地下VIPルーム
そして、女二人に抱きつかれたままの俺達が案内されたのは、丁度奴隷市場の真下に当たる部屋。
大音量で流れるハイテンションな曲と、煌びやかな光魔法が輝く、地下のクラブをイメージする様な大きな部屋だった。
見渡せば、部屋の至る所に古いバーに置かれている様な木の椅子と、丸い木のテーブルが置かれ、部屋の奥は大きな白いステージが顔を覗かせている。
そのステージの上では、縛られた奴隷と思しき少女が少し高い台座に上げられ、その台座の下でその少女の魅力を話す色っぽい女性が一人立っている。
魔法で声を大きくしているのか、その声はマイクを通した声の様に会場に響いていてここからでも聞き取れたが、内容からどうやらここはオークションの様なシステムらしい。
台座に上げられた少女に、テーブルに腰かけた何組かの貴族らしき組が高い金額を口にしていく。
「こちらにどうぞ~」
そう言って、舞台から少し離れたテーブルに案内された俺達は、そのテーブルに腰かける。
やっと解放され、一息ついてサチコと正彦の顔を見ると、二人とも照れたような表情になっている。
サチコは分かりやすい程に顔が真っ赤だし、正彦も少し顔が赤い。
正彦のそんな表情は、少し俺の中の正彦のイメージとは異なったせいで、思わず微笑んでしまう。
「二人とも、大丈夫か?」
「……ぅぅ……先生、私もうお嫁に行けないですかね」
「いやいや、それはないから安心しろ」
別に、サチコが裸を晒したわけでも無いのに、そんな反応をするサチコに言葉を返してから正彦にも目を向ける。
「正彦も、大丈夫か?」
「あ、アタシは大丈夫だ。主殿」
「ははっ、そっかそっか」
「……主殿? なにか、可笑しかったか?」
「あ、いいや。やっとお前の堅苦しい表情以外を見れたからさ」
「す、すまない……不快にさせたか?」
「いいや、できたらあんまり堅苦しいのは止めてくれ。俺は、お前を使い魔と言うより家族として見てるんだぞ?」
「……そう、か」
俺がそう言うと、正彦は沈黙したまま少し恥ずかしそうに小さく言葉を返してくる。
その様子は、今までの堅苦しい感じとは違い、本当に可愛らしく、女の子らしかった。
「先生、そろそろでしょうか?」
正彦とのそんなやり取りを終えると、小さな声でサチコがそう聞いてきた。
同じ様に、少し声を抑えて俺は口を開く。
「そろそろかもな……でも、俺はここに入ってくれ、以外ロクに何も知らされてないからな……」
「そうなんですか? 私も、私達が着ているこの服に魔法が掛けられていて場所が分かる、という事くらいしか聞かされていなくて……心配はないと思いますが……」
「まぁ、騒ぎが起きればすぐに分かるだろう……」
「……大丈夫、でしょうか……」
「ああ、俺達は別に大きく事を起こす訳じゃない。何かあれば、俺と正彦が守るから安心してくれ」
「……ありがとうございます」
サチコと、そう言葉を交わしてから顔を離す。
本当に、サチコにはあまり危険な目に遭ってほしくないからな。
今回の事も、あまり参加してほしくはなかったのが正直な所だ。
「おやおや~? お客様、ここは初めてですかにゃ?」
「ん?……あ、あはは、まぁ……」
そして、俺とサチコが顔を離した途端に俺の真後ろから駆けられたそんな声に、俺は振り返る。
そこには、先程俺達に抱きついて来た女性の一人であろう紫と白の中間色的な髪色の女性が立っていた。
その目のやり場に困る服装に一瞬戸惑いつつも、そう返事をする。
すると、女性は俺のすぐ脇まで来て、俺に一枚の紙を差し出した。
「私は、ネイカって言うにゃ。よろしくにゃー」
そう言う女性から、紙を受け取ると、その紙には小さく名前が書かれていた。
どうやら、名刺の様な物らしい。
「ああ、ネイカさんって言うんですね……俺は……んっ」
「ああ、ダメにゃダメにゃ。お客様は、名乗っちゃだめなのがここのルールにゃ」
俺が、言葉を返そうとすると女性、もといネイカは俺の口元に指先を押し当ててきた。
一瞬驚いたが、まぁ納得のルールではある。
ここは、城に関わる重鎮がお忍びで来る場所。
気軽に名乗ればどこで誰が聞いているか分からないと言うのも理解はできる。
まぁ、俺達はどちらかと言えばそれを盗み聞きする方なんだがな……。
「本当に、ここに来たことないみたいにゃんね。まぁ、でも最近はそう言うお客さんも多いけどにゃ」
「まぁ、事実初めてですよ。けど、ここの空気に変に緊張しちゃって」
適当に、そう言葉を返す俺に、ネイカはくすくすと笑う。
「そんなに緊張する事ないにゃよ? 基本的なルールは舞台の上に欲しいなーって子が出てきたら手を上げて金額を言うだけにゃ。手も挙げられないシャイな子は、ネイカみたいにその辺に居る店員に伝えてもいいにゃよ?」
「へぇ、じゃあ落ち着いたらやってみますよ」
「うんうん、女の子と博打以外は何事も気軽にまずは一発、にゃ。先生も、楽しまなきゃ損にゃよ?」
「はい、ありがとうございます」
「それじゃあ、ネイカはお邪魔みたいだから消えるにゃ~。何かあったらよぶにゃよ~」
そう言って、テーブルから離れていくネイカ。
少しだけ、その姿を見送ってから正面に視界を戻すとサチコが少し驚いた表情でこちらを見ていた。
「……ど、どうしたんだ?」
「あ、い、いえ……先生って……こういう場所、慣れてるんですね……」
「え……い、いや!? 慣れてなんか無いぞ! ほ、ほら今だって適当に返しただけだし!」
「そ、そうですか? ……ちょっと、安心しました」
「あ、あはは……それは、よかった……」
危ない危ない、もう少しで生徒にこういうお店に入り浸っている男だと勘違いされるところだった。
事実、俺はこういう店員の女の子とおしゃべりする様な店に来たのは初めてだ。
ただ、さすがに保護者などを相手取って話した経験が生きてしまったのか、慣れている様に思われたんだろう。
ちょっと、危なかったな……。
「……主殿」
「……ん? どうした? 正彦」
すると、何故か真剣な表情の正彦が静かに俺に口を開いた。
その、表情に俺も少し表情を戻す。
「今の、ネイカと言う女。最後に主殿を先生と呼んでいたが……」
「……何?」
「えっ……」
正彦の言葉に、サチコと俺は同時に反応し、少し冷たい何かを感じる。
これまでの会話を聞かれた、のだとしたらもしかすれば俺達はやらかしたと言う状況なのかもしれない。
再び振り返り、ネイカの立ち去った方向を見るが、そこにネイカの姿はない。
「会話を……聞かれたか?」
少しだけ、見渡す様に会場を探るがどこにもネイカの姿はなかった。
席を立って探そうとも思ったが、あまり目立つ行動はしたくない。
第一、これ以上なにか行動を起こすのは本当に危険だろう。
「主殿……どうする?」
「先生……」
不安そうにするサチコと真剣な表情の正彦に視線を返しながら俺は最善の策を探す。
「……今は、待とう。幸い、何か動きがある訳では無い様だ」
だが、俺の中にまともな選択肢が産まれる訳はなく、やっと口から出たのはサチコを落ち着かせる程度にしか効果のない言葉だった。
ただ、事実いま動くのは危険なのだ。
そう、場所は分かっているはずなのだ。
つまり、待つしかない。
皇女達の突入を。




