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負けイベ要員のモブAに転生した社畜、知らぬ間に賢王となる ~打算で救った亜人たちが裏で武装国家を建国している件~  作者: 笠鳴小雨


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第7話 モブ解析終了、亜人山賊見っけ



 暗黒騎士は、たった一本の剣に魅入られた剣馬鹿バカだった。


 剣を振る以外、脳がないらしい。

 そもそもデュラハンなので、顔すらないんだが。

 一体どこの器官で考えているのか不思議だ。


 戦う、負ける、一分だけ猶予をくれる――俺は延々とこの流れを繰り返す。

 毎日戦い続けた。戦い、戦い、戦い……「ちょっと待った!」と言ったら五分くらいプラスで息を整える時間をくれる。ただ、二回に一回は無視される。睡眠は口伝スキル【覚醒】で、無理やり体を起こして耐えていた。たまの五分で目を瞑って、毎度少しずつ回復させている。


 戦闘中はご飯も、小便も、まともとれるわけがなかった。

 だから最初の三日は本当に餓死寸前だった。飛ばされてきりもみしながら果実を搔っ攫って食べたり、転げ落ちたさ先にいた虫を掴んで頬張ったり、木を切って出てきた水分で喉を潤したり、それは俺の理想とするゆったりとして豊かな生活とはほど遠い、ガチサバイバルだった。


 そうして疲弊していった俺の前に、救世主ワンコが現れた。



「わんっ!」



 犬って忠誠心が強いって聞くけど、ここまで強いとは思わなかった。

 俺がこの世界に転生してきて最初に救ってくれた親代わりのワンコが、大量のりんごや魚を加えて現れたのだ。四日目以降、毎日ワンコは献身的にご飯を持ってきてくれる。


 りんごは濃くて赤いモノを選んでねとか、窪みはできるだけ深いやつねとか、左右対称な形をお願いねとか、美味しいものの見分け方を教えていたらちゃんと覚えてくれた。うちのママワンコは本当に賢い。だけどたぶん、ご飯を作ってくるシェフってよりも、餌を分け与えてやろうって感覚っぽい。まるで給餌機みたいなワンコだ。それでも感謝しか言えない。


 あと、心なしかワンコの体がちょっとだけ大きくなっていた。

 加えて、頭から炎のトサカみたいなものを生やしていたので、やっぱ犬じゃないのかも。


 これにより餓死問題は解消され、残るは排泄問題だけとなった。


 これもワンコが解消してくれた。

 塩湖の一部にふかふかの枯葉を敷いた場所を作ってくれて、俺はそこで一分間の休憩時間に排泄をする。それらをワンコが綺麗に取り除いてくれて、翌日には新しい枯葉が追加されているのだ。もうどっちがワンコなのか分からない状態だが、生きるための術を与えてくれたことに感謝をしなくてはいけないわん。


 でも、なぜ毎度このワンコは給餌してくれるのだろうか。

 給餌ワンコって呼ぶことにした。

 もっとエサほしいわんってある日言ったら、翌日エサの量が倍増した。ありがたや。



「今日こそ一本――ぶへしッ」



 三か月も剣の打ち合いをしていればわかることがある。


 暗黒騎士こいつ強すぎる。

 化け物、怪物、最終兵器って、たぶんこいつのための言葉だと思う。


 だいぶ暗黒騎士の使う剣の流れは解析出来てきているけど、次から次へと新しい技が出てくるので口伝スキル【解析】も対処しきれていない。たまに解析不能フリーズするので、少なくとも暗黒騎士の使う剣技ってのはチートと呼ばれる口伝スキルよりも、ずっと上位互換であることは間違いない。


