009
朝、目が覚めてからレベルアップで得たスキルポイントをどうするか考えていた。
新しいスキルを習得しようか、それとも今あるスキルのレベルを上げるか。
朝飯を食べながら、うんうん唸って悩みながらやっと決めた。
ステータス操作のスキルでスキルポイントを消費して治癒魔法のスキルレベルをLv3に上げる。【治癒魔法Lv3】の呪文は『ヘルス』、病気を癒すことができる。前世でもなったことないからよくわからないけど、治せるにこしたことはない。
スキルポイントを割り振った後、外へ出てフォレストウルフを探して狩っていく。対複数戦の訓練にこいつらは最適だし、今日は『集氣』と『氣動法』を攻撃の時に使っているからより早く狩ることができた。
攻撃を躱し、首を狙って蹴ることで確実に首の骨を折って殺す。
狩りを続けているうちに、蹴った時のインパクトに合わせ、『集氣』を一瞬だけ使うことで普通に使うよりも高い威力が出ることが分かった。
「ブルォォー!」
フォレストウルフを狩っていると前に見た大猪、チャージボアが突進してきた。
「キャウン!?」
突進を受けたフォレストウルフが悲痛な鳴き声と共に吹き飛ばされ、横にいた奴は口から上に突き伸びた牙で串刺しにされた。
氣力感知スキルで何か大きな氣力を持った奴が近付いているのを感知し、距離をとっていた俺は被害を受けずに済んだ。
あっという間にフォレストウルフを蹂躙していく。
フォレストウルフを殺し尽くすと今度はこっちに突進してきた。
前に感じたほどの恐怖はない。あるのはこれまでの戦闘と同様、命のやりとりをする時の緊張感だ。
チャージボアの突進を『氣動法』で余裕を持って横に避ける。レベル的にも格上の相手に油断も出し惜しみもしない。
避けた勢いを殺さずに、さらに『集氣』で上げた威力の蹴りを横腹へお見舞いする。すぐに距離をとって様子を見るが、よろけもせずにまたこちらに突進してきた。
チャージボアの突進は食らえばただでは済まなそうでも直線的な分フォレストウルフの連携攻撃に比べて避けやすい。今の俺にはたぶん当たることはない。
もう一度『氣動法』で避ける。
今度は上へ跳び一回転してさらに勢いを乗せた踵を首と背中の中間辺りに叩き込む。
「ブォッ!?」
これはさすがに効いたのか突進が止まった。しかし、首を数回左右に降ると、距離をとっていた俺を見つけて再度突っ込んでくる。
「タフな奴……」
その後も何度も蹴るが奴は倒れる様子がない。【頑丈Lv2】のせい?
でも、今の俺の最大火力は『集氣』を使った攻撃。それより威力の高い攻撃手段はない。
ナイフも目に刺されば効果はあるだろうけど、それだと突進を正面から受けることになる。
『シールド』で止められないか試すが、当たった瞬間霧散して勢いを少し減らすだけに終わった。
このままだと氣力の底が尽るだけと判断し、攻め方を変えることにする。
剛蛇のレザーブーツに魔力を流す。
突進してきたチャージボアを躱し、その横っ面を蹴り抜く。空中には紫色の光が脚が通った軌道を描いた。剛蛇のレザーブーツの能力『毒付与』だ。俺の奥の手である。
顔を蹴られてさすがに効いたのかチャージボアは足を止めた。俺はチャンスとばかりに『氣動法』で縦横無尽に移動して『毒付与』を発動させたブーツで蹴っていく。【毒付与】は一撃入れただけで毒状態になるわけではない。一定の確率で毒状態にさせるので、威力は無視してとにかく手数、いやこの場合は足数?を上げる。
「ブォ、ブルォ!」
チャージボアは張り付いて何度も何度も蹴る俺を吹き飛ばそうと牙を振り回すが当たらない。離れようと脚に力を入れた瞬間を見逃さずに顔面を蹴ってそれを許さない。
