想いはそっと、風に流れて
「……ドアの、音……こ、ここから聞こえた」
――不審者が、来た。
そしてそれを頭に入れていた僕には策があった。
この屋上の扉、中から開けられても外から開けることができないのだ。
つまり――、
「朱里、東口から出て鍵しめて」
「……わかった」
僕のやりたいことを、朱里は察してくれた。
朱里1人しかいないと思っている不審者は、最早追い込んだのかと思っているのかゆっくりゆったりと朱里に迫っていく。
朱里が本気で東口に走っても、焦りはしない。
また学校内に入られても追い付けると考えているのかわからないが――その余裕が、そのまま敗因である。
「……じゃあね、気持ち悪いストーカーさんっ!」
朱里は東口から校舎に入り、鍵を閉める。
不審者はすぐに回れ右をして西口から校舎に入ろうとして――、
「……は?」
もう既に西口は鍵がかかっている。
不審者は必死にガチャガチャを音を立てて扉を開けようとするが、びくとも動かない。
朱里が鍵を閉めたのを確認した瞬間に、僕も同時に鍵を閉めたのだ。
――これで、ストーカーも撃退である。あとは警察にでも連絡すれば一件落着だ。
「ループの最後の敵にしちゃ、ちょっと拍子抜けなラスボスだったかな」
笑みを浮かべて、安堵する。
そんな言葉を最後にして――僕のループは終わりを告げた。
■■■
「――うまく行ったな」
「ね!」
校舎内で合流した僕と朱里は2人で顔を見合わせて不審者を上手く閉じ込められたことを喜んでいた。
そのまま、2人で馬鹿な言い合いをして校舎から出ようとしたときだった。
僕が朱里に口を開こうとした瞬間、
「……なんだこれ」
――僕の体が薄っすらと透け始めたのだ。
透け始めた原因は1つだろう。
僕は動揺を押し殺して、一度大きく息を吐いて、そして笑顔で朱里を見据えた。
もう、嘘は見えない。演技も、虚偽なんてどこにも。
「……本当に救われたんだな」
僕は安堵のため息を漏らして、そして体がどっと一気に疲れるのを感じた。
一方、僕のその言葉に対して朱里は
「……それでうんって言うの、なんか癪じゃない?」
と、最後まで認めることのない姿勢を貫いていた。
「最後くらい素直に認めろよ……」
「私本心とか恥ずかしくて言えないよ、絶対」
――繰り返した世界で、僕のことをどう思っているのかの回答はそれらしきものを得てしまっている。
それをわざわざ伝える必要はないが。
「あー……じゃあ、頑張れよ」
「……うん。そっちも、何を頑張るかはわかんないけど……頑張って」
その会話を最後に、僕の体の透明度が上がっていき――、
「……ありがとう。大好きだよ」
――その告白は、僕に届くことなく風に流されて消えていった。




