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青春Double Side  作者: 南乃太陽
京助編
46/53

使命と友情の天秤

ウィルマース財団は違法に滞在する宇宙人を炙り出す機械を開発し、これは真鳥市にも持ち込まれる事に。

その装置を運び込む麗奈の母の礼愛が、ジャガックに狙われる!

そしてその刺客としてえらばれたのはガディとザリスとジェサムだった!


 ウィッカーアウル騒動が無事に収束し、マグナアウルとクインテットが正式に共闘関係を結んでから既に二ヶ月。

 ついにジャガックにも動きがあった。

「間違いないのか?」

「ああ、これはもう間違いない」

 ザザルを除いた幹部三人が、わずかに残った映像を見ながら遂に結論を下した。

「マグナアウルとクインテットは遂に正式に手を結んだ。そう考えて良いだろう」

 クドゥリの眉根が寄って表情が険しくなるのに対し、イダムは片頬をくっと吊り上げて笑う。

「何が可笑しいイダム」

「いやなに、これからもっと楽しめそうだと思ってな」

「楽しめるだって?」

 流石にクドゥリもイダムの発言は看過する事が出来なかった。

「もはやそんなことを言っていられる場合ではない! 我々は……はっきり言ってジリ貧だ」

「そうか?」

「この中の誰か一人でも、マグナアウルに勝てた奴が居たか?」

 そう言われると返す言葉も無い。イダムは決着から逃げ続け、ルゲンは純粋にボロ負け、そしてクドゥリは何度かマグナアウルを追い詰めはするものの、結局敗れてしまっている。

「まあまあ落ち着けよクドゥリ、そんなに勝ち負けに拘る必要はあるのか?」

「拘る必要はあるのか……だと⁉」

 余裕綽々なイダムに流石に耐えきれなくなったクドゥリは立ち上がって怒鳴りつけた。

「逆に何故そんな風に余裕で居られるんだ! 我々は最大の障壁を排除できずにいる! それが今手を組んだんだぞ‼ どうしてそんなに余裕で居られる⁉ 答えろイダム!」

 マグナアウルやウィッカーアウルによって大切な妹達が何度も危機に陥っている為、クドゥリの怒りは徐々にヒートアップしていていく。

「あー分かった分かった落ち着け、悪かったよ」

 この前のウィッカーアウルとの戦いで自分や妹達が大ダメージを負った事もあり、クドゥリはマグナアウルの事になると熱くなってしまうようになった。

 それを知っていたのにもかかわらず迂闊な発言をしたことに、イダムは若干後悔してしまった。

「まあなんだ、ゾゴーリ様主導の元、新しいジャガック兵が生産されているという話もある。我々も何もしてない訳じゃい」

「……だがしかし、それだけでマグナアウルやクインテットに勝てると思うのか?」

「まあそこら辺は……ザザルに頑張ってもらうしかないな」

 イダムはジャガック最後の計画を知っているが故に余裕があるが、これはその要であるクドゥリには絶対知られてはならない。

 なんとか悟られないようにしなくてはならず、そこがイダムに取ってはもどかしくむず痒い。

「それよりも我々にとっての問題はこちらだろう」

 ルゲンが表示したのは、小型の探知機と雪に覆われた研究所である。

「ここは何処だ?」

「スウェーデンのヨーテボリという所らしい」

「真鳥市ではないのか」

「問題は場所ではない、ここに居るある女が問題なのだ」

「女? 人間の女一人か」

「その女は人間か異星人か、そして銀河言語対応モジュールからジャガックかどうかを見極める装置を真鳥市に持ち込もうとしている」

 クドゥリの目が大きく見開かれる。

「それはまずい!」

 今真鳥市には、クドゥリの妹達が居るのだ。

 それが暴かれるような事態になれば、きっと命の危険に晒される。

「既に手は打ってある、真鳥市内で潜伏している者全員を動員させた。お前の妹達含めてな」

 なんて事をしてくれたと言いそうになったが、クドゥリはぐっと堪えて深呼吸する。

「まあ……女一人消す程度訳ないだろう」

「まあそうだろう、クインテットが来る前に蹴りを付けたい所だな」

 そう言いながらルゲンが出した写真に写っていた女性は、なんという運命の悪戯だろうか。

 彼女の名は白波礼愛(ライラ)、麗奈の母親である。


 遥か彼方の上空で恐ろしい計画が始動した一方、朝の木幡家にて。

「ねーねーお姉ちゃん」

「はーい? あ、新聞ありがと」

 夏穂が食卓に新聞を置き、ソファで寛いでいた姉の明穂の足の上に寝っ転がる。

「光井さんの事なんだけどさぁ」

「ああ、どうしたの?」

「さっき新聞取りに行った時、会ったんだよね」

「そう! 最近顔見ないなと思ってたんだよね。元気そうだった?」

 夏穂が口を尖らせ小さく唸り、明穂は何だか嫌な予感がした。

「私を見て笑ってくれたんだけど……何か三人とも暗い顔してたんだ」

「……そっか」

 隣に越して来てオムライスをご馳走して以降、木幡家と光井家では何度か交流があった。

 互いにおすそ分けをしたり、明穂が三人に料理を教えたり、逆に三人が颯司や夏穂の宿題を手伝ったりなど、持ちつ持たれつの関係が続いてきた。

 だが十二月に入った辺りから暗い顔をしている事が多くなり、明穂の方もマグナアウルがしばらく失踪していた事もあってクインテットとしての活動が忙しくなり、顔を合わせる事が少なくなっていた。

「なんか颯司が家庭の事情でちょっといろいろ複雑みたいって言ってたけど……」

「なんか前みたいにご飯作ってあげて元気付けたり出来ないかな?」

「そうねぇ、まあ最近やっと落ち着いたから、あっちに余裕があればまた一緒にご飯とかクッキー焼いてあげたいけどね」

 そんなことを話していると、財団から連絡が入った。

「ああ、お姉ちゃん行かなきゃ」

「そっかぁ、頑張ってね!」

 明穂は部屋に居る颯司に一言掛けてから着替え、久しぶりに財団の待機所に向かうのだった。


 同時期の千道邸、京助の自室では。

「……」

 京助がデスクチェアをリクライニング状態にして念力で文庫本を浮かせ、読書に勤しんでいた。

 そしてデスクの上には映画のDVDのパッケージと、裏返しに置かれた一冊の文庫本と、表向きに平積みされた三冊の文庫本がある。

 そのうち表向きに置かれた文庫本のタイトルは『宇宙クリケット大戦争』、その下にあるのは『さようなら、今まで魚をありがとう』、一番下は『ほとんど無害』。

 もうここまで言えば察しが付くだろう、裏返しに置かれた文庫本と映画のタイトルは『銀河ヒッチハイク・ガイド』だ。

「ふむ」

 読み終えた『宇宙の果てのレストラン』を裏返しの『銀河ヒッチハイク・ガイド』の上に重ね、一番上の『宇宙クリケット大戦争』を念力で引き寄せた時、本棚の中に座っていたトトが語り掛けてきた。

