一方その頃……
一方その頃……。
ベルからレッドをまっすぐ飛び越えて遙か北の地。
幾つも山を飛び越えた先に広がる平野の中に、聳える様にしてある城壁とその向こうに広がる色とりどりの建築物の群れ。
ベルと似た様な没個性的な建物が並ぶその国は、魔法国家オオサカと呼ばれている。
近隣国と比べると軍事力や発言力はやや低いが、だからと言ってその国が軽視されることはほとんどない。
理由は、建てられた建物ほぼ全てに掛けられているのれんと旗。
色や形に差はあれど、そこに書かれた文字の差はほとんどない。
そして全てに共通してるのは、何かを売っていると言う意味。
雑貨、薬品、食べ物、玩具、趣向品、宝石、文房具、サービス、売っている物に差はあれど、売っていると言う大筋に違いの無い文字が書かれたのれんや旗の並ぶその国は、商人の国と呼ばれていた。
その街並みから近隣国において、一種の観光地ともなっている。
さらに、レッドを中心に南のベル、北のオオサカ、東のレーベル、西のヴィヴィレッジと言う5つの近隣国では、最も多くの種族と共存している国家である。
人間だけでなく、エルフ、妖精、獣人、巨人、あらゆる種族がその一つの国家に共存し、自由に生きている所も評価され、一部からは人情の国とも呼ばれる程だ。
レッドの剣、レーベルの絵筆、ヴィヴィレッジの宝石、ベルの動物、売り買いしたきゃオオサカへ、なんて言葉はこの近隣国ではとても有名な言葉だ。
そんな国の中央に位置する天を突くような美しく大きな城。
その城の一室で、大きな音を立てて乱暴に開かれた扉に、その内部に居た何人もの視線が集中する。
その視線を受けながら、扉を開けた張本人であるマレスは真剣な表情でその視線の主たち全てを見返す。
そこに居るのは、3人もの堅物そうな老人達。
その貴族の様な恰好から、彼らが何者なのかを理解する事は難しいが、その傍らに控えている騎士たちの数から大物なのは誰でも読み取れる。
事実、その老人たちはとんでもない大物だ。
何を隠そう、彼らこそ、先程名前を出したレッドを囲む様にして建国しているレッドとベル以外の3つの国、オオサカ、レーベル、ヴィヴィレッジの心臓部なのだから。
彼らの声一つで、本当に国が動くのだ。
そして、その視線を向けていた3人の老人は顔をしかめながら、少女の言葉を待った。
本来ならば、ここに来るのはベルの皇女ではないのか何て言う質問は飛んでこない。
一応、これは皇女の許可もとってある事だ。
「皆さん、お集まりいただきありがとうございます。ここに居る、という事は皇女の代わりに私が話をさせていただくと言う事前通達については、目を通されているという前提で、話を始めさせていただきます。」
そして、マレスは老人達の表情に答える様にその部屋の奥の台まで歩きながら普段見せない敬語で話を始める。
「この度、私が学校長を務めさせていただいているベル国内の魔法学校が、レッドの軍隊によって襲撃されました。春期休暇だった事もあり被害は軽度ですが、レッドの軍隊に拘束された生徒達は酷い不安と恐怖に侵されています」
奥の台に乗り、苦痛をかみしめる様な表情でそう言うマレス。
そして、その表情のまま彼女は言葉を続ける。
「ある生徒は恐怖から夜も眠れず、ある生徒は拘束された苦痛から、新学期からの授業を休学したいと言い出しています。どれも、レッドが来なければ起こらなかった事です。皆さん、どうでしょう。これは、戦争ですか? それとも、国ぐるみの暴行ですか?」
マレスは、目の前でこちらに視線を向ける老人に問う様に言葉を飛ばす。
それを聞いて、その空間に居る老人を含めた人々は辛い表情を浮かべていた。
「戦争ならば、無関係な生徒や軍事参加していない状態の学校を、戦争に巻き込む事は条例で許されていないはずです。国ぐるみの暴行ならば、最早レッドは国家ではありません、ただの武装組織です。どちらにせよ、レッドは一国として大きな過ちを起こしたことに変わりありません。」
「これを粛清せず、見て見ぬ振りをして、皆さんは一国を背負う重鎮だと自信を持って主張できるでしょうか? ベルの皇女メリー・ドット・クリストマスは、この事態を重く考えレッドへの宣戦布告すら視野に入れています。これは、弱小国家と言われるベルが、ここまでの覚悟を決めていると言う確たる証拠ではないでしょうか!」
