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解答編

「あ、あの……すいません。今、なんて言ったんですか」

 私は最初、その言葉を上手く聞き取ることが出来ませんでした。


 すると前崎さんは、再び、はっきりと、こう口にしたのです。




「どちらでもない」……と。




「………………はい?」

 改めて考えても、私はその思考を測ることが出来ず、思わず拍子抜けした声を出してしまいました。

「だから、どっちに行く必要もないんだよ。弟は、ただ、家の傍の湖を前にして待っていればいい。向かいの家から、兄が出て来るのをな」

「……ど、どういうことですか? 意味が分かりませんよっ」

 二個目のドーナツでマイペースにティータイムを楽しむ前崎さんに痺れを切らし、私は机を叩きました。……手の平がジンジンします。

「――いいか。出会うという概念がいねんは、別にお互いの手が触れ合う距離じゃなければいけないなんてことはないはずだ。たとえ間に湖があっても、目の前に相手が見えて意思疎通が出来れば、それも『出会った』ということになるだろう」

「え……えええええっ! ……そんな屁理屈みたいな……。あ、で、でも、ちょっと待ってください。課題では、二人は『会って遊ぶ約束』をしていたんですよ? 湖を挟んでいたら遊べないじゃないですか! つまり、目的は達成出来ません!」

 私は両手でバツの形を作って、ここぞとばかりに反論しました。しかしそれでも前崎さんは余裕の表情を崩しませんでした。

「そんなことはない。…………例えば、キャッチボールなんかはどうだ?」


「キャ、キャッチボール?」


 前崎さんはコーヒーを啜って頷きます。

「二人の家を分かつ湖の幅は約十メートルだったよな? そのくらいの距離なら、充分にボールを『投げ合って、遊べる』だろ」

 私は頭の中でその光景を想像しました。湖を境界線にして、片手にグローブをはめた二人の男性が、向かい合ってボールを……。


「――――あっ!」


 それなら確かに…………。

 これといった矛盾は見当たりませんでした。

 掛かった時間も、兄が出て来るのを待つ五分間だけでいいから、一番早いです。

 でも…………まさかそんな答えだなんて……。

 想像もつかなかった方法に、私は唖然としてしまいました。

 それと同時に、してやられたという感情が一気に渦を巻き、私は悔しさを流し込むかのごとく、ぬるくなったコーヒーを飲み干しました。

「さて、そろそろ帰るか……」

 その間に二つのドーナツを食べ終えた前崎さんは、満足そうに笑みを浮かべると、ゴミを片付け始めたのでした――。

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