帰路にて
総会に総会終わりの呼び出しも終えた俺たちは帰路についていた。
「んー!疲れたあ!今日はまじで一気にいろんなことあったからな。雪も疲れたろ?」
「ま、まあ私なんて初めて総会に出席して、そのうえ有栖川様とお話までしたんだよ?そりゃ疲れるよお…。でもさ、嬉しい疲れだからいいんだ!だって何日か前までだったらさこんな日が来るなんて想像もできなかったもの!だからありがとうね…!本当に…。」
感謝しなきゃなのは俺の方だよなあ…。死にたいとさえ思ってたのに、あの時立ち直れたのは間違いなく雪のおかげだった。あの日からずっと守られて、助けられてきたのは俺の方だったんだよな。
「俺の方こそありがとうね。本当に雪がいてくれてよかったよ。正直雪がいなかったらあの日から立ち直ることも紬と向き合うこともできてなかったと思うんだ。」
「そんなことないよ…。葵はきっと私がいなくても向き合えたよ、でも私が少しでも葵の支えになれていたならそんなに嬉しいことはないわ。あーあ、あの頃の私に今の聞かせてあげたいなあ!葵の助けになりたいって思ってたんだから!」
とはいえあんなに病んでいた頃の自分を覚えていられてるってのも恥ずかしいな…。別にダメなことだとは思わないけどさ、恥ずかしいもんは恥ずかしいんだよ。
「今日はどうする?家まで送ろうか?それともうち泊っていく?うちはいつでも大歓迎なんだけどさ。でもあれか、うちにばっか呼んでたらじいさんに文句を言われるか…。」
あのじいさん、俺のことはまあ許してくれてるけど、父さんには敵対心燃やしてるからな。
「うーん…今日は帰っておじいちゃんにもいろいろ報告しようかな…。け、けどさ週末泊まりに行っちゃダメかな…?」
くそかわいいんですが。これで今日は家まで送れなければいけないという事実がつらい!
「もちろん!まじで毎日でも大歓迎なくらいだからね!じゃあ今日は送ってくついでに俺もじいさんに挨拶していくかな。たまには俺も顔出さないと愚痴られるからな。」
「うん! おじいちゃんも喜ぶよ!おじいちゃんも素直じゃないけど葵のこと大好きだからね!」
あのじいさんのツンデレとか一体だれが得するんだ…。うちの父さんとの絡みもなんかそういう風に見えてきたよ…。
しかし改めてこうして二人でいるとほんとに雪のことが大事なんだと実感するよ。
別に結婚しようと言ったことに後悔はない。ずっと好きだったし自分以外の誰かと雪が結婚するのを受け入れられるとも思わない。けど少し勢いがあったということは事実だ。自分で本当によかったのかどうかの自信にも欠けていた。けれどいまやっと自分の中で確かなものになった気がする。心の底から俺と結婚してほしいと、間違いなくそう思えた。
「ねえもし嫌だったら全然ぶん殴ってもらっていいんだけどさ、キスしていいかな。今どうしようもなく雪のことが好きなんだ。改めてそう思ったよ。」
自分でも珍しく緊張していることがはっきりとわかる。返事を待つこの時間がとてつもなく長く感じる。
「い、いいよ…。私も葵としてみたかったんだ…。」
そっと目を閉じた雪の顔は今まで見てきた中で一番綺麗だと思った。
雪の唇の感触がはっきりと伝わってくる。赤く染まった耳や自分に身をゆだねた彼女をいて経験したことのない幸福を感じた。
抱き合っていた時間は一瞬だったようで永遠だったようにも感じられるようだった。
「ど、どうだった…?期待外れとか思ってない…?こんなの経験ないから分からなくて…。」
あまりの可愛さに逆につらい!最高ですよ、まじで。
「思ってないよ俺も初めてだったしね。むしろ最高でした…!けど雪があんまりかわいいから心配になるよ。俺以外の人にそんな表情見せたらダメだよ。」
「大丈夫、私葵以外とこんなことしないもん。もう何があっても葵のこと諦めないって決めたんだ!それに何かあったら守ってくれるんでしょ?」
「もちろん! 何があってもね。」
「でもさ葵、結婚するまで一切手は出さない!って言ってたのにね!それともキスはセーフ?」
「そこを突かれると痛いなあ…。どうしても雪ちゃんのことが好きだと思ったら止められなくてね。もしかして嫌だった…?」
「ううん、全然!ほんとはね、ずっと待ってたんだ。ほんとは葵が後悔してたらどうしようとか、魅力がなかったらどうしようとかさ不安もあったから。だからほんとに嬉しかったの!それにあの時の葵の表情可愛かったよ!一生忘れられない思い出になりそう!」
よかったあ、嫌がられてたら立ち直れなかったよ…。それにしても俺どんな顔してた…?恥ずかしいけど俺も似たようなこと思ってたし文句は言えねえ…
「ちょっと恥ずかしいけどさ、嫌じゃないならよかったよ。さ、帰ろっか。あんまり遅れるとじいさんに怪しまれるからな。」
「うん!でも私は別に怪しまれたっていいけどね。」
いや、俺が殺されるのよ…
ーー
「よお、遅かったじゃねえの…。一体何してやがった…?」
こーれはまずいな…このじいさん鋭さを増してやがる…。そして雪ちゃんさあ…そんなに動揺したらなんかありましたって宣言だよ。
「総会終わりに有栖川さんから呼ばれちゃって…さすがに断れないじゃないですか。遅れたことはほんとすみません。」
嘘はギリギリついてない!はず…。
「まあいいんだ、お前が雪を傷つけるようなマネはしないってこともわかるし、何より顔見ればわかる。ここ最近はずっと暗い顔ばかりさせてたからな。正直お前には感謝してるよ。」
じいさん…。俺あんたのこと孫娘に近づくやつは絶対許さない!って融通の利かない人だと思ってたよ…。やっぱりなんだかんだ付き合いも長いしな、俺のこと認めてくれたか…!