 暗黒騎士というか、もはや暗黒剣神とかの方が合ってる気がする。


 暗黒剣神は、スキルも魔力も一切使っていない。

 純粋な剣技だけで、これはあまりに強すぎる。


 暗黒剣神は顔無いからご飯もいらないし、ご飯食べないから排泄も必要ない。

 だというのに、どこからそんな強さが溢れ出て来るのか不思議だ。

 光合成でもしているのだろうか。



 気づけば一年が経っていた。



「おっしゃあああ!! ようやくここまできた!」



 俺と暗黒剣神の間に、初めて火花が散った。

 単なる剣による防御ではなく、対等な力で押しあえたという証拠である。


 もちろん、まだ対等とは程遠い。


 二回に一回くらいで、打ち合うことができるようになった――という表現が正しい。


 つばぜり合いからさらに深く打ち込もうとすると、暗黒剣神はなんなく俺の力を受け流そうとしてくる。力の流れを瞬時に予測して、流れに逆らうように力を込めるとようやくつばぜり合いができるようになる。これは技術の話だ。流水の如く、神の剣技である。


 剣技以外にも、暗黒剣神からは新たな学びを得た。


 魔力ではあるけど、魔力ではない異質な力の存在とその制御方法である。

 戦って半年ほど経って、暗黒騎士の体から溢れ出る黒い魔力に気がついた。

 口伝スキルによって【解析】、そして何度も打ち合うことで暗黒剣神と呼吸が似てきたのか――これは魔力がより洗練されたことによって生み出された純粋んま魔力であったと知る。


 魔力が神の領域まで研ぎ澄まされると、人は魔力を感知できなくなるらしい。


 俺はこれを『魔力の偽造』と名付けた。

 この世界、強者になればなるほど魔力の機微に敏感になっていく。だから魔力で相手の様々な情報を瞬時に集約し、攻撃に転換する瞬発力が大事になる。だが、強者ほどこの『魔力の偽造』によって惑わされるのであれば、これは魔力を偽造しているに等しい状態だ。


 暗黒剣神のように感知させないことができれば、敵はその不自然な強者に戸惑うだろう。

 対して微量だけの魔力を持っているように嘘をつけば、敵は俺の強さを見誤るってわけだ。


 ゲームの頃は考えたこともなかった。

 魔力は魔術を使うためのエネルギー源程度にしか思っていなかった。

 でも実際は違ったのだ。魔力は様々な性質の集合体でできている。たとえば太陽を見たときに人は白いと思うが、実際は様々なエネルギーの波によって複合的に可視光として白く見えるだけにすぎない。つまり――俺がいままで観測していた魔力もこの白い光だったのだ。


 光には目に見える可視光もあれば、ガンマ線のような見えな不可視光もある。


 この見えない光を細分化して人間が知覚できるようになったとき、魔力の偽造は完成する。

 特に、暗黒剣神はその不可視光の中でも、俺が黒色に認識している魔力を重用していた。

 俺はこれを暗黒剣神から由来をとり【黒力】と呼んでいる。


 その性質は「吸収」と「発散」。

 あらゆる万物からエネルギーを吸収し、任意で発散するというシンプルな能力だ。

 おそらく暗黒剣神が食事をしない理由もこれにある。この塩湖には計り知れない不可視の魔力が蓄えられており、そこから力を吸収して生命活動の維持に当てているというわけだ。彼がこの塩湖から出られない理由は、間違いなくこれだろう。


