもしれない。

「強い復讐への思いが今まで京助君を動かしていたけれど、その大黒柱が無くなったからマグナアウルにはなれないんですよね?」

「そうだな、新しいアバターを作るには、あの時の復讐への思い(ぞうお)と同じぐらい明確な目標と強い思いが必要だ」

「それがまだ分からないって事なんだね」

「ああ、皆を守りたいってだけじゃ……どうやらダメみたいだ」

 皆が行き詰って唸る中、突如林檎が膝を叩く。

「オウどうした」

「分かったわ、なんでこうまで行き詰ってるか。具体性が無いんだわ」

「まあそれはあるよな」

「じゃあウチが一個提示したるよ」

「え、なんか思いついたのか?」

「もちろんよ、アンタに取って一番の具体例がね」

 そうして自信満々に指を京助に突き付けながら林檎は、ニヤリと笑って腕を広げて言った。

「センキョーの中で一番守りたいのって、カノちゃんでしょ?」

「えぅ⁉ うぅ……」

 なんとなく聞いていた所にいきなり矢が飛んで来た事で、奏音は意図せず変な声を出してしまう。

「まあ……うん、一番二番とか順番はあんまりつけたくないけど。そうだな」

「じゃー想像してみ? 皆を守り切った後で、全部が終わった後でセンキョーはカノちゃんと何したい?」

「……」

 それを言われた京助は何も答えることが出来なかった。

 だが確かに、この問いによって京助の脳内に光明が差してきた。

「……分からない」

 その回答を聞いた林檎は、眉を下げて口をムの字に結ぶ。

「……そっかぁ」

「分からない、分からないが……今のでなんかすげー……なんか分かんないけど、めちゃくちゃ抽象的なビジョンが見えた!」

 そう言うと京助はホワイトボードにかじりつき、黒いペンを手で持ち、赤と青と緑のペンを念力で浮かせて悪筆極まりない文字でホワイトボードを埋め尽くし始めた。

「なんて書いてあるのこれ?」

「……ダメだ、読めない!」

 幼い頃の颯司と夏穂の悪筆ぶりに慣れ切っており、読めない時の解読が得意な明穂でもこれは無理だった。

「これはですね……」

 京助の左腕からトトが現れ、皆に向けて説明する。

「京助が考えを整理する為に手当たり次第に思い浮かんだ事を書いてるだけなんです。だからホラ、この赤ペンを見てください」

 トトが指した宙に浮いた赤ペンをよく見ると、紡ぎ上げる線は文字の体を成しておらず、大小様々な連結した三角形を描いているだけであった。

「成程、自分にさえ分かればいいから、読ませる必要がないんですね」

「そういう事です、もうすぐ結論が出ると思います……あ、ほら」

 京助の手が止まって浮いていた三色のペンが仕舞われ、数秒固まった後で左手でクリーナーを取り、ボードの真ん中あたりの文字を一掃してしまった。

「消すの⁉」

「結論を書き出すときはいつもこうです……さて、何を書くのでしょう?」

 京助はゆっくりと線を引いていき、やがてひとつの単語を紡ぎ出す。

 それは先程とは打って変わって精緻かつ麗筆であり、皆にも読むことが出来た。

「未来……」

「未来か……」

「これが結論?」

 だが消した部分にはまだ余白がある。

 京助は未来と書いた横に矢印を引くと、また新しい単語を書き出していく。

「飛……翔……飛翔だ」

 この「飛翔」の文字を書き出した京助はニヤリと笑って、ようやく言葉を発した。

飛翔(ライジング)……走った先には……飛び翔けるんだ」

 かなり満足いく結果が出たらしく、京助はなおも笑っている。

「夜は終わり……やがて朝を迎え……そして俺は皆をそこへ……連れて行く!」

 後ろを振り返った京助は、奏音でも見た事ない程にかつてないレベルで満足そうな笑顔であった。

「結論は出た……って事で良い?」

「ああ、滅茶苦茶満足いく出来だったよ。最高だぜ」

「未来と飛翔……で良いの?」

「ちょっとよく分かんないや」

「それにウチの質問の答えにもイマイチなってない気がしないでもないな」

「抽象的なビジョンから、抽象的な答えが導き出されたっていう感じがしますね」

 京助は皆を手で制すと椅子に腰かけ、説明を始めた。

「ユメリンゴの質問に答える事は、正直今の俺にはまだ出来ない……でもその質問があったおかげで、俺のやりたいことがやっと見えた。皆を守った先にある事……そしてあの日俺が失って、皆には失って欲しくないと思ったもの、それが未来だ。俺はみんなと未来(さき)へ行きたい……だから」

