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異形のパレードと、不遇少女の魔法(2)




『ギィィィィィィィィィィィッ!!!』


ランク不明の異形――ライオンの頭部、大蛇の腕、蜘蛛の脚を持つおぞましいモンスターが、鼓膜を破るような金切り声を上げた。


直後、ダンジョンの壁や床がボコボコと膨れ上がり、下層のモンスターたちが次々と湧き出してくる。オーク、サイクロプス、ガーゴイル。その数、およそ数百体。


完全に退路を断たれた、絶望的な『モンスターパレード』の中心で、俺は空中にステータスウインドウを展開した。


「天谷さん、囲まれました……っ!」

「落ち着け、結衣! 俺から絶対に離れるな。……今から盤面をひっくり返す!」


「結衣、たのむ!」


「はいっ! ――【完全均衡の祝福パーフェクト・バランス】!!」


結衣が杖を掲げ、光が俺の身体を包み込まれ、

俺の全ステータスが強制的に『5倍』へと跳ね上がった。


【筋力】150,000 → 750,000

【俊敏】120,000 → 600,000

【体力】100,000 → 500,000


「おおおおおおおッ!!」

俊敏60万。音速すら置き去りにする神速の領域。


俺は結衣の周囲に円を描くように駆け抜けながら、殺到するモンスターの群れに無数の拳を叩き込んだ。


筋力75万の暴風。殴るというより、俺が移動した軌跡にある空間そのものが爆発し、オークやサイクロプスの巨体が次々と血飛沫に変わっていく。


結衣は俺の動きに巻き込まれないよう、その場にしゃがみ込みながら必死に杖を握りしめていた。


(いける! このバフがあれば、数百体の群れだろうが――!)


そう確信した、次の瞬間だった。

『……ギシャァァァァッ!』


パレードの奥で静観していた『異形のモンスター』が、ブレた。


速い。先ほどのサイクロプスたちとは次元が違う。俺の俊敏60万の動体視力をもってしても、その動きは辛うじて黒い残像として捉えられる程度だった。


しかも、奴の狙いは俺ではない。後方でバフを維持している、最も脆弱な結衣だった。


「しまった……!」


距離が離れすぎている。今の俊敏では、異形の大蛇の腕が結衣を叩き潰すのに間に合わない。


俺は走りながら、空中に固定したウインドウの数値を乱暴にスワイプした。


手元に残っている保留ポイント5万を、すべて【俊敏】へ。さらに攻撃に回していた【筋力】を削り、それも【俊敏】へ極振りする。


しかし、極限の焦りの中での手動操作だ。

数値の調整がコンマ数秒遅れ、一の位の『0』が崩れた。


『パァンッ!!』


ガラスが砕けるような鋭い音と共に、俺を包んでいた結衣のバフの光が弾け飛ぶ。


ステータスの一の位が「0」でなければならないという絶対条件。それが一つでも崩れた瞬間、5倍の恩恵は強制的に解除されるのだ。


「あっ……バフが……!」

結衣が悲鳴を上げる。


ステータスが元に戻る急激な脱力感。だが、ポイントを注ぎ込んだことで、元の俊敏自体は跳ね上がっている。


【筋力】150,000 → 50,000

【俊敏】120,000 → 270,000

【保留ポイント】50,000 → 0


「結衣ッ!!」


俺は地面を砕きながら結衣の前に割り込み、絶対破壊不可能なアーティファクト『崩星の籠手』をクロスさせて、異形の放った大蛇の腕の薙ぎ払いを正面から受け止めた。


ドゴォォォォォンッ!!!

