炎神の神槍と、深淵の嘲笑
大気を震わせる巨大な漆黒の蛇。使徒の結晶を埋め込まれ、無数のS級モンスターを喰らって蟲毒を制したその化け物は、明確な殺意を持って俺たちを睨み下ろしていた。
「橘、結衣! 防衛ラインを死守しろ! 雪乃、チャオ、ハク、椿、咲耶! 俺が隙を作る、一斉攻撃の準備だ!」
「「「了解!!」」」
俺の号令と共に、ギルド『黎明』の陣形が完璧に稼働する。 大蛇が口を大きく開き、周囲の木々を一瞬で枯死させるほどの猛毒の瘴気ブレスを吐き出した。
「【絶対防壁】ッ!」
「【完全均衡の祝福】!」
橘の紫色の盾がブレスの直撃を受け止め、結衣の黄金のバフが俺たちのステータスを爆発的に引き上げる。
俺は視界のウインドウを開き、ストックされた『4,710,000』の保留ポイントを、新たな仮想武具の構築へと全額注ぎ込んだ。
「来い。すべてを貫く絶炎」
右手に莫大なマナが収束し、赤黒い炎が一本の長大な『槍』の形を為していく。
相性値による乗算。
そして白虎のコアによって拡張された俺の魔力回路が、その理不尽なエネルギーを完全に制御下へ置く。
「――炎神の仮想武具:『神滅槍・天照』」
ゴゥゥゥゥゥンッ!! 槍が顕現した瞬間、大蛇の放っていた猛毒の瘴気が、圧倒的な熱量によって一瞬で蒸発した。
『シャァァァァァァッッ!!』
本能的な死の恐怖を悟ったのか、大蛇が巨大な尾を鞭のようにしならせ、俺を粉砕せんと振り下ろしてくる。
「させないわ!」
「『氷絶・華乱』!」
椿の『翠嵐・旋刃』による暴風の刃と、雪乃の絶対零度の氷撃が交差し、大蛇の尾を空中で弾き飛ばす。さらにチャオの青龍刀とハクの物理打撃が大蛇の胴体を深く抉り、その体勢を完全に崩した。
「チリ一つ残さず消えなさい――『終焉の紅蓮』!!」
咲耶が天から極大の劫火を降らせ、大蛇の逃げ場を完全に封じ込める。
「これで、終わりだッ!」
俺は神速で地を蹴り、空へと跳躍した。
470万のポイントを注ぎ込んだ神滅槍を大きく振りかぶり、大蛇の額に輝く『使徒の黒い結晶』へと向けて、渾身の力で投擲する。
ズドガァァァァァァァァァァァァァァァンッ!!!!!!!
閃光。そして、空間を消し飛ばすような大爆発。 神滅槍は黒い結晶ごと大蛇の頭部を貫通し、蟲毒を制した最強のバケモノを、断末魔すら許さずに灰燼へと帰した。
【討伐完了:暴食の邪蛇】
【獲得経験値:12,500,000】
「……一千万超え、か」
着地した俺がシステムログを確認した、その時だった。
『――素晴らしい。まさか、あの蟲毒の完成体をたった一撃で屠るとは』
パチ、パチ、と。 静寂を取り戻した黒い森の奥から、乾いた拍手と共に『奴』が現れた。 純白のスーツ。感情の読めない薄気味悪い笑顔。新宿で西園寺厳冬をバケモノに変えた、謎の組織の『使徒』だ。
「……ッ! お前、よくもノコノコと姿を現したわね!」
椿が鉄扇を構え、咲耶が即座に魔法陣を展開する。
『おや、殺気立たないでいただきたい。私はただ、極上のデータの回収に来ただけですから。……天谷湊。あなたのその異常な成長速度は、我々の神にとって最大の障害であり、同時に最高の「器」となり得る』
使徒の周囲の空間がぐにゃりと歪み、圧倒的な重圧が森全体を押し潰すようにのしかかってきた。新宿で遭遇した時よりも、遥かに凶悪で、底知れないマナの深淵。




