012
それは光だった。スケルトンの頭蓋骨にあった悍ましいものとは違い、優しく照らす緑色の淡い光。
しかも、俺の聞き間違いじゃなければこの光はしゃべった。
『ん? あ、姿、変えてない。うっかり』
またしゃべったかと思ったら強く光り出し、薄く透けた髪の長い子供の姿になった。
種族:風精霊
レベル:43
状態:正常
スキル:【風耐性Lv6】【魔力感知Lv6】
エクストラスキル:【精霊魔法:風】【未来視】
「せい……れい?」
『シルフ、精霊、風、司る。よく分かった、賢い、偉い』
本当に精霊らしい。
『シルフ、名前、知りたい。教えて?』
「……グリム」
『グリム、グリム。シルフ、覚えた』
不思議な声。俺のとは響きが違うように感じる。
「……その声は?」
『精霊、魔力の塊。魔素、漂う、それ、使う。ひと、できない」
「えっと、身体が魔力で出来てるから人みたいに空気を振動させて声を出せない。だから、魔素っていうのを使ってしゃべってる?」
『そう、合ってる。やっぱり、賢い、でも、魔素、知らない?』
魔素、というのは知っていて当然のものなのだろうか。
『魔素、魔力の源。此処にも、ある。何処にでも、漂う』
なるほど。つまり、漂ってる魔素を吸収して魔力は回復してるのか。
「他にも聞きたいことはあるけど、その前にひとつ確認したいんだけど」
『なに? 何でも、答える』
「お前ーーーー俺の敵?」
殺気を含ませた問い。
この森に来てから出会ったのは襲ってくるモンスターだけ。たとえ精霊でも油断はできない。
だが、あのジャイアントベアよりもレベルは上。戦えば確実に負ける。
しかし、精霊は首を横に降ってそれを否定した。
『シルフ、敵、違う。生の力、操る者、待ってた』
敵対の意思はないらしい。完全には信じられないけど、話は聞いておこう。
「さっきも言ってたけど生の力って?」
『生の力、生き物、みんな、持ってる、生きる力』
たぶん氣力のことだ。
「待ってたっていうのは?」
『シルフ、未来、視れる。生の力、操る者、森、現れる、未来、視た。たから、待ってた』
エクストラスキルにある【未来視】か。
「なんで待ってた?」
『シルフ、友達、助けたい。助けられる、生の力、操る者、だけ』
友達ねえ。
これも本当か分からない。何か別の目的があると考えたほうがいいかも。
「お前が待ってた理由はわかった。でも、なんでその友達を俺が助けなきゃならない?」
俺は自分が生きるので精一杯。他人を助けている余裕なんてない。
『お礼、する。欲しい、何でも、あげる。シルフ、できる、何でも、やる』
必死に訴えてくるシルフ。
その奇麗な翡翠の瞳から涙が流れた。
『だから、お願い。友達、助けて!』
ふむ。こいつの友達がどうなろうと俺の知った事ではない。ぶっちゃけどうでもいい。
しかし、精霊のお礼か。
「俺は力が欲しい。君に俺を強くすることができるなら、その友達を助ける」
シルフは苦い顔をした。
『シルフ、精霊。加護、あげる、できない。でも、友達、魔導具、いっぱい、持ってた。それ、使う、強くなれる、かも』
魔導具、魔力で動く導具。異空部屋のシャワーや囲炉裏もその類の物だと思う。
強力な攻撃のできる魔導具とかあるならほしいな。
「でも、それはその友達のでしょ? 勝手に決めていいの?」
『友達、人。死んで、アンデット、なった。もう、聞けない、だから、大丈夫』
アンデット?
「死んでるのにどうやって助けるの?」
『死んだ、もう、いい、仕方ない。でも、魂、解放したい』
「俺は氣力は使えるけど、浄化とかはできないんだけど」
『浄化、消すだけ。魂、救えない、ダメ。死の力、祓う、できるの、生の力、だけ』
死の力?
人をアンデットにする力ってことだろうか。その逆が氣力と。
「その死の力を氣力で相殺すれば魂を解放できるってこと?」
『そう。やって、くれる?』
「その友達が持ってた魔導具が使えない物の可能性もある」
『なら、シルフ、力、なる』
力になる?
