4品目 活け造り殺人事件
今日は久々に魚でも捌こうかな。
あくびしながら車を運転する。助手席でも、自分と同じように澤田があくびする。今は朝の5時。こんなに朝早く現場に向かうことはそうそうないため、正直まだ頭がぼんやりとしている。
「居眠り運転は3ヶ月以下の懲役又は5万円以下の罰金だぞ〜」
「すいません。こんなに早く起きたのは久々で…」
「まぁ、俺も同じだ。」
「今回もアイツですか?」
「あぁ、年が明けたってのに懲りないやつだ。」
「ほんとですね…勘弁して欲しい…」
澤田と話していると現場に着いた。今回の現場はある会社の社長室だ。神田がいつものように待っており、現場に案内される。案内された先にあったのは、社長室の無駄に大きな机の上に全裸で横たわる30代程の男の死体だった。普通に横たわってくれていればいいのに、まるで魚の活き造りのようになっており、内蔵などのいらない部分は横の方に飾り付けられている。
「うわっ…」
「こりゃまた…ひでぇな…」
「今回の被害者はこの会社の社長です。」
「社長?にしちゃあ若いな」
「若くして社長になったエリートってとこですかね。それで今回も封筒が?」
「あります。」
「恒例行事だな」
神田から封筒を受け取る。表には『活き造り』と書かれている。封筒をあけ、3つ折りの紙を取りだし、読む。いつもの小説のような文章。
『 彼はとても釣りが好きだった。釣りと同じくらい彼は料理好きな奥さんの作る刺身が好きだった。彼が釣って帰ってきた魚を彼の奥さんが捌き、お刺身にする。それを2人で食卓を囲み食べる。彼にとってこれほど幸せなことは無かった。大好きな奥さんの作る大好きな刺身。鯛などを釣った日には奥さんが精を出して活き造りにすることもあった。幸せだっただろう。しかし、彼の幸せはロウソクの炎が消えるかの如く突然消えてなくなった。奥さんが事故にあい、亡くなったのだ。お腹にはお子さんもいた。全てを失った彼は大好きだった釣りをやめ、仕事に没頭した。仕事をしている間は悲しみも苦しみも忘れることが出来たから。そうして彼は若くして社長に上り詰めた。彼は同僚や友達にお祝いされた。美味しい刺身のお店へ足を運んでお祝いしてもらった。そこで食べた活き造りの刺身は味がしなかったと教えてくれた。決してまずかったわけじゃない。ただ、奥さんの作る活き造りが美味しすぎたのだ。周りからすればお店のものが美味しいと思うかもしれない。しかし、彼にとって奥さんの作る刺身は格別だった。それもそうだ、お店とは違った幸せという隠し味は誰にも再現のできない奥さんから彼に対する愛情であるから。彼は私に教えてくれた。奥さんの愛情のこもった料理がない世界で僕の腹は、空腹は満たせないと。きっと今頃向こうで奥さんと生まれてくるはずだった子供と幸せな食卓を囲んでいるんではないだろうか。まぁ、私にはどうでもいいことだが。』
「ほんとに心がないな、コイツ…」
「最低ですね…」
「早く捕まえなくては…」
神田に封筒を渡し、死体をかき集め運び出し、現場を調べ始める。
次回は7月29日投稿します!




