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第8話

「きもちわるい」

 ケイト・ミハルは読んでいた紙の束を床にふせると、走る馬車の荷台から外に顔を出した。

「馬車のなかで読みものなんてするもんじゃないですよ、ミハルさん」

 呆れのなかに心配を含ませながら、備衛隊第一隊隊員、エイジ・ロイが水を差し出す。ミハルは口をゆすぐと、ずれた分厚いフレームの眼鏡をかけ直してひと息ついた。馬車は舗装されていないでこぼこ道をぐいぐい進む。

「何を読んでいるんだ?」

 第一隊隊長のユウリ・ヤヒクがたずねる。ミハルは水をひとくち飲んでから答えた。

「毎回、イユイ村から送られてくるカラ喰いの出没報告書です。日付と時間、だいたいどこから出没したか。どういうルートでキシャ山に向かったか。被害者はいなかったか。こんな内容を封書で送ってもらっているんです。その前に取り急ぎの電話の報告もありますけどね。予備知識として頭に入れておきたくて。けど、どたばたで都から出てきたもんで、出発前に読む時間がなかったんですよ」

「さすが研究所の室長」

 ヤヒクが褒める。ロイがえっとこぼす。

「あれ、ミハルさんって、なんかの管理長じゃなかったでしたっけ?」

「環境保全課第三室室長兼国営図書特別書庫管理長、です」

「兼任か。人手不足はどこも深刻だな」

 ひとごとではないヤヒクは嘆いた。ミハルは苦笑いをしたが、また気分が悪くなり馬車の外に顔を出す。

「全然大丈夫じゃないですね」

 ロイは赤毛の髪をハーフアップにするとミハルの背中を撫でてやった。すると、ミハルの首からチェーンが見えた。

「ミハルさんもネックレスとかするんですね」

 ミハルは思わず首をおさえると恥ずかしそうにした。

「わたし、落し物が多くて。失くしてはいけないものをぶら下げているんです。幼子みたいでお恥ずかしい」

「別に恥ずかしいことじゃない。財布ですか?」

「家の鍵です」

「それは失くしたら大変だ。鍵は大切だ」

「皆のもの!もうすぐ目的地だ!」

 馬に乗って先導しているワシノスの声が響く。ロイは疲れていた。

「極秘でやるっていってんのに、潜める感じがない。もうバレバレですよ」

「遺された土地に行くから気が緩んでんだろう。都からすれば、この世の果ての果てそのまた果て、みたいなところだ。それを抜いてもあの人は黙っていてもハデだからね。失敗して帰ったら都に俺らの居場所はないぜ」

「えー。俺、寮住まいなんですけど。そうだった。新しい家を捜してから来ればよかった」

 ロイが今にも死にそうなミハルの隣で悲嘆した。



 ワシノスが都から連れて来た備衛隊はミハルも入れて、七人だった。

 正午、ワシノス達はイユイ村に到着した。村の入り口には村長が立っており、その後ろには村人たちが集まっていた。村の子どもたちは、大人の事情を見せないようにみな、学校で遊ばせていた。村長は先頭の馬に乗っていたワシノスに声をかけた。

「備衛隊の皆さまですね。わたくし、村長のコウ・ゴーダと申します」

 ワシノスは眉間に皺を寄せる。

「なぜ我々が来ると?」

 ワシノスの声の大きさに村人の数人が肩を揺らした。

「偶然、仕事で宿場に村の子がいまして。大急ぎで伝えに戻って来てくれたんです」

 メイは腕を組んで鼻を鳴らした。

「やっぱりバレバレだな」

 馬車を降りたヤヒクが声をひそめてロイにいった。ロイは露骨に不安げにした。

「そうですか。おかげで、人を集める手間がはぶけましたな」

 馬から降りたワシノスは、分厚い胸板を張り、青い備衛隊の制服の袖がはち切れそうなぐらい鍛えぬいた腕をおおきく振り、村人たちの前に威圧的に立った。そしてヒゲを指で整えた。

「イユイ村の皆さん、わたしはウァース国備衛隊隊長のガイ・ワシノスと申す」

「おい、あの隊長のうしろにいるの、トミー氏だ」

 バンバーがエトウに耳打ちする。エトウは下唇を噛み、鼻息を荒し、番犬のように唸る。

「いつカラ喰いの夜が来るかわからないのに、外で長話を聞かせるつもりかい。隊長さんよ」

 メイがヤジを飛ばす。

「メイのいう通りだ!」

 バンバーものっかり叫ぶと、端が開いたように村人たちは騒ぎはじめた。村長がそれをまあまあ、とたしなめる。ヨシカとクロスはいちばんうしろにいた。ヨシカは前に行こうとすると、クロスに腕を掴まれた。


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