 後ろのホワイトボードに書かれた「飛翔」という文字を指しながら、京助は言った。

「俺は高く飛翔()ぶんだ。これが新しい俺のあり方だ!」

 何とか答えを出すことが出来た京助は、満足そうに微笑んでから皆に向かって両手でサムズアップを向ける。

「まあ何かよく分からんけど……アンタがそれでいいならウチらも協力した甲斐があるってもんよ」

「あくまで京助が自分のあり方を再定義する会だからね。結論が出たみたいで良かったよ」

「じゃあもう、今からマグナアウルは呼び出せるの?」

 明穂の問いに、京助は首を振って答えた。

「いいや、やっぱり俺は全く新しいマグナアウルを作る事にした。新しいアバターをデザインしようと思う……それに新しいマグナアウルを作るにあたって、パブリックイメージを知っておきたい」

「結構やる事多いね」

「その前に真鳥市を見守ってる人と、長い間守る為の戦いを続けた人に色々聞きたいんだ」

「渋滞してるねぇ」

「じゃあ今から行って来る、先帰ってていいぞ」

「え?」

 皆が困惑している中、京助は五指をこめかみに当てて脳の深い領域へと精神をジャンプさせ、意識を失うのだった。


「おお、大成功」

 京助の目論見通り、自分の心界を通して無事に別の位相の真鳥市に行くことが出来た。

「さてと、あの二人はどこに居るかな……」

 京助はサイコエネルギーを辿って瞬間移動を繰り返すと、公園の東屋でボードゲームをしている采姫とジガルを見つけた。

「おーい!」

 采姫はびくりと身を震わせ、ジガルは編笠の縁を持ちながらこちらを向く。

「おうおう京助殿、そちらから来るとは珍しい」

「なんじゃ梟か、驚かすでないわ!」

「あれ、二人とも仲良くなったの?」

「そうじゃな、今では采ちゃんと儂はスーパーベストフレンドよ」

 江戸時代の武士風の格好をした男が〝スーパーベストフレンド〟等と言わないでほしいと京助は思ったが、そもそもジガルは江戸時代の武士風の恰好をしているだけの宇宙人である。

「違う! 誰がうぬのような天蓋の外から来た馬の骨と盟友になどなるか‼ それにいい加減その馴れ馴れしい呼び方を止めよ!」

「一昨日スカイワールドに行った時、儂と一緒に乗ったコーヒーカップで楽しそうにしとったじゃろう」

「あれは……だって、うぬの力もあって……楽しかったし……」

「年頃なんですねぇ、采姫様も」

「黙れ黙れ! 畏れ多くも姫たる妾をいじめおって……それで何の用じゃ?」

 京助はこれまであった事を伝えると、半笑いだったジガルと拗ねるように頬を膨らませていた采姫の顔が徐々に真剣味を帯びてきた。

「成程、今はそのあり方を再定義を終え、そのあり方を支える精神的支柱を立てるべく、儂ら二人に会いに来たという事か?」

「ああ、ジガルには守るための戦いって実際どんな感じだったのかを、采姫様には真鳥市を俯瞰して眺めて今どんな感じかを聞きたくて」

「妾は封じられておった身、ここしばらくの事しか言えぬぞ」

「それでいいんですよ」

「そうか、じゃあこやつと話しておれ、妾に少し考える時間をくれ」

 采姫がなにやら考えている間、京助はジガルと話す事にして、盤面を眺めているジガルの肩を叩く。

「おお、なんじゃ? 儂に守る戦いの心得を聞きに来たんじゃったか……しかし技の伝授の際に全てそれは伝えた筈じゃ」

「俺が聞きたいのは心得じゃないよ。誰かを助ける為の戦いをしている時の心境を聞きたい」

「心境……ふむ」

 ジガルは顎を触って頬を掻きながら、十万年前の出来事を回顧しながら口を開いた。

「あの時は確かに必死じゃったな。だがそれ以上に……達成感があった」

「達成感……」

「戦いが終わった後に、愛する妻と子供や孫の姿を見るとな、疲れなど吹っ飛んでしまう。勝ち負け以上に価値があるものがそこに広がっておるんじゃ」

 正直今の自分にはない感覚である、ウィッカーアウルの一件が片付いて日が浅い事もあるが、京助はただただ必死になって走っていただけで、誰かを振り返る余裕なんて無かった。