「何故いきなり銀河ヒッチハイク・ガイドを読もうと思ったんです?」

 京助は中学時代に銀河ヒッチハイク・ガイドシリーズをもう何度も読み返しており、ここ二年近く触れていなかった。

 トトはいきなり真剣な目つきでシリーズを読み始めた京助を疑問に思ったのである。

「全ての不可能を可能にし、一つの結果を掴み取る」

「無限不可能性ドライブですか?」

「YES」

「それがどうしたのです?」

 宙に浮いた『宇宙クリケット大戦争』をデスクに置き、京助は椅子を起こしてトトの方を向く。

「死徒の残滓を片付けてから俺の力はずっと高まり続け、そして凄まじい速度で成長を続けてる。そんな時にジガルから技を伝授してもらったことで、成長速度に拍車が掛かってる」

「そうですね」

「あれから少し考えたんだ、何故ジガルは俺を選んだのか、何故サイは選ばれなかったのか。サイの方が到達次元は上なのにどうしてジガルは俺を選んだのか」

「それがどうして読書に……」

「まあまあ聞け、これは大前提だから」

 首を傾げたトトを宥め、京助は更に続ける。

「聞いた話だと、超能力者には属性ってのがあるらしいじゃないか」

「ああ、そうですね。この宇宙や星を構成する属性に関連する能力が発現する事があるようですね」

「火、水、風、地、この四つの調整をする為の(エーテル)を加えて星を構成する五大属性。そして円と角の二つの時空、飽和と拡散を加えた九つの属性がこの宇宙全てを形作っている……って父さんが遺したボックスの中のデータにあったんだけど、こんな理解で間違ってないよな?」

「ええ、正しいですよ」

「そこで思ったんだ、俺の属性って時空なんじゃないかってな」

「……はぁ」

 そう言われたトトは一瞬困惑したが、思い返してみるとそんな気もしないでもない。

「属性を持たない超能力者も居るので、無理に属性を当て嵌めることは無いと思いますが……」

「いや、ちゃんとそう考える根拠はあるんだよ」

「聞かせてもらいましょうか」

「ジガルも属性を持っていて、それが時空だったんじゃないのかって……だから同じ属性を持つ俺を継承者に選んだ」

「成程……理に適ってはいますね」

「そう、俺は新しい能力の使い方を模索しないといけない。そこで……これだ」

 京助が『銀河ヒッチハイク・ガイド』を浮遊させて見せる。

「はぁ……あまり繋がらないように思いますが」

「時空に関する能力の使い方を考えるにあたって、無限不可能性ドライブの事を思い出してな」

 無限不可能性ドライブとは『銀河ヒッチハイク・ガイド』に登場するワープ航法の一種である。

 簡単に言えば「全時空に同時に存在する」という不可能を一旦可能にし、好きな場所に行けるというものだ。

 京助はジガルから技を伝授された事を切っ掛けに新しい力の使い方を模索しており、無限不可能性ドライブから着想を得てアプローチをしようとしている所である。

「成程……しかしどうして突然超能力への新しいアプローチを始めたのですか?」

「……俺にはどうしてもやらなくちゃならない理由があった」

 京助の声は先程と違って沈んでおり、トトもそれに違和感を覚えた。

「どうしたのですか?」

「死徒の残滓の一件が片付いてから……アバターを呼び出す度に不調が起こってる」

「不調……ですか」

 最初は些細な事だった。

 アバターを纏った瞬間、装甲に電撃が走って体中が一瞬痺れるのだ。

 これを皮切りに不調が増えていくようになり、電撃や火炎の出力の調節が上手く行かず過剰になったり、武器の生成コードと違うものを生成してしまったりと、些細だが少し間違えれば危険なものが増えていくようになった。

 そして極めつけがこれである。

「体が感覚に追いつかなくなってきた」

「感覚が先走るという事ですか?」

「そうだな、マグナアウルってアバターが、俺が戦う為に作られた体が……進化する感覚に追いつかなくなり始めた」

 一難去ってまた一難、危険な力が消え去ったと思ったら、今度は不調が起こり始めた。

「死徒の残滓によって抑えつけられた俺の力は、タガが外れた事で爆発的に強くなってる。最初はいいじゃんって思ってたけど、こんな弊害があるとはなぁ……予想外だぜ」

 京助は気怠そうにデスクチェアのリクライニングを倒して、天井をボーッと眺めていると、財団から連絡が入った。

「お、なんだ?」

 京助が指を鳴らすと地下のエレベーターへと繋がるスイッチにもなっている梟の彫像の目が光り、スマホの画面が空中に投影される。

「へぇ、待機所に来いってか。珍しい事もあるもんだな」

「出かけますか?」

「ああ、読書は中止だ」

 京助が指を鳴らしてトトに手を差し出すと、腕輪に変わって京助の腕に巻き付き、もう一度指を鳴らすと服が外出用に変わり、腕を振ると部屋じゅうの電気が消えて京助の姿がその場から消えてしまった。


