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005

 固い床で寝た時と違い、気持ちの良い目覚めだった。起きた後もしばらくモフモフの柔らかな感触を楽しむ。

 ずっと寝転がっていたい気持ちを押さえて立ち上がる。いつまでもゴロゴロしてはいられないし、ちょっと思いついたこともある。


 昨日変えた木の壁の前に立ち、前世の記憶を引っ張り出す。出来るだけ詳細にはっきりと想像する。


 さすがに無理かと思った次の瞬間、目の前に1枚の扉が現れた。

 開けて中に入ると前世でフローリングと呼ばれる床の小さな部屋があり、奥にもう1枚の扉がついている。


 着ていた服を全て脱いで扉を開ける。中はツルツルしたタイルというらしい床と壁。その壁から生えているように伸びる、先にたくさんの穴が開いた丸いものが付いた長い管が壁に立てかけられていた。


「えっと……これを押す?」


 管が生えている壁に付いたボタンを押すと魔力を吸い取られたような感覚の後に丸いものから勢いよくお湯が出てきた。


 前世の記憶にあった通り、本当に自動でお湯が出てきたことに驚きながらも身体を洗っていく。

 俺が想像したこの部屋はシャワー室という身体を洗うための部屋。さっき通ったのはここに入る前に服を脱ぐための脱衣屋らしい。服を脱ぐだけの部屋なんて贅沢な造り、まるで貴族にでもなった気分だ。


 床にある小さな複数の穴に流れていく身体を洗って汚くなったお湯で自分がどれだけ汚れていたのか知る。同時に身体の汚れを落とす気持ちよさも知れた。

 あらかた汚れが落ちたところでまたボタンを押すと出ていたお湯が止まった。


 水を滴らせたまま脱衣屋に戻ると脱ぎ捨てていた服を見てまた驚くことになる。

 穴の開いた汚いシャツやズボンの汚れが奇麗になっていた。穴は開いたままだけど。

 盗んできた外套もまた同様だ。

 外套を拾い、それで濡れた髪や身体を拭いていく。

 拭き終わってから床に放る。

 しばらく眺めていると変化が起きた。淡く光り出したと思ったらすぐに収まり、外套を触ってみると濡れが乾いている。どうやら【異空部屋】は自動清掃機能だけじゃなく、服の洗濯もしてくれるようだ。


 服を着てから絨毯の部屋に戻ると、俺が寝転がって汚れていた場所はすでに奇麗になっている。本当に主婦いらずのスキルだ。


 さて、これからどうしようか。やっぱりレベル上げ?

 食料もアプルだけじゃなくて他のも調達したい。となると、食料になるモンスターを狩るのが最良。

 ゴブリン、は不味そうだ。食うなら他のモンスターを探したい。


 まず昨日マップで見た湖に行ってみる。それから食料になりそうなモンスターを探す。

 うん、これで行こう。


 マップを開いてレーダーで昨日、転移した場所周辺にモンスターがいないか確認するが何もいない。ゴブリンの死体もなくなっている。


 おっと、まだ『プロテクト』をかけてなかった。すぐにかける。


 呼吸を整える。大丈夫、今日は常に周囲に気を配ること、危険になったら転移でここに戻るのを忘れない。

 大丈夫だ、と何度も自分に言い聞かせ昨日の場所を思い浮かべる。


 転移すると昨日落ちたアプルの木の前に立っていた。

 すぐに周囲を確認。マップで見た通り何もいないが、すぐ側の地面に血の後と骨が転がっていた。俺が殺したゴブリンが何かに食べられた痕だろうな。


 そして、その場所の近くに転がっているものに気付き、【鑑定】を使ってみる。




『祖末な棍棒』

攻撃力:G

耐久:G

能力アビリティ




 ゴブリンが持っていた木で出来た棍棒だ。

 能力アビリティはスキルみたいなものだろうか?


 拾い上げて軽く振ってみる。ちょっと重いがなんとか使えそうだ。今も『促進』を使っているおかげでもある。

 昨日は意識してやってたのに今日は無意識に氣力を循環させていた。

 それにしても思わぬところで武器が手に入った。

 まあ、ほぼその辺にある木の棒と変わらない気もするけど。


 いや、もっとちゃんとした武器にできるかもしれない。俺のスキルと前世の知識があればたぶん可能、のような気がする。

 落ちている適当な木の枝を拾い【無限収納】で仕舞っていく。

 ついでに握りこぶし3つ分くらいで楕円形の平べったい石も見つけておく。


 材料を集め終わってから転移し、異空部屋に戻ってきた。

 絨毯の上に座り、楕円形の石とこぶし大の石を取り出す。楕円形の石を置き、こぶし大の石でコツコツと叩いて形を整えていく。だいたい整えたら今度は別の石で楕円形の石を凹凸がなくなるまで磨く。