「守るっていうのは……振り返る事も必要なんだな」

「そうじゃ、守るべき者の顔も見れん者は、真の守護者とは呼べぬぞ」

 その一言を受けた京助は、ハッとしたかのように見開かれた。

「守る為の戦いと、戦いの末守ったのは意味が全く変わってくるからな。京助殿も守るための戦いを、未来へ()ぶための戦いをするのであれば、肝に銘じておくが良いぞ」

 やはり最期は六代先の子孫に見守られて大往生した男は違うと京助が感服していると、采姫が京助の肩を叩いてきた。

「確かそなたが聞きたいのは、今の真鳥の地についてじゃったな」

「そうですね、主に人々について聞きたいんです」

「人々な……妾が見る限り、やはりどこか嫌な空気が漂っておるな。邪餓苦(ジャガック)のせいでこの地の民は皆どこか浮かぬ顔をしておる」

「……まあ、そうですよね」

 もし自分が普通の人間だったとしたら同じ反応になるだろう、外出もままならない歯痒さ、自分の星で好き勝手されている怒り、そしてなにより脅威に対して何も出来ない恐怖。

 楽しい事があったとしても、何処か裏に付き纏うジャガックの脅威に怯えなくてはならない。

「しかしそれだけではないぞ、そなたやあの五人を見る顔はその浮かぬ顔を吹き飛ばす。まさしくそなたは民達の希望の星」

「マグナアウルってそんなに皆から慕われてるんですか?」

「当たり前じゃ、そなた達は災厄の暗雲を打ち破る光明、まさしく夜闇の中を照らす星明かりよ」

 偶にSNSやももたろー。チャンネルのコメント欄を見る事があったが、どうやら自分が思っている以上にマグナアウルやクインテットは真鳥市の人々から期待されているらしい。

「人の心を見透かす妾が言うから間違いない、そなたに向けられる視線のほとんどが応援するものぞ。未来へ翔ぶ事を標榜するのなら、これは心に刻んでおけ」

 本当にここへ来て良かったかもしれない、今後の京助に必要な事をこの二人は教えてくれた。

「ありがとう二人とも……俺これからうまくやって行けそうです」

「良いのじゃ良いのじゃ、今後も妾はそなたの戦いと恋の行方もしっかり見届けよう」

「恋って……いやそんな」

「だいたいそなたはな、力持つ者としての使命感を感じているのは良いが、もっとあの……」

 何故か采姫が京助に奏音との関係の事で説教を始め、京助はそれとなくジガルへ助けを求めたが、ジガルはニヤニヤ笑いながらその様子を見ているだけである。

(こいつ楽しんでやがる……)

