6品目 豚汁殺人事件
今日の汁物は豚汁に決まりだな。
どういう風の吹き回しか、今日は助手席に座っている。珍しく運転席には澤田の姿がある。顔は怒りで歪み、噛んでいるガムの匂いはフルーティーな香りをはっしている。フルーティーな匂いのガムは澤田が1番イライラしている時に食べるガムだ。
「澤田さん…どうしたんですか…?」
「なにが」
「珍しく運転してるし、イライラしてる時に食べるガム噛んでる。何かあったんですか?」
「・・・運転は、俺が運転した方が早くつくと思ったからだ。ガムは…無意識だ。」
「澤田さんが運転した方が早いってことは…」
その先は言葉が出なかった。澤田も口を紡いでしまった。静かなまま車は現場へと向かった。
現場は山の中にひっそりと佇む青い屋根の一軒家だった。家の前では珍しく顔色の悪い神田が蹲っていた。
「珍しいな、どうした?」
「いえ…その…今回はパンチが強くて…」
「そうか…場所だけ教えてくれ。」
「キッチンです…」
「ありがとう。」
「いえ…ウッ…」
口元を手で押え、神田は近くの茂みに走っていった。どんなに吐き気がしても現場を汚さないのは刑事の鏡だ。神田の背中を見送り、澤田と家に入る。澤田はズカズカと家に入り、まるで何度も来たことがあるかのように進んでいく。澤田の後を追ってキッチンに行くと、セパレート型キッチンのコンロには大きな鍋が置かれており、シンクのある台の上には60代後半位の男性の死体がのっている。死体の胸あたりは肉が抉られ、肋骨が見えている。澤田は死体の顔を見て止まっている。止まっている澤田をそっとしておき、鍋の中身を見る。鍋には美味しそうな味噌の匂いをさせている豚汁が入っている。
「豚汁?」
「豚汁か…先輩…奥さんの豚汁好きだったもんな…」
後ろにいた澤田が独り言のように言う。
「先輩?」
「この人はちょっと前に定年退職した俺の先輩だ…松尾とは入れ替わりだったから、知らなくても仕方ねぇ。」
「なるほど…」
澤田の話を聞きながら、アレを探すと鍋の隣に置いてあった。封筒を手に取り、見ると『豚汁』と書いてあった。
「澤田さん、ありました。」
「読んでくれ…」
「はい…」
封筒を開き、3つ折りの紙を出す。やはり小説のような文章で綴られている。
『 彼は奥さんの作る豚汁が大好きだった。警察という死と隣り合わせの職業を五体満足で定年退職し、奥さんとこのひっそりとした家で余生を過ごしていた。大好きな生涯を共にした奥さんの最後を看取り、1人でこの家で過ごしていた。自分の最後を待ちながら。彼は奥さんの豚汁を再現したくて、最近料理をよくしていたようだ。私はショッピング中の彼と出会って仲良くなった。ご飯を一緒に食べて、元警察で澤田さんの先輩だったと聞いた。びっくりしたよ笑やはり料理は様々な人と繋がれる最高の手段だ。私は彼に豚汁の作り方を教えた。同時に奥さんの豚汁のレシピを考えた。とても楽しかったよ。でも、私は彼を料理にした。理由は簡単。松尾さんに気付いて欲しかった。こんなに料理を作ってアプローチしているのに気付いてくれないなんて…私は悲しいよ…澤田さんの先輩だった彼は私にとって今1番ちょうどいい材料だった。彼に睡眠薬を盛って眠らし、殺して、肉にしたよ。彼の奥さんが作る豚汁のお肉は豚バラでね、私も再現したくて豚バラ…いや人バラの方が正しいのかな?それを使ったんだ。鍋に入っているだろう?ぜひ、味わってみてくれ。』
「俺たちの名前を知ってる!?」
「誰だ…誰が…」
その時、ふっと頭に思い浮かんだ顔がひとつあった。いつもなら、横にいるはずのアイツが今日は珍しく体調が悪いと外で待機している。
「神田はどこだ!!」
「神田!?」
「か、神田さんなら体調が悪いと早退してしまいました…」
「クソ!澤田さん!車に乗ってください!」
「あぁ!」
澤田を助手席に乗らせ車を走らす。目的地は神田の家だ。
神田の家に着き、澤田と乗り込む。鍵は空いており、中に入るともぬけの殻だった。
「くそっ…逃げられた…」
「こんなに近くに居たなんて…」




