第12話 終局、モブの奥義
「立て!! 膝を着いてる暇があるなら、武器を振れ!」」
「神ノ為ニ!! 命ヲ捧ゲヨ!!!!」
乱戦になったオークと魔族の戦士たち。
彼らの族長たちは、仲間のために声をあげ続けた。
戦場には数多の死体や怪我人が転がっている。
それでも彼らはそれぞれの信念のために、武器を振るい続けた。
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「結局……コウナルカ、人間ヨ」
「ああ、そうだな。オークの族長よ」
強者同士の争いゆえに、戦いは短時間で決着が着こうとしていた。
いま、戦場に立っているのはそれぞれの陣営で五名ずつほどしかいない。
その中でもひと際体力を残していたのは、互いの族長だった。
とはいえ両者共にかなり疲弊していた。
それも仕方のない結果だった。
族長の命を取れば戦況が変わる、そんな状況が続いたのだ。
二人は乱戦であったにも関わらず、四方八方から常に命を狙われ続けた。
それでも両者はすべてをいなした。
誰よりも体力を残して、傷を浅くし、戦場に立っていた。
「これ以上は不毛だ。一対一で決着を着けようか。負けた方がこの地を離れると誓え」
「仕方ナイ、コレダケハ望マナカッタガ」
オークの族長は、モモッチの問いには答えなかった。
ただただ悔しそうに、自分の言葉を紡いでいく。
「皆、下がれ。あとは私とオーク族長の戦いだ」
モモッチは残りの魔族たちを下がらせ、オークの族長の前に立ち塞がった。
それを視界の端で捉えながらも、オークの族長は側近のオークに伝える。
「次ノ族長ハオ前ダ、ギーミ」
「ハッ!」
全ての役目を終えたように、オークの族長はコートを脱ぎ捨てた。
露わになったのは、肌に刺青のように刻まれた紺青の文様だった。
その文様の一部を、彼は短剣でえぐりとった。
次の瞬間――彼を覆う魔力が数倍に膨れ上がった。
「なんだよ、それ。最後の切り札ってか?」
あまりの変わりように、モモッチは驚き目を瞠っていた。
さきほどまでオークの族長は自分と同等か、あるいはそれ以下の魔力しかなかった。
だというのに一連の動作をしただけで、族長を覆う魔力が爆発的に膨れ上がった。
族長すらも制御しきれていない魔力は、周囲に暴風を生むほどに暴れ狂っていた。
今まで押さえていたものが解放されたような、荒ぶる魔力。
解放されて落ち着いたのか、族長が口を開く。
「最後ニヒトツ伝エテオク」
「なんだ、急に改まって」
「我ラハ戦ヲ望ンデイナカッタ。神ノ示シタ道ダッタノダ、スマナイ」
「どういう意味だ、それ」
「スマナイ、時間ガ無イ。行クゾ、勇敢ナ戦士ヨ」
オークの族長の言葉を、モモッチは最後まで理解できなかった。
だが、彼が命を賭してこの力を解放し戦おうとしていることは理解できた。
それで十分。
誰もが命を懸けて戦場に立っているのだ。
両者――重心を落として、最後の攻撃を探り始める。
重心を右に寄せれば、相手も右による。
逆に寄せれば、左による。
足を半歩前に出せば、相手は半歩下がって間合いを確保する。
不意にモモッチの首筋にちくりと何かが刺さった。
次の瞬間には、よろけて地面に膝をついていた。
足が思うように動かなくなり、目の焦点が定まらなくなる。
揺れる視界の端で人影が動く。自分がなぜ倒れているのかを悟った。
先ほどのギーミと呼ばれていたオーク戦士が、吹き矢でモモッチを狙い撃ちしたのだ。
疲弊と魔力の暴風、そして族長に集中していたタイミングだったからこそ成功した奇襲。
「うぐっ……クソが」
「コレモ運命ダ」
これが命のやりとりだ。
そう言わんばかりに覚醒したオークの族長が駆け出し、剣を振り上げた。
「――何が運命だって?」
無情にも振り下ろされた族長の剛剣は、首を落とす寸前で止まっていた。
それどころか、その重たい剣は簡単にはじき返された。
モモッチを守るように、前に小さな影が立ちはだかった。
黒い剣がモモッチを守っていた。
安堵から尻もちを着きつつ、歪んだ視界で見上げる。・
そこには、まだあどけのない幼い少年がいた。
「ハハハハッ…………私は運に恵まれたな」
モモッチは安堵して、笑っていた。
荒ぶる魔力を纏った剛剣を平然と受け止められそうな強者など、たった一人しか思いつかなかった。
勝利の女神は魔族に微笑んだ。
◆◆◆
「何者ダ、貴様!?」
めっちゃ大きいオークが、俺に対して凄んできた。
なんでみんな俺の名前を聞きたがるのだろう。
ほんの一瞬そう考えつつ、不毛だなと思って考えるのをやめた。
無いものは無い、ひねり出すのは辞めよう。
