作戦直前
中心街トースタ ベル城内
城の中で暇を潰すことになった俺達は、一旦バラバラに行動する事にした。
サチコ達に、城の中を見て回ろうと誘われはしたが、俺はそんな気分ではなかったからだ。
社会見学ではないし、俺が同行しなくてもいいだろう。
いろいろな事が一気に起こり過ぎて疲れたのが本心なのは秘密だが。
皇女の玉座がある部屋を出て、すぐ正面に見えるテラスに設置された白い椅子に腰かけて外を眺めると、トースタの街とその向こうに広がる広大な草原が目に入る。
あの草原は、無限に続いているんだったか……。
だが、そんな事は関係なく白い街並みと、緑色の草原のコントラストはとても美しく、何時までも見て居られそうだった。
そんな景色を見ていると、不意に俺の肩に何かが叩いた。
「ん?」
そして、叩かれた方の方を見ると、そこには俺に助けられた時と同じ格好のミライが立っていた。
ボロボロの布を一枚だけ持っている彼女は、この温かい気温の中でも寒そうに見えた。
「お、おい……何でそんな格好なんだ? 皇女に服を貰えなかったのか?」
「……」
「奴隷の芝居はもういいぞ? お前は、皇女が俺達を見つけるためにあそこにいた皇女の奴隷か何かなんだろ?」
「……」
「……?」
話し掛けるも、返ってくる言葉はない。
別に黙っているとかではなく、本当に言葉を理解できていない感じだ。
「あ、ここに居ましたか」
そして、続いてそんな言葉と一緒にテラスに入って来たのは、何人かのメイドを連れたメリーだった。
見れば、ミライの服らしきものを何着かメイド達が持っている。
そして、皇女がテラスに入ってくると同時にミライは俺の背中に隠れてしまう。
「あ、甘粕様、よろしければその奴隷の子をこちらに連れて来てくれると助かるのですが……」
「あ、ミライの事か? すごい、怖がってるみたいだが……というか、ミライは皇女の奴隷じゃないのか?」
「え? ……彼女が私の奴隷、ですか?」
「ああ、俺達を探すためにあそこに仕掛けておいた、言い方は悪いかもしれないが罠みたいなものだと思ったが」
「いえいえいえ、私は奴隷を持ってなどいません。奴隷を無くそうとする私が、奴隷を持っていては意味がないでしょう?」
「……そ、そうなのか」
真剣に言う皇女の言葉に、少し押されつつもそう言葉を返す。
ただ、そう言う事なら本当にミライはどこかから逃げてきた奴隷なのか……。
「その子は……ミライ、というのですか?」
「ああ、名前は聞いてないのか?」
「はい。先ほども名前を聞こうとしたり服を着せたりしようと私達が彼女に近寄ると、何故か彼女は逃げてしまうので……今もこうして追いかけっこを……」
少し困った風に言うメリーに嘘を言っている様子はない。
というか、嘘であるメリットがないか……。
その言葉を聞いて、ミライを見る。
でも、その様子は何かを怖がっている様だ……。
さっき俺達を見た時や、衛兵たちを見た時もこんなに怖がる様子は見せなかったが……。
「……ミライ、何が怖いんだ?」
ミライには理解できていないであろう言葉だったが関係なく投げかけて、頭を撫でる。
すると、小さくなっていたミライが少しだけ安心する様にこちらを見る。
「……皇女様は何もしないぞ? 一体何が怖いんだ?」
「……」
言葉は返ってこないが、俺はそう言って撫でられているミライがある一点を見つめている事に気が付いた。
「……何を見てるんだ?」
そして、その視線を追う様に見る。
その視線を追った先に有ったのは皇女、の頭の上に乗るティアラだった。
「……ティアラ、か?」
「はい? あ、これですか?」
そう言って、皇女は静かに頭の上からティアラを取る。
「な……皇女様! いけません!」
「大丈夫です。今は、ミライと甘粕様しかこの場に居ません」
ティアラを外した皇女に対して何やらメイドが騒ぎ立てるが、そう一括してから皇女はティアラを一人のメイドに手渡した。
皇女がティアラを外すと言う事は、大きな意味があると聞くしきっとメイドはそれを言いたかったんだろう
「……これで、いかがですか?ミライ様」
そう言って、ミライに近付く皇女。
すると、ミライはそのまま皇女の頭をまじまじと見つめた後、スッと俺の服を握る手を緩めた。
どうやら、本当にティアラが怖かったようだ。
「ほら、ミライ。服を着せてもらってこい」
そう言って、優しくミライの背中を軽く押すと、ミライは皇女の元に歩いていく。
そして、皇女のすぐ横まで行くと小さな手で皇女のドレスを握った。
そんな光景に、思わす顔を綻ばせていると皇女がミライの頭を撫でながらこちらに視線を向けてきた。
「甘粕様も、すこしよろしいですか? 今夜の件で少しお話したい事がございまして……」
「お、そうか……わかった」
皇女の言葉を聞いて、俺は静かに立ち上がる。
そして、そのまま皇女の後について城の中を進んだ。
そして、少し歩いた先にあったいくつかの白い扉の並ぶ廊下。
そのうちの一つの扉の前でミライをメイド達に任せ、俺は皇女とその隣の部屋に入る。
部屋の中は、一見地味だがそれは城内と比べてであって、白を基調とする豪華そうな家具が並んでいる事に変わりはなかった。
「……ミライ様は、きっと今回潜入していただく奴隷市から逃げてきたのだと思います」
「……なるほど、そう言う事か」
俺が部屋に入り扉を閉めた所で、俺の前に立つ皇女がティアラを身に着け、そう口を開く。
「今回の奴隷市を制圧することが出来れば、たくさんの奴隷を救えるはずです。ミライ様の様な子供も数多く」
「……それには、俺達がまず上手くやらないといけないって訳だな」
「はい……どうか、よろしくお願いいたします。」
そう言って、静かに礼儀正しく頭を下げる皇女を見ながら、俺は少しだけ気を引き締める。
確かに、大きく動くのは皇女の衛兵になるだろうが、俺達の役目も失敗するわけにはいかないのだから……。