 時々痛くなる手を『ライトヒール』で癒しつつ、ゴリゴリ……ゴリゴリ……ひたすら磨いていく。


「ふぅ」


 やっと満足の行く形になった。

 次に【無限収納】で拾って来た木の枝を裁縫スキルの技巧テクニック『紡績』で細い木糸と太い木糸に変える。昨日、ステータスを見直した時、裁縫スキルで使える技巧テクニックも確認しておいてよかった。

 さらに技巧テクニック『織布』で細いほうの木糸を帯上の布に変える。

 拾ってきたゴブリンの棍棒を出して先のほうにさっきの楕円形の石を木糸で固定した。最後に木糸で作った帯状の布を柄の部分に巻いて完成だ。




『磨製の石斧』

攻撃力:F

耐久:E

能力アビリティ:【重量軽減】




 これが俺が前世の知識を元に作った武器の鑑定結果。耐久が2段階上がり、能力アビリティまで付いた。【裁縫Lv9】の効果だろうか?

 ただ糸と布を巻いただけなのに凄すぎる。


 手に持って石斧を振ってみると棍棒の時よりも軽い。ただ実際に石斧の重量が軽くなってるわけじゃなく、持っている者が軽く感じるだけのようだ。


 一応、石斧にも『プロテクト』をかけてみると耐久がEからE+になった。ちゃんと物にも『プロテクト』の効果はあるみたいだ。


 さっきからブンブン石斧を何度も振ってみてもスキルの習得はない。

 やっぱり習得可能スキル一覧にないスキルは習得できないという事なのだろうか。


 とりあえず武器も出来たし外に出て湖に向かおうと外の様子を確認し、転移で外に出る。

 マップを出したまま、レーダーで周囲を探知しながら湖に向かって歩く。時々、離れた場所にいるゴブリンや他の赤い点がレーダーで表示される。ゴブリンだけわかるのはこの目で見たからか【鑑定】をかけたからだろうか?


 何かがすぐ前方にいる。

 数は1、ゴブリンではない。

 姿勢を低くし、草陰や木の陰に隠れながら慎重に近付いていく。ゆっくり、ゆっくり近付くと草を食べている小さな何かを見つけた。

 すぐに【鑑定】をかける。




種族:ホーンラビィ

レベル:3

状態:正常

スキル:【跳躍Lv2】【刺突Lv1】




 兎のモンスターだ。

 ちょっとかわいいけど額の角が危なそう。跳躍スキルで跳んできた勢いのまま刺突スキルで刺すとかだろうか。

 見た目の割にえぐいな。


 俺にれるか?

 距離はだいたい前世の世界での10メートルくらい。たぶん、これ以上近付くと気付かれそう。


 『練氣』を使って一気に近付けば後ろをとってるしなんとか先制攻撃できるだろう。

 だけど、予想よりも早くこっちに気付かれてあの鋭い角がすかさず跳んでくる可能性もある。それを避けられる自信はない。

 『プロテクト』も突き破られるかもしれない。

 『ライトヒール』で治せないような怪我を負ったら死ぬだろう。


 怖い。でも、生きるならレベルを上げるためにも食べるためにもやらなくてはならない。


 ホーンラビィに視線を向け、きっとやれると自分を奮い立たせる。


 『練氣』で氣を練り上げて身体能力を底上げ、一気に距離を縮めるべく前屈みの姿勢で踏み込む。すぐに距離は縮まり、走りながら上段に石斧を構える。

 ここで予想外のことが起きた。

 近付いてきた俺に気付いたのは予想より遅いくらいだったのに、振り向くのではなく振り向き様におそらく跳躍スキルで跳んできた。しかも、石斧を振り上げてがら空きの腹目がけてだ。すでにホーンラビィの角が腹の前まで迫っている。


 死ぬのか?

 そう思った次の瞬間、「キンッ」という甲高い音と共にかけていた『プロテクト』が消えた。ホーンラビィの角は確かに俺の腹にぶち当たり、それを『プロテクト』で防がれたのだ。


 目の前には空中で無防備なホーンラビィがいる。俺はそのがら空きの背中に向かって石斧を全力で振り下ろした。


「ギュッ」


 叩き付けた地面が若干吹き飛び、ホーンラビィから短い鳴き声が漏れる。背中が凹み、もう動く様子がない。

 【鑑定】をかけてみると「ホーンラビィの死体」と変わっている。


 『練氣』から『促進』に切り替え、氣力の回復を促す。


 改めて死体を見下ろすと、生気を失ったホーンラビィの目が俺を睨みつけているようにこちらを向いていた。


「恨んでいいよ」


 誰に恨まれようと、それでも俺は死にたくない。


 この森にきて俺は2匹目のモンスターを殺した。

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