これで俺の氣力がなくなるのが先か、チャージボアに毒が回るのが先かの勝負だ。
「ブゴ、ガ、ッ」
そして俺はその勝負に勝った。
チャージボアの状態が毒になっている。一瞬、ビクっと身体を震わせたと思ったら、横倒しに転倒し痙攣し出して動かなくなった。
死亡を確認し、すぐに『促進』で氣力の回復を促す。
「疲れた……」
正直ギリギリだったけど何とか倒せた。
ステータスを確認するとレベルが上がり、氣動術スキルのスキルレベルもLv3になっている。Lv3になったことで武技『見氣』を新しく習得した。『見氣』は氣力を見ることができる武技のようで、氣力が黄色のオーラとして可視化できる。しかも、幸運なことに『促進』と合わせて使うことで氣力をほとんど消費せずに使うことができた。
手を『見氣』を使って見る。『促進』を使っているからか、氣力がちょっとしか漏れ出していない。その少し漏れ出ている氣力も漏れないようにすると回復がさらに早くなっている感じがした。
手に『集氣』で氣力を集中してみると纏うオーラが手だけ大きくなった。すぐに『促進』に切り替え、木などを見てみる。俺の氣力を見たオーラよりも色の濃度が希薄だ。これは少ないからだろうか?氣力感知でもかなり少なく感じるからたぶんそうだと思う。
チャージボアの死体を【無限収納】で仕舞う。
またフォレストウルフを狩りに行こうかとレーダーを使おうとした時、気付いた。後ろから今までに感じたことのない馬鹿でかい氣力。
ポイズナスネークのように気配を隠すスキルを持っていたのか、急に感じたそれを攻撃だと判断して振り向きながら『氣動法』で距離を取ろうとした。
「ッ!?」
速い。これまでのモンスターが放った攻撃のどれよりも。
『氣動法』で回避したはずなのに、おそらく爪であろう部分が俺の腕をかすめた。それだけで俺の体は後方に吹き飛ばされ数メートル先の木に激突する。
「ガッ、ァ」
息ができない。
「ゲホッ、オエッ」
何とか息ができるようになり、さらに迫ってくる奴に【鑑定】をかける。
種族:ジャイアントベア(上位種)
レベル:30
状態:正常
スキル:【豪腕Lv5】【頑丈Lv5】【気配遮断Lv4】【加速Lv3】【嗅覚感知Lv3】【威嚇Lv3】【自然治癒Lv2】
勝てない。さすがにこれは無理だ。
さっきのチャージボアとは格が違う相手を前にそう思った。
今はチャージボアと戦ったすぐ後で氣力がほとんどないし、ちょっとかすっただけで動けなくなるくらいのダメージを負わされている。
状況も最悪な上に、たとえ万全の状態でも戦うにはリスクが大きすぎる相手だ。
心臓の鼓動がうるさいくらいに聞こえる。
はっきりいってちびりそうなほど怖い。でも、だからこそ、この状況で絶対的な強者であるジャイアントベアに顔を向け、笑う。わざわざ必死こいて駆けてきている奴に向かい、出来るだけ馬鹿にするように嘲笑う。
見えているのか怒ったようで感じる氣力が大きくなった。
「グアァァァ!」
目の前まできたジャイアントベアが自分の大きさの半分もない俺を潰そうと突っ込んで来た勢いのまま右腕を振り上げている。
俺は嘲笑った表情のままだ。そんな俺が余程気に障ったのか怒り狂った様子で腕を振り下ろしてきた。
「……ばーか」
振り下ろされた腕。物凄い音と共に地面が陥没する。
しかし、確実に潰してやったと思ったジャイアントベアは違和感を覚えた。いくら小さな人の子供だとしても何の感触もないのだ。
不審に思い、腕を退かして確かめてみる。が、そこにはあの自分を嘲笑った表情をしていた子供の姿はどこにもなかった。
「グガアアアアアァァァァァァッ!」
ジャイアントベアの怒りの咆哮が静かな森の中に響き渡る。




