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寝返りを打とうとして身体が拘束され、動かないことに気付く。
ほぼ毎日この状態になっているので少し慣れてきた。
顔を横に向けると隣で自分を拘束している者の寝顔が目に入る。腹立たしいほどに気持ち良さそうな寝顔だ。
さらにいつもの事ながら声をかけたくらいでは絶対に起きない。それ相応の起こし方でないとダメなのである。
ネアリアの頭上に『シールド』を張る。『シールドムーブ』でその『シールド』をネアリアの頭目掛けて勢い良く落とす。
『む』
『シールド』が当たりそうになるとネアリアが目を覚まし、ブリーズドレスの能力『風纏障壁』で風の障壁を発生させて止めた。
「おはよう、ネア」
『おはよう、グリム。なんで、いつも、起こす、攻撃、する?』
「ネアがそれ以外で起きないからでしょ」
『むー』
拘束から解放され、自由となった身体を起こす。
身体の調子を確認しながらネアリアを伴って修練室へ向かう。
修練室に入ってブーツや手袋といった装備を整えてからにやにやと笑っているネアリアと向き合う。
「今日は当てるから」
『無理。ネア、全部、避ける』
向かい合っているネアリアに向かって距離を詰める。
『魔銀糸のズボン』の能力『脚力上昇』でさらにブーストされた威力と速度で蹴りかかる。
しかし、ひらりと躱された。
『ふふ』
余裕の笑みで続く攻撃も難なく躱され続ける。
俺の見切りスキルは相手の筋肉の動きや視線などで相手の動きを先読みするのに対し、ネアリアは相手が動いたことで生まれる風の流れを読むことで見切りスキルと同じ効果を得ている。
誓約によって俺の見切りスキルでも風を読むことができるようになった。それでも避けられているわけだが。
ネアリア曰く、風と一体になることで簡単に避けられるらしい。
見ている限りだと俺の動きで生まれた風の流れに身を任せて避けている感じだ。
何日かこれの繰り返しで、俺はまだ一撃も当てることが出来ていない。
ならばと、蹴りを繰り出したことでネアリアが避ける動作に入った先に『シールド』を張る。
『む!?』
『シールド』にぶつかって動きを止めたところに俺の蹴りが迫る。
当たったと思った瞬間、ネアリアが『風纏障壁』を発生させて防いだ。
『グリム! ずるい!』
「ずるくないよ。魔法は使わないなんて言ってないし」
『むー!』
怒り出したネアリアの魔力が高まるのを感知する。
『エアハンマー』
俺の上に魔力を感じ、圧縮された空気が勢い良く落ちて来た。強化された脚力で後ろに宙返りする。
「危ないな」
『ネア、魔法、使わない、言ってない』
「はいはい」
追撃でさっきの魔法を放ってきたので『スフィアシールド』を自分を囲むように張って防御する。威力の低い魔法のようなのでこれでも耐えられるだろう。
何度か耐え続けていると罅が入ってきた。『スフィアシールド』に追加で魔力を流すことでそれを直す。これも最近わかったことで、さらに魔力を多く消費すると強度も上がる。
『むー!』
「ずるじゃないよ?」
魔法に魔法で対抗しているだけだ。
そんなことを思っていると、さっきよりもネアリアの魔力が高まっているのに気付く。
『ライトニング』
ネアリアが俺に人差し指を向け、その指先から稲妻が走った。『スフィアシールド』に当たった稲妻は少しの抵抗の後にそれを突き破って俺へ襲いかかる。
「うわ、やっぱりちょっとビリビリするね」
これも何度か食らっている。
飛来速度が速すぎて避けるのは無理だけど、【雷耐性Lv8】のおかげでほとんどダメージがない。
「さて」
『シールド』を10枚張る。さらにそれを『シールドムーブ』で操り、ネアリアに向けて飛ばす。
『シールド』は魔力で作られた壁のような物で蹴りの時とは違い、風の流れを生むことはない。つまり、ネアリアの疑似見切りスキルは使えない。まあ、それでも魔力感知スキルがあるため今もすべて躱されている。
『ネア、捕まらない』
縦横無尽に飛び回り、『シールド』を躱している。
左へ、右へと回避され続けるが想定内である。
『無駄、無駄』
その余裕も今の内だ。
4枚の『シールド』を向かわせ、部屋の中央に誘導する。同時にわざと速度を落として近付かせていた6枚の『シールド』を一気にスピードアップさせる。
六方向から迫った『シールド』は正方形の檻となり、ネアリアを閉じ込めた。
「捕まえた」
『むー!』