 待機所に一番乗りで適当に寛いでいた皐月だが、ウォーターサーバーを取りに行った間に現れた京助に腰を抜かした。

「いいいいいいいい゛っ⁉」

「うわ、すっごい声」

 宙に舞った紙コップと水を京助が念力でキャッチすると、立ち上がる為に手を貸した。

「そんなにビックリするもんか?」

「だっていきなり現れるんだモン……」

「そういえば夏に加須多穂に行ってホラーナイトやった時、皐月って結構叫んでたよな」

「うるさいな! どーせ私はビビりですよっ!」

「クールビューティーがビビりってのも……」

「ねぇ、前からだけど京助ってホントに煽るの好きだよね」

「そーかな? まあ敵相手だとわざとやる事はあるけど、やっぱ癖ついてんのかな」

「まあ私は良いけどさ、気を付けなよ」

「へいへい、どうも」

 二人で話していると、後ろのドアが開いて奏音と林檎が入って来た。

「あっ! 浮気だ!」

「んえ? いや違うわ!」

「おお、逆NTRってやつか。サッキーもスミに置けないねぇ」

「いやいや、違うって!」

 奏音は京助にドリルパンチを食らわせようと追いかけ回し、林檎もそれを囃し立てる。

「やったんだろ~! 私が居ない間にやる事やったんだろ~! キスしたんだろ~!」

「やってねぇって! 俺は潔白だ!」

 じゃれ合っていると全員揃い、しばらくして落ち着いた所で明らかにハイテンションなのが見て取れる白波博士がやって来た。

「やあ諸君! おお、京助君も来てくれたんだな! よしよしうんうん!」

「お、お父さん?」

 明らかに顔が蕩けている、父がこんな顔をする時はだいたい決まっていると麗奈は知っている。

「ま……まさか! 帰ってくるの⁉」

「おお~ん! 鋭いなぁ! 流石私の娘だ!」

 困惑した麗奈だったが、それを聞いて顔が晴れやかになる。

「ホントに⁉」

「ああホントだとも!」

「やった!」

 白波博士が抱き着いてきた麗奈をぐるぐると振り回し、京助は俺は一体何を見せられているのかと奏音の方に視線を送るが、奏音も訳が分からず肩を竦める。

「あははは! ……あっ、コホン」

「おや、失礼失礼。皆は何のことやらって感じだよな……ちゃんと説明しよう、私の妻も財団に勤めているんだがね」

「ああ、スウェーデンに出張してたっていう?」

「そうです、その母がついに!」

「帰ってくるんだ!」

 喜ぶ父娘を前に、その他五人は「おぉ~」と言って拍手を送る。

「それで集められたのか俺達は……」

「ああいや、ここからが真面目な話なんだよ。座りなさい麗奈」

 白波博士は麗奈を座らせた後、打って変わって真剣な顔つきと口調になる。

「妻の礼愛はスウェーデンの研究チームと共に非合法に滞在している異星人や、犯罪行為に手を染めた異星人を探知する装置を開発し、それを持ち帰る事になっている」

「……それって滅茶苦茶危ないんじゃないですか?」

「ああ、連中には既に情報が漏れている」

「それじゃお母さんが危ない!」

「そうだ、そこで君達に護衛を頼みたいんだ。きっとジャガックは礼愛を狙うだろう、君達には何としてもジャガックを退けてほしい」

 これは一大事である、地球側のキーパーソンにして友人の母が狙われているのだ、何としても守らなくてはならない。

「分かりました、やりましょう」

「え!? いつ着替えたの?」

 京助の服は黒いスーツになっており、何故かボウタイを付けていること以外はSPそのものであった。

「麗奈の母ちゃんが危ないんだろ、動くには……十分だ」

 懐からサングラスを取り出してかけ、京助の気分はすっかりSPだ。

「その服ウチらにもくれない?」

「残念だが俺のサイズしかねぇんだ」

「やってくれるんだな?」

 頷く五人を見た白波博士は、最後に娘の方を見る。

「少しの間だが、礼愛を頼む」

「うん、お母さんは私が守る!」

 麗奈の母を守るべく、クインテットとマグナアウルが立ち上がるのだった。


 東京都成田国際空港にて。

「いや~超能力って本当に便利ですね」

「今度それのやり方教えてくれない?」

「まだまだ早い、色々と適正もあるからな」

 護衛兼送迎の車ごと瞬間移動して、空港内部で礼愛が乗る便が到着するのを待っていると、突如京助に第六感的天啓が走った。

「ヤバいかも……連中は既にに仕掛けてる!」

「それ本当!?」

「行って来る、逐一連絡する!」

 京助は瞬間移動で着陸態勢に入りつつある飛行機の真上に瞬間移動する。

「招来‼ うわっ!」

 今度はアバターを纏う前に全身に電撃と痺れが走り、危うくバランスを崩しそうになる。

「今だけでいい……頼むから……持ってくれ!」

 思い切りアウルレットを拳ごと前に突き出した瞬間、京助はマグナアウルとなってマントを広げ、旋回しながら飛行機の前に移動する。

『二時の方向、三発来ます!』

「了解! シュービル(対物ライフル)ブラックスワン(ショットガン)レイヴン(サブマシンガン)ウッドペッカー(ハンドガン)!」

 複数の銃器を合体させ、トトが言った方向に照準を合わせる。

「来たぞ!」

 その方角から三条のレーザーが飛来してくるのを確認したマグナアウルは、エネルギーを込めた半物質弾を三発放ってレーザーを相殺し、銃を燃やして消滅させると物質透過能力で飛行機のパイロット席に侵入する。

「なっ⁉ 何々な……マグナアウル⁉」

 いつもニュースやSNSで見ていた存在が急に現れた事に、機長と副機長は驚いている。

「どうも、いい知らせと悪い知らせ、どっちが聞きたい?」

「え⁉ 悪い知らせって……」

「近いうちにこの飛行機は爆発する」

「なっ⁉ なんですって! いい知らせは⁉」

「俺が来たから全員助かる!」

 マグナアウルがコックピットと客席に繋がるドアを思い切り開けると、驚く乗客達をよそに仕掛けられている爆弾を確認しながら後方へ進み、その間にクインテットへ連絡を取る。

『皆聞いてくれ、飛んでる飛行機から出ようとする奴がいるだろうから、そいつの処理を頼みたい』

『飛行機は?』

『多分飛ぶ前から仕掛けられてた爆弾が大量にある……解除してる暇がないから今からテレポートで乗客を送り出す!』

『了解! 空港に連絡入れてもらうね、頑張って!』

『そっちも頼んだぞ!』

 マグナアウルは開いている通路側の席に辿り着くと、困惑している乗客をよそに座席の下の荷物を取り出す。

「全部で五十個! 筋金入りだな‼」

 予感が当たったマグナアウルは爆弾を超縮小化すると、全乗客の脳に直接テレパシーを届けた。

「俺の名はマグナアウル、ニュースで見てるから知ってるだろ? 今あなた達の母国語で話しかけている。この飛行機に爆弾が仕掛けられている!」

 近くに居た白人の中年女が叫んだのを皮切りにパニックが広がる中、マグナアウルは沈静化脳波を放ちながら言った。

「頼むから落ち着いてくれ、今からあなた達全員を成田空港へ送る、荷物含めてな! この飛行機の八つのエリアに特殊空間を開く」

 指を鳴らすと飛行機の各部にテレポートゾーンが展開される。

「全員落ち着いてそこを通るんだ、そこを通れば成田空港へ行ける! 落ち着いて行動してくれ」

 客室乗務員の案内で次々と乗客が脱出に向かっているのを確認しつつ、預けられた荷物等を転送していると、突如後ろから殴りつけられた。

「ん? こいつか!」

 爆弾を仕掛けた潜伏していたジャガック兵が邪魔しに来たマグナアウルを排除すべく本性を現したのだ。

「俺の事はいい! 一刻も早い避難を!」

 ナイフを取り出して斬りかかるジャガック兵の攻撃を避けると、顔面を掴んで座席に叩きつけ、座席についたテーブルを引き千切るとそれで首を裂き飛ばして処理し、他にジャガック兵が居ないか探知する。

