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魔法の発現



「……ふぅ。これで、傷は完全に塞がりました。でも、無茶しすぎですからね、本当に」


長野ダンジョンの第30階層。


黄金の幻馬アウルム・ナイトメアが霧散し、濃密な瘴気が薄れ始めたボス部屋の片隅で、結衣が安堵の息を吐きながら杖を下ろした。


彼女の献身的な手当てと持ってきていた強力な回復薬のおかげで、俺のHPゲージは安全圏まで回復し、炭化して骨まで見えていた右腕も、すっかり元の皮膚を取り戻していた。


「サンキュ、結衣。助かった」


俺は立ち上がり、軽く右腕を握り込む。痛みはない。


だが、あの極限の死闘の中で引きずり出した「熱」の感覚は、確かに身体の奥底に焼き付いていた。


空中に展開したステータスウインドウの最下段に視線を落とす。


【魔力】200,000 (魔法:火属性Lv.2)


「なぁ結衣。俺のステータスに『火属性Lv.2』って追加されてるんだが……この魔法のレベルってなにかわかるか?」


俺が尋ねると、結衣は少し驚いたように目を丸くした。


「やっぱり魔法が発現したんですか? すごい……魔法や支援系のスキル持ちではないのに、自力で魔法を発現する人なんて噂でしか聞いたことありませんでしたが…」


「死に物狂いだったからな。で、このLv.2ってのは強いのか?」


結衣はこくりと頷き、人差し指を立てて解説を始めた。


「探索者の魔法は、威力の強さによってLv.1からLv.3までの段階に分けられています。レベルの数字が上がるほど、より魔法の威力とコントロールが上がると聞いたことがあります」


「なるほど。じゃあレベルを上げれば、手っ取り早く火力が上がるってことか」


「いえ、そこが魔法の少しややこしいところなんですが」


結衣は真剣な表情で首を横に振った。


「ステータスの【魔力】の数値が大きい人が使う魔法の方が威力は高いようなので、【魔力】の数値が同じ人同士で火力を競った場合は魔法スキルのLv.が高い方が優ると覚えていただければ問題ないでしょう。もしかしたら狙わずとも偶然的のデバフの影響で【魔力】数値に大きいポイントが割り振られたことをきっかけに発現したんですかね」


「……なるほど。何にしても魔法が発現しなかったら危なかった」



「……とはいえ、炎を拳の内部に『圧縮して爆発させる』なんていう無茶苦茶な使い方をするのもその発想が湧くのも天谷さんくらいですからね........」


呆れたように言う結衣の言葉に、俺は苦笑するしかなかった。


確かに、炎そのものは、モンスターを焼き尽くすほどの火力はなかった。だが、俺の最大の武器である打撃と掛け合わせることで、圧倒的な破壊力シナジーを生み出せたのだ。


「魔力へのポイント割り振り、か……」


今までは物理攻撃一本槍だったが、魔法という新たな手札が加わった意味は大きい。これをどう活かすか。


俺は次なる戦いを見据え、思考を深く巡らせた。


   * * *


同刻。関西方面・京都『千本鳥居の迷宮』。


「ハァァァァッ!!」


薄暗いダンジョンの鳥居を縫うように、青白い一条の光が駆け抜けた。


『銀閃』の異名を持つ柊雪乃の双剣が、Aランクの変異種と思われる巨大なオーガの群れの首を、瞬きする間に十数体まとめて刎ね飛ばす。


「す、すげえ……! あれが、『銀閃』の柊雪乃……!」


「なんて速度だ、目で追うことすらできねえぞ……ッ!」


後方で待機していたSランク探索者で構成された部隊の探索者たちが、その圧倒的な蹂躙劇に息を呑んでいた。


無理もない。現在の雪乃のステータスは、湊から出発前に強引に譲渡された膨大なポイントによって、合計100万というとてつもない領域に達しているのだから。


雪乃は返り血を払うように双剣を一振りし、静かに息を吐いた。


これほどまでの理不尽な速度で動いているのに、引き上げられた体力が筋肉の自壊を完全に防ぎ、無尽蔵のスタミナを与えてくれている。斬撃は、Aランクモンスターの強固な皮膚も紙切れのように両断した。


まさに、七星に匹敵しうる絶大な力。

(湊……あなたがくれたポイントのおかげよ。でも……)


雪乃は、床に転がる何十体もの鬼の死骸を見下ろし、美貌を険しく歪めた。


圧倒的な力でねじ伏せてはいるが、戦闘中にずっと違和感が拭えなかったのだ。

通常のモンスターは、本能と破壊衝動のままに群れで襲いかかってくる。


だが、この京都ダンジョンの変異種たちは違った。


前衛の重装オーガが盾を構えて足止めを行い、後衛のゴブリン・メイジが魔法の詠唱を合わせ、側面から身軽なワーウルフが奇襲を仕掛ける。


まるで、統率の取れた「軍隊」のような動きだった。


(ただの群れじゃない。……誰かが、明確な意図を持ってこのモンスターたちを『指揮』している)


雪乃は迷宮の奥深く、底知れぬ瘴気が立ち込める深層部を睨み据えた。


渋谷で遭遇した、人語を解する特異知性体。あのような存在が、この迷宮の奥にも確実に潜んでいる。

長野へ向かった湊のことが、痛いほど案じられた。


あちらのダンジョンも、間違いなくなんらかの異変が起こっているはずだ。無茶な戦い方をする彼のことだから、また命を削っているのではないか心配だ。


「……死んだら許さないわよ、湊」


小さく呟き、雪乃は双剣を強く握り直した。


自分がこのダンジョンをいち早く制圧し、彼の元へ駆けつけるしかない。


雪乃は再び銀色の閃光となって、血と瘴気の立ち込める迷宮の闇を切り裂いていった。



【ステータス】

【名前】天谷 湊

【HP】10,000 / 100,000

【MP】196,160 / 196,160

【筋力】100,000

【俊敏】132,800

【体力】50,000

【知力】53,040

【魔力】200,000(魔法:火属性Lv.2)

【保留ポイント】189,000


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