何でも揃う箒屋さん
店の扉を開けて最初に俺たちを出迎えてくれたのは、扉につけられた入店を知らせる鈴の音色だった。
「いらっしゃいませー、ドン・テホーキへようこそ!」
そして、何やら忙しそうに箱を運んでいる女性の店員がこちらを見て笑顔で俺達の来店を歓迎してくれる。
店の中には、予想通り結構な数の客らしき人々が居て、各々に商品の陳列された棚を見ている。
店内はテーマ曲らしい曲が魔法で流れ、賑やかな雰囲気に包まれているがその雰囲気の一番の原因はテーマ曲でも客の喧騒でもなく、その山積みに陳列された商品だろう。
店の中にいくつも並んだ棚は凄まじい数の商品であふれかえっており、中には見上げないと上が見えない程に積み上がった物もある。
ただ、何と言うか……この感じにも見覚えがある……。
「甘粕先生、やっぱり以前に来られたんですね」
「ん? なんで、そう思うんだ?」
横から掛けられたサチコの言葉にそう返すと、サチコは商品の方を見ながら口を開く。
「だって、こんなに積み上がった商品を見て、驚かないなんて初めてじゃない証拠ですよ」
サチコの言葉に、俺も再び並べられた商品を見る。
確かに、これだけ積み上がっていると初見なら確実に驚くんだろうが……俺の場合は最早初見とは言えないだろう。
本当に、すべてそっくりな光景を見た事があるんだから……。
ただ、説明するのも面倒だ。
ここは初めてじゃないと言う事で良いだろう。
そう結論付けた俺は、店の中に歩を進める。
「結構、忙しい時間に来ちゃったみたいですね」
「ああ、そうだな……」
サチコとそんな会話をしながら、店の奥に進む。
別に、急ぎではないから自由に見てもよかったが、とりあえず店員を見つけてからでも遅くはないだろう。
そんな事を考えながら、見上げる程まで積み上げられた棚の横を通過していくと、コーナーが変わったのか少し開けた場所に出た。
「おや、サチコちゃんじゃないか!」
「……?」
すると、唐突に横からそんな声が掛けられ、俺達はその方を見る。
そこには、緑色の髪をした少しやせ形の30代前半位の外見をした男が、バーのカウンターの様な作りの中に立っていた。
見れば、男の後ろに並べられたガラスケースの中には、金色に輝く指輪やブレスレッドが見える。
ここは高価な品を扱う場所なんだろう。
「あ、ビリッヒさん。こんにちは」
「おう、やっぱりサチコちゃんは礼儀正しくていいなぁ。チープにも見習わせてやりたいくらいだ」
そして、サチコはその男性に向かって慣れた様に挨拶をする。
ビリッヒと言うのは、この男の名前だろう。
「おや? 今日は彼氏とデート中かな?」
そして、男はサチコの隣の俺の姿を視界に収めると、そのまま茶化すような顔でそう言う。
「ち、違いますよ! あ、甘粕先生、この方がチープちゃんのお父さんのビリッヒさんです。」
「あ……なるほど……」
真っ赤になったサチコは、そう否定した後俺にその男性を紹介してくれた。
違いますよと言う否定にすこしグサリと感じながら、俺はその男性の顔を見る。
なるほど、髪の色は遺伝か……。
「初めまして、魔法学校の新任教員になりました。甘粕です」
「おお!? これは、先生でしたか。いつも娘がお世話になってます、今日は、マレス学校長の使いで?」
「そうなります。このメモの物が欲しいんですが」
「お、分かりました。ちょっと待っててくださいね~」
俺からメモを受け取った男は、そのまま高価な商品のあるカウンターを飛び越えて俺達の横を抜けて棚の方に駆けていく。
ここの番はいいのか……と思ったが、俺達が見ていれば問題ないのかもしれない。
まぁ、商品を探してもらっているのだから、少しの間ここで待っていてあげるのが通りと言う物だろう。
「気さくな親父さんなんだな……付き合いは長いのか?」
「それほどではないです。初めてお会いして1年経つくらいなんですが、ああ言う壁を作らない方なので」
「そう言う事か……」
確かに、あの性格ならだれとでもすぐに仲良くなっていそうだ。
典型的な、子供に好かれる大人って奴だな。
「そうだ、正彦、もう店員さんは呼んだしサチコと店の中を好きに見てきていいぞ」
「え、良いのか主殿」