 この黒力は、戦闘に無限の幅をもたらすことができる。


 俺はつばぜり合いの中、密かに吸収していた力を解放する。

 剣身が眩い光を放つ。同時に膨大な熱量を放出し、周囲の塩湖を蒸発させていく。


 もちろん生身の人間がこの熱量に耐えられる訳が無いので、俺は自身の体に薄い黒力をまとって発散と同時に力を吸収している。ほぼ無限機関である。


 その熱量が、徐々に暗黒剣神の剣を溶かしていき、半ばまで刃が食い込む。



「もう……少し!!」



 一か月貯め込んだ、太陽の光。

 それを純粋な熱量に変換して、剣から発散しただけの力技だ。


 これなら暗黒剣神を後ずさりさせることができると思っていた。



「――ぶへしッ」



 俺の秘策、黒力による太陽熱剣は瞬く間に攻略されてしまった。

 俺が発した熱線を暗黒剣神がより効率的に吸収し、消されてしまったのだ。


 純粋な黒力のパワーで負けてしまった。


 相手も黒力を使用できるのだから、吸収されるのは当たり前だ。

 ましてや息をするように黒力を操る暗黒剣神に、新米の俺が技量で敵うはずもなかった。


 一秒、一時間、一日でも早く――この化け物を倒したい。


 そう思い、俺は再び立ち上がる。



「もう一本……だ!」



 気づけば、暗黒剣神と出会い二年も経っていた。

 俺も齢が十二歳となり、小学校を卒業できそうな体つきになってきた。


 今日も今日とて、暗黒剣神と剣で語り合っていた。


 不意に、こんな言葉が脳裏を通り抜けた。



『口伝神術:玄流コクリュウ剣神術』――解析完了。



 口伝神術、それを俺は知っていた。

 ゲームで、その存在を見たことがある程度だが。


 口伝神術――それはプレイヤーが操れるものではない。

 運営側の意図するシナリオ上に存在する、明らかにプレイヤーに倒させる気のない負けイベントの裏ボス。攻略不能敵(負けイベボス)が使用する、ストーリーを強制的に進行させるためのぶっ壊れ能力として認知していた。


 つまり、口伝神術【玄流剣神術】はシナリオに強制力を与えられる可能性がある。

 黒力をベースに構築された、神域にもたどり着ける剣の技術と言って差支えないかもしれない。


 俺は解析を終えたこの日、確信した。

 もう暗黒剣神と剣を打ち合える日々もそう長くないと。



 数日後、俺は暗黒剣神と対峙していた。

 俺はいつもよりもずっと真剣な面持ちでいるが、暗黒剣神はいつだって表情を変えない。



「今日でお別れだね」


「――――」



 相変わらず返事は無い。

 だが、暗黒剣神もそれを理解しているのだろう。

 毎日見てきた剣を構える動作なのに、いつも以上に洗練された所作に見える。

 洗練されすぎていて常人では力の入れ具合を理解できないだろうが、二年も一緒にいた俺にはわかる。暗黒剣神は、はじめて俺に殺意を向けてきている。


 俺はふぅと大きく深呼吸をして、心身を整える。


 お互いに理解し尽くした剣術だからこそ、目線、重心位置、足先の方向、風向き、光の差し加減、さざ波で揺れる塩湖――すべてがフェイントになる。細やかなフェイントの応酬が続き、最初に攻撃をしかけたのは、暗黒剣神だった。


 たった一歩で、俺の斜め前にやってきて剣を振り下ろす。


 ただの剣を振り下ろす動作だが、今までのどんな一振りよりも洗練されていた。

 空気を割く音すら聞こえてこない。空間すら斬られていることに気がついていない。


 俺は流水のようにその剣の刃を滑らせ、受け流す。

 暗黒剣神の刃が地面につく寸前で、燕返しが襲ってきた。



 玄流剣神術、基礎剣技――「【空蝉ウツセミ】」



 自身の残像を放出し、その場に留める剣技を発動した。

 

