貴女と他愛のない会話を、路地裏で
「朱里じゃん、なにしてんの」
「いやそっちこそなんでキャリーバッグ?」
質問にノータイムで質問で返された。1回目も同じような会話をしたのだろうか、あまり覚えていない。
ぽけーっとした顔をしているので、ノータイムの質問返しは悪意のない行動である。
「キャリーバッグは……あれだよ、旅行の下見だよ下見」
「怪しいなぁ」
「怪しくない」
「いやいや」
「いやいやいや」
阿吽の呼吸である。息の合いすぎた会話を繰り返し、いつも思うのが、
――どうやって会話終わらすんだ?
である。
流れるまま流されるままに1度したことはあるが、そのときどれだけどうでもいい内容の会話が繰り広げられたことか。
「いやでもキャリーバッグって見た目重いけど……」
もう、無理矢理にでも会話を引き戻そう。
「朱里はなにしてんの?」
「ん〜……? ――ちょっとね、散歩」
返事に少しの間があったのは、会話を無理やり終わらせられたからだろうか。
というか、今僕はそんなことをしている場合ではないのだ。
「じゃ下見あるからこれで」
「――っぁ」
嘘の理由を堂々と述べて、またキャリーバッグの取っ手を掴む。
会話も終わりを告げ、早朝独特の雰囲気を味わいながら、僕はまた再出発しようと一歩踏み出し――、
「あ、途中までついていっていい?」
「ん……まぁ、いいけど」
元々下見は言い訳だし、幼なじみである朱里には事情がばれても良いだろう。僕から明かす気は無いが。
――そんなことを思いながら、僕と朱里は細い道に共に入っていった。
■■■
入った細道は一本道で、一軒家をしきる壁が並んで道を形作っている。
早朝の空気感と、誰もいないこの状況が相まって、何処か言葉にできない神秘感のようなものが、見え隠れしている気がした。
始めて見たときはアニメに出てくるような道だと思ったりもしたが、もう見慣れた光景である。
「なんか、早朝って雰囲気違うねえ」
「そうか? 僕は見慣れたけどな」
「私外でないから」
自嘲するように、朱里は言った。
――少し、悲しそうな顔だった。悲しそうな表情で、朱里は笑っていた。
僕はそれに気づかないフリをして脚を進め、キャリーバックのカラカラとした音を響かせる。
触れたくなかったのだ。触れたら、この他愛のない元気な会話が終わる気がしたから。
――何か別の話題でも投げて空気を変えようと、僕は朱里のことを思い出す。
好きな食べ物、好みの場所、二人で何をして遊んだか。
そうして脳裏に浮かぶ対朱里情報を箇条書きで挙げていけば、ふと思い出したことが一つあった。
「そう言えば、妹元気?」
「え、あぁ……うん、元気だよ。なんでまた急に?」
「いや……なんとなく」
1度朱里の忘れ物を届けに来てくれた妹がいたことを、僕は唐突に思い出した。
確か、朱里の家の家族構成は朱里と母親と妹の3人家族で、父親は――、
「あー!」
朱里が髪を揺らしながら僕の隣を歩く。
そして何かを見つけたのか驚いた声を出して僕のことを追い抜いた。その先には、
「見て! 猫ちゃん!」
早朝の街を我が物顔で出歩く三毛猫がそこに居た。
警戒心が薄いようで、朱里が近づいても気にしていない。
ふわふわな毛並みに堂々とした態度。
その目つきは餌を貰えて当然だと胸を張っているようにも見える。
人に慣れてる。お人好しの誰かがお世話しているのだろう。
猫に近づいた朱里は、優しい手つきで猫に手を伸ばす。
仕方がないとでも言っているのか、まるでため息をつくような表情で、猫は朱里の手に擦り寄った。
――媚びることに慣れている。
「かわいいー……! ね、朝っていっつもこんな感じなの?」
「まあ、その猫は初めて見るけどな」
こんな媚びる猫知らない。他の子はもっと純粋。
朱里は早朝に出歩くことは少ないから、散歩している猫がいる景色も新鮮に見えるのだろう。
他にもブチネコや黒猫、白猫も見たことがある。
「ほら、行くぞ」
座って猫の毛並を味わって立ち止まっている朱里に、僕は少し先に行って手招きをする。
「バイバイ猫ちゃん……」
物凄く残念そうである。
またしても2人は無言で道を進む。
無言なので、当然響く音はローラー音だけなのだが、朱里が些細なことで立ち止まるのでその音もかなりの頻度で音が止まる。
「あ、神社だよ」
そして、猫から離れて十数秒でまたしても音は止まった。
一軒家の立ち並ぶ中、その中に神社が建っていたのを朱里は見つけ、またしても立ち止まったのだ。
「――この神社、入ったことなかったな。……っておい」
僕が何かを言う前に、朱里は軽い足取りで神社の中へ入っていった。
しょうがないので僕も後に続こうと思い神社に一歩足を踏み入れる。
――神社にはまた、早朝とは違う独特な雰囲気がある。
そんな思いを朱里にも共有しようと思い、先に入った朱里を探して辺りを見渡そうとした瞬間、
「……っ、助け」
朱里らしき声が聞こえ――、
「あ、途中までついていっていい?」
「……まじかよ」
またしてもループが起こっていた。




