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不協和音の共闘




かつて一日に数百万人の人々が利用していた渋谷駅。その地下通路は今や、鉄とコンクリートの無機質な空間ではなく、おぞましい熱気と拍動を伴う「巨大な生き物の喉奥」へと変貌していた。


壁面を覆うのは、血管が浮き出た赤黒い肉腫。


一歩足を踏み出すたびに、アスファルトを侵食した肉厚の組織が、粘り気のある音を立てて俺の靴を絡め取る。


「……チッ。胸糞悪い場所だぜ。まるごと叩き潰してやりたくなるな」


先頭を行く、トップギルド『紅蓮の百獣』のマスターにして七星が一角、『剛衝ごうしょう』の二つ名を持つ獅子神咆牙が、苛立ちを隠そうともせずに吐き捨てた。


その背中からは、周囲の瘴気を強引に弾き飛ばすような、暴力的な圧が立ち昇っている。だが、その足取りに一切の迷いはない。


俺は少し遅れて、結衣を背後に庇いながらその背を追った。


空中に展開したステータスを確認する。


【HP】100,000 / 100,000

【MP】196,160 / 196,160


長野での死闘や、西東京のダンジョンで過労で倒れた際のダメージは、ポイントによる修復と結衣の回復魔法によって完全に抜け切っていた。


HPもMPも万全。俺の体内で燻る『炎』の種火は、かつてないほどに鋭く研ぎ澄まされている。


「おい、モヤシ。そんな余裕ぶった面で俺の背後に立つんじゃねえ。殴り飛ばしたくなるだろうが」


「……殴り飛ばせるなら、ですけどね」


「あァ!? てめぇ……っ!」

獅子神が振り返り、牙を剥き出しにして睨みつけてくる。


かつてならその殺気だけで膝を突いていたかもしれない。だが今の俺は、その熱圧を正面から受け流し、静かに睨み返した。


その一触即発の空気を、結衣が慌てた声で遮った。


「あ、あの! 獅子神さん! 念のために言っておきますけど、私の付与魔法バフは天谷さんのようにステータスの末尾が『0』で揃っている方にしか効果がないんです。獅子神さんのように、極限まで鍛え抜かれた……その、不規則な数値の方には、強化をかけられませんので……!」


「……バフだぁ?」


獅子神は鼻で笑い、結衣を一瞥した。


「そんな不自由なもん、最初からアテにしてねえよ。俺の力は、他人から恵んでもらうような安っぽいもんじゃねえ。……数字に頼らなきゃ戦えねえ連中と一緒にすんじゃねえぞ」


傲慢。

だが、それが七星としての絶対的な自負。


獅子神は再び前を向くと、巨大な肉腫の壁を、その拳から放つ衝撃波だけで強引に抉じ開けて進んでいく。


地下四階――副都心線ホーム跡。


そこまで辿り着いた時、俺たちの目の前に広がる光景に、言葉を失った。


「……何よ、これ……」

結衣の悲鳴に近い呟き。


かつて広大な吹き抜けだった空間。その中心には、天井まで届くほどの巨大な「まゆ」が鎮座していた。


それは数百人、いや数千人分のモンスターの肉を継ぎ接ぎしたような、悍ましい生命力の塊だ。


繭の表面には、長野の迷宮と同じ「黄金の回路」が血管のように脈打ち、そこから発せられる『ゴポッ……ゴポポポッ』という水音が、巨大なスピーカーのように駅構内を震わせていた。


「これ、孵化しようとしてるのか……?」


「……いや、それだけじゃねえ」


獅子神が、鋭い視線を繭の根元へと向けた。

そこからは、何十本もの太い肉の管が伸びており、それが線路の奥――さらに深くへと、日本の血管を伝うように伸びていた。


「……こいつが他のダンジョンへ、マナを流し込んでやがるのか?」

その時だった。


繭の影から、静かに、そして絶対的な「拒絶」を伴う気配が立ち昇った。


『――来タか。システムの歪ミよ』

「ッ……! 結衣、俺の影に隠れろ!」


暗闇の中から現れたのは、黒い金属質の装甲に身を包んだ、二足歩行のモンスターだった。


その頭部には、騎士の兜のような意匠があり、手には自身の身長ほどもある巨大な「大鎌」を携えている。


【ランク:測定不能イレギュラー

【名称:特異知性体・深淵の守護者アビス・ガーディアン


これまでの魔将や幻馬とは、放つプレッシャーの「重さ」が違う。


ただ立っているだけで、周囲の空間が物理的に押し潰されるような、圧倒的な重力。


『ココハ、我ラガ苗床。生ゴミ共ニ、踏ミ入ル権利ナド無イ』


「ハッ! 誰が生ゴミだって?」


獅子神が口角を吊り上げ、全身の筋肉を爆発的に膨張させた。


「人語を話すバケモノが……面白ぇ。てめぇのその首、俺のコレクションに加えてやるよッ!!」


『剛衝』の名に違わぬ、隕石のような突進。

だが、その速度は――深淵の守護者には届かない。


ギィィィィィンッ!!


守護者が無造作に振るった大鎌が、獅子神の剛拳と正面から衝突した。


爆発的な衝撃波が吹き荒れ、周囲の肉壁が消し飛ぶ。


「なっ……止めやがった!?」

『次ハ、我ノ番ダ』


大鎌が黒い閃光となって獅子神を薙ぎ払う。


獅子神は咄嗟に腕を交差させて防いだが、その巨体が弾丸のように吹き飛ばされ、ホームの端にある鉄柱へとめり込んだ。


「獅子神さんッ!!」

『……次ハ、貴様ダ』


守護者の冷酷な瞳が、俺を射抜く。


俺は左手で結衣を背後に押しやり、『崩星の籠手』に、体内を巡る全ての魔力を集中させると同時に、俺は、ウインドウを操作した。


【筋力】100,000 → 180,000

【俊敏】132,800 → 197,800

【保留ポイント】189,000 → 44,000


万が一のための保険で少しポイントを残しつつ、ステータスの数値を、結衣のバフを受け入れられる『0』に揃える。


「結衣、頼む……! !!」

「は、はいっ!! ――【完全均衡の祝福パーフェクト・バランス】!!」


俺の全身を、爆発的な黄金のマナが包み込む。

全ステータス5倍。


極限まで研ぎ澄まされた俺の五感が、守護者の大鎌の「軌道」を捉えた。


さらに右腕には火の魔法を纏い、高密度な赤黒い炎が噴き出す。



【ステータス】

【名前】天谷 湊

【HP】100,000 / 100,000

【MP】196,160 / 196,160

【筋力】180,000 (バフ時:900,000)

【俊敏】197,800 (バフ時:989,000)

【体力】50,000 (バフ時:250,000)

【知力】53,040 (バフ時:265,200)

【魔力】200,000 (バフ時:1,000,000 / 魔法:火属性Lv.2)

【保留ポイント】44,000


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