さっきは加護とやらはあげられないと言っていたはずだ。
「俺に従うってこと?」
『シルフ、従う』
「信じられない。口だけなら何とでも言える」
『なら、誓約、交わす』
「誓約?」
『精霊、人、誓約、交わす、繋がる。誓約、嘘つく、消滅する』
誓約というのを交わせば従うしかなくなるということだろうか。
「わかった。その誓約を交わすなら友達を助けるよ」
涙をながしたままシルフが満面の笑みを浮かべた。
『ありがとう。すぐ、誓約、交わす』
シルフが目を瞑ると淡く光っていた身体の光が強くなり、魔力が高まる。
『我、風司りし精霊、ここに交わす。汝と共に歩み、力とならんことをーー』
シルフを包んでいた光が広がり、俺とシルフを囲む。
『ーー繋がりし誓約』
光が俺の右手に収束した。手袋を外してみると右手の甲に変な模様が刻まれ、シルフにも同じ場所に同じ模様が刻まれたようだった。
「なんだこれ」
『誓約の証。すごい、本当に、できた」
誓約の証ねえ……ん?
「本当にできたってどういう意味?」
『普人族、誓約、交わせない。交わせる、エルフ族、だけ』
「じゃあ、なんで俺は交わせてるの?」
『シルフ、分からない。でも、なんとなく、できる、思った』
こいつ、そんなあやふやなものをやったのか。
『あれ?』
ジト目でシルフを睨んでいると、急にシルフの身体を包んでいた光が強くなった。眩い光が視界を塞ぐ。
しばらくしてやっと目を開けられるくらいに収まるとシルフの姿が変わっていた。
種族:風精霊(上位種)
レベル:1
状態:正常
スキル:【風耐性Lv7】【魔力感知Lv7】
エクストラスキル:【精霊魔法:嵐】【未来視】
『シルフ、おっきく、なった?』
小さな女の子の姿だったシルフは大人の女性の姿になっていた。
俺と同じくらいの身長だったのが見上げるほどに伸びている。
「……何がどうなった」
『精霊、魔力の塊。でも、グリム、もっと、魔力、持ってる。誓約、繋がり。グリム、持ってる、魔力、シルフ、流れて、大っきく、なった』
「なんでそっちが強くなってんのさ」
『大丈夫。シルフ、力、グリム、の。シルフ、強くなる、グリム、強くなる、一緒』
そう言われればそう、なのか?
何か乗せられてるような。
「まあ、いいや。それより早く友達のとこに行こうよ。さっさと終わらせて帰りたい」
『うん、行く。こっち、付いて来て』
浮いていたシルフが森の奥のほうへ飛んでいく。その後ろを俺は走って付いていった。
『グリム、足、速い。飛んでる、シルフ、追いつく、すごい』
「これが精一杯。これ以上速く飛ばれたらついて行けない」
『グリム、速く、行こう、言ったよ?』
「俺が言ったのは進むスピードのことじゃない、今すぐ行こうって意味の早くだ」
シルフは首を傾げて眉をひそめた。
『シルフ、難しい、よく分からない」
「……もういいや」
暗い森の中をシルフの後に続いて疾走する。シルフの友達を助けるのに氣力を使うらしいから『促進』状態のままだ。
たまに遭遇するモンスターはシルフが風で吹き飛ばす。精霊魔法の呪文『ガスト』というらしい。
上位種になったことで力が増していると言っていた。
『シルフ、強い。グリム、守る、役に立つ』
どや顔で見下ろして来るシルフを無視し、走るのに集中する。
走るのに疲れてきた頃、シルフの飛ぶ速さが落ちてきた。
『着いた。あそこ、シルフ、友達、いる』
指をさして場所を教えてくるが、その先には高い崖の下。何かあるようには見えない。
崖の下に着いた。近くでよく見る。しかし、やっぱり何もない。
「何もないけど?」
『そこ、触る、分かる』
シルフに指示された場所を触ると、すり抜けた。
『視界、魔力、誤摩化す、結界、クラウス、言ってた』
「クラウス?」
『クラウス、シルフ、友達、名前』
浮いていたシルフが地面に降りて来た。
そして、何故か手を握ってくる。透けてんのに触れたのか。
『洞窟、中、クラウス、いる。早く、行こ?」
「なんで手を握る?」
『洞窟、もっと、暗い。はぐれる、危ない。シルフ、道、分かる。迷わない、安心』
こいつ、でかくなってから妙に俺を子供扱いしてくるようになった気がする。
『グリム、クラウス、助ける。シルフ、グリム、守る、役目。心配、ない』
またどや顔で見下ろしてきた。だんだんうざくなってきたんだけど。
にこにこ笑いながら俺の手を引き、洞窟の中へ入っていく。これのどこが服従なんだ。だまされたかも。
引かれている手を見ながら、納得のいかない顔で俺も洞窟に入った。




