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渋谷奪還作戦(1)



新宿ダンジョンの元凶を討伐してから一週間。

魔力包帯による超高速治療と、結衣の献身的な回復魔法によって、湊の右腕は辛うじて動かせるまでに回復していた。


「……よし。感覚は悪くない」


湊は、新しく新調された漆黒の戦闘衣の袖を通し、グローブを締め直す。


保留ポイントの「燃焼」による自壊の跡はまだ薄く残っているが、今の湊にとってそれは、慢心を捨てて手に入れた「本物の強さ」への刻印のように感じられた。


「天谷さん、準備できました! 予備のポーションもバッチリです!」


「湊、管理庁から支給された新しい通信デバイスよ。……あと、私の隣、空けておいたわ」


病室での火花はどこへやら、装備を整えた二人の少女が湊の元へ駆け寄る。


だが、その視線は相変わらずどこか鋭い。


「あ、柊さん。天谷さんの隣は付与魔法の射程管理のために私が行くので、柊さんは少し離れて露払いをお願いしますね?」


「ふふ、そんなに心配しなくても、私の速度ならどの位置からでも湊をフォローできるわ。むしろ、あなたが足手まといにならないか心配だわ」

「なっ……!」


「……二人とも、戦場では頼むぞ・・」


湊は苦笑しながら、二人を促して出撃拠点へと向かった。


   * * *


作戦拠点となったのは、封鎖線の最前線である代々木公園付近。


そこには、全国から召集された数千人の探索者と、重装備の自衛隊が集結していた。


空を覆うのは、ダンジョンから漏れ出した黒い瘴気の雲。


かつての流行の発信地、渋谷の街は、今や強大なモンスターたちの巣窟と化し、その中心部からは時折、地を揺らすような咆哮が響いてくる。


「よく来てくれた、天谷湊。それに柊雪乃くん」

拠点の中央、神代が地図を前に隻眼を光らせていた。


「すでに獅子神をはじめとする『七星』の面々は、第一陣として渋谷内部へ突入し、モンスターの討伐を開始している。奴らが本隊として最深部への道を切り開く手はずだ」


神代は地図の渋谷駅周辺を指差した。


「作戦の目的は一つ。渋谷駅地下、かつての東横線跡地に鎮座するパレードの『二次核』の破壊だ。……君たち三人には、遊撃として最も激戦となるスクランブル交差点付近の制圧を任せたい。いけるか?」


「了解です。俺たちにお任せを」


神代の言葉に力強く頷き、湊たちは最前線のゲートへと向かった。


   * * *


重厚な封鎖ゲートがゆっくりと開く。


その瞬間、押し寄せてくるのは濃密な血の匂いと、無数のモンスターの殺気。


「行くぞ!!」


湊たち三人は、先行した部隊を追うように、渋谷センター街の入り口へと向かう。


そこには、数千体のオークやゴブリン、そしてビルを苗床にした巨大な蜘蛛型のモンスター『アラクネ』が待ち構えていた。


「湊、右から三体!」

「わかってる!」


湊は、空中にステータスウインドウを展開した。

【保留ポイント:850】。


これまでのように保留ポイントの残量が心許なく、飛躍的な強化はできない。


だが、今の湊には新宿ダンジョンで経験とそれにより極限まで磨かれた身体制御がある。


湊は850ポイントのうち、微々たる数値を『知力』と『俊敏』に割り振る。


【保留ポイント】850 → 845

【知力】53,040

【俊敏】220,000

すべての数値の末尾は『0』。


「結衣、今だ!」

「任せてください! ――【完全均衡の祝福パーフェクト・バランス】!!」


光の奔流が湊を包み込む。

全ステータス5倍。

バフ後の数値は圧倒的だ。


【筋力】150,000 → 750,000

【俊敏】220,000 → 1,100,000

「……速い!!」


湊の姿が、戦場から消失した。

俊敏110万の超神速。


一歩踏み出すごとに、周囲のオークたちの首が、何が起きたか理解する間もなく次々と宙を舞う。


湊の動きは、以前のような「数字に振り回された粗暴なもの」ではなかった。


雪乃との特訓で学んだ無駄のない軌道。


そして、獅子神との戦いで学んだ、力の逃がし方。


110万の速度を完全に支配下に置き、最小限の動きで敵の急所を的確に貫いていく。


「凄いわ、湊。……でも、私も負けていられないわね!」


雪乃が、青白い火花を散らして加速する。


『銀閃』の異名が示す通り、彼女の双剣は湊が撃ち漏らした(というより、湊が追い込んだ)死角のモンスターを、一瞬の瞬きで十数体まとめて両断した。


「天谷さん、左上! ビルの壁から狙撃が来ます!」


後方から戦場を俯瞰する結衣が、的確な指示を飛ばす。


同時に、結衣の魔力が編み上げた防御魔法『光盾』が湊の頭上に出現し、アラクネが放った猛毒の針を完璧に弾き返した。


「サンキュ、結衣!」

「ふふ、天谷さんの背中は私が守るって言ったじゃないですか!」


「……ちょっと、私への指示が遅くないかしら、付与術師さん?」


雪乃が涼しい顔で数体のモンスターを斬り伏せながら釘を刺す。


「もうっ、柊さんは自分で避けてください! ほら、次来ますよ!」


連携は――驚くほど噛み合っていた。


湊の圧倒的な突破力を、結衣のバフと情報支援が支え、雪乃の超高速の追撃がそれを完璧な「殲滅」へと変える。


だが、スクランブル交差点へ差し掛かった時、湊は足を止めた。


交差点の中央、忠犬ハチ公像のあった場所に、異様なマナの塊が鎮座していたからだ。


「……こいつが、このエリアの主か」


それは、幾百もの人間の武器や防具、そして死骸を「磁力」のような力で寄せ集めた、巨大な鉄の巨人だった。


【ランク:A+(変異種)】

【名称:スクラップ・ゴーレム・マリス】

巨人が、ガチガチと金属音を立てて腕を振り上げる。


その周囲には、倒された『金剛』の部下たちのものと思われる、無惨にひしゃげた盾がいくつも転がっていた。


「……あんなに大きな盾を、紙屑みたいに。相当な硬度ね」


雪乃が慎重に双剣を構え直す。


「大丈夫です。天谷さんなら……いえ、私たち三人なら、あんなのただの鉄屑です!」


結衣が力強く言い放つ。

「ああ。……行くぞ、二人とも!」


ポイントに頼らない、湊自身の「技術」。


そして、信頼で結ばれた三人のパーティによる、初めての大型討伐が幕を開けた。


【ステータス(天谷 湊)】

【HP】25,000 / 100,000

【MP】6,000 / 6,000

【筋力】150,000 (バフ時:750,000)

【俊敏】220,000 (バフ時:1,100,000)

【体力】50,000 (バフ時:250,000)

【知力】53,040 (バフ時:265,200)

【魔力】6,000 (バフ時:30,000)

【保留ポイント】845


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