 京助の助けを求める視線がじっとりとしたものに変わった事を察したジガルは肩を竦めながら采姫の方へ向き直る。

「まあまあ采ちゃん、京助殿には京助殿のタイミングがあるんだろう、儂もじれったくなる」

「うぬ! いい加減に采ちゃんと呼ぶのはやめよ!」

 何とか説教を回避した京助は、ほっと一安心した様子で言った。

「とりあえずものすごく助かりました。今日話した事は今後に大いに生かさせてもらいます」

 そう言うと京助はこめかみに手を当て、逆バンジーの要領で意識を空高く上昇させる。

「あ、おい! うぅ……しっかりやるのじゃぞ!」

「頑張れ京助殿~!」

 薄れ行く意識の中で、そんな言葉を聞いた気がした。


 目が覚めて体を起こすと、地下のソファーに寝かされており、体の上にタオルケットが掛けられていた。

「あ、目覚めたみたい」

「おお、帰ってなかったの?」

 てっきり皆は帰っていたと思ったが、残っていてくれたらしい。

「いきなり意識を失った友達を置いて帰れるわけありませんよ」

「意識失ってたわけじゃない、別の位相に飛んだだけだ。微妙にズレた……思い出が入り混じったもう一つの真鳥市にね」

「そんなところで何をしてたの?」

「ああ、采姫様とジガルに会って来た」

「采……ジガル⁉」

 まさかの人物の名前が出た事に一同驚きの声を上げる。

「ジガル……なんでジガル?」

「宇宙に還って成仏したんじゃないの?」

「ああ、あのオッサンなんか真鳥市が気に入ったってんでさ、采姫が普段いる別の位相の真鳥市に居着いてるんだよ」

 京助が愚痴っていた自由人すぎるという話を、五人は今になって納得する事になった。

「この二人に今後の俺に必要な事を聞いてきたのさ、また明日俺は他の人達にも聞いて回ろうと思う」

「そう? まだ四時だから聞いて回れるんじゃ?」

「これから徹夜で新しいマグナアウルをデザインするつもりだから、インタビューは明日に回すことにする。それじゃ送るよ」

 京助は五人を玄関まで送り出した後、肩に乗って来たトトに向けて言った。

「結構久しぶりだな」

「ええ、最後にデザインをやったのは対物ライフルの時でしたっけ?」

「いいや、確か飛行形態……違う、護手鉤の時か。今回は長いぞ~〝本体〟からアウルレット、新しい武器と攻撃方法まで。うぅ、やる事が山積みだ……早い所始めよう」

 京助は玄関に鍵を掛けると、再び地下室に向かうのだった。


 以前使ったスケッチブックを引っ張り出し、マグナアウルのデザイン画に目を通す。

「中学生の俺、絵下手だな」

「そのクオリティでそんな事を宣ったら多くの若手デザイナーに刺されますよ」

「今の方が上手いのは事実だろ。来い! 色鉛筆!」

 千色入りの色鉛筆のボックスを引き寄せて宙に浮かせ、フィンガースナップで埃を全て取り去ってからシャープペンシルを握る。

「藍色と焦茶じゃ暗すぎる、明るい色を足して行こう」

「思い切って金を入れたらどうですか?」

「……それいいな、まあまずは大まかなデザインからだ。マグナアウルに色々と足して行く感じかな、ヒーローの強化形態を想定して書いていくか」

 敬愛するご当地ヒーローの『飛翔戦士シリーズ』や、様々な特撮番組や映画、そして和洋問わず甲冑の画像を参考にしながら時間をかけてアイデアを練っていく。

(ヘルム)はどうする? 角増やすか?」

「愛染明王をモチーフにするのはやめてくださいね」

「ああ、頭にでっかい〝愛〟を冠しようって? やらねーよダサいし……いやマグナアウルにこれやったらダサいってだけで直江兼続の金小札浅葱糸威二枚胴具足はダサくないけどさ」