マレスが、大きく叫ぶと前に座る老人が、大きく頷いた。
「我等、ベル、オオサカ、レーベル、ヴィヴィレッジの四国は今こそ手を取り合い、国としての誇りを捨て去ったレッドへ、我等の誇りを示し、粛清すべきです!」
その頷きを見逃さず、マレスは最後の一声を叫ぶ。
すると、その叫びに三人の老人から三者三様の拍手が送られた。
一人の老人は、目に涙まで浮かべている。
「……ベルのお嬢さん……その言葉、レーベルとしてしかと受け取った。返答は、期待してくれ」
「ヴィヴィレッジとして、右に同じ」
「ワシ等オオサカも、言う事はあらへん。でないなら、こんな会合を許したりはせんしな」
そして、拍手が止んだ時に、老人達がポツリとつぶやく様に次々にそう言った。
「ありがとうございます。それでは、返答をお待ちしております」
その言葉に頭を下げてから足早に部屋を退室するマレス。
「……お嬢様、お疲れ様でした」
「まぁ、こんなもんでしょう。嘘は言って無いし、レッドが自分に都合のいい声明文出す前に行動起こしといた方が良いでしょ。自国の方の事で忙しい皇女に任せといたら、確実にレッドに好き勝手されそうだし」
そして、部屋のすぐ外で待っていたリーンからの言葉を受けながら、マレスはまっすぐ続く豪華な造りの廊下を進む。
「……にしては、ちょっと説明が足らんくないか?」
だが、少し進んだ辺りで掛けられた声にマレスは足を止める。
そして、廊下の柱の影からスッと現れたのは美しい女性。
ただ、その外見は正しく人間であり、人間でない。
黄色い瞳に青く長い髪だけを見れば、その女性を人間として見れるだろうが、真っ青に染まった素肌を見て人間だとは考えられない。
だが、マレスはリーンは別段その外見に驚きはしない。
彼らはこの外見、というよりこの女を見慣れているからだ。
「オオサカの王女様がどうしてこんな所に居るのかしら」
「そりゃ、ここはオオサカ領やし。問題あらへんと思うけど? むしろ、ちょっと会いたかったんと違う?」
「毎回毎回思うんだけど、オオサカの一番の欠点は、貴方みたいな人外と共存してる所よねぇ。使役ならまだしも、王族として扱うなんて」
「ウチも毎回毎回思うんやけど、ベルの欠点はこんなちんちくりんに権力を与えた事やと思うわ」
「退きなさい、私は肌の青いオオサカの王族だけには道を譲らないって決めてるの」
「奇遇やなぁ、ウチも金髪チビの学校長にはおんなじこと決めてるんや」
そう言い合いながら、バチバチと火花を散らす二人。
だが、すぐにマレスがその視線を逸らし、飽きた様に無視してその女を避けて歩き出す。
「待ちなはれ、まだ話は終わってないで。中の老人達はそこまで気が回らんかったんかもしれへんが、ウチは誤魔化されへん」
女の言葉に、ため息を吐きながらマレスは再び立ち止まる。
そして、立ち止まったマレスに女は静かに口を開く。
「レッドに拘束されたあんさんが、なんでそんなピンピンしとるんや。普通やったら、レッドに今も拘束されとるんちゃうか?」
「さあね、撤退してたの。気が付いたら」
「よう言わんわ。そんな言葉、イカでも騙されへんよ」
「でも、他になんて説明したら? 事実は事実」
「はあ? あんさんの学校はそこまでやすもんやない。価値があるもんや。そこから撤退? なんでそこに疑問をもたへんの」
「あのね、さっきから聞き取りずらい。その口調直したら?」
「ぐっ……本音突いたら話題とっかえっこかいな。その手には乗らへん……そうや、ウチも連れて」
「却下、行くわよリーン」
「ちょっ、待ち! まだ最後まで言っとらん! 待たんかい!」
足早に歩くマレスとそれをそう言いながら追いかける女。
だが、もはやマレスは女を相手にする気が無い様で、足を止める気配がない。
その様子から、無駄だと悟ったのか女の方もすぐに追いかけるのを止めた。
すこしして、マレス達の乗ってきたレッドドラゴンの羽音が辺りに響いてから、女は小さくため息を吐く。
「……はぁ……ほんま、釣れん女やで」