「居たな!」

 ショートワープで前方に向かうと、勝手にアームロックを外して数人のジャガック兵が逃げ出していた。

「おい待……」

 だが外に出て数秒もしないうちに全員飛来してきた緑色の光弾と青い斬撃、そしてマゼンタカラーの回転ノコギリに貫かれて爆散していた。

「ナイスだな」

 意識を客室に移すともう粗方避難は完了しており、それを見たマグナアウルはコックピットへと向かって、機長と副機長を連れ出す。

「本当に爆発するんですか?」

「ああ、残念ながら五十個の爆弾がここに仕掛けられてる、解除は無理そうだ」

「なんと……あなたはどうするんです?」

「そうだな、荷物を全部送り出した後……後処理をする。あなた達は無事に逃げる事だけを考えておいてくれ」

 機長と副機長を送り出し、全ての乗客と荷物をワープさせた後、マグナアウルは飛行機を突き抜けて上空へ向かう。

「起爆までの時間は?」

『危なかったですね、二十秒です』

「一分前とかに言えよな! 認証頼むぜ」

『ロック解除しました、しっかり狙ってください』

「キングフィッシャー‼」

 ブレードボウを取り出したマグナアウルは、エネルギーを込めて発射状態にして飛行機に照準を定める。

「ぐっ⁉ うおおっ!」

 照準を定めたその瞬間全身が痺れて力が抜け、バランスが崩れる。

『京助⁉ しっかりして下さ……』

 バランスを崩して落下を始めた直後、飛行機が大爆発を起こしてしまった。

「マズい! ウウウッ……ラアッ‼」

 渾身の力を振り絞ってブレードボウを射出し、虹色の軌跡を描きながら崩れ行く飛行機に命中したブレードは暗い青の小宇宙を作り出し、飛行機の破片を全て呑み込み、零次元に還してしまった。

