5品目 練り込み食パン殺人事件
今日は…忙しいから食パンでいいか…
夜、寝ようと思っていたところに入った1本の電話で今車を走らせている。助手席の澤田は、いつもよりミントの強いガムを噛んでいる。自分も眠気覚ましのエナジードリンクをキメて、車通りの少ない道路をはしらす。
「はぁ…事件がなければいい一日だったのに…」
「何かあったのか?」
「今日は最近やっとできた彼女とデートだったんですよ。ちょっと前にデートが終わって寝ようと思ってたのに…」
「それは…ご愁傷様だな…」
「はい…」
現場は集合団地の一室だった。部屋に入ると荷物はなく、居間にはブルーシートがひかれており、その上には白い小さな机がある。机の上には薄い赤色の手作り食パンが置いてあった。食パンには何かが練り込まれているようだ。机の横には男児2人の死体が、仲良く手を握ってごろりと寝っ転がっている。顔は穏やかでそこだけ見れば眠っているようだ。仲良く繋いでいる手とは逆の手が2人ともなくなっている。
「酷いな…」
「どんどん犯行が大胆になっている気が…」
「2人はこの団地の違う部屋にすむ兄弟です。最近、行方不明届けが出されていて隣の部屋の人が異様な匂いがすると、通報して発覚しました。」
神田は平気そうな顔をしている。
「神田、お前これみて大丈夫なのか?」
「ここに来てもう3回は吐きましたよ…もう何もお腹に残ってません…」
「だよな…平気な人はいないよな…すまん。」
「いえいえ、それとやはりこれがありました。」
そう言って神田からいつもの封筒を受け取る。封筒には『練り込み食パン』と書かれている。
「練り込み食パン?」
「澤田さん知らないんですか?」
「あぁ…ご飯派でな…」
「食パンを作る時にジャムやクルミなんかを混ぜて焼くんです。変わったものだとウインナーとか混ぜこまれてるやつもあります。」
「ほぉ〜パンも奥深いんだな〜」
感心している澤田をよそに封筒をあけ、いつもの3つ折りの紙を取り出す。開くといつもの小説のような文章。
『 彼らは食パンしか食べるものがなかった。彼らの母親は彼らを育てることをやめていた。毎晩家をあけ、帰らない日もあった。そんな母親でも彼らは決して母親を責めなかった。彼らは近くのパン屋さんに行きいつもの無料の食パンの耳を貰っていた。彼らのご飯はいつも食パンの耳だった。そんな彼らにとってのご馳走は母親の気まぐれでたまに買ってきてもらえるスーパーの安い食パンだった。硬いパンの耳とは違う、白くふわふわのクラムの部分は2人の愛に飢えた空っぽの心も満たした。私はそんな彼らを見過ごせず、連れて帰った。あんぱんやメロンパン、ウインナーパンなど様々なパンを食べさせた。しかし、彼らは教えてくれた。やっぱり母親が買ってきてくれたあの食パンが1番美味しいと、あの食パンが1番好きだと。育児放棄をしていても彼らの母親はあの女ただ1人。彼らにとっては母親からの微量の愛がご馳走で、いつ食べられなくなるか分からない貴重な食べ物なのだ。そして、その微量の愛が詰まった母親の気まぐれで買ってきてもらえる安いスーパーの食パンが彼らのご馳走なのだ。彼らは死ぬ前に言っていた。母親の食パンの次に美味しかったこのウインナーを練り込んだ食パンを母親に食べさせたいと。だから、彼らの腕を練り込んだ食パンを作った。彼らは2人で手をひげて母親を待っている。愛のこもった母親からのハグが欲しくて。まぁ、その広げていた手はもう食パンに混ぜ込まれてしまったがね。彼らは母親を最後まで愛し続けたが母親には最後まで愛されなかった。皮肉なものだね。』
「・・・彼らの母親は…」
「部屋の外で泣き崩れてます…」
「愛されてるじゃないか…」
澤田は2人の小さな遺体の頭を優しく撫でた。封筒を神田に渡し、遺体が運ばれるのを見送り捜査を始めた。




