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③個人的体験における自我の喪失ープロローグ

それは不治の病だ。

「人間とは何か」

「存在の意味とは何か」

その答えを、どうあがいても求めてしまう。

不本意ながらも、探してしまう。

だが、答えなど存在しないだろう。


ある区切られた場所、時間、そこに生きる人間によって

暫定的な意義を与えることはできるが、答えは存在しない。

人間は、この絶対的な見込みのなさ、

決定的な絶望のなかでも、

明かし続けようとすること、

求め続けようとすることを決してやめない。


そしてその方法は無限に存在する。

種々様々に、求め続ける方法は存在し、

どのような方法をとるかは、各人で全く異なる。


絵という方法をとるものもいれば、

音を使った方法をとるものも、

肉体を使うものも、

文字という方法をとるものもいる。


その大きな枠の中でも、さらに細分化された方法がある。

様々な領域があり、方法があり、

縦横無尽にそれぞれの領域を、

あるいは境界をさまよい、

多様な方法でひとつの点に向かってゆくのだ。


私はその一点へ、性の領域から向かってゆきたい。

人間の活動の中で最も理不尽で、

無秩序で、アナーキーで、暴力的で、

そして死をも垣間見させる行為である”性”について、

私は考えたい。


「セックスは決して本来的に陳腐であるわけではない。

それは激しいもので、絶望的なほどに激しくなることも

しばしばある。

その際の内面風景は激烈な高揚、凶暴で究極的には

残酷な人間個性の無視、非常に強くて押さえつけようがない

張りつめ切った図々しい欲望、相手の人格に魅かれているのでも

なければ、個人の教会にも全く顧慮を払わない姿である。

そしてセックスが性的クライマックスで終わるのではなく、

性的熱狂の後の人間関係の破壊や、辛辣な復讐心という悲劇で

終わることも、ままおこる。

―中略―

成功経験は人々を変える。

相互の存在を見失い、徐々に人間的希望を喪失してゆくことも、

しばしば起こる。」

(アンドレア・ドウォーキン 寺沢みずほ訳

『インターコース 性的行為の政治学』青土社P42)


人間のあらゆる活動のなかで、予期し得ない程の感動を衝撃を引き起こし、

情熱というものが本来そうである無償というものを知らしめ、

すべての不可能、苦悩を克服し得るような、

強度のコミュニケーションを可能にならしめるようなヴィジョンを

与えることのできる”性”について考えたいのである。


「性交において―たとえ未知の人が相手であっても―、

また、出逢いがいかに行き当たりばったりで非人間的な

ものであっても―、個人が人生全体に対して抱く最も深い情緒が

表現される。憤り、憎悪、辛辣さ、歓び、やさしさ、慈愛、

これらすべてが性交の情熱と行為の中に宿っている。

そして、こうした情緒の中で他者を真に受け容れるには、

見捨てられ、孤独のまま放り出させるのではないかという不安を、

征服はしないにせよ、それを抱えて生きる覚悟を持たねばならない。」

(アンドレア・ドウォーキン 寺沢みずほ訳

『インターコース 性的行為の政治学』青土社P94)


人間とは今や生殖本能が壊れてしまった動物であり、

ある種の幻想を介在させることなしには性欲を抱くことすら

不可能であるという、性的唯幻論なるものを説く精神分析学者もいる。

それが事実であるか、正論としてとりあげることができるかどうかは、

まったく別にして、”性”というものを、私は考えたい。


「人間とは何か、存在とは何かの問いは、裸であるとは何か、

性欲があるとは何かの問いにつながる。

形而上の問いは性の問いである。」

(アンドレア・ドウォーキン 寺沢みずほ訳

『インターコース 性的行為の政治学』青土社P45)




人間とは何か、その問いに向かうことと、

セックスについて考えることは、同じなのである。


         つづくー



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