隠密作戦
魔法学校 中庭。
俺達は、中庭の茂みに隠れたまま辺りを警戒する。
俺が前方を、リーンが後方を見渡し、敵の姿を探る。
そして、敵が居ない事を同時に確認すると小さく息を吐く。
「……ここまでは……上手くいったな」
「何回か、お前のドレスでひやひやした時もあったけどな」
「仕方ないだろう、これはかなり動きずらいんだ」
不機嫌な顔でそう言うリーンだったがその通りだと思う。
腹部はコルセットで締め付けられ、スカートは無駄にヒラヒラし、靴は妙に高いヒールの靴。
頭に着けるベールがあったらこんな茂みでは隠れ切れていないだろう。
ただ、その恰好をしてもリーンは俺の動きについて来ていた。
いや、俺の動きが良い訳では無いが、コイツが軍隊を目指していただけある程度には鍛えられている事に感心したのだ。
きっと、一人で体を鍛えていたのだろうと思うと、少し微笑ましい。
「……何だ貴様、その気持ちの悪い顔は」
「いや? なんでも?」
リーンの煽り文句に、付き合うとまた喧嘩になりそうなので目を逸らす。
ここで喧嘩なんかすれば、速攻で見つかるだろう。
「まぁいい……で、確認したところ見える敵は6人。校舎の入り口に二人、正門に二人、栽培園に一人、全体の見回りが一人だ」
「……栽培園?」
俺は、聞き覚えのない単語に疑問を返す。
すると、リーンは少し離れた位置の壁を指さした。
そこには、物置と同じ様な作りで壁に沿う様に小さな建物があった。
小さいと言っても、城の様に聳える本校舎と比べればであるが……。
そして、入り口の傍で辺りを見渡す様にして立つローブの人物が居た。
「あそこに見える建物だ。植物の栽培を行っている。外見は小さいがあの建物は壁の外まで続いており内部はかなり広い、恐らくあそこに生徒は居る」
「……なるほど、ただ中に敵が居る可能性もある訳か」
「だろうな……栽培園には危険な植物や薬品も多くある。それこそ、拷問や処刑に使うものまで」
「なんでそんなもん学校に置いてあるんだ」
「学校だからだ」
リーンの言い分は確かに納得はできたが、あんまり賛成できないのは俺が日本人だからだろうな……。
日本の学校にそんな物を置いたら、苦情殺到どころではない。
「甘粕、生徒を解放すれば多少音や光の出る魔法を使っても問題はないはずだ。そのタイミングで、手錠を壊そう」
「マレスは、後回しか?」
「先に校舎の中に向かったところで、生徒を盾に取られている時点であの大男の相手をするのは無理だろう。それに、僕は剣を持っていないし、僕と貴様が片手まで封じられた状態となれば負けが必須だ。」
その発言に、リーンの腰を見るが確かにそこに剣は無い。
全然気が付かなかったが、確かにこれでは勝てる見込みはないだろうな。
「分かった……なら、まずは生徒の救出からだな」
そう言葉を返して、再び茂みから少しだけ顔を出す。
すると、先程誰もいなかった方向から見回りであろう一人がこちらに向かってくる最中だった。
どうやら、相当気が抜けている様で鼻歌を歌いながら歩いている。
「……見回りの一人がこっちに来るぞ」
「ああ、分かった」
そう合図をして、息をひそめる。
小さく聞こえてきた足音が徐々に大きくなり、茂みのすぐ傍までやってくる。
そして……俺達のすぐ前で……止まった。
「ッ……」
止まった足音に、二人で息を呑む。
見つかったか?
俺の頭に、何度も浮かぶその疑問。
「おい、休憩か?」
「ああ、年には勝てんよ」
だが、その答えは直後に聞こえてきたもう一つの足音と話し声によってかき消される。
どうやら、男はただ休憩に来たらしく、別のローブの人物にそれを見つかったようだ。
ただ、もう一人の人物は先程捉えきれていなかった為、下手に飛び出さなくて良かったとすこし安堵する。
声から、そのローブの人物が二人とも男であることは断定できた。
「聞いたか? 学校長のマレス・ラインハルが見つからないらしい。校舎の中で捕まえた気色の悪い教師の話では、先程までは居たらしいが」
「何?……くそ……なら隊長の機嫌は最悪って事か」
「ああ、今も結構不機嫌だが、物置小屋に捕えた夫婦の教師が居ただろう? あの教師を尋問するらしい」
「それで、その教師がダメなら生徒か……」
「ああ、隊長は抵抗しなければ市民に手を上げないが、抵抗する姿勢だけでも見せた瞬間、赤子にでも斧を振り降ろすからな……尋問への答え方次第で、生徒の子供にだって隊長は容赦しないぞ」
「生徒を置いて逃げ出すなんて、酷い学校長だな。やはり、ベルには卑怯な大人しかいないようだ」
「そうだな、そろそろ持ち場に戻れよ」
そして、話がひと段落したのか少しだけ遠くなっていく二つの足音。
だが、その瞬間を逃すまいと俺達は頷き合い、同時に立ち上がった。
「ぅぉ!?」
突如、目の前の茂みから現れた俺達に驚きの表情を見せるローブの男。
だが、それ以上声を上げさせる前に、俺達はその男の顔面に手錠を振り降ろす。
鈍い音がして、倒れる男を横目に、茂みを飛び出し向こうにゆっくりと歩くもう一人の男に追いつく。
そして、続けざまに男の頭に手錠を振り降ろした。
情けなく倒れた二人の男を見下ろしながら、俺はリーンに口を開く。
「どうやら、一番に馬鹿な行動をしてたのはマレスみたいだが?」
「さすがお嬢様だ、レッドの軍隊に捕まることなく行動を起こしておられるとは」
「お前、ついさっき言ってた事もう一回言ってみろ。お嬢様が聡明とかどうとか」
「お嬢様は聡明じゃないか。お嬢様の行動で、目標は生徒だけに絞る事ができた。ネーガルについては無事な様だし」
すごく納得がいかなかったが、ここで言い合う時間は無いのも事実。
ああ、さっきのローブの男が言ってた気色の悪い教師ってネーガルか……。
なんか、すこし可哀想になって来たな……。
「とにかく、生徒の解放だな」
「ああ、大男が物置小屋で僕らの不在に気が付く前に生徒を解放しよう。確かに、僕と貴様だけでは辛いかもしれないが、生徒と僕ら全員で挑めば何とかなるかもしれん」
そう言って、リーンは倒れた男のすぐそばにしゃがみ込み男の体から何かを抜き取った。
見てみると、それはリーンが使っていた物より少し短いが、片手で扱うには申し分ないサーベル刀だった。
なるほど、確かに最初にやった時は、装備品を奪うと言う判断まで至らなかった。
ただ、普段は右手でサーベルを扱っているリーンが、左手で剣を振れるのかどうかは気になる所だが……。
「左手で振れるのか?」
「確かに、僕の利き腕は右だが、剣を振るのに利き腕は関係ない。その気になれば、口でだって振れるぞ」
正直、口で振っている所を見たいと思ったが今は言わないでおこう。
多分怒られる。
「目を逸らして居ろ」
「お、おう……」
そして、倒れた男の首筋に奪った剣を当てたまま、リーンが振り返ってそう言った。
正直、血液が得意でない俺は目を瞑って離れた方を見る。
そして、茂みの方に倒れた男にも同じように繰り返す。
「……行くぞ」
一瞬して、リーンからそう声が掛かってから俺達は、生徒が閉じ込められているであろう栽培園に歩を進めた。




