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オオカミと赤いずきんのベリー売り  作者: ねこじゃ・じぇねこ
踊り子ウサギと銀幕の町

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6.ウサギの逃げ足

 ポップに案内されたお店「ウサギの逃げ足」は、〈日の入旅館〉一階の入り口から奥へと進んだ先の一角にありました。

 勿論、ラズはちゃんと旅館の案内を隅から隅まで読んでおりましたし、ブルーも文字は読めずともその内容をきちんとラズから教えてもらっていましたので、場所についてはよく分かっていました。

 けれど、その中についてはどうでしょう。ラズは来たことがありましたが久しぶりでしたし、ブルーに至っては初めての事です。ふたりとも、入ってすぐにきょろきょろとしてしまいました。

 そんなふたりを導くようにポップは低く飛びました。迷いなく向かうのは、バーのカウンター席です。カウンターの向こうではウサギ族のマスターがグラスを磨いていました。


「カアカア、ふたりとも早くおいで」


 ポップに急かされながら彼を挟むようにラズとブルーが着席すると、ウサギ族のマスターは軽く首を傾げました。垂れた耳がぴょこんと動くのを見ながら、ポップが先に嘴を開きました。


「カア、マスター。今日もいい一日だった」

「こんばんは、ポップ。それは何よりだ」


 透き通るような男性の声で、マスターは答えました。


「それはそうと今宵は珍しいお客さんをお連れのようだね」

「カア、こちらのオオカミ君は吾輩の旧友なんだ。そして、彼の身元引受人が、こちらの赤ずきんのラズ君だ。なんとこの年でベリー売りの資格を持っておられるそうだ。ベリーロードを旅しながら商売をされているのだと」

「なんと、それは優秀。でしたら、以前もこの店には?」


 ウサギ族のマスターに訊ねられて、ラズは控えめに頷きました。


「ええ、実は一度だけ。けれど、その時はカウンター席に座らなかったし、人もかなり多くて混雑していたみたいで……ですので、お話するのは初めてです。お店の雰囲気もじっくりと楽しめそうで何よりです」

「はは、それは良かった。その時に聞きそびれた貴重なお話を今宵はぜひともお聞かせください」


 そう言って、マスターはブルーの方へと視線を向けました。


「そして、あなたが……ポップのお友達の──」

「ブルーっていいます。あ、ごらんの通りの安全オオカミなんです」


 そう言って、ブルーは首にさがる安全オオカミの印を見せつけるように胸を張りました。間違いなく〈図書の町〉で貰ったことが分かるそのデザインを、ウサギ族のマスターはまじまじと見つめました。


「ほほう、これが安全オオカミの証……実物は初めて見ました。安全オオカミさんとお話するのも初めてで……。これまた貴重なお話が聞けそうですね」

「カアカア、ブルー君は森暮らしが長くてね。吾輩がたまにする現代人らしくない暮らしよりもさらに面白い話になると思うよ」


 ポップがそう言う横で、ブルーは少しだけ緊張していました。何故なら、みんなが期待するような面白い話が出来るような自信がなかったからです。


「面白い話になるかどうか分からないけれど、どうぞよろしく」


 緊張気味にブルーがそう言ったところで、今宵の宴は始まりました。


「まずは乾杯用のお飲み物をどうぞ」


 ウサギ族のマスターはそう言って、人数分のメニュー表を差し出しました。ブルーは首を傾げながら眺めました。

 ブルーに出されたのは、しゃべるオオカミのお客さんのために用意されていたものだったのですが、イラストの横に念のために書かれている小さな文字を頑張って読もうとしていたのです。けれど、なかなか読めず、いつまで経っても注文できません。そこで、彼の懸命な努力にいち早く気づいたポップが、翼を嘴にそっと添えてブルーの三角耳に囁きかけました。


「もしもし、ブルー君。良ければ翼を貸してやってもいいぞ」

「大丈夫……って言いたいところだけど、待たせちゃ良くないよね」


 そう言って、ブルーは前脚を伸ばしてイラストの方を指しました。そこにあったのは、美しい青色のドリンクです。


「これって『子猫ちゃんの瞳』って飲み物であってる?」


 ブルーの問いかけに、ポップは小さく「カア」と鳴きました。


「間違いないぞ、兄弟。乾杯用に頼むかね」

「うん!」


 ひそひそとした話し合いが終わったところで、空気を読んだようにウサギ族のマスターが口を開きました。


「お決まりですか?」


 大きな耳をぴょこぴょこ動かしながら訊ねてくる彼に、真っ先に口を開いたのがポップでした。


「さあ、ラズ君。君から注文したまえ。次はブルー君だ」

「ありがとう。では、私は『ドラゴン・テイル(おとぎ話)』をお願いします」

「ボ、ボクは……『子猫ちゃんの瞳』をください」

「吾輩はいつもの通り『カラス様の言う通り』を」


 三名の注文が終わると、ウサギ族のマスターは静かに頷いて準備を始めました。目の前でグラスが三つ並ぶと(一つは蹄のない手を使える種族用、一つは嘴のある種族用、一つは手ではなく前脚がある種族用なので誰が誰のものかすぐに分かります。)、ブルーは興味津々にそれを見つめました。

 私たちのよく知る犬のように尻尾をふりふりしながら、三つのグラスに炭酸水と、一つにはお酒、そして、ホイップ、蜂蜜、ベリーなどが、手際よく加えられていきます。その無駄のない動きに見惚れているうちに、三名分の飲み物はあっという間に仕上がりました。


「お待ちどうさま」


 ウサギ族のマスターはそう言うと、ラズの目の前にはドラゴンハートという赤いベリーとはちみつベリーからなる「ドラゴン・テイル(おとぎ話)」が、ブルーの目の前には真っ青なサファイアベリーが溶け込んだ「子猫ちゃんの瞳」が、そして、ポップの目の前に置かれたのは「カラス様の言う通り」という名前の飲み物でした。

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