 暗黒剣神の刃が空を斬る。



 玄流剣神術、奥義――「【流水八相剣】」



 空を斬った剣の刃を音もなく滑らせ、八本に見える剣が舞う。


 次の瞬間、俺の切っ先が彼の心臓の手前でぴたりと止まる。


 それを察した暗黒剣神は戦闘態勢を解くと、剣を手から零れ落していた。

 空いた手で、なぜか俺の頬にそっと触れた。



「―――」



 何を言うでもなかった。

 ただ静かにそっと俺の頭に手をそっと置いた。

 それから間を置くことなく、暗黒剣神の体が端から黒い霧に変わって消えていく。空へと登っていき、待ちわびたその日を堪能しているような感情が伝わってきた。


 役目を終えた、そう言わんばかりの豊かな光だった。


 俺はじっと暗黒剣神の姿をを見つめる。


 そんなときだった、最初は夢かとも思った。

 だが違った。俺の目の前には黒い靄のかかった大きな男性が、手を伸ばしてきていた。


 その逞しい男が、掠れた低い声で言う。



『――玄流剣神術(我が覇道)奥許おくゆるしを与えん』



 亡霊だったのだろうか。

 その男は最後に俺へ玄流剣神術の皆伝を告げた。


 俺は自然とその場で、感謝の礼をしていた。



「二年間ありがとう。でも……弟子に負けるって情けないね師匠」



 最後に俺は口角をあげて笑っていた。

 二年間一言も話してくれなかった師に対しての、最大限の煽りでもあり、もう一度会おうという俺からの気持ちでもあった。

 ほぼ消えかけていた師匠は、少しだけ眉を引きつらせていた。


 またどこかで会おう名も無き師匠。


 二年間を過ごした塩湖を、俺はすぐ立ち去った。

 当初の計画になかった二年間を、この師との稽古に費やしてしまったのだ。


 次の目標を叶えるために、急ぎやらなければならないことがある。


 金策だ。金が要る。

 王立魔術学校に平民が通うには、一億イースのお金――という名の賄賂が必要なのだ。


 そうして近くの都市に向かって歩いていたときに、とてもいいものを発見した。

 俺は百メートル近くある絶壁の頂上から、目を凝らしてみる。


 五キロほど先に、野蛮な亜人の住処を見つけたのだ。


 亜人、それは人間とは異なる種族を呼ぶときによく用いられる語彙である。

 エルフ、ドワーフあたりが有名だろうか。

 このゲームには、もっともっと多くの種族がいることを知っている。


 その中でも今視界に映っている亜人は――、



「ほうほう……これは魔族くずれの山賊の拠点か?」



 ラッキーだね。

 冒険者稼業や街で働いてちゃっちゃとお金を稼ごうと思っていたが、山賊から分捕るって手もありかもしれない。金をたんまりと貯めている山賊なら、金問題は一発で解決しそうだ。最初に手に入れた義賊のアーリー・クラウンはやっていたように、義賊ごっこで稼ぐのも悪くない。



「さて、モブ義賊の顔見せだ。俺のスローライフ……もとい入学賄賂の足しにしようか」



 俺は意気揚々と崖から飛び降り、山賊の拠点の前にやってきた。

 山賊の拠点は崖を力技でくり抜いた場所にあるようで、入り口には篝火が灯っていた。


 明らかに山賊風な装いをする魔族の門番が二人、そこに立っている。



「ヒャッハーッ!!! 何者だ!? どこから現れやがった、クソチビ!!!!」



 チンピラ魔族Aが、超高いテンションで叫んできた。

 隣にいるクール風チンピラ魔族Bがすぐに傍にあった紐を引っ張ると、竹と竹がぶつかるようなカランカランという音が山賊の住処に響き渡る。鳴子縄だ、渋いチョイスだね。


 なるほど、山賊にしてはよく訓練されている。


 俺を見て僅か一秒で、住処の中に警告を出した。

 素晴らしい判断能力だと思う。

 さらに二人ともすぐに腰に携えていた鉈と弓を構えていたので、相当強いかもしれない。チンピラとかいってごめん、立派な戦士だよ君たち。まあ俺にとってはタケノコの背比べだけど。



「いいね、ちゃんと山賊っぽいね。濃い血の匂い、女性の悲鳴、餓死したような腐敗臭……」



 間違いなく、彼らは魔族くずれの山賊だ。


 山賊からお金を分捕るのは罪にはならないだろう。

 だって、彼らが貯め込んでいるそれは、元々善良な市民から強奪したものだろうから。彼らにその所有を主張する権利はない。


 残念なことに、この世界に来て十二年――俺は生と死に関する倫理観はとうに捨てている。

 善良な市民を殺す連中からお金をむしり取ることに、抵抗は一切ない。

 転売ヤーをざまぁと思うくらいにしか感じない。


 単なる浄化作業だ。

 義賊アーリー・クラウンの人生も、捨てた者じゃないって今の俺にはわかる。


 さて、学園入学まであと三年。

 一億イース貯めるための金策ターン開始だ。



「金をよこせッ、山賊ども!! モブ義賊のおなりだ!!」

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