★私と葵
前話の「報告」の少し後の雪ちゃん視点でお送りしています
まさかのとんとん拍子で婚約が決まり、そのうえ急遽家に泊まることにもなったし、今はお風呂まで借りてしまった。今までも泊まることは何度もあったが改めて婚約という関係になったあとだと少し、いやかなり緊張する…。正直お風呂上りの姿を見られることに抵抗がある…。げ、幻滅されないかな…今までも気にはなってたけど、今日のこの緊張はやばいよ…。
「けどこんなに幸せでいいのかなあ…。ちょっと前の自分だったら信じられないよ…。」
正直諦めていたと思う、葵とこんな関係になることはもう絶対にないと。嫌だったけど縁談を受け入れないと家がどうなるか分からないとあの人に言われたとき私はもう受け入れるしかないんだと思った。私が好きな人と結婚したいと思うことはわがままなんだと納得しようと思っていた。けどあの時葵が来てくれて、それだけで嬉しかったし、時々会えるだけで頑張ろうと思えた。
「まさか結婚しようなんて言ってくれると思わなかったなあ…。ほんとに何言ってるかわからなくなりそうだったもの。」
おじいちゃんが言ってた通り私もお嫁さんになれるなんてほんとに思ってなかった。葵のそばにいられたらほんとにそれだけでいいと思ってたのに…。あの日一緒に暮らそうって言われたときもほんとは行きたかった、けどそれを選ばなかった。けどいざ別な人と結婚するってなったときやっぱりどうしても葵と一緒にいたいと思ってしまって自分がこんなに欲深かったんだと分かってしまった。それでも葵が来てくれて、ほんとに泣きそうで…。
今でも夢なんじゃないかと思う。それに葵が陰陽師として復帰してくれることも嬉しかったんだ。ダメなことかもしれないけど葵が私のために覚悟を決めてくれた気がして…。それに葵が一番かっこいい時っていうのはやっぱり陰陽師をしているときだと思う。まあ普段からかっこいいけどさあ!正直今日来てくれたときはやばかったよ!人生で一番かっこいいと思った瞬間の一つだったね…。
そんなことを考えていると少しのぼせてきた気がした。
「ちょっと長湯しすぎちゃったかな…。」
ーー
「ねえねえ!雪ちゃんが葵と結婚するってほんと!?ていうか他の人と結婚させられそうだったって!?」
お風呂から上がると帰宅していた紬ちゃんが駆け寄ってくる。すごい質問攻めでどれから答えていいか分かんないよ…!
「本当だよ。まあでもまだ婚約って形だから今すぐにってわけじゃないけどね。それにあ、葵が助けてくれたから大丈夫だったのよ。」
「いいなあ…。あ、嫌ってことじゃないよ!私も二人が結婚してくれたら嬉しいなって思ってたもん!それにもし葵がそんな中助けに行かなかったら私絶対許さなかったよ!」
私は紬ちゃんが葵のことを好きなことも聞いているし、何ならお互い相談に近いことをしていた。だから少し不安ではあったが喜んでくれるなら私もほっとする。
「もしさ、私が結婚したからって紬ちゃんが葵のことを好きなのを諦めなきゃいけないってことはないからね…?まあこんなこと言われてもうざいだけかもしれないけど…。」
こ、これってマウントみたいになってないよね…?あーなんて言えばよかったんだろう!
「ううん、ありがと!私葵のことも好きだけど雪ちゃんのことも好きだもん!他の人とかなら嫌だけどねえ…。それに私はもともと立場的に正室は無理だもん、むしろ雪ちゃん以外の人と結婚されてたらそっちの方がやばかったね!」
陰陽師という家系では未だに近親婚がそこまで珍しくはない。というのもより霊能力の強い子どもをつくるためであるとされている、しかしその場合には正室の立場にはなれないものとするのが暗黙のマナーとされている。紬ちゃんは血の繋がりはない義理の妹であるが、そうであっても正室は避けるべきと考えられるわけである。
まあこの二人の場合は兄妹として育ったって感じはしないんだよね。紬ちゃんを葵が保護したのも10歳をお超えてたし、二人とも兄妹としての意識が薄そうだしね。少なくとも紬ちゃんは葵を兄って認識してないと思うんだよ…。お兄ちゃんって呼ばないの?って昔聞いたときも葵くんは葵くんって感じってよく分かんないこと言ってたしねー…。なんなら一番手ごわいライバルになるかも…?
