027
「氣力、ですか」
昼食を終え、一息ついてから氣力について説明していた。
それと一緒に俺が【鑑定】というエクストラスキルを持っていて、それを使ってルディアがエクストラスキルである【氣力の泉】を持っているのが分かったから買ったという事も教えた。
それを聞いたルディアは、自分がエクストラスキル持ちである事を最初は信じられない様子だった
しかし、今は無表情を装いながらも凄く嬉しそうなのが見て取れる。
その気持ちは俺にも痛いほど理解できた。
「まあ、言葉で説明するよりも実際に感じてみたほうが分かり易いよ」
そう言ってルディアの手を指を治した時のように握り、そこから『流氣』で俺の氣力を少しずつ流す。
「どう? 何か感じる?」
「微かに違和感を感じるような気がします」
やはり最初はそんなものだろう。
俺のようにスキルポイントを消費して直ぐスキルを習得できるほうが異常なのだ。
しかし、このままではかなりの時間が掛かってしまうのも事実。
「手取り早く自分の氣力を感じる事ができそうな手段があるけど、それにはたぶん危険が伴うと思う。どうする?」
「かまいません。やって下さい」
即答だった。
「じゃあ、遠慮なくーーーー」
『流氣』で流した俺の氣力でルディアの氣力の流れを掴み、その馬鹿でかい本流から氣力を無理矢理外に放出させるように乱す。
直後にルディアの顔色が悪くなり、握っていないほうの手を口に当てたかと思うと吐血した。
さらにその身体は何箇所も皮膚が裂けて血が噴き出ている。
「ゲホッ、ゲホッ」
「大丈夫?」
「はい、ゲホッ、申し訳ありません」
おそらくだが、大量の氣力が全身から放出される事で同時に物凄い勢いで細胞が活性化し、その急激な活性化に細胞が耐えきれなくなったためだと思われる。
「一旦、中止する?」
「いえ…全身に焼けるような痛みが、ありますが、ゲホッ、身体から溢れ出る、何かを感じられます…もう少しで、はっきりと、その何かを掴める気が、ゲホッ、するので、続けて頂けますか?」
血を吐きながらも懸命にそう懇願してくる。
「わかった。でも、死なれたら困るから傷は治しながらやるね」
それから数十分に渡ってルディアの氣力を放出させるのと傷を治すのを続けていると、少しだけ俺が乱した流れに抵抗するようになってきた。
しかし、それをルディアに伝えると、血を流し過ぎたためか精神力が切れたためか気を失って倒れた。
その後、全ての傷を癒し、血を拭いてから寝室に運んで寝かせているとしばらくして無事に目を覚ました。
「…お手を煩わせてしまったようで申し訳ありませんでした」
「別に気にしなくていいよ。で、氣力については何か掴めた?」
「はい」
起き上がったルディアが集中し、体内の氣力がそれまでよりも若干安定していくのが感じられた。
「まだこの程度ですが、自分の中にある氣力ははっきりと感じられるようになりました」
「そっか。じゃあ、次は自分の中で氣力を循環させられるようになればたぶん氣操術スキルを習得できると思うよ」
「はい、御期待に添えるよう死ぬ気で頑張ります」
その他には特にやってもらう事もなかったので、そのまま氣力の使い方を練習しているように言った。
何より『促進』を覚えればルディアの骨と皮ばかりの身体もより早くしっかりとした物になるだろうし。今のままではとても戦闘に耐えられるようには見えない。
起きたついでに
『ルディア、大丈夫?』
俺の横で心配そうにしていたネアリアがルディアに話し掛けた。
ルディアが眠っている間も側を離れず、落ち着かない様子で目が覚めるのを待っていた。余程ルディアの事を気に入ったのだろう。
「はい、グリム様に傷も治して頂いたのでもう大丈夫です。ネアリア様にまで心配をお掛けしてしまったようで、申し訳ありませんでした」
『様、いらない、呼ぶ、ネア、だけ、良い』
「いえ、そういう訳には…」
様を付けて呼ばれるのを頑なに拒むネアリアにそれを渋るルディア。
しばらくこの問答を繰り返し、結局折れたのはルディアのほうだった。
こういう時にネアリアが折れる事はほとんどない。説き伏せようと理屈を説いてもそれを理解できないから余計に立ちが悪い。
俺はそれに我関せずといった態度で本を読みながらルディアの氣力の流れを感じ取り、循環できているか確認している。
ネアリアが明らかに邪魔になっているのは敢えてスルーしていた。寧ろ、逆に好都合と考えている。
戦闘では集中力を欠く事は死ぬ事に直結してくる。今みたいにネアリアのうっとおしさ程度で集中を乱していては命がいくつあっても足りないだろう。
だから、ネアリアを何とかして欲しそうにルディアがこっちをチラチラ見てくるのを無視しているのは愛の鞭というやつなのである。決して面倒くさいからとかではない。
