到着!中心街トースタ!
魔法国家ベル国内 草原
サチコとの話題も無くなり、そのまま馬車の外をボーっと眺めていた俺は、視界に永遠と広がる草原を見てふと小さな疑問を感じる。
それは、別に俺が言いださなくても馬車に乗っていればじきに解決するであろう問題だったが、どうしても気にかかったのだ。
だから、俺はその疑問をサチコに飛ばしてみる事にした。
「……なぁ、いつまでこの草原は続くんだ?」
それは、視界に永遠と広がる草原を見ていれば誰もが思いつくであろう疑問。
先程、学校を出てから結構な時間が経っているが、前方にも左右にも街らしきものは全く見えてこない。
このまま永遠に、草原が続いているのではないかと心配になる程の光景だ。
「ああ、そうでした。甘粕先生は、この草原を通るの初めてですもんね」
「……? ああ、初めてだが……二回目と一回目だと違うのか?」
俺の疑問に、少しだけ微笑む様にしてサチコは答える。
「この草原は、見た目だけならずっと続いてます。ただ、決まった順路を通る事で決まった場所に行けるんです」
「マジで!?」
「はい、この草原は存在自体が魔法で作った幻影の様な物らしくて、決まった順路でないとぐるぐる回されたり国外に出されたりします」
「へぇ……こんなすごい魔法を使える奴が居るんだな……」
「ただ、誰がこんな魔法を使ったのかは正確には分かってないらしいです。それに、どういう魔法なのかも。ベルで有名な物語だと、伝説の魔法使いがベルを守る為に掛けたとなっているらしいですが」
「ほう……伝説の魔法使いが……ねぇ」
「ただ、私はその物語を読んだ事が無く、授業の中でお話を聞いただけの知識ですが」
なるほど……まぁ、こんな不可解な空間があったら物語の題材に使いたくなるのも分かるな……。
永遠に続く青い空、白い雲、緑の草原。
この場景だけで、きっと無限のドラマを産めるはずだ。
まぁ、勿論ここに永遠閉じ込められるのは勘弁だがな……。
そんな事を考えていると、一瞬目の前が眩しくなる。
思わず、目を細めた途端、先程まで風と草がなびく音しかしていなかった周囲から人の声や足音が加わる。
そして、目を開ければ目の前に広がっていたのは白に統一された綺麗な街並みが広がっていた。
立ち並ぶ家々は、西洋をイメージさせる様な木組みの作りで白い土壁と木の茶色が素敵な模様を描き出している。
地面に敷かれた石畳は、さまざまな形の石が綺麗に敷き詰められており、その道の中心を馬車や人を乗せた獣の様な物が通行し、左右を凄い数の人が歩いている。
恐らく、馬車等と人間の道が分かれているのだろう。
車道と歩道の様な感じだ。
人々の服装は様々だが、鎧やカラフルなドレスも珍しくなく、まさにファンタジーの世界の様な服装ばかりだ。
「ぅおお……」
「ここが、ベルの中心街『トースタ』の街ですよ」
思わず、そんな声を出した俺を見ながらサチコがそう教えてくれる。
「ここがトースタか……すごいんだな……」
「うふふっ甘粕先生、子供みたいです」
「ぅ……す、すまん……大人げなかったか?」
サチコにそう言われて、思わず赤くなりそう言葉を返す。
だが、本当に綺麗だ……。
きっと、最初にこの街を見たら誰もが驚くんじゃないだろうかと思う程に。
「でも、初めて見たんですから仕方ないですよ」
「そ、そうだよな! うぉお……」
サチコからの返事に、再び街を見渡す俺。
見れば、正彦も少し目をキラキラさせて辺りを眺めている。
気になるのだろうか……。
別に俺は、もうすこし地を出してもらってもいいんだがな……。
と言っても、もし正彦が上司の様に俺を思ってるなら、上司の前で地を出せない気持ちは分からなくはない。
さらに、軍人となれば尚更だろう。
「なぁ、サチコ。ときどき見える人を乗せた大きい動物は何だ? 翼の無いドラゴンみたいなのとか狼みたいなのとか」
「ああ、あれはペットの様な物です。販売もしていますが、多くはモンスターの居る場所で使役魔法を使ったりして捕まえてくるんですよ」
「へぇ……なんか、凄い今更だが本当にファンタジーだな」
「あ、そろそろお店に着きますよ」
「ん? ああ、そうそう、俺達マレスからのおつかいも頼まれてるんだが、その店で揃うのかな? ほら、欲しい物はこんな感じなんだけど」
サチコの言葉に、俺はそう言ってマレスから渡された紙を見せる。
すこし抵抗はあったが、まぁ生徒を連れて行けと言ったのはマレスだし、問題はないだろう。
「あ、大丈夫ですよ。揃います」
サチコは俺から渡されたメモを軽く読んだ後、そう言ってメモを返してくれた。
どうやら、雑貨店の様な店らしい。
「今からいくお店は、元は箒のお店だったんですが、今ではいろいろな物が置いてあります。そのメモを店員さんに渡せば商品を持って来てくれるかと」
「へぇ……便利な店なんだな」
「あ、でも全員が全員持って来てくれる訳ではなく、マレス学校長のおつかいだから、ですかね」
「……マレスだから?」
「はい、このお店の経営者の娘さんが魔法学校の生徒なんです。私の友達の子です」
その発言を聞いて、俺はすこし驚きながらも昨日の事を思い出す。
確か、コイツは友達に呼ばれたとか言って緑色の髪の子と……。
「あの、緑色の髪の子か……?」
「あ、はい。チープちゃんです。チープ・ライスフェルト」
「チープ……ライスフェルト?」
なんだ……安い、ごはん……?
「はい、同じ一階生の素直でかわいい子です。まだ、歳は幼いですけど」
「……なるほど」
ニコニコしながら話すサチコを見ながら、俺は思わずほっこりしてしまう。
機会があったら、挨拶をしておきたいな。
「あ、見えてきましたよ。アレがお店です」
そう言って、サチコが指した方を見ると、基本的には周囲と同じ作りだが、一目見ても分かるほどに壁や周囲を飾り付けた建物が見えてくる。
住宅街の中に、一軒だけクリスマスでもないのにイルミネーションの付いた家がある感じだ。
ただ、飾りつけ以外は周囲と特に変わりはなく、すこし違う所と言えば、木の扉をお客さんであろう方々が次出入りしている所くらいだ。
見るだけで、繁盛している事はわかるんだが……。
少したって、その建物の傍に馬車が止まり、俺達はその建物の前に立った。
「おお、看板があるな……えっと……」
目の前に広がる大きな入口の上に掲げられた看板を読んで、俺は少し絶句する。
「どうしました? 先生」
「いや……ちょっと、見覚えがあって……」
「見覚え……ですか?」
「えっと……ここが、言ってた箒屋兼雑貨屋なんだよね?」
「はい。ここが、チープちゃんのご両親が経営するお店です。」
「そっか…………ドンテ・ホーキって言うんだね」
「あ、違います。ドン・テホーキです」
「…………そっか」
明らかに見覚えのある看板に、俺は少しの間動くことが出来なかった。
あと、このやり取りも日本でやった覚えがあった気がしたのは秘密だ。




