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オオカミと赤いずきんのベリー売り  作者: ねこじゃ・じぇねこ
踊り子ウサギと銀幕の町

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8.七色ベリーと九人の見栄っ張りたち

 これは、ラズとブルーの暮らすこの国にようやくコヨーテの客人がやって来たかという頃のお話です。その時代よりも遥か昔から、七色ベリーはワタリガラスの一族たちにとって非常に価値のあるベリーでした。

 ワタリガラスの一族の古代の賢者と、そのパートナーのしゃべるカラスたちによれば、七色ベリーは地底に眠る竜の女神が幸せな夢を見た時位に生まれるもので、虹のような不思議な輝きはこの大地に約束された祝福の証だというのです。

 そして大地に暮らす人々と精霊たちを繋ぐ精霊──つまり、しゃべるカラスたちに与えられた褒美でもあり、それゆえにワタリガラスの一族も大事にしなくてはならないと言われてきたのです。


 そのため、ワタリガラスの一族たちは、先祖代々このベリーを大事にしていました。七色ベリーには様々な異名がありましたがその中でも有名だったのが、「賢者のベリー」や「大虹のベリー」といったものでした。

 さらに有名な言い伝えがありましてそれが「愚かなる者に真の色は見えず」とのことでした。


 しかしある日の事、そんな言い伝えの事などつゆ知らず、コヨーテの客人たちはワタリガラスの一族の集落にやってきたのです。

 ワタリガラスの一族たちは自分たちの守ってきた伝統を彼らに丁寧に紹介し、ベリーの知見についても説明をしました。大切な土地を無作法に踏み荒らして欲しくなかった為です。その一環として紹介されたのが七色ベリーだったのですが、コヨーテの客人たちはきょとんとした顔で口々に言いました。


「だが、兄弟たちよ。そのベリーの何処が七色なのだ? どこからどう見ても焦げたような黒色じゃあないか」


 コヨーテの客人たちの誰も彼もがそんな反応をするのです。ワタリガラスの一族たちの返答はまちまちでした。お茶を濁す者もいれば、怒りだす者もいました。

 中には、コヨーテの客人たちは愚か者だから分からないのだと影で笑う者もいました。子どもたちもそうです。大人たちの誰もが七色のベリーの七色が分からないコヨーテの客人たちの方こそ間違っているというので、子どもたちもまたそれに同意していたのです。


 けれど、コヨーテの客人たちも黙ってはおりません。特に、ベリーに早々と興味を持ち、本格的な調査を始めていた研究者などは、七色ベリーが本当は何色なのかについて関心を抱き、ワタリガラスの一族を古くから取り仕切ってきた九羽鴉という賢者たち一人一人に対して、これが本当に七色なのかを聞いて回りました。

 当然ながら、彼らの返答は同じでした。「七色以外にあり得ない。何故なら、愚者でないものには真の色が見えるからだ」と。

 あまりにも当たり前のような表情で言うものですから、コヨーテの客人の中には自分にも七色に見えると言い出す者もいました。


 しかし、ベリーの研究者たちは違います。自分にはどうしても見えない。見えないものを見えるということは出来ない。そして、研究者としてそれを恥じ入るような価値観も持ち合わせていなかったので、むしろ新しい可能性に目を向けていたのです。

 それが、ワタリガラスの一族の目と、自分たちの目では、感じる色が違うのではないかということでした。


 研究者の一人は七色ベリーが自分にはどう見えるかを念入りに客観視しました。そして、あることに気づいたのです。その鍵を握っていたのが、ワタリガラスの一族たちと常に一緒にいるしゃべるカラスの抜け羽根でした。そうです。カラスたちの羽毛の色と、七色ベリーの色が、よく似ていたのです。

 さっそく研究者たちはデータを集めるために、ワタリガラスの一族たちに協力を仰ぎました。七色ベリーについて、自分たちにはこう見えるという具体例として、彼らのパートナーであるしゃべるカラスたちの体を例に挙げたのです。すると、カラスたちは言いました。


「当然だろう。だって、我らのベリーなのだから」


 一方、彼らの言葉を共に聞いていたワタリガラスの一族の大人たちは沈黙しました。彼らには七色ベリーが具体的にどう見えているのか、研究者たちはどうしても知りたかったのですが、賢者をはじめ子どもたちすら決して口を割りませんでした。

 これでは何も分からない。途方に暮れているところへ、ひとりの人物がやってきました。ワタリガラスの一族の青年でした。変わり者であるとして有名な若者で、爪弾き者にされていた人物でもありました。

 コヨーテの客人たちにもその事はよく知られていたので、何を言おうと相手にされていなかったのですが、その時ばかりは違いました。というのも、彼が研究者に向かって告白したからです。


「実を言うとあのベリー、おれにも七色に見えないんです」


 研究者たちは驚きました。ワタリガラスの一族の者で、そのような事を言う人物は初めてだったからです。勿論、疑う者もいました。何しろ変わった青年なのです。皆と違う事を言って目立ちたいだけじゃないのかと思う者も当然いましたし、その可能性は十分ありました。

 けれど、端から嘘だと決めつけて何も聞かないのでは分かるものも分からなくなる。そう判断する声も多く、詳しく事情を聴くことになったのです。


 彼曰く、幼い頃から七色ベリーは七色ではなかった。カラスたちが言うには、空にかかる大虹のごとき輝きのはずが、どうしてもそう見えなかったのだと。

 そのことを幼い頃から正直に告げると、周囲の者には散々馬鹿にされ、生まれながらの愚者なのだと決めつけられてしまったというのです。研究者たちはさっそくワタリガラスの一族たちを招き、確認もかねて群衆の前で彼に尋ねました。七色ベリーはその目で何色の見えるのかと。すると、彼は答えたのです。


「カラスです。カラスの色です。カラスの色は黒です」


 これに対して、しゃべるカラスたちは笑いました。何に笑ったのかといえば、黒という言葉についてでした。一方、ワタリガラスの一族たちは黙ったままでした。じっと、ただじっと、正直に話した青年の顔を見つめていたのです。

 カラスの笑い声だけがこだまする中で、コヨーテの客人たちは口々に説明しました。


「実をいえば、自分たちも同じ意見だ。七色ベリーはカラスたちの色に違いない。そして、われわれの目にはカラスは黒に見える」


 すると、笑っていたカラスたちが一斉にきょとんとした表情になりました。初めてそんな事を言われた為です。


「黒? 我らが? 黒だって?」


 そうです。カラスたちは自分たちのことを七色の鳥だと認識していたのです。そして、ワタリガラスの一族たちは、誰も彼もが本当のことを言い出せずにいただけだったのです。

 ようやく真実を知れた研究者たちは、恥じらわずに告白してくれた青年を正直カラスと讃えました。そして、しゃべるカラスたちにこのような形で真実を知られてしまったワタリガラスの一族たちは、二度とこのような見栄を張る事もなくなったそうです。

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