その後もルディアはネアリアの邪魔を受けながらも氣力の循環を試みていたが氣操術スキルを習得するには至らなかった。
別に今日だけで習得できるとは思っていなかったが、ルディアの顔色は優れなかった。まあ、あれだけ血反吐を吐いたのだからスキルが習得できなくてがっかりするのも分からないではない。
夕食後、寝るために寝室に戻ってもルディアはずっと練習を続けていた。
徐々にではあるが氣力の流れを制御してきているように思う。
そして、少し経ってから唐突にルディアが口を開いた。
「あの、ところで私は何処で寝ればよろしいのでしょうか?」
『此処。寝る、みんな、一緒』
既にネアリアによってホールドされたルディアは反論を許されず、一緒に寝る事を強制させられていた。
寝る前に渡し忘れていた昼食作りの際に作っておいた服をルディアに渡した。
自分にはもったいないとここでも渋るルディアに直ぐさま命令して着替えさせる。ちゃんと尻尾穴も開いているし着心地も抜群、絶対にこれで寝たほうが良く眠れるはず。より良い睡眠を取る事はより強い身体作りに繋がるのだ。
そういえば、ルディアには少しだけ驚かされた事がある。
俺を初めて見る者は大抵が女だと勘違いするが、ルディアは俺を一目で男だと分かっていたらしい。いや、一目というのは語弊があるだろう。何故なら、男だと分かったのは匂いでだそうだからだ。
ルディアによると、性別のある生き物は男と女、雄と雌とで匂いが違い、嗅ぎ分ける事が可能なのだと言う。
それと、少し気になっていた尻尾も触らせてもらった。
思ったよりも柔らかく、ひんやりした感触がなかなかの触り心地だった。
蜥人族の尻尾は自在に動かす事はできるものの、戦闘などではよく切れる事があるが、切れても割とすぐに生えてくるらしい。また、痛覚がないので切れる事を気にせず防御に使ったりもすると言っていた。
普人族にはない尻尾という部位に興味本位で聞いてみたが、種族が違えばやはり戦い方も違ってくるものなのだと確認できた。
氣操術スキルを習得すれば尻尾で突き刺すなどの攻撃も可能だろうし、俺にも尻尾が生えないかと少し本気で考えてみたのは全くおかしな事ではない。
「そろそろ寝たほうがいいよ」
ルディアを捕まえていたネアリアはさっさと眠ってしまい、捕まっていたルディアはまだ眠らずに氣力の循環を続けていた。
死ぬ気で頑張るという言葉に偽りはなく、本気で強くなろうとしているのだと伝わってくる。
「いえ、奴隷の分際でグリム様よりも先に寝る訳にはまいりませんので」
「そういうのは気にしなくてもいいんだけどなぁ」
先に寝るように命令してもよかったが、ルディアの尻尾が抱き枕にしてくれというようにうねって誘惑してきたため、それに抗えず俺も寝る事にした。
翌日の早朝から起きて氣力の循環をやっていたルディアは1日中止める事なく続けたがその日も氣操術スキルを習得する事はできなかった。
その次の日も、そのまた次の日も習得できず、それでも諦める事なく起きている間は常に循環をして過ごしていた。
そして、10日後についにルディアのステータススキル欄に【氣操術Lv1】が追加され、武技『練氣』と『促進』の習得もしたようだ。
正直、早くても後10日は掛かると思っていたが、俺が思っている以上にルディアは才能があるのだろう。
「とりあえず、氣操術スキルの習得おめでとう」
『ルディア、頑張った、当然!』
「ピュイ」
ネアリアとフィノと一緒にルディアを労い、ご褒美として戦闘用装備を俺が作る事にした。
これからは実戦でレベルを上げながら強くなって貰わなくてはならないため、装備はひつよう
「じゃあ、この中から気に入った物を選んで」
【無限収納】から取り出した分厚い紙の束をルディアに渡す。
「あの、これは何でしょうか?」
「装備用のデザインを描いた紙」
それはシュヴァルドウッドに居た数年前から前世の記憶を便りに様々なデザインを描き起しておいた物だった。最初は暇つぶし程度だったが、気付くと数百枚という数になっていて、アイテムポーチにあったおそらくクラウスが研究を残すためやメモ用だったであろう紙のストックは空になってしまった。
「…本当によろしいのでしょうか」
『ルディア、いっぱい、すごく、頑張った。ご褒美、もらう、悪い、無い』
作るの俺なんだけどね。
ネアリアの言葉と俺の無言の催促でルディアは渡したデザインを描き起した紙束を1枚ずつ丁寧に見ている。
ふと、紙を捲っていたルディアの手が止まる。
「これ?」
「…はい」
ルディアが選んだのは軍服風のデザインだった。軍人に憧れでもあるのだろうか?そう聞くと、単に強そうに見えそうだと思ったらしい。
