第30話 騎士団長 VS SS級冒険者
「お前たちは何者だ? なぜ勇者の遺物を所有している」
私は、SS級冒険者として名を馳せるゾヴァエルに尋ねていた。
なぜ彼ほどの実力者が、国に対し反旗を翻しているのか。なぜオルトと名乗る男に、従っているのか。すべてが謎だ。
私の問いに対し、半笑いでゾヴァエルは口を開く。
「気になるか?」
「国防に関わることだ。答えろ」
「オレと問答している暇があったら、王子様を助けたらどうだ?」
「優先順位が変わっただけだ。勇者の遺物、SS級冒険者、そしてそれらを支配するオルトという男――こちらの方が国益に対し害をなすと判断した」
「現実主義な騎士団長様なこった」
「早く答えろ」
そう問いかけると、ゾヴァエルは打って変わって真剣な表情になる。
「我らオルト帝国は、勇者の意思を受継いだ。これがすべての答えだ」
その返答を聞き、私は驚愕していた。
勇者の遺物、勇者の意思。
これらは聖ブルゾーリア共和国の禁書庫にある、勇者にまつわる書物に書かれていた言葉である。各国の王族や、それに準ずる地位を持つ者しか知らない知識のはず。
「まさか……貴様らは人類平定をするとでも言うのか?」
「ほう、二千年も前の話だってのにやけに詳しいな。さすが王族様ってわけか……だが違うな」
「なんだと?」
「我らがオルト様が望むのは、勇者の言う陳腐な野望ではない」
ゾヴァエルは大剣を空に掲げ、大きな声で言った。
「全種族平定だ。人族などその一種族にすぎない」
「そんな理想、叶うはずがない! 普通の人間ならもっと現実的な――」
「オルト様の野望をあざ笑うやつは、何人たりとも許さない」
彼の逆鱗に触れてしまったようだ。
ゾヴァエルは途端に敵意を向け、大剣を構えた。
「構えろガリアス、どうせオレたちは剣でしか語れない」
「そうだな。強者であれば刃を交えた方が早い」
私も白銀の剣を構える。
強者同士の試合は一瞬で決着が着く。
間合いを見極め、魔術の強度で押し合い、一撃を入れた方が勝ちとなる。
だからこそ、最初の一動作が勝敗を分け――。
私は目を疑っていた。
目の前の男は、間合いなど関係ないと言いたげに堂々と近づいてくるのだ。オルトという男と同じだ。
ならば、私の間合いに入った瞬間に斬るだけだ。
それから間もなく、ゾヴァエルは間合いに入った。
――カイスト王国剣術:天使ノ断罪。
剣を横薙ぎに振り払った、その瞬間だった。
「なっ!?」
繰り出したはずの大剣は、剣術を繰り出す手前で止まっていた。
いや、止められていた。
「十大英傑もこの程度か」
瞬きよりも速く、ゾヴァエルは私の目の前に立っていた。
それどころか力強く振ったはずの剣を持つ手を、片手の握力だけで制止していたのだ。
冷や汗が止まらなかった。
この一撃を止めた者など、私の記憶にはない。
それどころか機会を見極め、技の発動の寸でで停止させる神技。
ゾヴァエル、奴は私よりも圧倒的に強い。
死を直感した。
「ハアァァァァァァアアッ! 負けるか! ――口伝奥義『守護超人』!」
咄嗟に、私は天使を召喚していた。
それもいま召喚できる最大の数――三十五体を召喚した。
圧巻の光景を見て、ゾヴァエルは笑っていた。
「まだこんな出せるのか」
「何がおかしい、貴様はすでに詰んでいるのだぞ。私の強さは剣だけではない、国防を司る天使が最大の――」
「さすがのオレでも天使は斬れん。新兵器でも試すか」
観念すると思いきや、ゾヴァエルは諦めていなかった。
私の手を放し、後方に大きく退避する。
それと同時に、片手を空へと掲げていた。
「帝国砲、放て」
片手を振り下ろす。
古城から何か光が放たれた。
「あれは――」
私のつぶやきも束の間、それは降り注いだ。
弓矢よりも早く、魔術よりも正確。
空から、無数の白き光が襲ってきた。
高密度の魔力を感知し、それが極細魔力であることを瞬時に理解した。
神の御業にも等しいそれらは、天使の脳天を貫いていた。
それも三十五体すべてを的確に、同時に、瞬きよりも速く打ち抜いていた。
「馬鹿な!? 絶対防御の天使が……たったの一撃で」
天使は一体いれば一騎当千、ドラゴンとも対等に渡り合える存在だ。
万物の魔術を光に変え、国を繁栄させる祝福変える絶対防御を使う。
歴史上、この絶対防御が破られた記録など存在しない。
時代の常識が塗り替わる衝撃だった。
「これは凄い。さすがオルト様の叡智によって進化した砲撃だ、惚れ惚れするな」
天使の召喚でほんの一瞬顔を歪めていたゾヴァエル。
彼の表情が恍惚とした、幸せを噛みしめるような表情に変わっていた。
「貴様ァァァァァッ! 一体、何を創った!」
私は白銀の大剣を握り、走り出していた。
いま、このとき。
あの男を止めなければならない。
先ほどの神の光は、この世界にあってはならない武器だ。
世界の根幹が揺るぐ、戦の常識が変わる。
たった一言の脅しで、奴らの言うことを聞くしかなくなる未来が近いうちに来る。
あれは――世界への冒涜だ。
「オルト=クロードォォォォッッ!! 貴様の命――」
私は走り出していた。
愚甥へちんたら向かうオルトと名乗る謎の男に向かって。
いま奴の息の根を止めなければ、この国は必ず滅ぼされる。
そうしなければ――我が国の繁栄はここで途絶える。
「グフッ…………貴様……」
横腹に強烈な衝撃が襲ってきた。
横を見れば、そこにはゾヴァエルの姿があった。
剣でもなく、ただ魔力を込めた拳を私の横腹にぶつけたのだ。
体術すら、お前は一流だと言うのか。
気づけば、地面に突っ伏していた。
意識が遠のいていく。
「オルト様と刃を交えるなんて百年早いわ。オレですら足元にも及ばないというのに」
視界が霞んでいき、私は意識を手放していた。
◆◆◆
「貴様、次期国王である俺に何の用だ!?」
俺の目の前には、勇敢さを取り戻したジューン王太子がいた。
さきほどまで小鹿みたいに震えていたのが嘘みたいな勇敢さだ。
これもメインキャラとしての補正だろうか。
…………股間が濡れてなきゃ、ちょっとはカッコいいと思えたのに。
やっぱり今の君は残念王太子だよ。
「ん? この匂い……覚えがあるぞ」
不意に、王太子がなにかを言い始めた。
「わかった。お前――平民のオルマだな!」
はて?
どうやって王太子が俺のことを見破ったのか。
オルマは先ほど死んだことを目にしたはずだ。
実際に剣を刺した張本人が一番よく理解しているはず。
もちろんあれは口伝スキルによる幻影だ。
口伝スキル【虚像】。
対象の五感全てを支配し、誤認させることのできる優秀なスキルである。
たかが王太子に口伝スキルを見破れるとは到底思えないが――。
「俺には神に与えられた嗅覚がある! 誤魔化すことなどできないぞ!」
などと考えていたら、ぺらぺら答えてくれた。
聞いてもいないのに。
うん。
やっぱ王太子、馬鹿だわ。
こいつを調教するとかちょっと自信なくしたかも。