「うう……あああ……」

 マグナアウルはなんとかマントを広げて勢いを殺しながら降下し、空港の滑走路に着地しながらその場に大の字になって寝転んだ。

「ああ……クソ……」

『これが不調ですか……想像以上ですね』

「ああ、早い所……何とかしねぇと」

 何とか立ち上がったマグナアウルは、全身の関節を鳴らしながら皆の所へ向かうのだった。


「ヤバいヤバい取り違えられて……あったぁ!」

 空港にて一人の美女が荷物を取って何か安堵していると、彼女に向かって麗奈が駆け寄った。

「お母さん!」

「あら? 麗奈‼」

 麗奈と礼愛は数ヶ月ぶりの再会に、お互いを抱きしめてじっくりとそれを味わった後で、気を利かせてゆっくりとやってきた他の四人を紹介した。

「あら、この子たちが?」

「そうだよ、私の仲間達」

「どうも初めまして」

「すっご……美女だ」

「やぁだ、気使わなくていいのに!」

 実際礼愛はスウェーデン、イギリス、日本それぞれの人種の良い所取りをしたかのような美女である。

「あれ、京助君は?」

「そういや飛行機処理してから見てないかも」

「え、それってヤバくない? 誰かあの飛行機どうなったか見た?」

「……ジャガックのドローンの大群が襲ってきたのを皆で落としてから、そっちに意識持ってかれてたかも」

「え、大丈夫コレ……」

 にわかに焦燥交じりの緊張感が高まってきたが、それは男子トイレから姿を現した黒スーツの少年によって打ち破られた。

「俺は大丈夫だ」

「ああ、良かったぁ……」

「あれ、この子は……ああ、これ?」

 鳥が羽ばたくジェスチャーをして見せた礼愛に、麗奈と京助が頷く。

「どうも初めまして、娘さんの友人やってます。千道京助です」

「初めまして……ホントに高校生? 大人びてるわね」

「ハハッ、どうも。今日一日、しっかりと護衛させていただきます」

「さっきはありがとうね、私も声かけようと思ったんだけど、忙しそうだったから……」

「ええ、連中はこれが失敗した事を既にキャッチしています。真鳥市に戻っても油断は禁物です」

「礼愛さんと装置は私達が守ります!」

 頼もしげに言った娘の友人たちを見て、礼愛は思わず笑みを零すのであった。


 礼愛が送迎車に乗り、スウェーデンでの思い出を語ったり、また麗奈の方からこれまでの思い出の話をしていると、すぐに真鳥市に辿り着いた。

「もう真鳥市か」

ヨーテボリ(あっち)も楽しかったけど、やっぱり家が一番ね」

「辿り着けると良いけどな」

「縁起悪い事言わないでください京助君……」

「これは時間との戦いだぜ、飛行機の三段構えの作戦は失敗したが、またすぐに仕掛けてくるに決まってる。家に帰るまでが任務だからな」

「んな遠足みたいな……まあ確かにそうよね」

 そうこうしていると前方でけたたましいクラクションが鳴り響き、礼愛を含めた七人は一斉に前を向いた。

「噂をすれば!」

「来たみたいだな」

 フロントガラス越しに前方を見ると、十数台先の車が回転しながらこちらに向かって飛んで来ていた。

「危ないッ!」

 咄嗟に運転手がバックしながらハンドルを切って、飛んで来た車が命中するのを避けて事なきを得たが、京助は一瞬だけ見えたあるものに思わず舌打ちした。

「おい、マジか。大物が来たぞ」

「大物って⁉」

「鞭のようにしなる剣が見えた」

 それを聞いた五人は目を見開き、京助はアウルレットを出現させて事に備える。

「真っ白女か三人組か……どっちでもいいが、兎に角これから戦わねぇとまずいぜ!」

「じゃあどうする⁉ 作戦は?」

「三人出向いて、三人護衛。これでどうだ?」

「決まりだね、行こう!」

 車を蹴飛ばしながらこちらに向かって来るクドゥリの恐るべき妹達の姿を視認した京助は、空中にテレポートしながらマグナアウルとなって戦場へ出向くのであった。


 ついにガディとザリスとジェサムの三人が目標の車を捉え所で、マグナアウルがその前に立ちはだかった。

「久しぶりねマグナアウル」

「少し見ないうちにウィルマース財団に首輪をつけられたみたいね」

「大空を羽撃たく梟が……全く哀れなものですわね」

 嘲笑う三人に対し、マグナアウルはそれすらも鼻で笑って返した。

「ヤクザの飼い犬にそう言われるとはな……いいや、使い捨ての鉄砲玉に!」

「!」

 予想外の切り返しの鋭い切れ味に、三人の怒りに火が付いた。

「私達は……」

「使い捨てなどでは!」

「断じてないッ!」

 襲い掛かって来た三人の攻撃を跳躍して躱し、ザリスの鞭剣とジェサムの銃撃を念力で弾きながら、ガディの大剣を足で受け止める。

アイビス(護手鉤)!」

 二振りの護手鉤を持ったマグナアウルは、鞭のように撓る刃を鉤で絡め捕ってバランスを崩し、またも斬りかかって来たガディを鉤を駆使して軽くいなす。

「どうした、こんなもんか?」

「煩いッ! うっ⁉」

 真横から伸びてきたハルバードに驚いて後退し、周囲を見るとミューズとデメテルが参戦しており、三人の緊張感は一気に高まる。

「これで人数の差は無くなったよ!」

「ここから一歩も行かせない!」

「地球人如きがいくら増えたとて同じだ!」

「私達は必ずターゲットを殺す!」

 ガディは跳躍して大剣を振り被りながらミューズを狙うも、鉤の部分でいなされてから危うく回転刃の餌食になりかける。

「えええあぁっ!」

 回転刃の一撃を避けてからガディは横薙ぎの一撃を見舞うも、ミューズは柄の部分で弾いてから鍔迫り合いになる。

「どうしたの? 腕落ちたんじゃない⁉」

「いちいち腹の立つ! 女だッ!」

 再び互いの得物を弾き合い、ミューズとガディは激しく渡り合って行く。


 デメテルはザリスが繰り出す激しい鞭剣の一撃を少ない動きで、なおかつ軽快なステップで回避しながら反撃の機会を伺っていた。

「フフフフハハハハハハハ! どうしたの⁉ 回避だけでは戦闘は成り立ちませんわよ! ここから一歩も行かせないのではなくって?」

(落ち着け私……慎重に行動を見極めるんだ)

 デメテルは攻撃パターンを読みつつ、次の手をしっかりと考えていたのだ。

「その程度だとは、幻滅しました……わッ!」

 大振りの一撃をザリスが見舞おうとしたのを見切ったデメテルは父母直伝のサイバスの構えをしてから、振り下ろされた鞭剣を左手のナックルアームに装着されたドリルユニットで絡め捕り、高速回転させて巻き取りながら右拳を引き絞る。

「うわっ!?」

「サイコキノロケットパァァァァアアアンチッ‼」

 こちらに引き寄せたザリスの腹部に、念力波とロケットパンチを同時に叩き込んで、数メートル以上吹き飛ばしてしまった。

「言ったでしょ、これ以上行かせないって」

「このっ……いい気になるなよッ!」


 そしてジェサムとマグナアウルは互いを狙う激しい追撃と銃撃戦を行っていた。

「ハッ!」

「うっ……せいっ!」

 道路の上で互いの銃弾を回避しながら激しい銃撃を繰り返す。

「はっ! やあっ!」

 ジェサムは乗り捨てられた車の上を飛び越えていき、マグナアウルの周囲を跳び回りながらビーム弾を撃ち込んでいく。

「その程度か!」

 マグナアウルはビーム弾を全て念力で空中に縫い留め、ジェサムへ向けて纏めて弾き返した。

「くっ!」

「起爆ッ!」

「ああっ!」

 ビーム弾を避けた先でフェザーダーツの爆撃を喰らって吹き飛ばされてしまう。

「おーい!」

 呼ばれたマグナアウルが振り返ると、礼愛が乗った車が自分の後ろに来ていた。

「何とか抜けたから! 行くよ!」

「行かせな……うあっ!」

 ジェサムを念力で縫い留めるとデメテルとミューズに目配せし、二人は戦闘を止めてマグナアウルの元へ向かい、二人の手を取ったマグナアウルはワープして車に戻って猛スピードでその場から逃げ出すのであった。


「くっ……またもや逃した!」

 無数の壊れた車が散乱する道路の上で、ガディとザリスとジェサムの三人は、悔しさのあまり地面を叩いて地団駄を踏む。

「なんとしても……あれだけは破壊せねば!」

 確かに三人はジャガックの一員で、装置の破壊を命じられたから動いているというものもある、だがそれ以上に三人には何としてもあの探知機を破壊しなくてはならない理由があった。

『あんな装置(もの)が……あんな装置(もの)がもし起動してしまえば!』

『我々はここに居られなくなる……』

『明穂と颯司と夏穂に……二度と会えなくなる』

 ここ数ヶ月の地球生活で三人に取って木幡家は、クドゥリに迫るほど大きな存在になりつつあった。

 本当はこんな事は許されないというのは分かっている、(クドゥリ)(木幡家)かを選ばなくてはならない。

 だがこの世に生まれてまだ一年も経っておらず、かなり未熟な精神(こころ)では、それを選ぶのは困難を極めた。

「絶対に追いつかねば!」

「私達以外も動いていますが……果たしてどこまでマグナアウルとクインテットに対抗することが出来るのか」

「急がないと、一旦体勢を立て直してすぐに向かいますわよ」

 三人は簡易ワープ装置を使ってその場から消え、次の一手を打つべく行動を開始するのであった。


「こりゃ真っ直ぐ行ったら絶対絶ッッッッッ対! 危ないね」

 イドゥンの言う通り、今の真鳥市は礼愛を狙うジャガック兵達で溢れている。

 このまま真っ直ぐ財団へ向かうルートで行けば、確実に罠へと突っ込む羽目になるだろう。

「マグナアウルのテレポートで母を送れませんか?」

「出来るけど、今のうちに動員されてる潜伏ジャガック兵を叩いておきたくないか?」

 確かに目立ったチャンスは今しかない、だがそれは礼愛を釣り餌(ルアー)として使う事であり、危険極まりない。

「でもそれだと……」

「麗奈……いや、アフロダイ。私は大丈夫、私だってウィルマース財団で地球の防衛に関わってるんだから。ある程度であれば自分の身は自分で守れる」

 力強い母の言葉に、アフロダイは頷くしかない。

「私は娘を、そして娘の仲間であるあなた達を信じます。絶対に私と装置を無事に送り届けてくれると」

 そんな礼愛の言葉に奮起した六人は、再び顔を合わせて作戦を練る。

「ここらへん一帯をしばらくグルッと回ってから……さっきみたいに二手に分かれるのは?」

「なるほど、その間に二台目の車を用意するって訳ね」

「いいなそれ、連絡しとくわ。運転手さん、お願いしていいですか?」

 護送車の運転手は真鳥市支部に連絡してもう一台車を手配してもらうと、合流地点に向けて大きく遠回りのルートを向かう。

「ん……何コレ」

「どうしたイドゥン?」

「顔の痙攣が止まらん、なにこれ……」

 ヘルメット越しに、イドゥンは左目の辺りを叩いている。

「それ多分予兆だぜ、てことは……」

 マグナアウルは車のルーフのハッチを開けて外を見ると、フライトバイクに乗って空中からこちらを狙う複数のジャガック兵の姿が見えた。

「ビンゴだ! 空から来てる!」

「おおマジか! 超能力万々歳!」

 首を引っ込めたマグナアウルと入れ替わるようにイドゥンがハッチから外へ出ると、スコープを倒して照準を定める。

「よっしゃ、イドゥンちゃんのスーパーショット、心臓(こころ)眉間(からだ)に刻み付けてやるぜ!」

 レールガンを転送したイドゥンはまず射程圏内で一番遠いフライトバイクに狙いを定め、実体弾を放ってパイロットの頭を正確に撃ち抜き、その後ろを飛んでいたフライトバイクを二台巻き込んだ。

