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裁きと、最強へのピース



「俺にしかかけられない、魔法……?」


結衣は目を丸くして、湊の顔を呆然と見上げた。


無理もない。彼女にとって自身のスキルは、今まで誰の役にも立たなかった「呪い」のようなものだったのだから。


「ああ。詳しい説明は後だ。とりあえず、こんな森の中じゃ落ち着いて話もできない。……地上に戻るぞ」


湊は結衣の背中を軽く押し、ダンジョンの出口へと向かって歩き出した。


(すべてのステータスの一の位を『0』に揃える……。俺の知力は今『53,035』だから、保留ポイントから『5』だけ割り振れば、完全に条件をクリアできる)


歩きながら、湊は自身のステータス画面を睨みつけ、口元に微かな笑みを浮かべていた。


獅子神との圧倒的な敗北により、完全にへし折られていた心が、再び熱を持ち始めているのを感じる。


この少女のスキルと、俺の『手動割当マニュアル』。


この二つがあわされば俺はもっと強くなれる


   * * *


立川ダンジョンのエントランス・ロビー。


地上へと帰還した二人は、すぐにある連中の姿を発見した。


「はぁ……はぁ……っ、なんとか逃げ切ったな……」


「危ねえところだったぜ。あのトロい付与術師がオークの足止めになってくれたおかげだ」


「違いねえ! ま、あんな足手まといでも、最後に囮として役に立ってよかったじゃねえか。ギャハハッ!」


自動販売機の前でヘラヘラと笑い合っているのは、結衣を見捨てて逃げ出したCランクの4人組パーティだった。


その下劣な笑い声を聞いた瞬間。


湊の瞳に、極寒の吹雪のような冷たい怒りが宿った。


「ヒッ……」


背後に隠れていた結衣が、彼らの姿を見て怯えたように湊のコートの裾をギュッと掴む。


「大丈夫だ。ちょっと、あいつらと話してくる」


湊は結衣をその場に待たせ、4人組の背後へと音もなく近づいた。


「おい」


低く、地を這うような声。


リーダー格の男が「あ?」と振り返った瞬間――湊は、規格外の暴力を極限まで圧縮した『殺気』を、彼ら4人に向けて一気に解放した。


「――っ!?」


物理的な重力すら錯覚させるほどの、圧倒的なプレッシャー。


4人の男たちは、まるで巨大な竜に睨まれたカエルのように全身を硬直させ、次の瞬間、泡を吹いてその場に崩れ落ちた。


武器を抜くどころか、悲鳴を上げる余裕すらない。ガチガチと歯の根を鳴らし、床に這いつくばって恐怖に顔を歪めている。


「てめえら。ダンジョン内で意図的に仲間を囮にして見捨てる行為が、管理庁の重罪に当たるってことくらい知ってるよな?」


湊が見下ろしながら冷酷に告げると、騒ぎに気づいたダンジョン管理庁の武装した警備員たちが駆けつけてきた。


「どうしました! 何事ですか!」

「この連中が、パーティメンバーをモンスターの群れに突き飛ばして囮にしました。被害者はあそこにいます。……調べれば、すぐに裏が取れるはずです」


湊が結衣を指差しながら淡々と説明すると、警備員たちの顔つきが一気に険しくなった。


ダンジョン内での「故意の置き去り(トカゲの尻尾切り)」は、殺人未遂にも問われる重大な規約違反だ。


「……ひ、ひぃぃっ! 許してくれ、悪気があったわけじゃ……!」


「連行しろ! 事情聴取を行う!」


泣き喚く4人組は、警備員たちによって容赦なく拘束され、バックヤードへと引きずられていった。


その惨めな末路を見届けた湊は、小さく息を吐き出し、オドオドと立ち尽くしている結衣の元へと戻った。


「さて、ゴミ掃除も終わったし……少し場所を変えようか」


   * * *


ダンジョン管理庁に併設された、静かなカフェスペース。


温かいココアを両手で包み込むように持ちながら、結衣はまだ夢でも見ているかのように呆然としていた。


「あの……天谷さん。さっきは、その……本当にありがとうございました。私、もうダメかと思って……」


「気にするな。俺も昔、あいつらみたいなクソ野郎どもに囮にされて見捨てられた経験があるからな。同族嫌悪みたいなもんだ」


湊はブラックコーヒーを一口啜り、真っ直ぐに結衣の目を見つめた。


「結衣。単刀直入に言う。俺と、仮のパーティを組んでくれないか?」


「……えっ?」


結衣は目を丸くし、自分の耳を疑った。

「パ、パーティですか? 私と? で、でも……さっきも言った通り、私は……」


「『完全均衡の祝福』だろう? 安心ししてくれ。俺はその発動条件を、問題なくクリアできる」


湊の言葉に、結衣は息を呑んだ。


「そんなこと、絶対に不可能です……! ステータスはシステムによってランダムに割り振られるんですよ!? どうやって狙って数値を……」


「それは俺の秘密だ。だが、嘘は言っていない」

湊は真剣な表情で身を乗り出した。


「俺にはどうしても、アンタのその『5倍』のバフが必要なんだ。……どうしてももっと圧倒的な強さを手にしたい理由がある。俺が絶対に守る。稼いだポイントも素材も、きっちり折半する。だから、後日改めて、俺と一緒にダンジョンへ潜ってほしい」


結衣は言葉を失った。


自分のような何の役にも立たない足手まといを、ここまで真っ直ぐに必要としてくれる人がいるなんて。

(なんで、こんな私を……?)


疑念がなかったわけではない。


だが、眼の前にいる黒衣の青年は、間違いなく自分の命を救ってくれた恩人だ。オークの群れを一瞬で消し飛ばしたあの圧倒的な強さは、本物だった。


「……わかりました」


結衣は、ギュッと両手を握りしめ、覚悟を決めたように頷いた。


「命を救っていただいた恩もありますし……天谷さんがそこまで言うなら。一度だけ、試させてください。もし本当に私の魔法が発動するなら……私も、あなたの力になりたいです」


「……ありがとう、結衣。絶対に後悔はさせない」


湊は安堵の笑みを浮かべ、空中に自身のステータスウインドウを展開した。


結衣の目には見えないその画面を操作し、残っていた保留ポイントから『5』だけを引き出し、知力の項目へと割り当てる。


【保留ポイント】51,200 → 51,195

【知力】53,035 → 53,040 (+5)


これで、HPから魔力に至るまで、すべてのステータスの一の位が『0』に揃えられた。


絶望の底に落ちた青年。


だが今、彼は「不遇スキル」の少女と共に、新しい一歩を踏み出そうとしていた。


【ステータス(天谷 湊)】

【HP】100,000 / 100,000

【MP】6,000 / 6,000

【筋力】350,000

【俊敏】315,000

【体力】100,000

【知力】53,040

【魔力】6,000

【保留ポイント】51,195


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