「ぐ、がぁぁぁぁぁぁっ……!?」


バフが切れた状態の体力10万では、その一撃はあまりにも重すぎた。


全身の骨が軋み、肺から空気が強制的に絞り出される。俺の両足は石畳を深く抉りながら、後方へと数十メートルも押し込まれた。


「天谷さんッ!!」

「大丈夫だ……っ! まだ、動ける!」


口から鮮血を吐き出しながら、俺は異形を睨みつける。


バフがなければ、こいつの速度と力には太刀打ちできない。だが、戦闘の最中にステータスの数値を『0』にピッタリ揃え直すには、数秒の空白が必要だ。


異形が蜘蛛の脚を蠢かせ、トドメを刺そうと跳躍する。


俺は結衣のステータス画面を空中に引きずり出した。俺のポイントはもう空だが、彼女の枠内での『再分配』は可能だ。


「結衣! 魔法にすべてを回すぞ!!」


俺は結衣の【HP】と【体力】をギリギリまで削り落とし、その数値をすべて【魔力】へとスライドさせた。


【結衣:体力】3,000 → 10

【結衣:魔力】3,000 → 5,990


「『光盾イージス』ッ!!」


魔力が倍増した結衣が、悲痛な叫びと共に杖を振り抜く。


展開された半透明の六角形の盾は、先ほどよりも厚みと眩い輝きを放ち、俺たちの頭上を覆い尽くした。


ガギィィィィィィィィンッ!!!


異形の巨体と爪が光盾に激突し、火花と衝撃波が撒き散らされる。


だが所詮魔力およそ6千の防御。一瞬で割られてしまう。稼げたのは僅かコンマ数秒---


だが湊にはそれで充分だった。


「結衣、よくやった! 」

「は、はいぃぃっ!」


盾が軋む轟音の中、俺は頭をフル稼働させ、

バラバラに散らかった自身のステータス。HP、MP、筋力、俊敏、体力、知力、魔力の数値を、スワイプとタップの嵐で猛烈な勢いで整えていく。


(筋力に振る……いや、奴の速度を上回るために俊敏が最優先だ。体力を削る……足りない分はMPから回す!)


ピピッ、というシステム音。

俺の目の前のウインドウが、完璧な配列を完了した。


【HP】100,000

【MP】5,000

【筋力】150,000

【俊敏】220,000

【体力】50,000

【知力】53,040

【魔力】6,000


すべての末尾が『0』。

「結衣、今だッ!!」


結衣は俺の背中に隠れるようにして、再び杖を高く掲げた。


「――【完全均衡の祝福パーフェクト・バランス】!!」

光が、弾けた。


二度目の5倍化。俺の肉体に、先ほどよりもさらに研ぎ澄まされた、絶対的な力が満ちていく。


【筋力】750,000

【俊敏】1,100,000

俊敏110万。


迫り来る異形の爪が、宙でピタリと停止したように見えた。


極限に圧縮された時間の中で、俺はゆっくりと息を吐き、右の拳を腰だめに構える。


「さっきはよくも……やってくれたな」

地面を蹴る音すらしなかった。


俺は異形の懐に完全に潜り込み、ライオンの頭部を下から見上げるような体勢で、『崩星の籠手』を突き上げる。


筋力75万の『浸透破』。


――ドゴォォォォォォォォォォォォォォォンッ!!!


拳が触れた瞬間、異形のモンスターの頭部が内部から破裂し、続く衝撃波がその巨体を細胞レベルで完全に粉砕した。


ダンジョンの天井まで突き抜けるような破壊の嵐が巻き起こり、周囲に群がっていた残りのモンスターたちも、その余波だけでチリのように消し飛んでいく。


『対象の生命活動停止を確認』

『異常個体の討伐ボーナスを獲得しました』

『保留ポイントに【1,000,000】が追加されました』


静寂が戻った遺跡。


俺はゆっくりと拳を下ろし、ステータスのバフが解けた反動で片膝をついた。


「はぁ……はぁ……っ」

「天谷さん!!」


結衣が泣きそうな顔で駆け寄り、俺の背中を支えてくれた。


「やったな、結衣……。お前が盾で耐えて、バフを合わせ直してくれたから、勝てた」


「天谷さんこそ、私を庇ってあんな傷を……っ。ごめんなさい、私がもっと上手く魔法を使えれば……!」


「気にするな。結衣が無事でよかったよ」


俺は痛みをごまかすように笑い、結衣の頭を撫でた。


周囲のモンスターは一層されたが他の階層の状況がわらない。


「一旦地上へ戻ろう。さっきのモンスターといい何か変だ」

「はい!私もそう思います。あんなモンスターも見たこともなければ聞いたこともないです」



だが、ダンジョンの外へでたあとさらに驚く状況が待ち受けているのであった。


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