 とりあえず(ヘルム)の大まかな輪郭を書き上げ、京助は現在マグナアウルに生えている羽角をモチーフにした側頭部から生えた角を書き足す。

「この角もいっそでっかくしちゃうか」

 角を大きく書き足し、更に頭頂部に鶏冠を書き足す。

「どうしようっかなぁ角。前に伸ばすか後ろに伸ばすか」

「羽角光線の時に役立ちそうなので、前に伸ばしてはどうでしょう」

「うーん某究極六兄弟の末っ子みたい、でも色々変わってるし分らんだろ」

 より顔つきが精悍に見えるように(ヘルム)に装飾を書き足し、嘴を中心としたマウスガード周辺のデザインも加えた。

肩装甲(ポールドロン)には……これを加えよう」

「おや、それは」

「そうさ、父さん(ゼロアウル)へのリスペクトだ」

 ゼロアウルの双刃剣にも変形するアウルウィングを書き足し、更に胸部の装甲も少し派手にしていく。

「よーし、バストアップは書けた、あとは色々だな」

 手足や腹部のデザインを完成させていき、色鉛筆で彩色していく。

「メインカラーは三色で抑えたい、古畑任三郎もそう言ってた」

「ワンポイントでちょくちょく色が入ると良いかもしれませんね」

「……じゃあ虹モチーフを入れてみようかな、七色のワンポイントを左右対称に散らそう」

 一見かなり派手に見えるが、よく見るとシンプルという満足いく出来になった京助は、次にアウルレットの方へ移った。

「こっちはもう……アバターを呼び出すメカニズムからして変えちまおうかな」

「メカニズムを変えると来ましたか、これはかなり難しいですよ」

「装甲を派手にして、次元断裂ブレードに加えて新しいパーツを加えることで、更に高い次元の力をより効率的に引き出して扱えるようにしたい」

 現在のアウルレットのデザインに加えて新しく三本目の刃が展開するためのパーツが加わる。

「今アウルレットは次元の壁を二本のブレードで断ち切り、その隙間からマグナアウルを呼び寄せてる。だがそれだと今後さらに上の次元の力を引っ張ってこれない、だからこれだ」

 京助はアウルレットに書き足されたパーツを指す。

「このパーツを使って次元の壁に〝扉〟を生成する、そうする事で力を十全に引っ張って来ることが出来るんだ」

「より複雑な機構になりますよ」

「分かってる、だがより強くなる為に必要なんだ。そこで鍵となってくるのが……」

「……ああ、無限不可能性ですか」

「そういう事、このパーツは次元(キー)と名付けよう」

 デザインを更に詰めていき、彩色まで完了させた京助は右腕を叩いて修復されたアウルレットを出現させると腕から取り外し、分解して再構成していく。

「よしよしよしよし……ちょっと大きくなったな」

 再構成されたアウルレットを右腕に取り付けると、三本の次元鍵を展開して見せる。

「次元鍵を試してみてはいかがですか?」

「そうだな、よっ!」

 試しに腕を目の前に突き出してみた所、眼前の空間に揺らぎが発生してそこだけが高次元に接続された。

「いくらだ?」

「やりましたね、これは二十次元です」

「おお! 十七を超えたか! とりあえず実験は成功、てことで次は武器だ」

 次元の扉を閉め、京助は机へ向き直って新しい武器のデザインを書き起こしていく。

「武器はもう沢山あるでしょう?」

「新しい力に見合った武器が必要だ、もちろん互換性も持たせる」

「生成コードは?」

「聞いて驚くなよ」

 京助はトトの方を向いて手を叩いて、フィンガースナップをして宣言した。

「アウルだ!」

「おお、ついに自分の名を冠した武器を作るのですね!」

「ああ、それに見合う武器にする。フィッシャーキングと同じか、それ以上の威力にするつもりだ」

 やはり新しい武器の事を考えるのが一番楽しい。

「半物質はヤメだ、ソリッドレイを使う!」

 トトと二人で、京助は大盛り上がりしながら武器のデザインや、新しい技を開発したりと夢中で時間を過ごしていると、既に一時を過ぎていた。

「ヤバいな……さすがに寝るか」

「そうですね、流石に明日の事もありますから」

 シャワーを浴びた後で、頭をフル回転させたことで疲れ切った京助は地下室で深い眠りについた。


 翌日、なんとなく寝過ごした感じと共に起きると、既に九時半を過ぎていた。

「やっべ」

 大きく伸びをしてスマホを取ると、何やら大量の着信とメッセージが来ている。

「おおおお、なんだなんだ?」

 何事かと思って奏音に通話を掛けると、一コールも終わらないうちに出て、京助に挨拶をさせる間もなく捲し立てる。

『今どこに居る⁉ 何してた⁉』

「何って……家だけど、今まで寝てた」

『ニュース見て! 今すぐ‼』

 よく分からないがモニターを付けてテレビをつけると、ローカル局がジャガックに関する速報を伝えていた。

『ジャガックから送られてきたこの映像は、現在詳細を調査中という事ですが、専門家の調査によりAIやフェイクではないという事が分かりました』

 キャスターの後ろで流れる映像では、マグナアウルが飛行船のビームに吹き飛ばされ、倒れて装甲を分解させている所が映っていた。

『ジャガック側はマグナアウルは死亡したと主張して人類側に降伏を求めており、ウィルマース財団の発表が……』

「……は?」


To Be Continued.

第四章最終回前衝撃のラストですね。

戦えなくなった京助と、知れ渡るマグナアウルの敗北。

京助はどんな行動に出るのか?

感想コメント、Twitter(現X)のフォロー、友達へのオススメもよろしくお願いします。

次回、京助編最終回です。

また来週お目にかかりましょう。


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