003
木々の間からこぼれる日差しが眩しい。雨上がりの森のにおいと視界に広がる緑とすぐ近くに焦げた木や地面がある。
俺は森に転移し、立っていた。
あれ?
気絶してない。いや、してないほうがいいんだけど。
何故?
もしかして、異空部屋に行く時だけ気絶するのだろうか?
まあ、ここで考えていても仕方ない。それよりも食料と水場を探さないと。
マップを見ながら森を歩く。村とは逆方向、森の奥に向かう。
まずは水の確保。水場は川とか湖?なんて考えているとマップに水色の線と同色の歪な円形が表示された。
なんだこれ?
とりあえず、近くにある線のほうに行ってみることにする。数秒ごとにレーダーで周囲を確認しながら慎重に進む。
線に近づくにつれ、何かの音が聞こえてくる。
これは、水?
水の流れる音だ。
その音で線の意味するものに気付き、歩みを早める。少し歩くと森が途切れ、マップの線が意味していた川にたどり着いた。走って川に近付き、頭ごとつっこんで水を飲む。
気持ちいい。喉も一気に潤った。
さっきのマップに線が表示された機能はサーチ。探したいものを検索し、マップに表示させる機能らしい。もしかしたら、木の実や果物が実る樹も簡単にわかるかも。
さっそくサーチを使ってアプルの木を探してみる。アプルは紅い色をした甘くて丸い果物だ。
今度は緑の点でマップに表示された。ここからだと少し遠い位置にあるが、近くに湖らしい表示もあるしすぐに向かうことにする。
マップの点を目指して歩き出す。
レーダーにも特に異常はない。
途中、投げるのに手頃なこぶし大ほどの石を拾って【無限収納】で仕舞っていく。石でも何もないよりはいい。子供の力でも当たると割と痛いものだということは実体験により知っている。
レーダーにこれまでとは違う3つの反応があった。急いで茂みに隠れて息を殺す。反応の主たちがきた。
「ギゲゲ」
「ギググゲ」
「グゲギギ」
子供のような姿に赤い目、緑色の肌。顔は醜く崩れていて、腰に汚い毛皮のような物を巻き、出来の悪そうな木の棍棒を持っている。
俺が隠れている場所を通りすぎるのを待ってから鑑定のスキルを使う。
種族:ゴブリン
レベル:3
状態:正常
スキル:【繁殖Lv4】【棍棒術Lv1】
モンスターだ。
初めて見た。
3匹ともレベルと繁殖というスキルを持っているのは同じで、棍棒術スキルを持っていたのは1匹だけだ。
大きさは俺と同じくらいだけど、レベルでも数でもとても勝てるとは思えない。今はね。
完全に見えなくなるまで待ってから茂みから出て再度アプルの木がある場所に向かって歩き始める。
さっきのゴブリン、さすがに石だけじゃ殺せないだろうな。あれより弱いモンスターがいるといいけど。
2年間、家畜を殺していてもレベルは2にしかなってないし、普通の動物よりもモンスターを殺したほうがたぶんレベルの上がりは早いんじゃないかと思う。
スキルポイントはもう使っちゃったから新しくスキルを習得するのは無理。
じゃあ、罠を仕掛ける?
知識も道具もないからやっぱり無理。
モンスターを殺す方法を考えながらしばらく進んでいると目的のアプルの木がある場所のそばまで来ていた。
レーダーを使って周りに何もいないことを確認してから近付いて行く。
あった。紅いアプルがいっぱいに実った木がそこら中に生えている。
すぐに木に登り、アプルを1個もぎ取って齧り付く。含んだ口から溢れるくらいの甘い果汁にシャキシャキとした歯ごたえ。
気付くとすでに1個まるごと食べ終えていた。
すぐにまたもぎ取って食べる。5個ほど食べて腹が膨れてきたのを感じるまで夢中で食べてしまった。
取れ立ては格別にうまいって聞いたことあったけど本当だった。【無限収納】があればこれからは何でも取れ立てが食えると思うと嬉しさで自然と口がにやけてくる。
アプルをもぎ取る、【無限収納】で仕舞う、もぎ取る、仕舞う、という動作をひたすら繰り返して30個ほどで疲れてきたのを機に取るのをやめる。
前世の記憶によれば、あまり1本の木から取りすぎると次の年になる実の数が減ったり、最悪ならなくなる可能性もあるらしいし。
登っていた木から降りて近くの別のアプルの木に登り、また30個ほど取る。
えっと、これで【無限収納】に入っているアプルは60個。さっきみたいに5個を1日で食べるとすると……12日は保つのか。
当然この計算は前世の記憶にあった知識でやったものだ。
【算術Lv1】を習得
この透明な板、急に目の前に出てくるのどうにかなんないかな。ちょっと落ちそうになったんだけど。
とりあえず、それは今はいいや。
それより、これってスキルを習得したんだよね?
スキルポイントを消費せずに。
他の人はスキルポイントの消費なんてなく、ある程度の経験を得てスキルを習得するのが普通。だから俺も経験を積めばスキルポイントの消費なしでスキルが習得できてもおかしくはない。
でも、俺がちゃんと計算なんてしたのはさっきのが初めてだ。一回やっただけでスキルを習得するものなのだろうか?
村の奴等はほとんど計算できる奴なんていなかったからよくわかんないけど、さっきやったのはかけ算という前世では俺くらいのやつでも当たり前にできる計算だ。そんなものを一回やったくらいじゃ大した経験にならないんじゃ……
ああ、もう。わからないことどんどん出てくるな。
考えるのやめた。わかんないものはわかんないし。
日も落ちて来たしそろそろ戻ろうかなと思い、降りようとして下を見た。
「ギギ?」
赤い目と目が合った。
「ギゲゲゲーッ!」
1匹のゴブリンが目に喜色の色を浮かべて木に走って近付いてきた。
やばい!やばい!やばい!
あれは絶対に獲物を見つけた時の目だ!
うわ、登ってくる。
どうすれば…。
木の上で逃げようにも飛び降りるには高すぎる。
いや、降りるよりもここからなら登ってくるゴブリンに石で一方的に狙える。
すぐに【無限収納】から拾って入れていた石を出し、木登り中のゴブリンに向かって投げるが当たらない。
しかも、石を俺が投げたのを見て臆した様子もなく、むしろ逆に怒って登ってくる速さが上がってる。
次々に石を出して投げるが、運良くゴブリンに向かっていっても棍棒で弾かれた。
なんだアイツ!
まさかと思い、【鑑定】を使ってみた。
種族:ゴブリン
レベル:6
状態:正常
スキル:【繁殖Lv5】【棍棒術Lv3】
強い。
1匹でいるからさっきのより強い奴かもしれないと思ったけど強すぎだ。
もう、すぐそこまでゴブリンが近付いてきている。
早く何とかしないければ殺される。
とりあえず最後の手段として飛び降りれるように、準備しておこうと力の入らない足で立つために木に手をついた瞬間、その手が滑る。
「あっ」
そして、頭から落ちていく。
落ちていく中でとにかく何とかしなければと咄嗟に頭を腕で庇った。
すると腕に何かが当たる。ゴブリンだ。
ちょうど真下にいて上を向いたゴブリンに落ち、頭を庇った腕がゴブリンの首と胸の中間に当たって一緒に落ちた。いや、現在進行形で落ちている。
数秒後、衝撃と共に腕と首に痛みが走る。
地面に落ちたようだ。
そして、不幸中の幸いと言うべきか頭への衝撃で【異空部屋】の存在を思い出した。
すぐにスキルを発動し、異空部屋へと転移した。