「傭兵ごっこをしているモブAといったところかな」
「何ヲ訳ワカラナイコトヲ言ッテイル!」
「それよりもさ、君がオオクニツ・オークの族長だよね」
「アア、ソウダ」
「君に言いたいことがあるんだ。俺、運命って言葉大嫌いなんだよね。運命に抗おうとしている俺にとって、運命は宿敵なんだ」
「何ヲ言ッテ……」
「だからさ、もっとみんな自由に生きていいと思ってる。みんな呪いだとか、神のためだとか、運命に縛られすぎじゃない? もっと自由でいいのに」
「神ノ道ニハ逆ラエナイ、絶対ニ」
「そこまで頑固なら試してみようか」
「一体ナニヲ……」
「ちょうど試し斬りしてみたかったんだ。弱っちい神の運命なら、俺でもなんとかできちゃいそうな気がするんだよね」
俺はそう言って、黒剣を横に構える。
剣の腹に手を添え、切っ先は背後に向ける。
――口伝神術、玄流剣神術。
この解析を終えたとき、俺にはこの剣術の未来が僅かに見えていた。
剣神術とは、剣の神が編み出した技術ではない。
神を殺すために編み出された剣技だったのだ。
つまり、玄流剣神術は神を殺すことのできる剣術である。
ただ、どういった原理で神を斬れるのかは全く想像ができなかった。
適当に振るったところで空気を斬るだけで終わってしまう。
神ともあったことがないので、試し斬りしようにもする機会がなかった。
モモッチら魔族の言う――呪い。
オオクニツ・オーク族の言う――神の為に。
彼らの言う呪いや神の運命。
呪いやら、神やらに縛られている彼らには、一つ共通点があった。
彼らのつむじ辺りから、細く黒い煙のようなものが空に向かって立ち昇っているのだ。だというのに、彼らはそれを認識していない。たぶん俺にしか見えていない。
それを昨日切ってみたら、ザコーダの呪いが解放された。
たぶん呪いは、神となんらかの関係のあるデバフなのだろう。
ぶっつけ本番だ。
できるかはわからないが、まあやってみようか。
「久しぶりに全開でいこうか」
俺は魔力を全開放する。
今まで魔力の偽証にも費やしていた力もすべて、黒剣だけに集約した。
玄流剣神術、奥義――「【神滅】」
横一閃。
彼らの頭上に浮かぶ煙を、俺は一太刀で断ち切った。
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黒煙を斬った瞬間、世界の時間が停止した。
聞こえていた草木の摩擦音、虫の鳴き声、戦場で苦悩していた彼らの呼吸音――すべてが消えた。完全な無音の空間、温度も感じない世界だった。
目の前に、二体の神っぽいやつが現れた。
一人は「勇者」という表現が最も似合いそうなイケメン。
もう一人は、性格がねちねちしていそうな隈の濃い不健康少年。
彼らの体は半透明で、あきらかにここには存在していないような存在感だった。
どんどん体が薄くなって消えていくので、俺は咄嗟に尋ねていた。
「ねえ、玄流剣神術でメーツ=ボウツォ辺境街にいる死神って斬れる?」
ねちっこそうな不健康少年は、鼻で笑って首を横に振った。
半透明なイケメンは、神妙な面持ちなのにジェスチャーでバッテンを作って教えてくれた。
「うーむ、やはり順当にフラグを折っていくしかないのか」
考え込んでいると、彼らの時間があまりないのか慌てた様子だった。
喋りたいけど話せない、そんな様子だった。
俺はゆっくりと顔を上げて、彼らを見る。
「なんか君たちあんまり悪者って感じじゃなさそうだね」
激しく同意したかったのか、彼らは異様なほど首を縦に振っていた。
なんか神様っぽいのに、反応が人間らしくて少し可笑しい。
神と言っても、割とフランクな存在かもしれない。
「あ、最後に一つ。黒煙……斬っても良かった?」
そう聞くと、彼らの表情は明るかった。
ねちっこ不健康少年は俯きながらも突き出すようにサムズアップしてきて、勇者風イケメンは頭上で大きく丸をジェスチャーで示してくれた。
彼らの表情を見る感じ、この状況は意図するものではなかったのかもしれない。
結果良ければすべてよし、である。
「じゃあお元気で」
さすがにもう掻き消えそうだったので、俺はゆっくりと手を振って彼らを見送った。
それから間もなくのこと、不意に俺の口伝スキル【解析】が勝手に反応した。
――口伝神術『勇酔智将』を獲得。
――口伝神術『地福戦記』を獲得。
俺の意思に関係なく【解析】が稼働したことは今までなかった。
不思議に思いつつも、まあそんなこともあるかと考えることにした。
これにて一件落着になるといいな。
さて、5000万イースを回収すしようか。