しかし、装備を作る際、実はそういう着る者が何を求めるかがはっきりしていたほうが能力が付きやすい。また、それに応えられる能力になる傾向がある。
「ちなみに色も選べるんだけどーーーー」
「黒が…いいです」
何故かこれには即答だった。
もしかしたら、全身真っ黒な俺に合わせてくれたのかもしれない。
俺に合わせる必要はないと言ってみたが、それでも黒にすると言うので元から黒が好きだったのだろうと思う。
「フィノ」
「ピュイ!」
ルディアの装備を作るべくフィノにミスリル糸を出してもらう。
他には【無限収納】から「フォレストオーガの皮」、「バイスクロコダイルの皮」、「ゲイルホースの皮」を取り出す。どれもシュヴァルドウッドに生息するモンスターの素材だ。
取り出した素材とフィノが生成したミスリル糸、ついでにネアリアにも精霊石を生成してもらい、それらを使ってルディアの装備を作っていく。
『疾風のネイビーキャップ』
防御力:C
耐久:B
能力:【視力上昇】【耐性上昇】【位置固定】
『銀嵐のネイビージャケット』
防御力:A
耐久:A
能力:【防刃性能】【耐火性能】【耐水性能】【風耐性付与】【雷耐性付与】【衝撃吸収】【サイズ調整】
『銀嵐のネイビーボトム』
防御力:B
耐久:A
能力:【防刃性能】【耐火性能】【耐水性能】【風耐性付与】【雷耐性付与】【脚力上昇】【サイズ調整】
『森鬼のレザーグローブ』
防御力:B
耐久:B
能力:【防刃性能】【耐火性能】【耐水性能】【腕力上昇】
『剛顎鰐のコンバットブーツ』
防御力:A
耐久:B
能力:【防刃性能】【耐火性能】【耐水性能】【脚力上昇】【衝撃吸収】
出来上がったそれらをルディアに渡すと手を震わせながら受け取った。
「私の様な見る目の無い者でも分かります。これは私などが身に付けるのは分不相応な一級品の物だと」
「でも、それはもうルディアの物だよ。自分が持つに相応しくないと思うなら、早く相応しくなってね」
有無を言わせずそう言い放つ。
「…はい、必ず」
何故か泣きそうになっていたように見えたが気の所為だろうか?
渡した装備に着替えたルディアはその無愛想な無表情もあって本物の軍人のように見える。
ネアリアとフィノと一緒に似合っていると褒めそやすと、頰を少しだけ紅くして恥ずかしそうにしていた。
さて、ルディアが氣操術スキルを習得したので遂にこれから迷宮探索へ出掛けようと思う。
転移で迷宮都市に着くと都市の中央にある迷宮の入り口へ向かった。迷宮の入り口は更なる城壁に囲まれた建物の中にある。
建物内に入ると中には余裕で30人は同時に入れそうな馬鹿でかい鋼鉄製の扉が迷宮の入り口を塞ぎ、窓口でギルドカードを提示すると開けてもらえる仕組みになっていた。
その中は床に大きな魔方陣が刻まれた広い部屋になっていて、この魔方陣が迷宮へ転移で送ってくれるらしい。
また、その階層のボスモンスターを倒していれば1階層からではなく次の階層へここから転移できる。
転移した先は同じ先程と同じような部屋。そこから先はモンスターの徘徊する迷宮内だ。
迷宮内は薄暗くはあるものの、魔素が集まって出来るライト鉱石が周囲を照らす事で暗視スキルが無い者でも探索にはそれ程支障がない。
幸運な事に迷宮内でもマップは効果を発揮し、迷路のようになっている1階層の構造も一目瞭然。相当広いがこれなら迷う事はない。入り口付近で売っていた地図を買わなくて正解だったな。
1階層にいるのはスライムという核を中心に粘液で身体が出来ているモンスターのみ。
触れると酸で溶かされるが動きが遅い上に知能がないため戦うとしても大群でもない限り厄介な相手とは言い難い。
しかし、1階層でスライムを相手にしようとする探索者はほとんどいない。何故ならスライムは倒しても残るのは小さな魔石のみ。その魔石も術式を定着しようにも強度が低く、砕け散ってしまうため探索者ギルドでも他の商会でも買い取ってくれない。
迷宮やモンスターの事をルディアに説明しながら進んでいると1階層のボス部屋の前に辿り着いた。
人やスライムのいないルートを通ってきたので遠回りになってしまったが予想よりも早い。
ボス部屋の前には1つのパーティが先に並んで順番を待っていた。
ボスモンスターに挑む際に部屋に入れるのは6人まで。それ以上が入ろうとすると見えない壁に阻まれ、入り口と同じ鋼鉄の扉に閉ざされる。次にその扉を開ける事ができるのは中に入った者達がボスモンスターを倒すか逆にその者達が全滅した後だ。
目の前のパーティがどちらかの意味で終われば初めてのボスモンスターだ。
楽しみ、楽しみ。