「ああ、俺は適当にここで待ってる。マレスから自由なお金もちょっと貰ってるし、欲しい物とかあったら言いに来い」
「……わかった」
「行こうか、正彦ちゃん」
そう言って、正彦はサチコと棚の方に去っていく。
やはり、先生が一緒だとサチコも楽しめないだろうし、正彦もこの方が気が楽だろう。
俺が学生時代だったら、絶対教師と一緒に買い物とか来ない自信があるしな。
「……本当に、いろいろ扱ってるんだな」
その場を離れない様にしながらも適当に暇を潰そうと、その場所から見える位置の棚に近付き山積みの商品を見る。
すると、その積まれた商品の下敷きになっている何かが見えた。
それは、少しボロボロの布の様な物。
カーペットかと思ったが、他の場所は木の床が丸出しの状態なのにここだけカーペットという事はないだろうとそれを引き出し広げる。
見た所商品名どころか、値段も何もついてない。
「なんだこれ……」
「おお、透明マントに目を付けるとは、良い趣味してますね」
「え?……今、なんて?」
俺の後ろに大きな布袋を担いでやってきた店主の男、もといビリッヒさんの言葉を聞いて俺は言葉を返す。
どうやら、この僅かな時間で商品を持って来てくれたらしい。
「透明マント、名前の通り透明になれるマジックアイテムですよ。そんな所に在庫があったとは」
「おお……これが、透明マント」
名前に聞き覚えのあるそのアイテムに少し興奮してしまう。
やっぱり、こういう映画の中だけとか考えていたものが目の前にあると嬉しいって言うか、ちょっと欲しくなってしまうな。
いつだったか、ポーションと言う飲み物が発売された時を思い出すようだ。
「ディフェンス魔法やペイン魔法で透明になれる人にはあんまり意味ないかもしれないですが、コイツはバレてもマントで顔が隠れてるから正体まではバレません。何に使うかは知りませんが、透明になれるロマンって男は捨てられないでしょう?」
「……一応、教員なんであんまり同意できないですが……顔がばれないのは素敵ですね」
「おやおや、先生はもし手元にこれがあったら何に使うおつもりで?」
「いやだなぁ、授業に決まってるじゃないですかぁ」
「わっはっはっは、面白い先生だ」
「はっはっはっは、貴方には負けますよ」
そうして、マレスに頼まれた商品の会計をして、しばらく待っていると、棚の方から正彦とサチコが戻って来た。
サチコは、片手に紙袋を持っている事から目的の物は買えたんだろう。
「正彦は、良いのか?」
「ああ、主殿。興味を引かれた物はない」
「そうか……なら行くか。よいっ」
ニコニコと笑いながら、そう返事をする正彦に言葉を返しながら俺は頼まれた物がパンパンに詰まった布袋を持ち上げようとする。
「主殿、それはアタシに任せてくれ」
だが、割り込む様に言われた一言で俺は動きを止める。
「え……でもなぁ……」
確かに、コイツの力は一度目にした。
恐らく、こんな袋は余裕で持ち上げるだろう。
だが何となく、女の子に物を持たせるのは抵抗があるんだよなぁ……。
「アタシは主殿の使い魔だ。使い魔が主殿に荷物を持たせたまま放置なんてできない」
そう言って、正彦は袋に手を伸ばそうとする。
「待って、正彦」
ただ、自然に俺は彼女を止めていた。
確かに、彼女のその言葉は嬉しかったし、彼女の気持ちも分かるには分かるが、その言葉に従ったら今まで何となくつっかえていた彼女との関係がそのままになってしまう気がしたから。
「半分ずつ持とう。ダメかな?」
「……主殿が、それでいいなら」
「ああ、それがいいんだ」
少し申し訳なかったが、もう一つ布の袋を貰い中身をほぼ半分に分ける。
そして、片方ずつを俺と正彦は持ち上げる。
それでも少しズシリと来るが、これが彼女と近づける一歩になればと思えば、そう重くは感じなかった。
「……」
そんな俺達を、ちょっと納得した様な顔で見つめるサチコに俺は気が付いた。
「どうした? サチコ」
「あ、いや……やっぱり、甘粕先生って優しいんですね」
「……え? ちょっと、聞こえなかったんだが」
「な、何でも無いです」
はっきりと聞こえてはいたが、照れくささから俺がそう言うと、サチコは少し照れたようになりながらパタパタと手を振った。
そんなやり取りをした後、俺達はドン・テホーキを後にした。