「雪、早く中に入りなさい。ユミもお前を心配してたんだ。」
「うん!ごめんね、ユミ心配かけたでしょ?」
「いいえお嬢様。癪ですが私も他の男性に比べれば葵さんがマシなのは理解していますし、嫌がるお嬢様に何かできるほど度胸があるとは思いませんので。」
ひっどいなあ…。けど言う通りですよ。そもそも嫌がることをする度胸ってなんだよ!
「…葵、お前手出したらまじで殺すからな。正式に籍入れるまではちゃんと順序守れよ。…よし!お前も上がって行けよ!お前とも話したいことあるしな!」
「え?俺のこと殺すとかじゃないですよね…?」
「それはお前次第だな…」
このじいさん怖いよ…。孫を大事に思うのは分かるけどさ!俺ももう孫みたいなもんじゃん!
ん? なんかこっちに走ってくる子がいるな?
「あ!お兄ちゃんもしかして葵くん!?僕のことわかる!?」
お、なんか元気のいい少年が来たぞ。 ん?雪の家の少年か…誰かいたような…?
「もー! ひどいなあ…。大地だよ!天堂大地、姉ちゃんの弟の!ほんとに覚えてないの!?」
「あー!大地くんか!いやあー大きくなったね!まじで分かんなかったよ、あれ、帰国してからずっと会ってなかったけどどっか行ってたの?」
「実は修行中でして…早く当主になってじいちゃんや姉ちゃんを守りたくて…。けど急に姉ちゃんが葵くんと結婚するって聞いて、急いで帰らなきゃって! それに僕のために知らない人との縁談も受けそうだったて聞いて申し訳なくて…」
あーまあ大地くん的には雪を守りたくて頑張ってたんだもんな…。それがいきなりそんなこと聞かされたら動揺するよな…。
「雪も君を守りたかったんだよ、大地くんがお姉ちゃんを守りたかったのと同じようにね。だから別に君が自分を責めることじゃないよ。」
「でも…結局僕は間に合わなかったってことだよね…。だって葵くんがいなかったらお姉ちゃんはその人と結婚してたかもなんでしょ?」
「間に合わなかったんじゃないよ。君はこれからだからね。お姉ちゃんを守る役目をさ、俺にも分けてくれないかな?大地くんは弟として、それは君にしかできないからね。それで俺は、その、旦那として?あ、これは内緒な?俺らまだ結婚してないんだ、こんなの聞かれたら恥ずかしいだろ?」
実際もう既に恥ずかしいです!え、でも旦那になるよね…?そのうちさ。
「これから…うん、そうだね!僕頑張るよ!僕は当主になって天堂家を守るんだ!」
「うんうん。あ、でも俺雪のことは守るけどじいさんは大地くんだけにまかせるよ!雪最優先でいいからたまにはじいさんもかまってやれよ。あの人君ら孫のこと大好きなんだからさ。あ、でも雪はもう少し俺に返すように伝えてくれよ。俺から言っても無理だけど大地くんからならもしかしたらいけるからさ。」
そうだよな、大地くん経由でどんどん孫娘離れさせていこう!
「ん、あーお前らな、うちの廊下はよく声が響くんだ。広いわりに人が少ないからな。」
ん?このじいさんなんの自慢だ?家がでかいことを誇ってるのか、人が少ないことを自虐してるのか…?
とりあえず笑っておくか
「はは、そうっすね!」
「いや…あのな全部聞こえてるよって話よ…。」
「ん?全部?」
「そうだよ。まずお前はまだ雪の旦那ではないしお前にはまだまだ渡すつもりもない。そして返すってなんだ!返すって!いつお前のものになったんだ?あ?」
「うるさいよ!あんたもう少し孫を信じて俺との時間過ごさせるべきだろ!」
「俺が信じてないのは雪じゃなくてお前だ!紳士ですよ?って感じ出しといて絶対いちゃついてるだろ!」
「お嬢様!よかったですね!お嫁さん!とか言って浮かれてたのはお嬢様だけじゃなかったですよ!なんなら向こうの方がやばいです!」
「ユミ!やめてよ!内緒の話だって言ったじゃん!」
えーと死のうかな…。人生でトップクラスに恥ずかしいよ…。
あ、でもかわいい。よし!じいさんの怖い顔は見ないようにしようかな!
「葵お兄ちゃん…大丈夫…?」
あ、さっきまでの尊敬のまなざしが曇ったな。俺そういうのには敏感なんだよ。
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