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過保護な譲渡と、即席のSランク




「……ちょっと、湊。これ、どういうことかしら?」


防衛省のロビーで、関西方面への出立を控えていた雪乃が、地を這うような低い声で凄んでいた。


彼女の眼前に展開されているのは、自身のステータスウインドウ。だが、そこに並んでいる数値は、普段の彼女のものとはまるで違っていた。


【筋力】202,500 → 300,000(+97,500)

【俊敏】154,000 → 445,000(+291,000)

【体力】30,000 → 200,000(+170,000)


主要ステータスが跳ね上がり、合計数値はおよそ「150万」。七星に匹敵する、正真正銘のバケモノのステータス数値である。


「いや、その……関西方面のダンジョンも何が起こるか分からないし。雪乃さんが心配だったから、俺の保留ポイントから少し譲渡しておこうかと……」


湊が視線を逸らしながら頬を掻くと、雪乃の綺麗な顔がみるみるうちに赤く染まった。


「これが少し・・・?」

「ひぃっ!?」


防衛省のロビーに、銀閃の怒号が響き渡った。


「自分のポイントを他人に譲渡して、自分の力を減らしてどうするの! !」


「は、はい……」


それから約三十分間。


湊は直立不動のまま、雪乃からこってりと説教を受けることになった。隣で見ていた結衣が「あわわ……」とオロオロするほど、その怒られっぷりは堂に入っていた。


「……まったく。本当に、あなたは危なっかしいんだから」


ひとしきり説教を終え、肩で息をした雪乃は、ふいっとそっぽを向いた。


だが、その耳は微かに赤く染まっている。


「でも……ありがとう。正直少し不安だったの…、でもこんなにしてもらったら絶対無事に帰ってこないとね」


「雪乃さん……」

「長野のダンジョンは未知の瘴気が溢れてるって話よ。そっちも絶対に死なないでよ、湊」


それだけ言い残すと、雪乃は照れ隠しのように足早に部隊の待つヘリポートへと向かっていった。


   * * *


数時間後。


長野県、鬱蒼とした深い森の奥に口を開ける『深緑の迷宮アルプス・ダンジョン』。


現地に到着した湊と結衣を待っていたのは、厳戒態勢を敷く物々しいキャンプだった。防護服に身を包んだ職員たちが走り回り、絶え間なく運び込まれる負傷者の対応に追われている。


「ひどい……。皆さん、毒にやられているみたいです」


結衣が顔を青ざめさせて呟いた。


「ああ。内部から溢れ出している瘴気のせいだな。……早速入ろう」


湊は結衣を連れて、入場ゲートへと向かった。

しかし、二人を遮るように、管理庁の現地職員が厳しい顔で立ち塞がった。


「お待ちしておりました、天谷様。新たな『七星』のご到着、心強い限りです。……ですが」


職員は、湊の背後に隠れるように立っている結衣のライセンス端末を一瞥し、深く頭を下げた。


「申し訳ありませんが、そちらの結衣様の立ち入りは許可できません」


「……なんでだ。彼女は俺のパーティメンバーだぞ」


「現在、このダンジョンは強力な毒の瘴気とモンスターの凶暴化により、多数の探索者が命を落としている極めて危険な状態です。規定により、現在入場できるのは『Aランク以上』の実力者のみ。Dランクの彼女は許可できません」


融通が利かないのは分かるが、結衣のバフがなければ、湊は最大の力を発揮できない。


「俺が結衣を完全に守り抜く。それでもダメか?」

「規則ですので。特例は認められません」


職員は頑として首を縦に振らなかった。


「……天谷さん。私、足手まといになっちゃいますし……ここで待機してます」


結衣がシュンと肩を落とし、ライセンス端末を胸に抱きしめる。


「……ちょっと待っててくれ」


湊はため息をつき、空中に自身のステータスウインドウを展開した。


現在の保留ポイントはまだ残っている。


湊は結衣のステータス画面を表示し、残りのポイントのほぼ全ての数値をスワイプして結衣へと流し込んだ。


【P】3,000 → 80,000

【体力】3,000 → 80,000

【魔力】6,000 → 93,500

(※合計ステータス:約300,000越え)


「よし。……すいません、彼女、ライセンスを更新していないだけなので、試しに『鑑定』してみてくれませんか?」


「え? はあ……鑑定しても、Dランクの事実に変わりは――」


職員が怪訝な顔をしながら、手元の簡易鑑定用魔道具モノクルを結衣に向けた、その瞬間。


ピピピッ……ピピガガガガガガッ!!

「……へ?」


モノクルの数値が異常な速度で跳ね上がり、表示限界を超えて小さな火花を散らした。


「ご、ごごご合計ステータス、30万オーバー!? エスッ……Sランク相当の……ッ!?」


職員は完全に腰を抜き、その場にカエルが潰れたような無様な格好でひっくり返った。


合計30万。改めになるが「一般的に」それは、一握りのエリートしか到達できないSランク探索者の領域である。


「な、何か魔道具の故障でしょうか!? い、いや、しかしこの放たれる圧倒的なマナの圧は……! す、すぐに通行許可証を発行します!!」


パニックに陥った職員が、慌ててゲートを開放する。


「あわわわわ……」


当の結衣本人はというと、突然自分の体に満ち溢れた理不尽なまでの力に完全に脳の処理が追いつかず、両手で頭を抱えながら目をぐるぐると渦巻き状に回していた。


「私、こんなにあっさりSランクのレベルに到達してしまっていいんでしょうか……? 私が今まで泥水すすって頑張ってきた、探索者としての苦労って一体……」


「気にするな。これで一緒に入れる」

「あわわ、待ってください天谷さん〜!」


ステータスというシステムの常識を片っ端から粉砕しながら。


ポイントを使い果たし、ついに素のステータスだけになった湊と、急造Sランクとなった不遇スキルの少女は、未知の瘴気が立ち込める長野の深緑の迷宮へと足を踏み入れた。


【ステータス(天谷 湊)】

【名前】天谷 湊

【年齢】20

【HP】30,000 / 30,000

【MP】0

【筋力】270,000

【俊敏】262,000

【体力】150,000

【知力】30,000

【魔力】0

【保留ポイント】0

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