「近くのオマエらは……これだっ!」

 肩のミサイルキャリアを展開し、全弾発射して機体下部を爆破して三台近くを撃墜する。

「手伝います!」

 車の側面からアフロダイが身を乗り出してオーバーチャージを発動し、強化パーツを取り付けた弓を射ると、弓は複雑な稲妻状の軌跡を描いて合計五台のバイクを撃墜した。

「……それどうやんの? 今度教えてくんね?」

「秘密です」

 二人で十台落としたものの、まだまだフライトバイクは迫って来ており、小型の戦闘機までもやって来てしまった。

「結構来たな」

「俺が協力しよう。二人とも全身全霊の一撃を叩き込め」

「分かりました……Bモードオン! バーストGO‼」

 アフロダイとイドゥンの装甲が展開し、コアエナジーストリームラインが露出して輝きが更に増す。

「準備完了! 頼んだ!」

 イドゥンはロングライフルを、アフロダイは弓矢を構え、スイッチを二度押し込んでエネルギーを武器に送り込む。

「倍プッシュ送り込むぞ!」

 マグナアウルの両手からサイコエネルギーを二人に送り込み、それに比例して二人の装甲のエナジーストリームラインが更に輝きを増す。

「行けえええええッ!」

「ハアアッ! セェイヤッ‼」

 緑、紫、そして青白いエネルギー弾が雨霰の如く降り注ぎ、あっという間にフライトバイクと小型戦闘機が蒸発してしまった。

「おーわ……すっげ」

「いつか追いつけるでしょうか……」

「まあ頑張れ、死に物狂いで百回ぐらい臨死体験すればきっと俺に追いつけるぜ」

 そんな軽口を叩き合いながら、礼愛を乗せた護送車は進む。


 一旦家に戻って武器の手入れをしていた三人に、フライトバイク隊が壊滅したという連絡が入った。

「なんですって!」

「こんな短時間で……壊滅⁉」

「恐るべしマグナアウル……我々最大の敵!」

 衛星軌道上のジャガック基地艦の衛星カメラを使って真鳥市内の映像を確認すると、礼愛を乗せた車は立体駐車場の中に入っていくではないか。

「クッ、これでは奴らの動きを確認することが出来ない!」

「ドローンは? 映像を早く!」

「待って! 姉さん! ジェサム! これを見て!」

 ザリスの声に二人が画面に顔を向けると、なんと礼愛が乗っていた車と同じものが二台立体駐車場から出ていくではないか。

「やったわね……やってくれたわね!」

「完全にこちらを翻弄する気だわ!」

 しかしどんな状況だろうと、絶対に装置の到着は阻止しなくてはならない。

「ザリス、ジェサム。どちらにするか決めるわよ」

「賭けるのですか……」

「分かれずに行くのですか?」

「ええ、私達は分かれるよりも共に行動した方がより力が高まるから、おそらく例の女はマグナアウルと共に行動していると思われるわ……頑張って探知してみましょう」

 三人は手を繋いで輪になると、目を瞑ってマグナアウルが放つ強烈なサイコエネルギーを探知する。

「……居た!」

「場所の照合を!」

 マップを確認すると、今中心街を走っている方にマグナアウルが乗っているらしい。

「……行くわよ」

 ガディに言われた妹二人は頷くと、自分たちの分のヘルメットを取ってから急いで現場に向かうのであった。


 簡易ワープ装置で中心街にあるビルの屋上へとワープした三人は、早速ウィルマース財団の車を発見した。

「見つけたわ」

「フッ……ハアアアッ‼」

 ザリスが鞭剣を伸ばして斜向かいのビルの側面を撫でるとガラスが雹の如く車の上に降り注ぐが、その全てが車に当たる直前で吹き飛び、また地面に落ちたものも全て弾いてしまった。

「間違いない、奴が乗っているのはこっち!」

「一気に襲撃をかけるわよ!」

「はい姉さん! せあっ!」

 三人は同時にビルの上から飛び降り、武器を構えて振り下ろそうとした所、テレポートしたマグナアウルに念力波と共に蹴りを叩き込まれて吹き飛んでしまう。

「残念だが、こっから先は通さねぇぞ!」

「何が何でも……我々は目的を達成するッ!」

 ザリスのエネルギーを纏った鞭剣がマグナアウルに襲い掛かり、マグナアウルは跳躍旋回して回避してからチェーンを巻き付けて動きを封じる。

レイヴン(サブマシンガン)!」

 足元にサブマシンガンの乱射を受けて三人はその場から飛び退くも、その一瞬の隙にマグナアウルはチェーンを翻してザリスの鞭剣を逆に操作する。

「あっ!」

「うっ……ああっ!」

「ぐはっ!」

 マグナアウルが操るザリスの鞭剣に斬りつけられ、ガディとジェサムは吹き飛ばされて倒れ伏す。

「姉さん! ジェサム!」

「人の心配を……してる場合か!」

 羽角から放つ電撃状の光線を喰らい、ザリスは二人以上に遠くへ飛ばされてしまう。

「ごめん、遅くなった!」

 ミューズとデメテルも加勢し、再び三対一の構図になる。

「これ以上やると弱い者いじめになっちまうか?」

「誰が……弱者だ!」

「フフッ……減らず口を叩いているようだけど、車内に居る護衛対象を放っておいていいの?」

「へぇ、誰がどこに居るって?」

 マグナアウルが指を鳴らすと車の扉が開き、中を見ると空っぽではないか。

「なっ!」

「居ない⁉」

「何故だ……最強であるお前に護衛を付けるのが理に適ってる! それなのに何故!」

「確かにその方が理には適ってるな。だがそれ以上にな、俺はこいつらみんな信じてんだ! 背中と重要な任務を任せられる程な」

 ミューズの肩を叩きながら、マグナアウルは剣を生成して刀身を撫でる。

「お前……ずっと一人で動いていた癖に!」

「離れていても心から信じられる仲間ってのもいいもんだぜ。まあお前ら三人には釈迦に説法かな」

 ジャガックという組織を信じられなくなっていた三人には、この何気ない発言が癇に障る。

「その減らず口を! 二度と開けないようにしてやる‼」

 ガディとザリスとジェサムはそれぞれの武器を構えると一斉に走り出し、マグナアウルとミューズとデメテルはその場で構えて三人を真っ向から迎撃して乱戦が始まった。

「えええあっ!」

「フッ! セアッ!」

 ガディの剣を弾き返したマグナアウルは電撃を食らわせ、後退したガディに更に蹴りとフェザーダーツを使って叩き込む。

「ああああっ! あああっ!」

 炸裂したフェザーダーツに怯むことなく突っ込んで来たガディは更に畳み掛け、マグナアウルは軽快なステップで大剣の一撃を躱して青い火炎を放ち、ガディは剣の表面を覆うエネルギーを倍増させてそれを防ぎつつ吸収し、逆に斬撃を飛ばして反撃してきた。

