僕のためにもう一度
――僕は思い違いをしていた。
『何を言えば救えるか』ではないのだ。もう既に、そこから間違っていた。
朱里のことは確かに好きだが、それは恋愛の好きではない。好きと言ってしまうと、それが嘘だとわかりながらも朱里は救われてしまう。そして、嘘で救っても朱里は死を選んでしまう。
つまり、何を言えば良いのか。
「……」
「――どうやって止めるつもりなの?」
「僕は……」
つまり――、
「――ただ、君に死んでほしくないんだ」
心からの本音を、飾り無く伝えれば良いのだ。
■■■
「君に死んでほしくないんだ」
――ただ、本心を。君のためにと嘯いて鼓舞した僕自身を戒めて、今は只自分の本心を。
「僕を救ってくれた元気な君をまた見たいし、君と居たら僕の世界は白黒じゃなくなるから」
これは、ただの勝手な自分本位の言葉でしかない。
『僕』が元気な君を見たいだけだし、『僕』の世界が彩られるだけ。
――だから死んでほしくないという、自分勝手な言葉。
「……それが僕の本音で、君を止める言葉だ」
――朱里の手から温もりが伝わる。
ここにつくまで、何度も失敗した。
何度も世界をやり直した。だから、救えなかった朱里がいる世界があることは百も承知だ。これは偽善だと、そう言われても甘んじて受け入れるしかない。
――だが、それは諦める理由にはならない。
「本心だよ。これは嘘偽りのない、心からの本音だ」
「君が嬉しくなるから、私に死んでほしくないってこと?」
「あぁ」
嘘偽りは言わない。気持ちを虚偽で塗り固めない。
『僕』が救われるから、君を救いたいと、まっすぐに伝えるのだ。
■■■
「じゃあ、学校はどうしたらいいの?」
「転校すれば良い」
「……あのストーカーは?」
「あんな不審者、警察に任せりゃ一発だぞ」
「私がまた、死にたいって言ったら?」
「うざがられようが嫌われようが、僕は止める」
「親はどうしたらいいのさ。何しても殴ってくるよ。酒がきれてたら」
「それこそ、家出でもしてみろよ」
「……だいぶ身勝手だね、君」
「死んでから初めて気付いたよ、それ」
「……僕が嫌だから死んでほしくない、か」
「あぁ。生きたまま、朱里も嬉しく過ごせる方法を僕も探すよ」
「そういうの、始めから思いついておくもんじゃないの?」
「僕そんなん考えねえもん。先なんて考えてない。今が辛いなら何をしてでも今を乗り切る。未来なんて、直面したとき考えりゃいいんだよ」
「……小学生の時も、後先考えずに突っ走って迷子になってたもんね」
「いつの話だよ! もう高校生だぞ! なんならそろそろ大学生!!」
「……ふふっ。死んでるのに学校行くつもり?」
「おいデリケートな部分に触れるなよ」
「ふーんだ。そっちだって私のこと必死に止めてきた癖に」
「どーせほんとは止めてほしかったんだろ!」
「そんなことないけど!」
「……ってか今2月だよな。最初会ったとき冬休みとか言ってたけど時間感覚大丈夫かお前」
「うっさいばーか」
「うっせちーび」
「あー!! 良くない!」
「先にそっちが言ったんだろ」
「いやそっちが」
「いやいや」
「いやいやいや」
「――」
「――」
■■■
いつしか、僕らは満面の笑みで言い合いをしていた。
馬鹿にする言葉が飛び交うが、その声音に相手を蔑む感情は微塵も含まれていない、温かい言い合い。
売り言葉に買い言葉、ああ言えばこう言い、いつまでも、いつまでも、そうやって。
思えば、ここまで馬鹿な言い合いをしたのは小学生以来ではなかろうか。高校生で再開した時は、互いにどこか遠慮していた気がする。
「僕に救われたしょーどうぶつがよー」
「チビってこと!?」
「いやそういうことじゃ……ぁ痛っ!」
脇腹に的確な右フック。鋭い一撃だった。
だがそんなことで怒っては男の面目丸つぶれなので、ここで僕は反撃しない。
その行動を取ることによってどうだこれが男だとドヤ顔で――、
「おりゃ! もっぱつ!」
「いっ――ッ!」
思わず軽くチョップを返してしまった。
この小動物は放し飼いをしたら飼い主を食い殺しそうである。
そしてそれを言ったらまた確実に攻撃を食らうから、僕は黙っておいた。そんな、笑い合って馬鹿にし合って。傍から見たらもしかしたら異様に仲の悪い2人に見えるかもしれないが、それでも僕と朱里は仲良く互いを小突き合っていた。
――だが、そんな楽しい時間は無限ではない。
「……ドアの、音……こ、ここから聞こえた」
声が聞こえた瞬間に、身構える。
――正念場だ。
本当は君って漢字にぼくってルビ振りたかったんですけど、タイトルとか前書きってルビ振れないんですね……
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