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第6話

 雨が上がった朝、昨日来たばかりの双子のばあちゃん達がかしましく診療所にやってきた。

「わかったよ、半月のこと!」

 アンは得意満面に興奮していた。

「ジョウ・クロスは、宰相の義理の息子になるはずだった男だよ」

 ニカも感情が高ぶり過ぎて、息切れしていた。ふたりが卒倒するんじゃないかとエトウはひやひやしていた。

「宰相?」

 イオリがたずねると、ニカが跳びはねる。

「イオリ、いつも突然あらわれるのはやめておくれ。心臓が止まるわい」

「ニカばあちゃん。ぼくはいつもここで働いているよ」

 アンは、ヨシカが座っているテーブルに新聞を広げた。

「二年前の冬だね。宰相の別荘で火事があったんだ。半月はモリス宰相を助けて外に出たが、婚約者のえっと、カレンは助けられなかった。けど半月も相当大変だったみたいだ。この記事には半月は意識不明の重体って書いてある。それにこの男、宰相の娘の婚約者だったが貴族じゃない。かなりの神童で成り上がった庶民みたいだね」

「そういや、そんな事件あったな。ラジオでずっと流れていた」

 エトウが呟く。ヨシカはクロスの仮面の下の火傷を想像した。

「村長にも伝えないとね」

 アンが手際よく新聞をたたむと、ニカとせわしなく診療所を出て行く。

「あんまりいいふらさないようにね」

 ヨシカが双子の背中に向けて注意した。

「無理だろう」

 エトウは呆れた。そして、けどまあ、とつづけた。

「そんなからだではるばるこの隠れ世まで送られて来たのは、同情するな」

 ドアがノックされる。エトウはふり向かないまま叫んだ。

「どうしたばあちゃん、忘れものならなんにもないぞ」

 ドアが開く。ヨシカは驚いた。エトウは二度見した。現れたのはクロスだった。

「半月!」

「先生!」

 つい、あだ名を叫んだエトウをイオリがきつく注意した。クロスは誰かをせおっていた。ヨシカがかけ寄った。

「ユーマじゃない」

 バツが悪そうな顔をしたユーマが、クロスの背中にしがみついていた。右ひざを擦りむいていた。

「館のなかを窓から覗いていてね。わたしが顔を出したら驚かせてしまって、逃げる途中にこけてしまった」

 ヨシカはメイに頼まれていたことをあとまわしにしていたのを反省した。

「すみませんでした」

 ヨシカは謝罪した。

「あなたが気にすることじゃない」

 クロスは穏やかだった。

「ユーマをここへ」

 エトウが診察台へと促す。ユーマを治療しているあいだ、クロスは座ってイオリが淹れたお茶を飲みながら魚の絵を見ていた。

「はい、おわり。冒険もほどほどにな。よそさまのうちのなかは覗くもんじゃない。それはルール違反だ」

「……はーい」

 ユーマは小さく返事をした。エトウはなにかに気づいた。

「なんだ、おでこも怪我してるのか?」

 エトウがユーマの前髪を上げた。ユーマの額のちょうど中央に、斜めに黒い線がはいっていた。エトウはすぐに傷ではないとわかった。

「こりゃあ、インクじゃないか。ペンを振り回したな」

 エトウが笑うと、ユーマは顔を真っ赤にして前髪ごと額を押えると、診察台から跳び下りた。

「ユーマ。クロスさんにお礼を伝えて」

 ヨシカがいうと、ユーマは額を隠したままクロスを見た。クロスは柔らかい笑みを浮かべた。けれどユーマは、逃げ出した。

「ちょっと、ユーマ!」

 ヨシカがドアの外まで追いかけたが、逃げられた。ヨシカがユーマの名前を大声で叫んだが、逃げ足が速くなっただけだった。

「すまない、失礼をいたしまして」

 エトウが代わりに謝った。

「いいですよ。こんな見た目じゃ、びっくりさせるのはしょうがない。泣かれるよりはマシですよ、あははっ」

 クロスは三白眼を穏やかに細めて笑う。クロスの左手に巻かれた包帯にヨシカの目がいった。服の下の火傷も想像よりもずっとひどいのかもしれない。


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