「っと!」

 マグナアウルはそのまま打ち返そうと試みたものの、急激に視界がぼやけたため手法を変える事にした。

(まただ……マズい!)

 マントを展開して飛んで来た斬撃を受け流すと、この隙に生成したショットガンでガディを撃ち抜く。

「ううっ!」

 防御に使った剣が揺れる程の一撃に思わず後退し、マグナアウルは更に二発三発と畳み掛けてその間に銃を次々と生成して合体銃を組み立てていく。

シュライク(投槍)……よし」

 ゴテゴテとした巨大な合体銃に投槍を番え、渾身の一撃を放つべく全身に力を滾らせる。

「おおおおおっ!」

「くっ……まずい!」

 マグナアウルの装甲の各部と両目が輝き、同時に合体銃の先端に番えている投槍にエネルギーが収束していく。

早贄(ドラグーン)・極翼……ぐおっ⁉」

 高まって滾った体内のエネルギーが急上昇し、オーバーブローを起こしかけたため、身の危険を感じたマグナアウルは咄嗟に技を中断した。

(何だ今のエネルギーゲインは⁉)

 もしもこのままエネルギーを上昇させ続けていたとしたら、肉体が限界を迎えて大爆発を起こし、真鳥市どころかユーラシア大陸を吹き飛ばしてしまう所だっただろう。

「ガス欠? フッハハハハ! 全く情けないこと……ガディラック・乱れ撃ちッ‼」

 膝をつくマグナアウルへ向けて複数の斬撃を飛ばすも、マグナアウルは事も無げに手を翳して念力波を叩きつけて飛んで来た斬撃を全て吹き飛ばし、ガディごと吹き飛ばしてしまった。

『危なかったですよ、ソリッドレイになりかけてました』

 確かに先程の念力波の〝濃度〟は市街地で使うにはあまりにも濃すぎた。

 ここ一帯は避難が完了して無人に近いとはいえ、インフラを破壊してしまったら別の被害が出るだろう。

『この不調、一刻も早くなんとかしなくてはなりませんね』

『ああ、だが果たしてその前にこの場を乗り切れるかどうか』

 勝負では優勢だが、しっかりと体が持つかは正直なところ自信はない。

「焦りと油断は禁物……っと」

 思わずマグナアウルが口に出した言葉が、またもやガディの神経を逆撫でする。

「いつもいつも……貴様は私達の邪魔ばかり。お前さえ居なければ……お前さえ居なければ! お姉様は傷付かなかった! それに私達もここに居ることが出来たのに!」

 ガディの怨嗟をぶつけられたマグナアウルは、溜息をつきながら(ヘルム)の羽角の辺りを撫でながら答えた。

「同じような事……お前の姉貴にも言われたよ、しかも二回ぐらい」

 予想外の反応にガディは困惑し、その様子に構わずマグナアウルは続けた。

「でもな、お前が思う以上に……この街の人達はそれをお前達に思ってる」

 ガディの脳裡に、数ヶ月間地球で過ごしてきた出来事と、そして木幡家を含めて関わりを持った人々の顔が次々と浮かんでは消える。

「邪魔と言われようが何だろうが、俺はお前らの前に立ちはだかる。一刻も早く平穏な日々を取り戻すために……そして」

 次に出た言葉は、先程以上に力強いものであった。

「第二の俺を生まないために!」

 一瞬気圧されそうになったガディだったが、戦闘の余波でこちらにまで後退してきた妹達に奮起されて再び立ち上がる。

「姉さん、大丈夫?」

「ええ、あなた達こそ大丈夫なの?」

「ええ、なんとか!」

「早くこいつらを倒して……装置を破壊する!」

 武器を構える三人の前に、ミューズとデメテルが加わる。

「残念だけどね」

「そんな事は起きない!」

「いいや、勝つのは我々だ‼」

 ガディの大剣にザリスとジェサムの武器を重ね、武器に掛かるエネルギーを倍増させ、更に三人分の能力で爆発的に高めたエネルギーをビームとして放った。

ピーコック()!」

「シールドオン‼」

「ハッ! よっ!」

 マグナアウルは盾とマントで、ミューズはハルバードのスパイクから発生したシールドを、デメテルはナックルアームを合わせた電磁シールドでそれを防ぎ、爆発を背に突撃していく。

「やああっ!」

「はっ! くあっ!」

 ミューズのハルバードがジェサムの前の空間を切り裂き、更にザリスの持つ長剣に刃がぶつかり、回転する刃で火花が散る。

「ダブルロケットパァァァァアアアンチッ‼」

 両掌を合わせて打ち出すロケットパンチが回転しながらガディへ迫り、剣で弾いたものが軌跡を描いてジェサムへと向かう。

「くっ! ううっ‼」

 しつこく追尾してくるロケットパンチを銃撃するも、ビーム弾を避けるように合体が解けてこちらに向かって来る。

「マグナアウル!」

「おう!」

 デメテルが放った高火力ビームをマグナアウルの盾が反射して三人を怯ませ、更にミューズが放ったエネルギーで満ちた回転ノコギリを盾で受け取ると、そのまま盾ごと投げつけて三人を吹き飛ばしてしまった。