「結婚したらさー二人ってどこに住むの?今のうちみたいに本家とは別の家に普段は暮らす感じ?」
そんなこと考えたこともなかった…。確かに葵の家って名家にしては珍しく家族だけで別宅に暮らしてるもんなあ。うちだってこう本家の敷地に一門で暮らしてるもん、いくら近くても別宅で暮らしてるのって久我家だけなんじゃ…。
けどこの家の雰囲気に憧れるんだよね…!みんな仲良くて同じ空間にいる感じ…!
「考えてなかったけどこういうのもいいなって思うことが多すぎて決められないかなあ…。だって少し前までこんな状況になることだって想像できなかったもん!今だって夢なんじゃないかなって…。」
「でもほんとに嬉しいなあ…!雪ちゃんとも正真正銘のほんとの家族になれるんでしょ?みんな喜んでるよ!さっき連絡したらお姉ちゃんは今日は本家で仕事あるって言ってたから、今度会ってあげてね!今日来れなくて絶対拗ねてるからさ!」
葵のことがもちろん一番好きだけど葵の家族もみんな好きなんだよね。みんなほんとに優しくて、落ち着くって感じ!
「あら、雪ちゃん早かったわね。少しお風呂熱かったかしら?」
「いえ、ちょうどよかったです。最初に入っちゃってよかったんですか?」
「もちろんよ!あそこのバカ二人はまだ言い合いしてるしね…。それにしてもほんとにあの子でよかったの…?我が息子ながらあんな様子見てると…後悔してない?」
そういって葵のお母さんはリビングで喧嘩をしている葵とおじさまを指さす。
「後悔なんてそんな、今ほんとに幸せなんです。それに私自分で思っていたより葵のことが好きなみたいだなって!自分でも不思議なんですけどね…。」
「そう…雪ちゃんがそう言ってくれてよかったわ。あの子自分に自信があるように見えるけど本当は結構心が弱いから、あなたが支えてあげてほしいの。それはずっとそばにいてくれたあなたにしかできないことだと思うから。ま、もし嫌になったらいつでも相談してね!私だって雪ちゃんのこと何年も見てきたのよ。もう本当の娘みたいに思ってるんだからあなたの味方よ。これから本当の娘になるわけだけどね!」
ちょっと泣きそうだよ…。私もこんな風になりたいなって思う、けど葵がおじさまみたいになったらちょっと嫌だなあ…
「お母さん、そろそろあの二人止める?多分二人とももうやめたそうな顔してるもの。きっとどっちも言い出せないからきっかけが欲しいんだよ…。」
うん、そう言われればそんな顔に見える…。葵って普段すごい大人びてるけどこういうとこ子供っぽいよね、めっちゃかわいい。
「じゃあ紬、止めてきてくれる?きっとあなたが言えば二人とも意地を張らずにこっちに来るわ。ほんとに子供っぽいんだから。嬉しいのは分かるけどね…。」
「わかった!」
紬ちゃんが二人を止めに行くと二人ともすごくうれしそうな顔をしてた。やっとやめられる!って感じだけど早くやめればいいのに…。
「京子…もうちょっと早く止めてくれてもよかったんだぞ…?葵のやつも引くに引けない感じだったぞ…。」
「あら、あなたがとっとやめればよかったんですよ?嬉しいのは分かりますけど、葵が怒るのももっともですからね。」
あ、おじさま普通に怒られてる…。なんか見てていいのかな…。
「あー疲れた、父さんもいい加減にして欲しいよなあ?もう少し大人になって欲しいよ。」
んー言いにくいけどお互い様だと思うけどね。意外にこういうところがあるのがかわいいけどさ!
「それにしてもその感じの雪ちゃんもかわいいね。ラフな感じっていうのかな?なんか今日もいろいろあったけどさ、今やっと夢じゃないって実感できたよ。これからも一緒にいてね。」
あ、泣きそう…。何回でも言うけどさあ、幸せすぎる…。しかも急にかっこいいしさあ!
「あれ、黙られるとちょっときついんだけど…。」
「ふふ、ごめんね。私も同じこと思ってたとこだよ!これからもよろしくね!」
けどやっぱりお風呂上がりはちょっと恥ずかしいかな。