本を読んで過ごしていた時も朝はこんなふうに身体を動かしたりしていた。スキルレベルを上げるためにもスキルを使わないといけないし。
『エアリアルブラスト』
正面の『シールド』をネアリアの手から放たれた竜巻が粉砕し、閉じ込めた檻の中から出てきた。
「終わりにしよっか」
ぷりぷり怒っているネアリアを宥め、朝食のために調理室へ向かった。
途中で起きていたフィノは念話で呼んでいたためすでに調理室へ来ていた。
アイテムポーチに入っていたパンなどを食べて朝食を済ませる。ネアリアは甘くないとかよく文句を言っているけど、俺からしたら御馳走ばかりで満足してる。
調理室を出て、今はネアリアと修練室に戻って来ていた。
フィノはまだ寝たいと言うので巣に戻っている。寝る子は育つと言うし、成長に期待しよう。
修練室に入って『翼竜の腕輪』を取り出し、腕にはめる。
手に入れた魔道具をまだほとんど使っていなかったので試しに使ってみようと思う。
魔力を流し込むと魔石の中に幾何学模様のようなものが現れる。
術式と呼ばれるそれは錬金術師が魔石に施すことで様々な現象を起こすことができる。それを核に道具として加工した物が魔導具だ。
それに対して、俺が裁縫スキルで作ったように複数の能力を持った物をマジックアイテムと言う。
魔導具は術式によって目的の効果を付与させることができるが、マジックアイテムを作る際に能力を思い通りに付与させることはできない。
多量の魔力を消費して宙へと浮き上がる。予想よりも消費が激しいけど、1日中飛んでもおそらく俺の保有する魔力はなくなることはないだろう。
上昇、降下、左右、前方、後方、移動する度に浮かぶことで消費し続けている魔力とは別に消費している。これは便利な分、魔力が多い者でなければすぐに魔力が尽きて落下確実だ。
『グリム、飛んでる。ネア、グリム、一緒』
一緒に飛ぶのが楽しいようで、まだ飛ぶのに不慣れな俺の周りを回るように飛んでいる。
ちなみに、『翼竜の腕輪』は飛んでいる時の風圧を防ぐ効果はない。しかし、俺はネアリアからもらった精霊石の効果でまったくそれの影響を受けることはないので、いくら飛ぶ速度を上げても身体への負担を考えなくて良い。
飛行の練習はひとまず終わりにして地面に着地した。
次は『修練の魔導鎧』だ。
刃を潰した刀身の長い直剣を持っている空の鎧を取り出し、その胸部にはまっている魔石に魔力を流し込んでいく。試すだけなので全体の10分の1くらいで魔力を流すのをやめる。この魔導具は流した魔力の持ち主に応じて強さが変わり、魔力が無くなるまで動き続ける。
「ッ!?」
魔力を流すのをやめて離れて様子を見ようとすると、急に動き出して持っていた剣を薙いで俺をぶっ飛ばした。
飛ばされた先の壁に激突し、身体全体が衝撃に襲われる。
『グリム!』
更に追撃しようと踞る俺に迫り来る鎧の前へ割って入ろうとするネアリアを手で静止をかける。
「だい、じょうぶ」
当たる前に『氣動法』で剣の勢いを少しだけ殺せたおかげで肋骨が折れる程度で済んだ。
折れた場所に連続で『ヒール』をかけていく。
目の前には鎧が剣を上段に構えているのが見える。剣が振り下ろされ、軌道上の空気を裂きながら迫ってきた。今度は当たる寸前で『氣動法』で避ける。
何とか動いても平気なくらい回復することができた。『ヒール』の効果も上がっているようで治る力が強くなっている。
距離を取った俺を尚も追いかけてこようとするが、魔力が切れて元の姿勢に戻って止まった。
油断した。まさかあんなにすぐ攻撃してくるとは思わなかった。
いや、強くなったと思い上がっていたんだ。魔導具にやられるほど、まだ俺は弱いのに。
直立不動の鎧をしばらく眺めていた俺の後頭部を優しい温もりが覆った。
『大丈夫、グリム、もっと、強くなる』
ネアリアが後ろから抱きしめて慰めてくる。
「そうだね。今よりもっと強くなれば良いんだよね」
立ち止まってる暇なんてない。
弱いままなら死ぬ。俺は生きたい。
ネアリアの腕をほどき、動かない鎧に再度魔力を流し込む。今度は限界まで。
すぐさま剣での攻撃が来る。それを『シールド』の5枚重ねで防ぐ。しかし、剣は止まったのに衝撃が襲って来た。
さっきも服とはいえ高い防御力を持つミスリル製の服の上からダメージを食らった。おそらくダメージを貫通させるような効果を持っているのではないかと思う。
直撃すれば最悪死ぬかもしれない。だが、それで良い。
そのくらいでなければ強くなどなれるわけがない。
強くなりたい。
これまでよりもはっきりと、そう思った。