「ぐあっ!」

「ああああっ!」

「いうっ……うぅ……」

 戻ってきた盾を回収したマグナアウルは、再び次の行動に備えて構える。

「ナイス連携」

「そっちもいい判断だった……てかまだか? もういい時間じゃないか?」

「時間稼ぎってそういうモノでしょ」

「まあそういうモンか、耐え抜くしかねぇ」

 また以前の様に急激に力が入らなくなるとまずい。

 この三人相手は油断ならない、今でこそ優勢だがこの三人はクドゥリの遺伝子を引き継いでいる、潜在能力は高い。

「それじゃもう一度……お?」

 後ろを見るとこれまで自分達が乗って来たのと同じ車両がこちらに近付いており、一発の紫色に輝く光の矢が飛来した。

「おお! ついに来たな!」

「うっ! これは……まさか!」

 次に起こった出来事は、三人に取って絶望的なものであった。

「無事送り届けました!」

「どっちも⁉」

「おう、どっちも無事よ!」

「勝ったな」

 負けた、マグナアウルに執着しすぎてしまった。

「……姉さん達……」

「構わない……構うもんか! 財団に乗り込んででも装置を破壊してやる‼」

 ガディが大剣を構えたのと同時に、ルナが護送車から飛び出してきて、高速移動で一瞬でガディに肉薄する。

「させるか!」

 大剣と太刀が重なり合って一瞬拮抗するも、ルナは即座に左手へと転送したナックルガンから凍結弾を顔面に放ち、怯んだ隙にナックルからブレードを展開して思い切り顔面を斬りつけた。

「うぐぅっ!」

「セイハッ!」

 畳み掛けるようにルナが太刀を振ると、ついに表面が凍ったヘルメットが割れ、ガディ顔面の左半分が露出してしまった。

「……え?」

「姉さん‼」

 デメテルの目に映るもの全てが、急激にゆっくりになっていく。

 極端に引き延ばされた須臾の間で、デメテルは咄嗟にルナの腕を掴んでいた。

「ちょっと何⁉ 何のつもり?」

「いいから代わって!」

 そう言うと大剣を杖代わりにして膝をついてこちらを睨むガディに近付いて、デメテルはやっとの思いでその名前を喉の奥から出した。

「光井さん? 光井……華怜さん?」

「え? なぜ……お前がその名前を⁉」

 デメテルがヘルメットの側面を押し、露わになった素顔を見た三姉妹は一気に顔面蒼白になる。

「明……穂?」

「……やっぱり、そうなの? そうだったの?」

 明穂が突然素顔を晒すという行動に出た事に、他五人はただ困惑するばかり。

「なんで……なんで脱いだんだ⁉ 何が〝そう〟なんだ?」

「ミツイカリン……待って、確か光井って!」

「……マジで言ってる? それ」

 だんだんと何が起こったか皆も理解し始めた頃、ザリスとジェサムもヘルメットを取って素顔を晒した。

「……風音さんと……寿里さん」

「明穂……あなたはクインテットだったの?」

「あなた達こそ……ジャガックだったなんて……」

 ひょんなことから仲良くなり、互いに気遣っていた相手は、なんと敵同士だったのだ。

「……じゃあこの三人……明穂のお隣さんって事か⁉」

「多分ね……」

「まさに運命の悪戯としか言えませんね……」

 なんとも言えない空気が流れる中、明穂は三人の方へ手を伸ばそうとしたが、それはガディによって阻まれた。

「クフッ……フフフ……アハハハハハハハハハハハハハ‼」

 狂ったような哄笑を上げるガディだったが、割れたヘルメットの隙間から覗く煤で汚れた顔は、涙の跡がはっきりと見えている。

「全部全部、終わりよッ! 終わり終わり終わり‼」

 組織の首領(ボス)は信用ならず大切な姉は傷付くばかり、敵との差は開く一方で、その敵は友人であった。それにより張り詰めていた糸が一気に切れ、溜まっていた感情が一気に噴出したのである。

「終わり終わり……私達の居場所はもうどこにもないッ‼ アハハハハハハ!」

 ひとしきり笑い飛ばした後、ガディは割れたヘルメットを思い切り地面に叩きつけてから明穂の方を見据えた。

「今まで本当に楽しかった! さようなら明穂! 次会う時は殺し合いねッ‼」

 腕に取り付けられたコンソールを操作するとガディの姿が消え、次にザリスが、そしてジェサムもワープしてどこかへ消えてしまった。

「……手、伸ばしてましたね」

 ジェサムがワープする寸前、確かにこちらに手を伸ばしているのを見た。

二面(ダブルサイド)生活を送ってたのは、どうやら俺達だけではなかったみたいだな」

 明穂(デメテル)は地面に散らばった砕けたザリスのヘルメットの欠片を拾うと、深いため息をつきながらそれを額に当てるのだった。


 無事に礼愛の命は守られ、装置も無事に財団へ届けられて起動した。

 結果的に見れば完勝なのだが、どうもそれを喜べる雰囲気ではない。

「よっ」

「ああ、ありがと京助君」

 ウィルマース財団の施設のテラスの手摺に体を預けて黄昏ていた明穂へ、京助が緑茶の入ったコップを持ってきた。

「父さんがよく飲んでたやつ。美味いよ」

「そうなんだ、ありがとね」

 京助は持ってきた自分の分を飲み干して、しばらく二人の間に無言の時間が流れていく。

「……それで、どうするんだ?」

「そうだよね……」

 あの三人をどうするか、明穂は悩んでいた。

「あいつが言ってた通り……殺し合いすんの?」

「私達とあの三人は、敵同士って言うのは分かってるんだけど……戦って倒すっていうのは、正直したくないんだよね……あはは、甘いよね?」

「いいや、そうは思わない……アイツら三人は多分、ああいう生き方しか知らないんだ」

 マグナアウルやクインテットを倒す為に生まれてきた彼女らは、悪意で舗装された道を歩むしかなかったのだ。

 例えその道の途中で誰かを踏みつけにする事になったとしても。

「京助君もそう思う?」

「ああ、あいつらは哀れな奴らだよ。私欲で誰かを傷つけるような奴らに、その手助けをする為だけに生み出されたなんて……憎むべきはゾゴーリとかいうジャガックの首領だ」

「楽しかったって言ってたのは本心だと思う、色々思う所はあったんだって……私はそう信じたいな」

「……俺もそう思うよ」

「もしも、もしもだよ? なんとかジャガックからあの三人を離すことが出来たら……私が受け止めてあげたいって、そう思ってるんだ」

 京助は大きく息を吐き出しながら、何度か頷いてから言った。

「俺が言うのもアレだが……命が奪われないに越したことは無いからな。贖罪のやり方は、後からいくらでも考えればいい」

「協力してくれるの?」

「……ああ、仲間だろ? きっとみんなも分かってくれるさ」

 京助が拳を差し出し、明穂もそれに自分のものを重ねる。

「待ってて三人とも、私があなた達を助けて見せる」

 暗くなった空を仰ぎ、明穂は敵となってしまった友へと思いを馳せるのであった。


To Be Continued.

ダブルサイドがまた一つ崩壊してしまいましたね。

果たして明穂は、決戦へと向かう戦いの中で、あの三人と再び対峙する事になるのか?

次回からラストエピソードに向かいます、京助の成長にご注目ください。

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ではまた来週!

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